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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第16話 子供で駄目な時は無理せず大人に助けて貰おう

 昨晩の大騒動が嘘の様に、町は静まり返っていた。戦闘の傷跡は微塵も残っておらず、町を練り歩く人々もまた、其処で激闘が繰り広げられたとは夢にも思わないのである。
 だが、そんな町の中で異様な井出達をした三人が座り込んでいた。
 三人とも、その顔はとても暗く沈んでいた。

「銀さん……傷の方は大丈夫なんですか?」
「あぁ、綺麗さっぱり塞がっちまったよ。一張羅は台無しだがな」

 心配する新八を他所に、銀時はとても元気そうであった。背中は着物こそバックリ穴が開いているものの、その奥に見える体には傷一つ残っていない。
 昨晩、突如発熱を起こしたなのはに触れた為に銀時に傷が瞬く間に塞がってしまったのだ。
 だが、其処になのはの姿は見られなかった。

「ガキの癖に、親に黙って夜遊びたぁ、感心しねぇよ。帰って来たらしこたまお灸を据えてやらねぇとな」
「それで場の空気を和ませてるつもりですか? 僕には分かりますよ。一番なのはちゃんを心配しているのは銀さんだって」
「……駄目だ、今はボケ返す気にもならねぇや」

 普段なら其処でツッコミ返しならぬボケ返しをする筈なのだが、何故かそんな気分にならなかった。今の銀時の気持ちは重く沈みきってしまっていたのだ。
 血の繋がりはないとは言え、父親となったと言うのに、その娘一人守れない駄目な父親。
 それが、今の銀時には辛かった。

「何時までしみったれた顔してるネ! 侍なら侍らしく気持ちを切り替えて明日に挑むべきネ!」
「神楽ちゃんも、何か無理してるっぽいのが分かるよ」

 何故か会話が長続きしなかった。三人とも気持ちが沈みきってしまっていたのだ。
 やはり、何かが足りない。確実に自分達の中にあった何かが大きく欠けてしまった事を感じ取る。
 そして、その欠けた穴はとても大きく、そして深かった。

「帰ぇるぞ」
「銀さん……」
「これ以上此処に居たって腹が膨れる訳ねぇだろうが。それに、欠けちまった穴を埋める事も出来やしねぇ」

 立ち上がり、尻についた砂埃を乱暴に払い除ける。その背中を見た新八と神楽には、微かにだが銀時が今までの様な元気を取り戻したように見えた。

「でも、銀ちゃん……これからどうするヨ」
「俺達に出来る事ってったら今は、次の戦いの備えて腹を膨らませる事だろうが!」
「銀さん! 元気になったんですねぇ?」
「バッキャロウ! ジャンプの主人公が何時までも根暗なまんまでどうすんんだよ! 好感度落ちるだろうがコノヤロー!」
「良かった。何時も通りの銀さんに戻ったみたいで」

 呆れ半分の安心半分の新八であった。だが、どうやら銀時自身どうにか立ち直り、前に向って歩き出そうとしている。

「あ、銀ちゃん……足元に―――」
「え?」

 神楽の言葉が終わる前に銀時は足元に異様な感覚を感じた。この感触は、まさか……
 青ざめた銀時がそっと自分の異様な感触を感じる足元を見た。
 其処に居たのはすっかりズタボロになって横たわるユーノが居た。

「あれぇ! 君は伊藤君じゃないか! 何処にも居ないと思ったらこんな所に居たんだ? 心配したよぉ俺」
「あのぉ……僕、ユーノなんですけど……ってか、名前間違える時点で心配してませんよねぇ?」

 ユーノの切実な言葉であった。余談ではあるが、戦闘開始と同時に足元に居たユーノは銀時により蹴り飛ばされてしまい、そのまま戦闘に巻き込まれてズタボロにされてしまったと言うそうだ。
 心底残念な奴だとしか言いようがないのが悲しい。
 そんな彼にこの言葉を贈るとしよう。

「悲しいけど、これ小説なのよね」
「な、何の言葉ですかそれ?」




     ***




 仮住まいのマンションに戻って来たフェイト達。だが、このフェイトの顔色もまた重く沈んでいた。

「ねぇ、アルフ……なのははどう?」
「駄目だね。全然熱が下がらない。容態は悪化するばっかりだよ」

 フェイトが尋ねる横で、アルフもまた暗い顔をしていた。二人が暗い顔をしているのは、今二人の目の前で眠っているなのはが原因であった。
 原因不明の病に突如侵されてしまい、治療法もままならないまま目の前で衰弱していく大事な人を只見る事しか出来ない。
 それがフェイトにはとても辛かったのだ。
 どうにかして助けたい。そう思い此処に連れて来たは良いが、その方法が今の二人にはなく、どうする事も出来なかった。

「このままじゃ不味いよ……どんどん弱ってきてる……でも、一体何で?」
「多分、私のせいだよ」
「フェイトの?」
「あの時、私がなのはに魔力刃を突き刺しちゃったのが原因で、なのはの中で眠っていたジュエルシードが目覚め始めたんだ。多分、なのはが力尽きると同時にジュエルシードは起動する」

 フェイトは予想した。正直、今のなのはの状態は今までに類を見ない。その為、それが起動した際にどれ程の被害をもたらすか全く検討がつかないのだ。
 下手したら、フェイトの手では対処しきれない程の怪物になってしまう危険性すら有り得る。
 そうなってはなのはを救う事など出来ない。そうなる前になんとしても助けなければならないのだ。

「アルフ、もうこうなったら……」
「行く気なのかい? あそこに……あの鬼婆のいる所に」

 アルフが心底嫌そうな顔をしていた。それに対しフェイトは頷いてみせる。

「もう、こうなったなのはを助けられるのは、多分母さんしか居ない」
「あいつが助けてくれる訳ないって! 行ったってどうせ無理やりジュエルシード引き抜かれるだけだよ。フェイトだって前に試して駄目だったじゃないか!」

 そう、以前フェイトはなのはの中に寄生しているジュエルシードを抜き取ろうと試みたが、駄目だったのだ。
 なのはの体内にあるジュエルシードは既に体全体に根を張っており、容易には取り出せないようになってしまったのだ。
 下手に取り出そうとすればそれだけでジュエルシードは起動してしまう。乱暴な扱いは出来なかったのである。

「でも、このままじゃ本当になのはは怪物になっちゃうかも知れない。そうなってからじゃ遅いんだよ! それに、私はなのはと戦いたくない!」
「……分かったよ。フェイトが其処まで言うなら、私もついていくしかないからね」

 心底嫌そうにしながらも、アルフは同意してくれた。それから、すぐに二人は支度を済ませた。
 簡単な衣服を身に纏い、今まで集めてきたジュエルシードをバルディッシュに収め、アルフはなのはを背負い屋上にまでやってきた。

「それじゃ、行くよ」
「はいはい、あぁ……憂鬱だなぁ」

 フェイトはそうでもないが、アルフは心底嫌そうな顔をしている。アルフが言うその鬼婆と言うのに真相があるのだろう。そして、それを知る為には、その鬼婆に実際に会うしかないと言う事になる。




     ***




 戦闘を終えて戻って来るなり、銀時達は怒涛の勢いで飯をがっつく事となっていた。普段余り食事を摂らない新八でさえも、既にご飯を3杯おかわりしている始末である。

「おいおい、一体どうしたんだよ銀さん。今日はやけに食べるじゃないか?」
「あぁ、ちょいと動物園を脱走したマウンテンゴリラに巻き込まれちまってな」

 口いっぱいに何かを頬張りながら銀時がそう答える。銀時達が生息している江戸であれば普通にツッコミを入れる程度で終わる話なのだが、生憎此処はリリカルな海鳴市。その為銀時の嘘をかなり間に受けてしまっているのであった。

「そ、それは大変だなぁ……ところで、なのははどうしたんだい? さっきから姿が見えないんだけど」

 いきなり答え辛い質問をされた為に新八は答えに渋った。視線を泳がせながら答えを探る。
 すると、そんな中で銀時が軽く咳払いをする。どうやら銀時が答えを代わりに答えてくれるだろう。それを悟った新八は銀時の答えに縋る事に決めた。

「実は……なのははそのマウンテンゴリラに攫われちまったんだ。俺達も必死に抵抗したんだが、相手は狂暴なマウンテンゴリラ。俺達三人で戦いを挑んだんだが、結局俺達じゃ勝つ事が出来ず、力及ばずなのはを連れて行かれちまったんだ」
「はうぅ……」

 銀時の言った事は勿論真っ赤な嘘である。だが、それを真実とばかりに誤解している高町家は誰もが青ざめており、仕舞いには高町家母の桃子は真っ青になり卒倒してしまう始末であった。

(ちょっ、ちょっと銀さん! 何嘘っぱち言ってるんですか!)
(しょうがねぇだろうが! これ以外に良い言い分がある訳ねぇだろうが! それともあれか? お前この一家に真相を言うつもりかぁ? 実はなのはは魔法を使う金髪の変態少女に連れて行かれたって……絶対信じる訳ねぇだろうが!)

 確かにそうだ。この一家に真相を話したところで絶対に信じる筈がない。実際問題いきなり魔法だのそんな事を言えば世間的に頭のやばそうな人と誤解される。
 それならいっその事マウンテンゴリラとかの方がまだ説得力がある。何せ実在しているのだから。

「そ、それじゃ……今頃なのはは?」
「分からないが……最悪、そのマウンテンゴリラに――」

 言い終わるよりも前に陶器が割れる音がした。見ると其処には父士郎が持っていたご飯茶碗がその手の中で粉々に砕け散っているのが見える。
 粉々になった陶器と共に辺りに白いご飯が飛び散る。
 その光景に恐怖を感じた恭也は恐る恐る父士郎の視線を伺ってみる。
 其処に居たのは今までの優しい父の顔などはなく、狂気に満ちた鬼神の如き殺気に満ち溢れた顔になっていた。

「銀さん……そのゴリラ、殺しても罪にならないかなぁ? って言うか、俺自身の手でそのゴリラを地獄の底へ叩き落して良いかい? この手で、この刃でそのマウンテンゴリラをズタズタに引き裂いて構わないかぃ?」
「落ち着け、お前の気持ちは分かる。だが、お前は一家の大黒柱だ。そのお前が罪を犯してそれが世間に露呈したら、その先どうするつもりだ?」
「はっ!」

 銀時のその言葉に士郎は黙り込んでしまった。幾ら逃げ出したとは言え、ゴリラは昨今貴重な保護動物として扱われている。その動物を勝手に殺してしまえばそれこそ罪になる。そうなってしまいそのまま務所ぶち込まれてしまった場合、誰が家族を養っていくのだろうか?
 その先を考えただけで、今まで湧き上がっていた怒りの炎が萎んでいくのを感じていた。
 出来ない。出来る訳がないのだ。
 そう考えただけで士郎は動けなかったのだ。そんな士郎の肩に銀時がそっと手を置く。

「安心しろ。なのはは俺達が責任を助けてやる。お前はなにもせずふんぞり返って待ってろや。お前がやらなくても俺達が変わりにそのマウンテンゴリリアをしばき倒してやっからよぉ」
「ぎ、銀さん……有り難う、本当に有り難う! 銀さん……」

 気がつけば、士郎は泣いていた。大の大人が滝の様に涙を流して泣いていたのだ。
 そんな士郎を銀時がそっと背中を擦って宥めていた。大人同士の熱い友情の光景だった。
 新八も思わず目の辺りが熱くなるのを感じていた。
 だが、その感情も銀時の顔を見ただけでアッサリと吹き飛ぶ事となってしまった。
 泣いている士郎に対し、銀時は笑っていたのだ。それも、とてつもなくドス黒い笑みを浮かべて。

(どうよぱっつぁん。俺の華麗な騙しテクニックのお陰で見事に騙せただろうが?)
(こ、この男……純粋な高町家大黒柱の心を醜く操っている。醜い! 余りにも醜い! この男、底知れぬ醜さが見て取れるんだけどぉぉぉ!)

 新八は青ざめてしまっていた。高町家の余りの優しさと純粋さに、そして、銀時の余りの醜さ、醜悪さに、新八は青ざめてしまっていたのである。

「すいまっせぇぇぇん! ご飯おかわりぃぃ!」

 そんな中、神楽は一人全く気にせず食事を楽しむばかりであったりした。全ては次の戦いに備えて。
 再びフェイト・テスタロッサと再戦する為に、銀時達は今の内に力を蓄えてるのであった。




     つづく 
 

 
後書き
次回【綺麗な思い出でも他人が持ってると意外とジェラシー】 
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