| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

預かった子供

赤ん坊を預かった女性は、ここに夫婦の遺体を置いていくのが非常に躊躇われたが、まずは預かった赤ん坊を何とかしないといけない。
夫婦に一礼をして、籠を背負い、薙刀を右手で持ち、左手で赤ん坊を抱きかかえる。
母親が死んでから、赤ん坊は一向に泣き止む気配がない。

「あ、ああ。
 よ、よしよし。」

慣れない手つきであやしてみるが、効果は全くない。
完全に手詰まりなこの状況に女性は小さくため息を吐いた。

(おそらく、親が死んだことを感じ取ったのだろうな。)

そう思いながら、効果がないと分かっていてもあやすくらいしか思いつかなかった女性は、あやしながら自分の村に戻る。
少し歩くと、小さな村に着いた。
家の数も一〇には満たないほどの小さな村だ。
だが、交友関係は非常に深く、その女性が帰ってくると村人が挨拶をする。

「おお、関流さん。
 無事だったかい?」

鍬を持って畑を耕していた男性の一人が女性、関流の姿を見て手を止めて話しかける。

「ええ、私は何とか。」

「おや、その手にいるのは。」

「はい、近くの森で夫婦が賊に襲われていました。
 その時に生き残った赤子です。
 私に育ててほしいと遺言を残して逝きました。」

「そうかい。
 最近は賊が多くて困ったもんだよ。」

「近くの街に出向いても同じような事を耳にします。
 おそらく、今の政治ではこの乱世を鎮める事ができないでしょう。」

二人は少し暗い雰囲気になる。
それに気がついた男性は話を変える。

「その預かった子供さんが大きくなるころには、この国も安定して欲しいよ。」

「私もそう思っています。
 この子には幸せになって欲しい。」

それでは、と言って自分の家に戻る。
関流は根っからの武人で、幼い頃から武道を学んでいた。
一国の将になり、かなり有名な武人だったのだが、今の王とその側近に嫌気が差した。
偶然にも、同じような考えを持っていた男性がいて、一緒に国を出て、この村に辿り着いた。
今は山に出かけてはきのみなどを採りに出かけている。
そのついでに賊が旅人や他の村人を襲っていないか見回りに出ている。

(そのおかげでこの子だけでも助ける事ができたのだが。
 早く平和になって欲しいものだ。)

自分達は逃げたのだ。
この国を救う事ができなくて、自分達もあの王や側近のように自分の事だけを考えるようになりたくなかった。
だから、国を出たのだ。
自分が暗い雰囲気になっている事に気がつき、それを感じ取った赤ん坊は泣きだす。

「暗くなるのは駄目だな。
 この子が泣き出してしまう。

小さく呟いて考えるのをやめる。
自分の腕の中で依然と泣いている赤ん坊をあやしつつ、自分の家に戻った。





「ただいま。」

「唯!!
 今までどこに行っていた!!」

帰ってきて早々、夫である関栄に怒鳴られる。
最近はこの村でも賊がやってくる事が多い。
今朝は関栄にどこに行くかを告げないで外に出かけたのだ。
今の今まで心配していたので思わず怒鳴ってしまう。

「どこにって森に行ってたのよ。」

「それを私に言ったか?」

「あっ。」

言い忘れた事に気がついて関流は声をあげる。

「お前は強い。
 だけど、それでも万が一のことはある。
 頼むから私に一声だけかけて言ってくれ。」

心の底から心配していたのか、関流の肩に手を置いて言う。
心配させていた事に気がついて、関流は謝る。

「ごめん。
 次からはちゃんと言うわ。」

「分かってくれたのならいいよ。」

関栄に許しを貰って少しだけホッ、とする関流。
ちなみに関栄が言っていた唯というのは関流の真名だ。
真名とは本人が心を許した証として呼ぶことを許した名前であり、本人の許可無く真名で呼びかけることは、問答無用で斬られても文句は言えないほどの失礼に当たる。
唯の腕の中の赤ん坊が大きな声で泣き出すと、関栄は唯の腕の中にいる赤ん坊に気がついた。

「唯、その子供は?」

「この子?
 この子はね・・・・」

先程の森での出来事を関栄に説明する。
それを聞いた関栄はそうか、と呟いた。

「そんな事があったのか。」

「この子を育ててほしい、って遺言を聞いてね。
 でも、この子一向に泣き止まないのよ。」

「どれ、貸してごらん。」

関栄に赤ん坊を渡す。
関栄は慣れた手つきで赤ん坊をあやす。
それが効いたのか、泣き叫ぶ声は次第に小さくなっていき、眠ってしまう。

「ほんと、こういう事は栄進、得意よね。」

「お前が不器用すぎるんだよ。」

栄進とは関栄の真名である。
栄進は唯と違い、武人ではなく文官だ。
赤ん坊は栄進に任せれる事を確認した唯は籠を置いて、薙刀を片手に家を出ようとする。

「おい、どこに行くんだ?」

赤ん坊を起こさないようにあやしながら、家を出て行こうとする唯に話しかける。

「この子の親を弔ってあげないと。
 遺体はまだ、森の中にあるの。」

少し悲しげな表情を浮かべて唯は言う。
栄進は唯が悔やんでいる事に気がつき、こう言った。

「分かった。
 だが、他の人に協力してもらいなさい。
 一人じゃあ危ないからな。
 それと、お前が気にする事じゃない。
 結果的に見て、唯が居なかったらこの子は死んでいた。」

「うん、ありがとう。」

それだけを言って唯は家を出て行く。





何人かの村人の助けを借りて、赤ん坊の親の墓を作った。
その夜、赤ん坊は起きた後も泣き続け、二人は初めての子育てに慌てつつも、近くの子供を育てた経験のある人に助言を貰いながら、何とかできていた。
泣き疲れたのか、赤ん坊は布団の中で眠っている。

「この子の真名、縁って名前らしいよ。」

栄進が作ったご飯を食べながら、唯は言う。
赤ん坊の世話が大変だったが、ようやく落ち着き夜ご飯を食べているのだ。

「縁か、いい真名だ。」

「ねぇ、栄進。
 これから、この世はどうなると思う?」

唯は最近、治安の悪さや飢えの苦しみなど乱れきった世の中について栄進に聞く。
栄進は箸を置き、真剣な表情を浮かべる。

「正直、今の王ではこの乱世を治める事はできないだろうな。
 近い将来、王は失脚してさらに世の中は荒れる筈だ。」

「私達、ここの来て良かったのかな?」

唯は自分達二人が国を出て行った事に疑問を抱いているようだ。
もし、自分達が国を捨てずに必死に頑張ればここまで乱れきった世の中にならかったのでは、と。

「国を出て行ったかどうかが正解かは分からない。
 だが、そのおかげで私はお前と愛し合う事ができて、子供も授かる事ができた。
 この村だってそうだ。
 私達が来た時は賊に困っていたが、お前のおかげで少しは平和になった。
 国に残っていれば、この村とその赤子は救う事はできなかった。
 小さなことだが、それでも私はこれで良かったと思うぞ。」

栄進の言葉に唯は少し顔を赤くしながら、ありがとう、という。
その時、赤ん坊が起きだしたのか泣き声をあげる。
二人は見つめ合うと、小さく笑いあう。

「どうやら、ご飯はもう少し後になりそうだな。」

「ついでに今夜は寝れそうにないわね。」

二人は笑い合うと、泣き声を上げる赤ん坊に近づいて、泣き止むようにあやすのだった。 
 

 
後書き
にじファンではなかった、主人公のもう一つの親の話です。
本当ならいきなり小学6年生くらいまでキングクリムゾンするはずだったのですが、こういうのも必要かなと思い書きました。短いですけどね。

親の名前は超適当です。
それと私は三国志は恋姫をやったくらいしか分かりません。
むしろ、あれを参考にしていいものかとちょっと思いますけどね。
誤字脱字、意見や感想などを募集しています。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧