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八条学園怪異譚

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第三十二話 図書館その十六

「封神演義とかを読まれればおわかりになるかと」
「仙人が道具で戦うお話ですよね」
 聖花は封神演義と聞いてこうろく子に問うた。
「それですよね」
「はい、商と周の戦争を舞台とした」
「あの作品は漫画で読んだんですけれど」
「原作も面白いですよ」
 かつて週刊少年ジャンプで連載されていた漫画だけでなく原作の小説の方も面白いというのである。尚中国の民間伝承が基になっている。
「痛快で派手で」
「ファンタジー小説ですか?」
「そう言ってもいいですね」
 実際にそうだというのだ。
「あの作品は」
「そうなんですか」
「はい、中華ファンタジーですね」
 ろく子は二人にわかりやすい様にこの表現で話した。
「そのジャンルの代表作の一つです」
「中国でファンタジーっていったら」
 愛実はそう聞いてこの作品の名前を出した。
「西遊記とか」
「あの作品もその代表作の一つですよ」
「ああいうのですか」
「仙人や神様が道具、宝貝で戦いますから」
「西遊記は何度かドラマになってますね」
「私は最初の西遊記が好きです」
 ろく子は機嫌よくドラマの話にも入った。
「主役の三人もいいですが特に三蔵法師の」
「確か最初のドラマでも女の人が演じておられたんですよね」
「夏目雅子さんでした」
 若くして亡くなった女優だ、その美貌は今も伝説になっている。
「凄くお綺麗で演技もいい方でした」
「その人が三蔵法師だったんですね、最初の」
「本来は男の人ですが」
 玄奘法師のことだ、原作でも男である。
「日本のドラマでは違います」
「何でですかね、あれは」
「最初のドラマ版では男の方で合う方がいなかったそうです」
「それでその人になったんですか」
「そう言われています。つまり苦肉の策でしたが」
 それがだというのだ。
「成功しました」
「そうなったんですね」
「はい、ただこの本棚にも西遊記や封神演義がありますが」
 だがそれでもだというのだ。
「まだ百年経っていないので動くことはないです」
「そうですか」
「最低でも百年経たないとものは魂を持ちません」
 人間でも百年生きればかなりの長寿だがものもそれだけの時を過ごせばというのだ。
「動物だと五十年ですね」
「狐とか狸ですよね」
「犬や猫も」
「猫又さんなんかそうですよね」
 この学園にもいる妖怪だ、送り犬や狐、狸もその中に入る。
「あの方は五十年生きられてです」
「そこから尻尾が二本になって」
「それでああなるんですね」
「尻尾が二本になって力を備えて」
 そうしてだというのだ。
「人の言葉を喋ったりする様になるんですよ」
「猫で五十年って」
 愛実はその時を聞いて腕を組んでこう言った。
「それ自体が有り得ないけれど」
「犬でもないわよね」
「ないわよ、十五年生きたらかなり長生きでしょ」
 愛実は聖花の問いに飼っているチロのことを思い浮かべながら答えた。
「チロは何十年も生きて欲しいけれどね」
「五十年でもね」
「無理でしょうね、そこまでは」
 犬にも犬の寿命がある、だから愛実もこのことは諦めていた。
「五十年も。普通の犬が生きるのは」
「そうよね、普通はね」
「ものでもね、百年って一口に言うけれど」
「途中で壊れたりするわよね」
「使えなくなったりね」
「だからものでも心を持つっていうと」
「相当丁寧に使わないと駄目ですよ」
 ろく子もこう話す。
「本でも三十年で紙がかなり古くなりますね」
「小学校の図書館の本とかそうですよね」
 愛実はろく子の言葉から彼女が聖花と一緒に通っていた小学校のことを思い出してそのうえで彼女に返した。
「何十年もある本とかありますけれど」
「紙がもうぼろぼろになってますね」
「三十年前の本とか」
 そうした本はもう、というのだ。
「かなり古くなってて」
「読むと本がばらばらになりそうですね」
「少年探偵団のシリーズとかそうでした」
 愛実は江戸川乱歩の代表作を話に出した。
「あのシリーズよく読んだんですけれど」
「かなり古かったんですね」
「借りてる時何時ばらばらになるか怖かったです」
 そこまでだったというのだ。
「いや、本当に」
「そこまで古い本だったんですね」
「本の内容は面白かったんですけけれど」
 愛実は少年探偵団のシリーズが好きだった、それで話すのだった。
 そしてそうした話をしながら図書館の本棚の奥に向かう、泉であるかも知れない場所に。


第三十二話   完


                  2013・4・12 
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