ソードアートオンライン VIRUS
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正体不明の怪物
敵が出てくると数秒も経たないうちにミナトの大鎌で倒されるか、ゲツガの弓に番えられた短槍で眉間を撃ち抜かれるかで倒されていった。
モンスター出てくる傾向が奥に進むにつれ多くなる。それになぜか霧も出てきた。斬り以外は普通のダンジョンでは当たり前のことなのだが以外にも連携がちゃんとできており時折厄介なのが混じってくる。現在戦っているまるで猫のようなモンスターもその一体だ。
《ChesyuCat》、チェシュ猫という名前のモンスターは俊敏な動きをして攻撃をうまく避けるとすぐに攻撃に移る。しかしそれでもゲツガやミナトに取っては関係ないが攻撃した時にはすでに相手はどこか消えているのだ。
「ったく、あのやろう。どこ行きやがった」
「すばしっこいって言うか、あいつどうなってんだよ。攻撃したら避けるからその方を攻撃してもその場所にいないって」
「この霧に乗じてどこかに身を潜めてるんだろう。こんな薄い霧なのによく身を隠せるな。それに索敵にも反応しないなんて迷惑なもんだぜ」
ゲツガとミナトはどこから攻撃が来るか分からないため警戒をさらに強める。しかし、まったくせめて来る気配がしない。
「まるで遊んでるみたいなんだよな、あいつ」
「それは俺も思う。どうも攻撃がどこか単調であてる気がないって感じがするんだよな。モンスターのAIがそんなもんを考えているかは分からないけど」
そう呟いたと同時にミナトの近くに動く影を捉える。それに向けて撃つがどうも当たった感覚というものを感じない。
「くそ、また外した。短槍は無限にあるわけじゃないってのによ。当たらなきゃとり行くのにも一苦労だって言うのによ」
「そんな勘で撃つから悪いんだろ」
「そうは言ったって撃たなきゃ当たらないだろ」
ミナトにそう言うと今度は自分の後ろに何かがいる感じがしたので肘を回してあてようとするが当たった感触もない。
「どうなんてんだよ、待ったく」
すると、今までミナトの大鎌のあたらない場所にいたアリスが急に霧の濃いほうに走り始めた。
「おい、ミナト。アリスが霧が濃いほうに走り始めたぞ」
「あーもう、何でそっちに行くんだよ……ゲツガ、追うぞ」
「了解」
ゲツガとミナトはチェシュ猫を無視してアリスを追い始める。アリスは見えないがミナトのテイムモンスターなので位置はミナトには分かるらしい。
ようやくアリスに追いついたと思うと、目の前にはチェシュ猫と大きな扉があった。モンスターチェシュ猫に向けて短槍を番えようとするがどうも襲ってくる気配がないためどこか撃ちにくい。
「何か不思議の国のアリス見たいな展開だな。まあ、あれはウサギを追ったら穴に落ちていくって奴だったけど」
「そうだな。しかし、それだったらチェシュ猫は敵じゃないってことになるんじゃないか?」
確かに不思議の国のアリスではチェシュ猫は敵ではなかった。まあトランプの兵士は敵だったけど。
「ということは、チェシュ猫は敵じゃないってことか?」
「まあ確かに不思議のアリスでは道を教えてくれるだけで特に何もしなかった気がするが……」
そう言ってチェシュ猫を見ると特に変った様子はなくに童話どおりのにやついた笑みを浮かべているだけであった。
そしてチェシュ猫はゲツガとミナトに見られるとようやく動き始める。攻撃をしてくるかと思えば何もせずにゲツガとミナトの間を通っていくだけでどこかに消えて行ってしまった。
「つまり、あれは倒せないイベントモンスターってことでいいのか?」
「たぶんそれであってるんじゃないか?とにかく案内されたってことはここに何かいるってことだな」
「そうなんだろうな」
ゲツガとミナトは扉から出てくる気配でここがボスだと悟る。
「ようやく終わりのところまで来たってことか」
「そうだな。さっさと終わらせて帰るぞ」
そして二人は扉を蹴り開けた。中は最初は暗かったが途中で視界が切り替わり見えるようになる。奥に玉座に座った子供のような人物がいた。しかし、出ているカーソルがNPCやプレイヤーではなくモンスターだ。
名は、《The Red Queen》。赤の女王というなんとも分かりやすい名前だ。
「そんな汚い姿で私の城に足を踏み入れるなんて汚らわしいのかしら」
「いきなりのご挨拶だな。小さいばあさん」
「ほんとだな。いきなり入ってきてあの言葉はないだろ」
ゲツガとミナトはともに武器を取り出す。ミナトは鎖と大鎌を。ゲツガは弓と短槍を。そしてそれを見たレッドクイーンは玉座から立ち上がる。
「戦う気?その気なら私も容赦しないわよ。出てきなさい!!」
赤の女王がそう叫ぶと横の柱からたくさんのトランプの兵士が出てくる。そして自分の目の前に兵士たちを集めると叫んだ。
「さあ、あの汚らわしいものたちの首をはねよ!!」
「首をはねる?出来るもんならやってみろ、逆にその首跳ね飛ばしてやるから!」
「その通りだな。出来るもんならな!!」
ミナトがそう言って突っ込んでいく。ゲツガもその後にそう言うと素早く短槍を番えた。それが開戦の合図となった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ミナトが最初に手前のトランプの兵士の首を刈り取る。しかし大量の敵には大鎌は少し不利かもしれない。しかし、それを補ってくれるのが使い魔たちだ。アリスをはじめとした使い魔たちは自分の小さな体でヒールをしてくれたり敵の注意を引いてくれる。しかし、それでもこの数だとさすがに厳しいためダメージを食らいそうになっていたがゲツガが短槍を放って倒してくれるおかげで使い魔たちはダメージを食らうことがなく支援に専念できている。
「はぁぁぁぁ!!」
ミナトは大鎌をふるって次々とトランプの兵士の首を飛ばしていく。時たまに攻撃を食らいそうになるそれをアリスや他の皆が何とかしてくれるから戦える。
そしてようやく、赤の女王一人になった。
「もうこれでおしまいだ。赤の女王」
「ふ~、ボス戦ってこんなに楽だったけな?」
ゲツガも倒し終えたようで短槍を回収しながらそう言っていた。確かにこのボス戦はあまりにも拍子抜けと言ってもいいものだった。とにかく赤の女王は何もしてこなかったし特にトランプの兵士が強かったというわけでもなかった。
「たかがその程度の貧弱な兵士を倒して私に勝ったつもりでいるの?なんとまあお気楽な頭をしているのね」
赤の女王は追い詰められているはずなのにまったく態度を崩していない。
「おいおい、もうお前一人なんだぜ?」
ゲツガはそう言って弓に短槍番えていた。確かに相手は追い詰められているのにもかかわらず態度が崩れていないのも気になるがここは短気決戦のほうがいいだろう。ミナトは鎖を持つとゲツガが弓を放つと同時に投げた。
しかし、その攻撃は赤の女王に当たる前に何かに弾かれたように跳ね返った。
「っち、またなんか出てきやがった。今度は完全にモンスターだったな」
ゲツガはそう呟いた。一瞬だが何か茶色くて大きな腕が赤の女王を守るためにすごい速度で振られ、攻撃を防いでいた。
その腕が出てきた上のほうを見ると大きな腕だけしか出ていなかったがだんだんと体を出していた。そして五メートルは軽く超える体をようやく出し終えると雄叫びを上げた。
「ウォォォォォォ!!」
《The Jabberwock》
ジャバウォック、それは鏡の国のアリスに登場する正体不明の怪物だ。
「どうやらあっちがボスじゃなくてこっちがボスみたいだな」
「どうやらそうみたいだな」
「ふふふ、今までの弱い兵士よりもこの子は最強なのよ。さあ、ジャバウォック!あの者どもをやってお終」
そういい終える前にジャバウォックに踏み潰されて倒されてしまった。
「お前には過ぎたるものだったてことだ、赤の女王」
「そうみたいだな。だけど、こいつを倒すのにも少し苦労しそうだぜ」
ミナトの言葉の後にゲツガもそういった。しかし、ゲツガはジャバウォックを見て肩を竦めた。
「さてと、やるかな」
そう言って短槍を番え直していた。ミナトもそれをみて大鎌を構え直す。
「これが最後であったほしいよ」
そう呟くとミナトはジャバウォックに大鎌を振り上げて突っ込む。しかし、ジャバウォックはミナトを腕で弾こうとする。と、それをアリス達が妨害スキルを使って動きを一時的に止めてくれた。
その隙にミナトはジャバウォックの巨大な足に大鎌スキル《スパイラル・サイス》を使い回転しながら斬りつける。しかし、その攻撃でもHPを大きく削ぐことは出来ない。妨害が終わったジャバウォックが攻撃をしようとした瞬間にミナトは引っ張られたように避ける。
鎖をゲツガに持ってもらって引いてもらったのだ。硬直時間中にこうしてもらえば避けることも可能なのだ。そして、ゲツガは今度は一気に五本の短槍を番えるとジャバウォックの顔面目掛けて放つ。しかし、それをジャバウォックはそれを弾いた。
しかし、この一瞬の隙がゲツガの狙いだ。この間に、硬直時間が終了したミナトが再びジャバウォックに突撃して大鎌スキル《ブラッディ・ストーム》を使用する。これも大鎌スキルの回転計の技だがヒット数がさっきのスパイラルサイスと違い七連撃だ。
「グォォォォォォォォ!!」
ちょうど人間で言うアキレス腱のところを斬られジャバウォックは叫ぶ。しかし、それでもボスモンスターらしく、そのまま、ミナトに向かって足を踏み下ろそうとする。
ミナトは硬直時間で動けないためまたゲツガに引っ張ってもらおうと思っていたがなかなか引っ張られない。
「おい、ゲツガ!早く引っ張って……」
そう叫ぶと同時にズドンという砲台から何かが飛び出たかと思う音が響くと同時にジャバウォックの足が吹き飛ばされて倒れていく。
先ほどの足にはゲツガが蹴りを入れていた。しかし、あれほどの巨体を動かすほどの筋力値の持ち主なのにどうやってあの一瞬であそこまで言ったのだろうかという疑問が浮かんできたがまずはどうして突っ込んできたのかを問う。
「ちょ、ゲツガ!何で引っ張らなかったんだ危なかっただろ!!」
「いやー悪い悪い。俺も遠距離ばっかじゃ詰まんなくて近距離で戦いたくなったからさ」
そう言ってジャバウォックのが倒れたと同時に今度は弓の先端で足を突き刺した。これも予想以上に食らっていた。
「まあいいや、早く片付けるぞ!」
「あいよ!」
ミナトがそう言ってからゲツガもそう答えてジャバウォックを倒しにかかる。しかしジャバウォックもただやられているだけではない。立ち上がると大きく口をあけてブレスのようなものを吐き出そうとする。しかし、
「やらせないぜ」
「やらせるかよ」
ミナトとゲツガが口一気に口まで上る。ゲツガの場合は跳んだの方が正しいだろう。さっきの高速でこちらに来たのは筋力値を最大限にいかして移動したのだろう。
ゲツガは跳んでジャバウォックの口を蹴り上げて無理やり締める。しかし、それでもブレスを放とうとして再び口をあけようとする。しかし、ミナトが大鎌でその口を縫いとめるように突き刺した。
「グボルァ!!」
ジャバウォックはブレスを吐き出せずに口の中で暴発する。
「まだ行くぜ!!」
ゲツガは腕を軽く振ると袖から短剣を取り出した。そしてジャバウォックの目に突き刺すとそれを足場にさらに高くジャンプした。
「ミナト鎖寄越せ!」
「何するか知らないけどホラよ!!」
そう言ってゲツガに向けて鎖を投げるゲツガは鎖を取ると片方に短槍の先に引っ掛けてジャバウォックの足にあて鎖を撃ちつけた。その後片方の端っこを持つと天井に引っ付いた。
「何する気だよ……」
大体は予想は付いているがまさか出来るとは思っていない。ジャバウォックはゲツガに向けてラッシュをしにいく。
「ウォォォォォォォ!!」
しかしゲツガはそれを使って弾いていた。そしてラッシュが終わると同時に支えが失われてゲツガは地面へと落ちていく。シャンデリアに鎖を通しながら。
「よし、もう、このくらいの体力ならいけるだろ、ミナト!とどめさせよ!!」
ゲツガがそう叫ぶと鎖を引っ張った。相当な筋力値のせいなのかジャバウォックの片足が持ち上がると同時に巨体が持ち上がって逆さ吊りになった。
「ギガ!?」
さすがに自分の巨体が逆さ吊りになっているのにジャバウォックも混乱していた。しかし、このようなことに驚いてはせっかくのチャンスが無駄になる。ミナトは使い魔たちによって一時的パワーアップした力でジャバウォックの首に向けて大鎌を振るう。
「これでさよならだ」
そう言って振るう大鎌によってジャバウォックの首がとび、HPがすべてなくなってポリゴン片になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ゲツガ、お前ってホント規格外の筋力値してるんだな。あんな巨体を持ち上げるなんてふざけてるにもほどがあるだろ」
「いやあれはシャンデリアに引っ掛けたから出来たことだから、実際は出来るかどうかわからん」
「よく言うよ」
ミナトはそう言って、使い魔たちをねぎらっていた。とその時から一枚の紙切れが落ちてきた。
「ようやく来たか……」
「どうしたんだ、ゲツガ?」
「ようやくこれが出てきたんだ」
そう言って落ちてくるチケットを取ってミナトに見せる。
「これだっけ?ゲツガが戻るために必要なものって」
「ああ」
「まあ、帰るのを見るまで信じられないんだけどな」
「まあもう少しで分かるさ」
そう言ってゲツガは立ち上がる。そしてミナトの使い魔たちの頭を撫でる。とその時ちょうど、チケットが光りだした。
「じゃ、ここでお別れだな」
「まさかそれが本物だったなんてな」
「だから言ったじゃねえか。まあ、信じてもらえたならいいよ」
そして体がどんどんと薄くなっていく。
「お前もちゃんと使い魔大事にしろよ」
「そんな分かってること言ってんじゃねえよ。お前こそ少しは常識を身に着けろよ」
「何でそんなことを言われなきゃなんねえんだ」
「何か感じ的にそうだから」
「ひでぇ」
苦笑を浮かべると体が足のほうから消え始める。
「まあ、お前と一緒に戦えてなかなか楽しかったぜ」
「私も少しスリルがあってよかったぜ、じゃあな」
「ああ、じゃあな」
そして、ゲツガの体は消えていった。
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