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戦国異伝

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第百二十八話 促しその六

「義景殿に直々に授けたかったのじゃ」
「それではそれがしは」
「名代で来られたのはご苦労だった」
 それはいいというのだ、だがだった。
「しかし如何に朝倉家の長老である宗滴殿でもじゃ」
「無理でありますか」
「授けられるのは義景殿じゃ」
 このことが大事だった、信長が言うには。
「それではな」
「ではそれがしがいても」
「いや、そういう訳でもない」
 宗滴を手ぶらで帰す、もてなしをせずにそうするつもりはなかった。信長は彼に対して穏やかな笑みで言った。
「能の場を設けた」
「能でありますか」
「それに相撲に茶もじゃ」
 この二つもだというのだ。
「そういったものを楽しまれよ」
「茶もありますか」
「宗滴殿も茶はお好きと聞いておる」
「では」
「どうであろうか、茶の席は」
「さすれば」 
 その確かな顔で言う。
「お言葉に甘えまして」
「ではな」
 信長も笑顔で応えそしてだった。
 宗滴は能を見相撲も観戦した、そしてだった。
 茶の席にも入った、織田家の者達が揃っている賑やかな席である。宗滴はその席で茶を淹れた、その作法を見てだった。
 信長と共にいる利休が唸って言った。
「ううむ、これはまた」
「何か」
「宗滴殿はお若い頃から茶道を嗜まれていると聞いていますが」
 それでだというのだ。
「それを感じさせる見事なお手前です」
「歳がありますか」
「歳月です」
 それがあるというのだ。
「見事なお手前で」
「そうであればいいのですが」
「茶の道も一日で成るものではありませぬ」
 既に茶を飲みその飲み口を拭いている、そうしてから静かだが確かな声で宗滴に対して言ったのである。
「六十年程でしょうか」
「それ位になるかと」
「それだけの歳月が感じられるよいお手前です」
「六十年となりますと」
 ここで言ったのは柴田だ、ここでも大きな声である。
「それがしが産まれる前からでありますな」
「無論それがしよりもです」
 利休も言う。
「まことに」
「茶は人が出ると聞いておる」
 信長もその宗滴が淹れた茶を飲みながら述べる。
「それは誰でもだと」
「ではそれがしの茶は」
「深いのう」
 感嘆の言葉だった。
「まことに」
「深いですか」
「これまで様々なことがありそれを見て潜り来た」
 そうしたものだというのだ。
「そうした味じゃな」
「だから深いと」
「うむ」
 その通りだというのだ。
「こうした茶ははじめてじゃ」
「ですな、これだけの茶は」
 信行もここで言って来た、彼もまた来ているのだ。
「それがしも飲んだことがありませぬ」
「そうじゃな。公方様もおられれば」
 今この場に義昭はいない、場を開いているのは信長でありいるのは織田家の家臣達だけである。幕臣達がいても着ている服は青い。 
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