戦国異伝
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第百二十八話 促しその五
「かなりの資質かと」
「ううむ、しかしじゃ」
それはわかっていても上洛するのはというのだ。
「どうしてもな」
「ですからそれがしが」
宗滴が、というのだ。
「行って参ります」
「それではな」
「都に上るのも久し振りです」
ここで他の者なら笑みを浮かべて言う、しかしだ。
宗滴は違う、厳格な顔で言うのだった。
「楽しみであります」
「楽しみなのか?」
「はい」
その通りだというのだ。
「どうなっているか見たいものです」
「あまりそうは思えぬがな」
宗滴のその厳格な顔を見ての言葉だ。
「それでもか」
「はい、かなり変わっているとか」
「今や家や屋敷で満ちておるそうじゃ」
「人が戻って来ておるか」
「公卿の方々も」
彼等も戻って来ているというのだ。
「戻って来ておられます」
「では都はかつての様に賑やかになっておるか」
「御所も整えられているとか」
「左様か」
「全て織田殿がしたことです」
「聞けば聞く程凄いのう」
義景も言うのだった、羨ましそうに。
「わしも自らならな」
「上洛されますか」
「織田家には従わぬわ」
彼自身はというのだ。
「だから頼む」
「では」
義景自身は上洛しないことになった、こうして宗滴が彼の名代として都に上がることになった、そして彼の上洛を受けて。
信長は主な家臣達を連れて彼も上洛した、そしてだった。
御所においてその宗滴と会う、それで言うことは。
「よくぞ来られた宗滴殿」
「はい」
宗滴は義昭のすぐ傍の場から声をかける信長に応えた、今彼は平伏した姿勢でその頭を深々と下げている。
信長はその彼に言った。
「まずは顔を上げられよ」
「さすれば」
応えて顔を上げる、そしてその場を見ると。
殆どの者が青い服だ、幕臣達もだ。
二人の僧侶だけが闇の服だ、それ以外はだった。
将軍義昭は将軍の礼服である、その彼に対して言うのだった。
「お初にお目にかかります」
「御主が朝倉宗滴じゃな」
「左様です」
その通りだと名乗る。
「越前から参りました」
「話は聞いておる。朝倉家の長老じゃな」
「ただ歳を経ただけであります」
「遠慮はよい、それでじゃ」
義昭は宗滴に対して言う。
「朝倉家の主義景はどうしたのじゃ」
「病になられまして」
それでというのだ。
「それがしが名代で来ました」
「左様か」
「そうです」
「それでは話にならぬ」
義昭は顔を曇らせて言った。
「折角義景を正式に越前の守護に任じようと思っておったが」
「この度は特別じゃ」
信長も再び口を開いてきた。
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