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ソードアートオンライン VIRUS

作者:暗黒少年
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初戦

 扉を出ると、右端と左端に半径三十メートルくらいの円形のフィールドが用意されていた。この上で戦うらしい。

「右のほうに移動してください」

 耳に機械的な音声が響く。アナウンスで知らされたとおり右のフィールドに上がる。そして中央にまでくると地面を確認する。ちょうど良い硬さですべりもしない。

「お前が俺の相手か、あぁ?」

 急に声をかけられその方を向くと、黒い胴着を着たプレイヤーがいた。先ほどのトーナメント表にもあった黒の刺客というプレイヤーだろう。

「そうだな」

 短く答える。しかし、黒の刺客というプレイヤーはそれが気に食わなかったのか食って掛かってくる。

「おい、お前。俺が誰かわかってんのか?あぁ?」

「その言い方から察するに街でなかなか有名な……」

 そう言ってやると黒の刺客は満足そうにうんうんと首を縦に振った。

「チンピラか?」

「そう……って違うわ!!」

 おお、なんとノリのいい男だろう。こんなわざと言ったことを突っ込んでくれるなんて。

「なにふざけたことほざいてんだ、あぁ!?ぶっとばしてやろうか、あぁ!?」

 いや、こいつは自分の言っていたことが完全に当てはまるだろう。まず、この話し方なんて古いチンピラが一般人を脅す時に使っていた話し方とまるっきり同じだ。

「くっ……ははははは!!」

 それを見て腹を抱えて笑う。

「テメェ、何がおかしいんだ、あぁ?」

 完全にキャラ作りだろうけどこの感じは古すぎて笑ってしまう。笑うゲツガを見て頭に青筋が浮き出るほどであった。このVRMMOも表現の表し方がとてもわかりやすくなっている。

「いや、お前に話し方が何か古いマンガのチンピラや不良に似てて、あまりにも面白かったからついな」

「そうか、俺はお前がどれだけウザイかがよく理解できたぜ。もう、我慢ならねぇ。ぶっ飛ばしてやるからそこを動くんじゃねぇぞ、おぉ!?」

「やっぱ、お前面白いわ。その喋り方」

 そしてゲツガは構えを取る。そしてそれを見た黒の刺客も構えを取った。腕を腰辺りに下げてもう片方を口の近くに添えている。

(なるほど、空手とボクシング主体って聞いてたけど、どちらかっていうと空手じゃなくてボクシングのほうが得意なのか。構えから見て現実でもやってそうだな)

 構え方でそれだけのことは理解できた。しかし、実際の攻撃を見てみないとよく分からないところもある。そこは最初は避けに徹底して観察するのがいいだろう。なんせ、この黒の刺客というプレイヤーも前大会で予選を勝ち上がって、本戦まで来た男なのだから気を抜かないほうがいいに決まっている。

「はじめ!!」

 機械の大きな音声で開始の合図がフィールド全体に響く。それと同時に周りの音が完全にシャットアウトされたように静かになる。気のせいかと思ったが、どうやら、参加者に罵声などが聞こえないようにして試合に集中してもらおうと言う、運営側の措置らしい。

「いくぞ、こら!」

 そしてボクシングの構えを変えて顎などの部位を拳で隠して姿勢を低くして接近してくる。確かこの構えは顎などの弱点部位を隠せるが下半身の防御を捨てている。そして自分も黒の刺客に向けて飛び出す。

「おらぁ!!」

 黒の刺客はゲツガが攻めてくるのを確認するとちょうどいいタイミングで失速してそのまま腰を回転させて体重の乗ったパンチを打ってくる。こちらは失速して後ろに飛んで避ける。

「そらぁ!!」

 避けたゲツガに対して足を一歩踏み込んで蹴りを放ってくる。それをダッキングで避けると蹴りの足を下ろすとそのまま回し蹴りを決めようとする。

「おっと!」

 ゲツガはそれをさらに後ろに飛んで避ける。これは空手の足運びや撃ち方だがどちらかというとムエタイに似てるかもしれない。

「ドラァ!!」

 黒の刺客はさらに踏み込んで拳を打ち込んでくる。それを今度は手を使って捌く。腕の横をおして、自分の顔面の軌道をずらして横を通るようにしようとするが、それでもまだ足りなかったのでヘッドスリップをして避ける。

 しかし、避けるタイミングが少し遅れたせいで掠る。その攻撃によってHPが減らされる。若干だが自分の思っていた速さよりも速かったらしい。

「もっと集中しなきゃな」

「何無駄口叩いてんだ、あぁ!!」

 そういった黒の刺客は体を低くして自分の肝臓目掛けてブローを放ってきていた。それを接近して無理やり拳を止めて避ける。

「ふざけやがって、攻撃して来いや!!」

「うるせぇな。わかったよ」

 ゲツガはそう呟くと一度大きく息を吐き、ゆっくりと吐く。その隙に黒の刺客はゲツガに迫り、拳を叩き込もうとする。

「オラァ!!」

 しかし、その拳はゲツガに当たることはなく空を切る。ゲツガは逆に死角に素早く移動してそれを避けた後、黒の刺客に向けて腹に向けて蹴りを叩き込もうとする。しかし、黒の刺客はまるで見えているかのようにそれをかわした。

(なんであいつ死角にいた俺に気付いたんだ?)

「あっぶね~……」

 確かにさっきのは自分でも決まったと思ったが、勘なのかかわされた。だが、さっきの避け方は完全に見えていないと無理だ。もしかすると、こいつ、視野が普通の奴より広いのか?

 そんなことを思っていると避けた体勢からすでに立て直したようで、そのままゲツガへと接近していた。そして体を完全に密着させるとまたしても肝臓打ちをしてくる。それを避けようとするが足を踏まれているのに気付いた。

「今度は逃がすかよぉ!!」

 これはガードするしかないと思い両手で防ごうとする。拳はそのガードを吹き飛ばしてゲツガの腹に拳が食い込んだ。

 痛みはないが腹から何かが喉を通って口まで何かがこみ上げてくるような感覚に襲われる。そしてその攻撃で体が浮く。

「そらそらそらそら!!」

 浮いた隙に黒い刺客はラッシュをしてくる。それを回避することは出来なかったが空中にいたおかげで衝撃だけは逃すことが出来たが攻撃はくらい、HPが相当減って注意域の限界まで減らされていた。

「いってー……足踏むとかありかよ……」

 ゲツガは地に足をつけると腕をぶらりと下げながら相手の方を向く。相手の動きを観察しようとしていたがもう、やめだ。

 ゲツガはそう思うと腕をぶらり下げた。しかし、その動作を行った瞬間、ゲツガは縮地法で接近する。今までとは違う動きで一瞬だが黒の刺客が怯んだ。その瞬間に片足で相手の足を踏むと顔面に膝蹴りを叩き込んだ。その攻撃は衝撃を逃がすことが出来ず、相当なダメージを追った。しかし、まだHPが残っている。ゲツガは足をどけると今度は自分が殴られた部分と同じ場所に拳を叩き込む。

「いってーな!!」

しかし、黒の刺客はその攻撃にあわせて逆にカウンターを放ってくる。ゲツガはその攻撃を避けよ うとせず肘を曲げながらそのまま打つ。肘が曲がっているおかげでカウンターはゲツガに入ることはない。

「ガハッ!!」

 さらにHPを減らす。それでも、まだHPは残っている。止めを刺すにはまだ攻撃しなければならない。ゲツガはカウンターの腕はまだ戻りきっていない。その腕を掴むと、すぐに体をこっちに引いてそのまま鳩尾にエルボーを叩き込んだ。

「ぐおぉ!?」

 HPが急激に減り始める。しかし、まだ残るという可能性がある。その時はまためんどくさいだろう。ここで、終わらせるのがベストだ。

 肘を離し、体を反転させる。そしてそのまま、黒の刺客を背負い投げでコンクリートみたいな材質の床にたたきつけた。

「カッ……!」

 そして、その攻撃によって黒の刺客のHPは完全に空になり、ゲツガとWINと映されたホロウィンドウが自分のフィールドに展開された。

「ふぅ……」

 ゲツガは息を吐いた。何とか倒せたが、少し危なかった。まさかあの時足を踏まれていることに気付かなかったなんて、それよりも踏んでもよかったのかと思う。

「まあ、辛勝だな。こいつを倒せばナナミも楽とは言ってたものの本当に楽なのか不安になってきたな」

 ゲツガは今度は溜め息を吐いた。そしてフィールドを降りる。すぐにでも一時的に休憩を入れたい。体は痛くはないのだが、どうも、頭のほうがくらくらする。

 扉が開いているため急ぎ足でソチラに向かう。そして扉を通る時に、あのプレイヤーが出てきていた。その横を通り過ぎようとした時、小さくだが確実に聞こえた。

「お前の方が安定しそうだが、メインディッシュは最後まで取っといてやるよ」

「ッ!!」

 その言葉に今までの違和感の正体を理解する。こいつはウィルスだ。

「おい!?」

 そう言って、肩を掴んで止める。

「えっ!ぼ、ボクになんかようですか!?」

 いきなり雰囲気が変わった。しかも、今までに気配がなくなった。

「いや、ちょっと大丈夫か確認したかっただけだ。さっき、蹲ってたし」

「ああ、大丈夫ですよ。何か、急に体がよくなったんですよ。疲れもなくなって、何か気分もよくなって今はいい感じなんです」

「……そうか」

「じゃあ、ボク、行かないといけないんで。それじゃあ」

 そう言って扉をくぐってフィールドの方に行ってしまった。

「……さっきのは幻聴か?いや、それはない。確実にさっきの奴にウィルスの感じがあった。けど、いきなり消えた。一体どうなってるんだ?」

 小声で呟く。しかし、まったくわからない。なぜ、急にウィルスは出てきて自分に何かを言ってくる。しかもさっきの会話の中にはわからないところがある。

「メインディッシュ……は俺のことだろうけど、最後までとって置く。つまり勝ち上がって来いってことなのか?それとも、SAOの俺のときみたい何かする気なのか?」

 だが、それを知るためには決勝まで行くしかない。

「お前らが何するかは知らないが、俺はそれを止めさせてもらうぜ」

 扉の外を見ながらそう呟いた。 
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