八条学園怪異譚
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第三十二話 図書館その十四
そのろく子の浴衣姿を見てだ、二人は思わずこう言った。
「いや、浴衣ですか」
「まさか浴衣なんて」
「意外ですか?」
「いや、いつもズボンのスーツですから」
「和服のイメージがないんで」
だからだと返す二人だった。
「そういう感じないんで」
「本当にそこが」
「私は日本生まれですので」
見れば今は眼鏡も外している、すると知的な美しさではなく優しい美しさになっている。その笑顔で二人に話すのだ。
「ですから本来は和服が好きです」
「けれど普段はスーツですよね」
「そのイメージが強くて」
「博士の秘書を務めていますので」
それで学園では博士の美人秘書として知られているのだ。
「だからです」
「秘書としての服ですか」
「それなんですね、スーツは」
「そうです、普段着は振袖です」
着物だというのだ。
「それで寝る時はこれです」
「浴衣ですか」
「そうした服装なんですね」
「そうです、本当に意外だったみたいですね」
「けれど考えてみたら布団ですよね、寝られる時は」
「だったら浴衣もですね」
「浴衣はいいですよ」
ろく子はにこりと笑って浴衣の長所を話しだした。
「動きやすいですし着ていてきつくないですから」
「だからぐっすり寝られるんですね」
「そこがいいんですね」
「それに女性らしいので」
浴衣自体がだというのだ。
「それでなんです」
「けれど浴衣ってねえ」
「うん、旅行の時着るけれど」
ここで二人はお互いに顔を見合わせて話した、表情は少し怪訝なものになっている。
「すぐに着崩れてね」
「恥ずかしい格好になるわよね」
「裾とか胸元とかがね」
「下着が見えそうになったり見えたり」
「そういうのになるから」
「恥ずかしいのよね」
「あっ、私は寝たら動かないので」
そうなるから大丈夫だというのだ。
「起きても着たままです」
「ううん、だから大丈夫ですか」
「着られても」
「確かに浴衣はすぐに着崩れますね」
これは浴衣の難点だ、ただし見方によっては長所だ。
「そこが着る人にとっては問題ですね」
「ですよね、どうしても」
「それが怖いです」
「ではお二人は旅行でもですか」
「今はパジャマ持っていってます」
「それを着て寝ています」
そうしているというのだ、実際に。
「修学旅行はジャージですけれど」
「基本はパジャマです」
「女の子同士でも着崩れていると恥ずかしいですね」
「はい、だから皆浴衣は着ないです」
「少なくとも私達の周りは」
二人の小学校、中学校の修学旅行ではそうだったのだ。浴衣があっても誰も着なくてジャージやパジャマだったというのだ。
「快適ですし」
「起きても何も崩れてませんから」
「そうですね、確かにジャージはいいです」
ジャージのそうした長所はろく子も認めて言う。
しかしそれと共にこう言うのである。
「ですがやっぱりです」
「ろく子さんは寝る時は浴衣ですか」
「それなんですね」
「はい、私の好みです」
ここではスーツ姿の時と同じく知的な笑みになる。今は首も伸ばしていないが普段のろく子の顔がそこにある。
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