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ソードアートオンライン VIRUS

作者:暗黒少年
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感染

 ジュンは体が完全に乗っ取られていないため、何とか勝ち目があるかもしれない。すぐさまジュンに接近して脇腹に向けて拳を叩き込む。

 ジュンは避けることなくその拳をもろに食らった。しかし、その体は何もなかったようにブレがない。だが、攻撃の手をやめない。自分の打てる最高速、最大限の力を発揮してジュンを殴るまくる。

 しかし、ジュンのHPもまったく減らない。ウィルス感染するとこうなるなんて本当に厄介である。自分のときはなかったくせに何で今になってこんなものをつけたんだ、そう思いながらジュンを殴り続ける。

「効かない……んだよ……そんな……へなちょこ……パンチ……」

「そんなの言われなくても分かってんだよ!!」

 確かに、こんなことをしても意味がないのかもしれない。今のところはウィルスの出し方なんてわからないだ。

「でもなぁ、少しでもこいつらの抵抗策を探すしかないんだよ!」

 そして今度は足を払って、ジュンを転倒させる。そしてシュートと同じようにキャメルクラッチとエビ反りを同時に決める。

 だが、それでもジュンの様子は変わらない。やはり何か特殊な条件がないといけないのか?いや、あの時はシュートの意識は完全に乗っ取られていた。しかし、ジュンの場合はまだ乗っ取られていないから効かないのか?

 だが、今の状況を打破するにはジュンの中からウィルスを取り出すしかないそれだったらいろいろと試さなきゃならないだろう。

 そして締めが緩むとジュンが体を捻って抜け出すとそのまま距離を取った。

「い……いかげん……逃げろよ……お前……こいつ……に……狙われて……る……んだ……ぞ……。…3手それなのに……逃げないって……頭……悪いのか……」

「ああ?頭が悪い?確かに狙われてるのに逃げないなんて馬鹿なことだろうな。でも、俺がここで逃げたらどうなるかは俺自身がよくわかってるんだよ。ここでお前を止めなかったらこのゲーム内で感染者が増え続ける。そうなったらゲームどころの話じゃなくなるだろうが。逃げたら俺のせいで感染者が増えるだろうが」

 そして、状態を立て直すと再び構え直す。

「それなら、戦ってた方がいいじゃねぇか」

「……馬鹿だな……」

 ジュンは苦笑しながら言うと苦しそうに胸を押さえて蹲った。

「おい、ジュン!!」

 近づこうとするとジュンは急にさっきの様子が嘘のように、スクッと立ち上がる。その瞬間から、さっきまでと違う雰囲気がその場を包み込んだ。

「……」

 ジュンの顔には先ほどと違ってまるで感情のない目。さらに体の所々にほんの少しだけノイズが見えた。

「……チクショウ……もう、ウィルスが出てきやがった……」

 周りを珍しそうに眺めるジュンの姿をした何かは、視界に入るものを珍しいようで観察し始める。

 こいつ、何かわかってないのか?そんなことを思うがウィルスは何をするかわからない。ジュンのような何かを観察する。

「ようやく出られたか……」

 ジュンの中からようやく出られたのかそう静かに呟いた。

 自分の直感が告げている。こいつはもうジュンではなくウィルスだと。自分の直感のほかにも出ている感じが今までのジュンの感じではなく、パスやチェンジャー、レストア、それにさっきまで感染者であったシュートのような感じがする。

「ようやく出られたって事はとうとう登場ってわけか……」

 その言葉に初めてこちらを向く。その無表情からは何も読み取れない。

「……」

 そして、話しかけてからしばらくその場に沈黙が訪れる。

 息を呑み相手の言葉を待つが相手は一向に何も話そうとしない。動こうとも喋ろうとも何もしないようにまるで動こうともしていない。痺れを切らし、こちらから話しかける。

「おい、お前はジュンか?それとも別の奴か?」

 そう問いかけるとようやく相手も口を開いた。

「……ジュン……それが、俺の体の名前か?」

「お前の体じゃねえ。その体はお前の所有物じゃねえんだから早くその中から出て行け」

 そう言うと、何かはにやりと口を吊り上げた。

「いいや、この体はもう俺の所有物だ。こいつは俺の侵食でもう完全に意識は隔離してある。そして、この仮想体(アバター)を動かせるのは俺だけだ」

「お前の名前すらわからないんだ。名乗ったらどうだ?」

「俺か?名前なんてないよ。俺はシードに埋め込まれて出来た言わば生まれたての奴だからな」

「そうか。名前がないなんて奴いるんだな」

 そう呟いてから構えて、ウィルスに向けて言った。

「お前にもう一度言うぞ。その体は俺の家族の仮想体(アバター)なんだよ。その体から出て行け!」

 叫び、ウィルスに向けて接近する。

「しっ!」

 まずは鳩尾に向けてしたから突き上げるように拳を振る。しかし、ウィルスはその拳を軽々と受け止めると、腕を掴んで引っ張る。

そしてそのまま、顔面に拳を叩き込もうと振るう。
 
 さすがに引っ張られている状態での攻撃は食らうと本当に厄介だ。体を捻ってどうにか避けようとするが少ししか体を動かすことしか出来なかった。

「くっ!」

 せめて威力を弱めようと当たる瞬間に首を捻る。しかし、ウィルスによって攻撃の威力がものすごく強化されているせいか、首を捻っただけでも威力を殺すことが出来ずにそのまま吹っ飛ばされる。

 そして後ろにあった木に勢いよく衝突する。そして視界の端に見えるHPが急激に減っていくのが見える。

「げほ、げほ……やっぱ、ウィルスってチートだろ……ダメージ食らわないし、それにこんな威力……俺のときと違いがありすぎるな……それだけあいつらが力をつけてきたってことか?……」

 軋む体を起こそうとする前に、すでにウィルスは目の前まで迫っており顔面に膝蹴りを叩き込もうとしていた。

 体を横に倒すように避けると固定オブジェクトのはずの木が当たった部分がえぐられたように削り取られたような感じになっていた。

「うーん……体の感触はこんなもんか?さっきの一撃が何か決まらなかったから体がうまく扱えていないかと思ったらしっかり使えてるな。じゃあ、さっきのはどういうことだ?もしかして、芯を通らなかっただけか?」

 どうやらさっきの攻撃は結構本気だったようでまだ動けるのを見て不審に思ったようだ。実際、芯が通ってなくてもあの威力だったらかなりの上級者じゃなければ駄目だったかもしれない。

「お前……相当ふざけた力をもってやがるな……一撃が普通ならたおせてるじゃねぇか」

「そうだ。自分の元の体の持ち主の力とウィルスである俺の力をあわせたんだ。それなのにお前はどうして倒れていないんだ?普通なら一撃で終わってるはずだぞ」

「お前……ジュンに似てるな……その自分の力を過信しすぎてるとことか、かなり。教えといてやるよ。お前は自分を強いと思い込んでいるだけで、よく探したら自分より強い奴なんて五万といるんだよ」

 そして体を起こして、構えを取る。それを見たウィルスは笑い始めた。

「あはははは!!俺より強い奴はそりゃいるだろうな!だけど、俺より強いのなんてマスター、それにあの七体ぐらいしか今のところいないだろうよ!お前がその五万の数の中にはいてるならその強さを俺に教えて欲しいね!俺に傷一つつけることの出来ない、その軟弱な拳で!」

 そう笑いながら一瞬で距離を縮めてくる。そして放たれる拳は一撃で相手を倒せるほどの威力を持っているのは誰の目から見たってわかるだろう。その拳に掌で包むように掴む。そしてその勢いのまま自分も回転してテンプルに向けて裏拳を叩き込む。体がほんの僅かに揺れるがそれだけでHPが減ることはなかった。

「おお!?さっきよりいい動きしてるじゃねえかよ。まだ動けるんならもっとアピールして来いよ!」

 そして今度は腰を低く落としてボクサーのような構えを取ると再度接近してくる。あまり距離を詰められるとこっちが不利になるため、大体相手の拳や蹴りが当たらない程度の距離を保ちつつ後退していく。

「おいおい、どうしたんだよ!せめてこいよ!」

 そう叫びながらどんどん詰め寄ってくる。しかし、こっちも攻撃の当たらない距離を保ち続ける。

 突然、背中に何かが当たり後ろに下がれなくなる。少し視線だけ動かしてその方を見ると背中には木があってこれ以上後退することが出来なくなっていた。

「クソッ!」

 素早くその場から離れようとするがすでに手を横にして逃げ道を塞いでいる。

「やっと追い詰めたぜぇ」

 そう呟いて、ゲツガの体に向けて蹴りを放ってくる。それを避けようと背中にある木を掴んでそのままひっくり返るように木に張り付いて避ける。

 だが、その一撃によって木が破壊される。

「やっぱり、ウィルスってのは本当に厄介だぜ……破壊不能オブジェクトを無視して攻撃をするなんて……」

「チッ……避けられたか……」

 片方は苦虫を噛み潰したような顔をし、片方はさっきの無表情とは違ってどこか狂気を感じさせる表情を浮かべていた。

 そして木が倒れるとすぐにその気から離れて再びウィルスとの距離を取る。このままじゃ倒せない。だが、ウィルスの対抗策すらないのにどうやってやるというのだ。

「もっとヒントが欲しいもんだぜ……」

 そう呟いてから少しの隙を見つけては攻撃を繰り返す。しかし、人間の弱い部分、顎、こめかみ、鳩尾、脛、喉。自分たちの体の弱点を全て狙ったがやはり効果がなかった。

「だから効かないっていってるだろ!」

 そして振り下ろされる拳を全て受け流しながら観察する。だが、弱点らしきものはいっさい見つからない。完璧すぎるにもほどがある。

「どこなんだよ……こいつの弱点は……」

 そして、弱点を探すべく拳を握り締め、ウィルスに向かった。 
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