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IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

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第22話

「…どうしても戦うしかないんだね、シエル…」
「ボクにも退けない訳がある。絶対に、負けてあげない…!」

ステージ上で睨み合うデュノア姉妹、固唾を飲み、見守るギャラリー達、そして、

「互いに災難だな、丹下智春」
「…ソーダネ、ボーデヴィッヒ…」

相方として引っ張られた、俺とボーデヴィッヒ。

「何でこんな事態になったんだか…」

重い気持ちで、数日前を思い返す。
確か、葵との勝負が終わった後…。

────────────────

「トモ!やったな!」
「一夏!特訓が実を結んだ!ありがとな!」

ピットで待っていた一夏と腕を交差させて組み、喜びを分かち合う。喜んでくれる一夏が居るから、倍嬉しく、苦しみは少なかった。
本当の意味でのISの繰者に、ただ動かせるだけではない、自らの意のままに使える様になれた。
ー夏だけでなく、姉や妹、訓練に協力してくれた篠ノ之達にも感謝の気持ちでいっぱいだ。
そうして勝負の余韻を味わっていると、ピットのドアが開き、ゼロとシエル嬢が入って来た。
最近接点のないゼロがどうしたのだろうか?

「…色々あるが、まずは悪かった、ハル、…それとワンサマー。ハクトの冗談を真に受けちまった。前に、それで謝られて、合わせる顔が無くて、ずっと先延ばしにしてしまって…。本当に、すまなかった!!」

一息に謝罪の言葉を告げ、ゼロは頭を下げた。葛藤や迷いもあったのだろう、ひどく疲れた顔をしていた。
彼が誠意を持って対してきたのだ、こちらも真摯に応えねばならない。

「こっちも、と言うか、俺も謝らせてくれ。ハクトさんを…、ガールフレンドを脅かして申し訳ない。両成敗と言う事で、また接してくれるとありがたい」

ゼロの憤りは確かに見当違いだった。だが、勘違いさせる原因を俺がしたのもまた事実なのだ。
彼はガールフレンドを第一に考え、行動する。そんな男ではないか。

ー夏も頷き、口を開く。

「俺もトモも、ゼロを許してるよ。でも、前はゼロ一人に俺達は敗北したからな、次はリベンジさせてもらうぜ?」
「ワンサマーに膝を屈する俺じゃない。大体、前のはハルがお前をフォローしてたから戦えてたんだろうが」
「こ、今度はトモも俺も成長したんだ、甘く見るな!」
「その言葉、そっくり返してやる。ワンサマーが泣く姿が脳裏にリアルに浮かぶ。…中々悪くない光景だな?」

和解したと思えば次の瞬間には口喧嘩。この2人、まるで水と油だ。

「まったく…、この2人は…。んでゼロ?シエル嬢を連れてきた理由を聞こうか?」

呆れながらも、本題に入る。謝罪も重用だっただろうが、むしろシエル嬢絡みが本命だろう。

「っと、そうだった。ハル、シエルに一緒に指導を頼まれてくれないか?」
「それは本人に断りを入れた上で解決策を授けた筈なんだが?」
「俺の教え方だと足りないらしくてな。どうしてもハルじゃなきゃ駄目だ、と一点張りで困ってるんだ」

ゼロも以外に苦労しているようだ。で、本音は?

「四人は一人じゃ保ちません」
「望んだハーレムだろ、責任持てよ色男」
「そこを何とか!休む暇もない友人に救いの手を!でなければ、ハルの姉と妹に色々あること無いこと吹き込む」

ふむ、ゼロの事だ、手を貸さないと我が身にあの姉妹の魔の手が襲うのは想像に難くない。仕方あるまい、元々押し付けたのは自分だ、身から出た錆と言う事にしよう。

「…その必要は無いよ、トモ」
「…デュノア?」

意を決し、受諾しようとした時、いつの間にか入ってきていたデュノアが制した。その目は鋭く、シエル嬢を見据えている。

「シエル、君は少し我が儘じゃないかな?トモに自らの理想を見出したのだろうけれど、それはトモの戦法であってシエルの戦い方じゃない。別の方向も見るんだ」

デュノアの言葉は、奇しくも以前俺がシエル嬢に送った言葉に似ていた。真剣に、実直にシエル嬢を想ってのその言葉は、生憎ながらシエル嬢の機嫌を損ねたようだ。

「シャルには分からないよ。全部恵まれてたシャルには、ボクの劣等感も、師匠の戦いを見て得た魂の震えも!何もかも分かりっこないんだ!」

シエル嬢のその叫びが引き金となり、デュノアとシエル嬢は大喧嘩を始めてしまった。
ゼロもー夏も俺も止めようとしたが2人はヒートアップするばかり。

そもそもここはピットで、俺はまだ着替えてすらいない。
困り果てて、3人で顔を見合せていると、彼女達が爆弾を投下した。

「いいよ!シャルがそうまで認めないなら、決着をつけよう!ボクは師匠に力を借りて、絶対にシャルに勝つよ!」

…え?

「シエル…君とは戦いたくない…。でも、トモが出る以上、避けられないんだね…」

え?え?

「ゼロ、行こう!決まったからには準備しないと!手伝ってよ!」
「おい待て、シエル、こら、袖を引っ張るな!」

語気荒く、シエル嬢はゼロを強引に伴い、ピットを出て行った。

「トモ、不本意だけど、戦うからには手は抜けない、全力でやらせてもらう」

そしてデュノアも静かに闘志を燃やしながら去った。ずっと置いてきぼりの俺を残して。

「…もしかしなくても今回俺関係なくないか?」

この俺の虚しい問いは、やはりー夏の同情と諦念の虚しい肩叩きだけが答えてくれた。

───────────

斯くして、デュノア姉妹が戦うと言う事で、連日学園中上を下への大騒ぎとなり、織斑先生のご出陣も増える。
渦中の一員として先生に問われ、その事を洗いざらい話すと、先生はため息と共に俺を労ってくれた。
その後、デュノア姉妹を呼び出し、試合直後の俺を振り回すな、と釘を差した上で、別の相方を探すよう言われたシエル嬢だが、首を縦に振らない。デュノアもデュノアで、もう俺を相手にする前提で相方を決めていて、変更はしない、と頑として譲らない。

どうにも話し合いは平行線にしかならず、とうとう俺が参戦するのは避けられなかった。
もうどうにでもなれ、と流れに任せてシエル嬢の要請に応じたり、デュノアに質問責めにあったりと色々あったが、割愛して、だ。
そうして、現在ステージ上に俺は居る訳だ。

「疲れた顔だな、丹下智春。貴様最近忙しなかったが…、大丈夫なのか?」

ボーデヴィッヒの珍らしい気遣いがありがたいが、理由は俺が期待するのとは別のベクトルであるのは明らか故にあまり喜べない。
しかし、俺の天敵を相方に連れて来るとは、今回のデュノアは相当本気である。

遠近自在に武器を変え、絶対優位な位置を譲らないデュノアと、停止結界を有し、非情なまでに敵を徹底的に叩くボーデヴィッヒ。
以前ボーデヴィッヒと戦った時ですら全力では無かったのに、オールラウンダーなデュノアが追加となれば、厳しさは十倍以上か。
その上、シエル嬢の実力は未知数、試合前の訓練で多少動きは見たが、全容を把握できてはいない。
だがそれは逆に言えば、デュノア逹もシエル嬢の戦法を知らないと言う利点になりうる。ならば、手の内を知られている俺が囮になり、シエル嬢に決めてもらう流れが一番効果的か…?

勝利の為の作戦を考えていると、結果的に無視される形になったボーデヴィッヒが睨んでいた。

「余裕か丹下智春?私を無視するなど…」
「反対だボーデヴィッヒ。余裕がないから必死で負けない方法を考えてた」

白熱する姉妹喧嘩を後目に、相方同士で交流を図る。意図しなかった構図とは言え、中断で終了したボーデヴィッヒとの再戦だ、今回こそ白黒はっきりさせたい。

「ほほう?では負けた場合、貴様はどうするのだ?」
「その時はー夏の写真をくれてやる」

たまにオルコット逹との交渉の際に使うものにー夏の写真があるのだが、その中でも極上、正に珠玉の一品と言う物だ。敗北の後には勝者の手に渡るのも仕方ない。
余談だが、以前はゼロの写真もあった。本人に許可を得て撮影したものだが、約四名の乙女が全部引きとった。これ以上は語るまい。

「な、何枚でもか!?」
「一枚な、一枚」

本人の許可を前もって得ていようが、そうばらまいていいものではない。そもそも依頼の謝礼として用意しているのだ。そんなに大量には無い。

「さて、後の話はこれ位にして、2人を止めよう。そろそろ開始の時間だ、口喧嘩で始まりました、じゃ笑えない」

黙して頷くボーデヴィッヒと協力して、姉妹を離れさせる。

対峙して少しの後、開始のブザーで一斉に地を蹴る。
後に語り草になる、ISでの盛大な姉妹喧嘩が始まった。
 
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