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八条学園怪異譚

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第三十二話 図書館その十三

「本当に急に姿を消したけれど」
「どうしたのかな」
「着替えに行ったんじゃないの?」
 口裂け女はこう予測を立てた。
「そうじゃないの?」
「着替えに行ったのね」
「そりゃ着替えないと駄目でしょ」
 口裂け女は自分にも当てはまることを述べた。
「スーツのまま寝る訳にもいかないし」
「それもそうよね」
「あたしだってこの格好で寝ても疲れが落ちないしね」
 そのコートとズボンの姿でもだというのだ。
「トレンチコートは寝る為の服じゃないからね」
「戦争の時は別じゃがな」
 ここで言ったのはぬらりひょんだった、酒を飄々とした感じで飲みながら話す。
「確かトレンチコートは戦争の時の服じゃったな」
「らしいね、塹壕にいる時に来た服だってね」
 口裂け女もこうぬらりひょんに返す。
「そう聞いてるよ」
「そうじゃな、しかし普段はな」
「こんなの着て寝られないよ」
 あっさりと言って否定する。
「やっぱりジャージだよ、寝る時はね」
「それでアラサーになるのね」
 聖花はあえてこう突っ込みを入れた。
「顔立ちはいいのに」
「結婚もしてないし別にいいよ」
「相手は?」
「さてね、誰かいたらいいけれどね」
 やはり飲みながら話す。
「紹介してくれるかい?あたしに合う人ね」
「都市伝説系の妖怪で男ってね」
 花子さんがここで言う。
「ちょっとね」
「いないんだな」
「今のところいないんじゃないの?」
「つまりもう暫く待たないと駄目なんだね」
「何年になるかわからないよ」
 こう返す花子さんだった」
「残念だけれどね」
「まあねえ、妖怪なんて何時出て来るかわからないからね」
「そうそう、けれどそれでも待つんだね」
「待たないと仕方ないしね」
 口裂け女はこの辺りは達観していた、それもかなり。
「そういうことでね、それでだけれどね」
「ろく子さんよね」
「呼ぶかい?それじゃあ」
 するめを噛みながらの言葉だ、見れば歯は普通の人間のものだ。
「そうするかい?」
「そうね、二人も待ってるしね」
 花子さんはまだ立っている二人を見て言った。
「それじゃあね」
「そうだね、あとあんた達もこっちに来ないかい?」
 口裂け女は二人を車座の中に誘った。
「飲むかい?一緒に」
「ううん、ちょっと泉かどうか確かめてからね」
「それで落ち着いてからにするから」
 二人はこう返した。
「とりあえずろく子さんが戻って来てから図書館の奥に行くから」
「それからね」
「お誘いに乗らせてもらいたいから」
「わかったわ、それじゃあね」
 口裂け女も二人の言葉に頷いた、そして図書館の奥の方に声をやった。
「ろく子さん、二人が待ってるよ」
「はい」
 するとすぐにろく子の返事が来た。
「今終わりました」
「来てあげてね」
 こうしたやり取りから着替えたろく子が来た、そして戻ってきたその姿はというと。
 浴衣だった、よく旅館であるその浴衣だ。帯も綺麗に締めている。 
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