久遠の神話
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第四十六話 また一人その十四
「英雄だったのです」
「魔王ではなくですか」
「はい、英雄だったのです」
「恐怖政治を敷いて多くの人を殺してもですか」
「ドイツを一度は救ったのですから」
第一次世界大戦での敗戦と多額の賠償金、そして世界恐慌により何もかもを牛なっていたドイツをそうしたというのだ。
「だから彼は当時のドイツにおいては正義だったのです」
「難しい話ですね」
「はい、正義と邪悪はその都度変わり」
当時のドイツでヒトラーは正義でも今の五カ国から見れば邪悪だというのだ。
「そして民主主義はです」
「そのヒトラーを選んだんですね」
「結果としてヒトラーを選んだことが過ちでした」
再び戦争に入り多くの犠牲者を出し敗戦を迎えた。失敗という他ない。
「民主主義はこうしたことも起こります」
「だからですか」
「絶対に正しいかというとですね」
「違うのです」
そうなるというのだ。
「絶対のものはないのです」
「では先生もですか」
「そうですね」
高代は達観したものも見せて上城の今の言葉に応える。
「私も理想を実現してもです」
「それが正しいかどうかは」
「わからないですし変わりもします」
普遍ではないとも言うのだった。
「学園を築いてもそれは」
「先生の理想通りになるとは限らないし正しいかどうかもわからない」
「そういうことです。ですが重ね重ね言いますが」
高代は淡々と述べていく。
「私は独裁主義ではないので」
「そうした考えの剣士の人とはですか」
「無論他の剣士を倒すという意味合いもありますが」
それでもだというのだ。
「そうした人の願いを適えさせはしません」
「ですか」
「その為には上城君とも共闘します」
本質的に敵である彼ともだというのだ。
「そうしますので」
「それじゃあ」
「その時はお願いします」
「そうですか」
「さて、どうした剣士なのか」
高代はここでは期待めいたものも言葉に入れていた。
「見たくもありますね」
「出来れば戦いを避けたい人であって欲しいですけれど」
「しかしそれはです」
「わからないですね」
「問題は誰が出て来るかですね」
こうした話をして二人は十人目の剣士が誰なのかを考えていた。そしてそれは彼等だけではなかった。
工藤と高橋は地連の個室で彼等の上司である一佐に対して少し厳しい顔でこう告げられていた。
「十人目が来たということだが」
「はい、あの声に言われました」
「私もです」
二人で一佐にその通りだと答える。
「ただ。それが誰かはです」
「まだ聞いていません」
「そうか。十人目が来るにしても」
「それが誰かまでは」
「わからないです」
「そのことはわかった」
十人目の剣士が来ることとその剣士がどういった人物かはまだわからないという二つのことがわかったというのだ。
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