八条学園怪異譚
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第三十二話 図書館その十五
「和服は」
「これまで和風ってイメージなかったですけれど」
「実はそうだったんですね」
「そうです、確かにもう今はスーツ姿が多いですが」
博士の秘書となってからそうだというのだ。
「普段は変わらないです」
「着物ですか」
「寝る時も」
「そうです、それでなのですが」
ろく子は話題を変えてきた、今度の話はというと。
「図書館の奥の本棚に行かれて」
「はい、十二時に時計回りに回るんですよね」
「そうするんですよね」
「そうされれば若しかしたら」
確実には言えない、だがそれでもだというのだ。
「泉かも知れません」
「じゃあ今からですか」
「行かれるんですね」
「はい、そうします」
こう言ってそうしてだった。
二人はろく子に案内されて図書館の奥の本棚のところに向かった。夜の図書館は人もなくしかも暗い、ここもまた昼とは違う顔だ。
その夜の図書館の中を歩きだ、愛実はこんなことを言った。
「本が何かお喋りしそうよね」
「本が?」
「ええ、やっぱり本も長くあると喋ったりするわよね」
こう愛実に言うのだ。
「硯や筆もそうだから」
「はい、そうです」
ろく子は愛実の方に首を伸ばして答える。首はあえて上から下にと曲線で伸ばして語る。
「本も百年あればです」
「心を持つんですね」
「それで自然に喋ったり動いたりします」
そうなるというのだ。
「それはこの図書館でも同じです」
「じゃあ今にも」
「ただ。ここにある本はどれもそこまで古くないです」
百年も経っていないというのだ。
「この中ではそうしたことはないです」
「じゃあ何処の本がそうなるんですか?」
「こことは別の、古文書等の場所ではです」
そうした場所の本はというのだ。
「自然に本棚から出て踊ったり歌ったりします」
「そうなるんですね」
「はい」
「じゃあ古文書のところに行けばですか」
「普通に本がなんですね」
「そうですよ。博士の研究室もそうです」
あの部屋もだというのだ。
「夜の十二時になりますと本棚から自分達で出まして」
「そうして、ですか」
「踊ったりするんですか」
「自分達で喋って」
ろく子は二人に話していく。
「面白いですよ」
「本も百年かそれ位あったら魂を持つんですね」
愛実はこのことをあらためて知ることになった、それで言うのだった。
「他のものと同じで」
「そこから仙人にもなりますよ」
「えっ、仙人にですか?」
「そうです、魂を持ってそこから修行していけば」
魂を持って終わりではないというのだ、そこからまだあるというのだ。
「人間の姿にもなれて仙人にもなれます」
「じゃあ人間なんですね」
「心が人間になれば」
それでだというのだ。
「やがては仙人にも神様にもなれますよ」
「本でも何でもですか」
「はい、そうです」
また言うろく子だった。
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