久遠の神話
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第四十六話 また一人その十五
「では今後はその十人目の剣士についてもだな」
「情報収集にあたります」
「そうしますので」
「頼む。だが」
「だが?」
「だがといいますと」
「君達にはもう一つ仕事ができた」
一佐は二人に対してこうも告げた。
「臨時のものだがな」
「剣士としての作戦とはまた別にですか」
「そうだ。別にだ」
工藤にそれとはまた違ってだと述べる。
「一日限りでしかも剣士としての行動が生まれればそちらに向かってもらうがな」
「それでもですね」
「君達、特に工藤君だな」
自衛官である彼を特に見ての言葉だった。
「君になる」
「私になるということは」
「この神戸にもアメリカ領事館があるがな」
これは日本の主な都市には大抵ある。神戸だけでなく他の主要都市にもだ。
「そこに新たに駐在する武官が来るのだが」
「その武官との応対ですか」
「そうだ。それを頼めるか」
一佐はその工藤の目を見て問う。
「君は応対、そして高橋君は領事館の臨時の警護だ」
「それで私もなんですね」
「どういう訳か向こうから君達を名指しで指名してきた」
それで二人があたることになったというのだ。
「頼めるか」
「私ということが少し」
工藤は考える顔で一佐にあることを話した。それはというと。
「私は海上自衛隊で」
「海自さんだからかい?」
「うちの事情は御存知ですね」
「まあ一応はね」
一佐は陸上自衛官だ。その制服が緑色であることが何よりの証だ。
自衛隊はその所属により制服の色が変わり工藤のいる海上自衛隊は黒で夏は白、一佐の陸上自衛隊は緑、そして航空自衛隊は青になるのだ。
その黒、幹部の証としてその袖には金モールが巻かれているその制服姿で彼は言った。
「海上自衛隊に曹候補生として入ったね」
「高校を卒業してすぐに」
「それで二年で三曹になって」
そうしたコースだったのだ。今ではシステムは違っているがそうしたコースがあったのだ。
「二十五歳になってだったね」
「周りに言われて部内幹部候補生の試験を受けました」
「それで通ったんだね」
「あの試験は元々曹候補生の為の試験でして」
大体曹候補生自体が部内幹部育成の為のコースである、だからその試験もだというのだ。
「候補生に合格するだけの学力があれば」
「通るか」
「元々その学力があって」
それで候補生になればというのだ。
「後はそのテスト前に過去の数年かの試験を揃えた問題集でもすれば」
「通るか」
「それでいけます」
「噂には聞いていたが本当に部内は候補生の為のものなのだな」
「陸自さんでもそうですね」
「何の為に二年で三曹になってもらうか」
一般では十年でなれない士長もいるというのにだ。
「そして海自さんでは制服も違うな」
「七つボタンです」
かつて予科練の軍服だった。海上自衛隊ではもうなくなった自衛隊生徒にパイロットを育成する航空学生にそしてなのだ。
「我々もそうでしたが」
「予科練扱いだからな」
「それだけで別格ということですね」
「海自さんはかなりあからさまだと思うがね」
一佐は海上自衛隊のその制服の差別化には少し苦笑いになって工藤に述べた。
「一方がセーラー服でもう一方が七つボタンだとな」
「教育隊でも目立ちました」
「そうだろうな」
「何から何まで違いましたから」
「候補生と他ではな」
「それで私も二年で三曹になり」
そしてだというのだ。
「五年、部内幹部は二十五歳からなので」
「それでだね」
「二十五歳で試験を受けて江田島に入りました」
海軍の頃から変わらない海上自衛隊の幹部自衛官を育てる場所だ。赤煉瓦は観光スポットにさえなっている。
「それで今に至ります」
「二尉になってすぐにだったね」
「剣士になったので」
その影響もあり二尉になってすぐに一尉になったというのだ。
「もっとも一尉になってからは」
「暫くはそのままだろうね」
「そうだと思います。何しろ特殊な事情ですぐに昇進しましたから」
「そうだな。まあとにかくだ」
「はい、私と高橋君で、ですね」
「その向こうの将校さんのホスト役を務めてくれ」
「そうさせてもらいます」
工藤は一佐に対して答えた。そうした話をしてだった。
高橋と二人でその士官と会うことになった。だがこの出会いこそが彼等にとって大きなうねりの一つとなるものだった。
第四十六話 完
2012・9・19
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