魔法少女リリカルなのは~その者の行く末は…………~
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Chapter-1 First story~Various encounter~
number-12 The incident is conclusion
前書き
出来事は収束する。
この場合は、プレシア・テスタロッサ。フェイト・テスタロッサ。高町なのは。三桜燐夜。神龍雅。
「止めるんだ! 今行くと危ない。ここで待ってるんだ」
「嫌なの! 燐夜君が戦ってるのにここで指をくわえて見てるのは絶対嫌なの!」
モニターから映像が消え、燐夜と龍雅との戦いの様子が見れなくなっていてもたってもいられないなのはは 、転移ポートから転移しようとしてクロノに止められていた。
今、燐夜や龍雅、そしてプレシアがいる時の庭園に転移してはそこに無数にいる機械兵の妨害を受けて二人の前に行くまでに魔力をすべて消費してしまうかもしれない。それに、管理局でも類を見ないSSランク、SSSランクの戦いだ。もうすでに戦い始めているが、ぶつかり合った時の余波がアースラまで届いている。障壁で守ってはいるものの、いつ破られてもおかしくない威力の衝撃が届いてくる。そんな中に行かせてしまったら、最低でも酷い怪我を負うことは覚悟しなくてはならない。
管理局側としては、あの二人が戦って同士討ちとはいかなくても、体力を消費してくれればいいのだ。
……クロノは、暴れるなのはを羽交い絞めにしながらちらっと視線だけをフェイトに向けた。
放心状態のフェイトに。
先ほどまでプレシアとモニターがつながっていたのだ。そこでプレシアは全てをフェイトに語った。自分には、フェイトに対する愛情なんてものはないと、自分の愛情はアリシアだけのものなんだと。その他にも自分の過去に何があったのか、全てを話した。――――心苦しそうにしながら。
実はもうプレシアは気付いていたのだ。まだアリシアが死んだことを認めたくはなかったが、もう死んでしまっていることを。そして、自分の愛娘のクローンであるフェイトに愛情を持ってしまっていること。その愛情が抑えきれなくなってしまっていることを。プレシアは最後に言おうとしたのだ。
『フェイト、実は――――』。
ここで通信が切れた。
理由は簡単、燐夜と龍雅が戦いを始めたからだ。二人の持つ強大な魔力の奔流によってサーチャーが、いや、一時的な魔力障害にあったのだ。
ここでプレシアは思い止まった。
今更、フェイトの母親面するなんてできない。どの面下げて謝ればいいのか分からない。自分が気付くのがもっと早ければ、フェイトはあんな目に遭わなくて済んだのに。床に膝をついて涙を零した。そして、もとの無表情な顔に戻る。
――――この想いはアリシアと一緒に持っていこう。
そう決めて。
◯
「セイッ! ハアアアアアアッ!!」
「…………チッ」
燐夜は龍雅の扱う双剣の巧さに舌を巻いていた。絶え間なく襲いくる斬撃に防御の一手しか取れない。パターンも一定ではなく、複数のパターンを組み合わせを変えて攻撃してくる点も上出来だ。並の奴がだったらこれで封殺されていただろう。だが、燐夜はそんな斬撃の嵐の中でも弱点を見抜いていた。
……これが無かったら燐夜もただでもすまなかったと思う。
――ギャリィィッ!!
不快な音を立てて、燐夜は防御に回していた自分のデバイス――――今は太刀型――――をほんの一瞬攻撃が止んだ隙を狙って龍雅の首を狙って一突き。
それを辛うじて反応できた龍雅は、何とか武器の腹で流した。その時に不快な音が出たのだ。
本当であるならば、ここでにらみ合いだか何かしらの間が入るはずなのだが、この戦いではそうはいかない。
――キュラララァ!
変わった駆動音を立てながら推定SSSランクの機械兵二体は、一斉に燐夜に襲い掛かる。
どちらの機械兵も独立駆動と人工知能を搭載しているのか、ずいぶんと人間臭い攻撃をしてくるのだが、やはり無機物だった。えげつない攻撃を何の躊躇いもなく、繰り出してくるのだから。こうなってくると厳しいものがある。
機械兵が下がったと思ったら今度は、龍雅がまた間を開けない様に入ってくるのだ。そして龍雅が消費したらまた機械兵が入ってくるといった感じである。しかも、後ろに下がっている間回復までしているのだ。この戦いは目に見えて結果が分かる。だが、燐夜はそれを覆すのだ。
「エクレイア、モード変更アタッカー、そしてリミッター1解除」
『はい、マスター』
燐夜の魔力がまた上がった。それだけではない、ここまで鳴りを潜めていた藍の力が開放されていた。
そして太刀型だったデバイスが、双剣型になっている。
これを見て先ほど切り替え、燐夜と戦っている龍雅はここで全力を出し始める。
燐夜が右の剣で突き出せば、龍雅が左の剣で弾き右の剣で斬り下げる。それを半身になって回避し、左の剣で斬り上げる。斬り上げを剣を合わせ防御して、開いた腹に思いっきり蹴り込んだ。
命中した蹴りは燐夜を大きく後ろに下がらせた。咳き込む。
そこに機械兵が突撃してくるのだ。休む暇がない。
だが、僅かばかりの傷を負いながらも致命傷は一度も受けていない。孤軍奮闘。助けなど来るわけもない。だから、負けるわけにもいかない。…………あいつらを泣かせたくはないからな。
「魔力収集開始」
空間内に散らばった魔力を自分の中に取り込んでいく。その様子を見た龍雅は、それを阻止しようと攻撃を仕掛ける。だが、これはなのはと同じ行為だが違う点がある。収集中も燐夜は動けることにある。
龍雅の攻撃を流し、後ろからの支援砲撃を交わして、自分から攻撃することがなかった。
「くっそ……ちゃんと戦えぇっ!!」
龍雅の叫びには反応しない。それでも、龍雅の攻撃を流している。機械兵の支援砲撃を今度は跳ね返すようになった。
だが、龍雅は気付いていない。機械兵の支援砲撃によってあたりに魔力がばらまかれていることを。もちろん、機械兵にはそこまで利口な人工知能など搭載されている筈もない。良くて、その場で最適な攻撃方法を割り出すぐらいであろう。何せ、まだおそらくは実験段階なのだろうから。
チャージも8割がた完了した。
ここで燐夜はチャージした魔力の1割を使って、拳に持っていき、衝撃波の要領で龍雅たちに向かって放つ。
「くっ……」
龍雅は障壁を張ることで魔力は削られるものの、衝撃波を凌いで見せた。だが、機械兵たちはそうはいかなかった。
衝撃に負けて押し潰されるように後ろに後退していき、最終的には壁と衝撃波とにはさまれて圧迫された。さらに、衝撃波を凌いでバランスを崩している龍雅の隣を通り過ぎ、機械兵たちの前に立つと魔力を纏わせた両拳でそれぞれの胸に当たる部分を貫いた。
それは、いくら人工知能が賢くったって駆動部が無かったら動けないのだ。所謂、機械の心臓部を壊したのだ。
燐夜が離れると、二つの機械は爆散した。
これで一気に戦闘の傾きが燐夜側に行ったと言いたいところだが、そうでもない。
まだ龍雅は無傷に近い。ダメージは全て回復している。魔力は減ってはいるが、問題になるほどではない。
対して燐夜はどうか。
魔力収集で放出された魔力は回収したが、全快とはいかなかった。しかも、燐夜は一度も回復していないのだ。致命傷こそはないものの、体中に切り傷が奔り、血を流し続けている。このままでは出血多量で絶命の可能性まである。
現に、意識は朦朧とし、体の平衡感覚も取れず、視界が霞み始めている。持って5時間。
それまでに血を足さなければ、死に至る。
「エクレイア、リミッター2解除」
『……はい、マスター』
ユニゾンデバイスであるエクレイアもこれ以上の戦闘はやめさせたい。だが、それ以上にマスターの力になりたい。ここでは無理にでも戦闘を止めさせるべきだが、マスターである燐夜の意思を尊重することにした。
心苦しい。今すぐにでも解除してやめさせたい。そして抱きしめたい。
燐夜の精神の中でエクレイアはぐっと堪える。そして、動く。マスターに勝利をもたらすため。
燐夜のもともとの魔力光、灰色が蒼の力と混ざってそれぞれの色を強く出している。薄暗くなるわけでもなく、個々の色になった。
「いくぞぉ! 燐夜ぁ!」
龍雅の叫びがきっかけとなって二人は互いに駆けだした。
龍雅は聖なるオーラを纏った一つの西洋風の剣をもって振りかぶりながら。燐夜は、再び太刀に戻し鞘なしの居合をいつでも行えるように。
龍雅の魔力光――――銀色――――と聖なるオーラ、白に近い色とが混ざって神々しささえ感じる。
燐夜は灰と蒼が混ざり合わずそれぞれ分かれており、太刀の刃に揺らめく形で纏われている。
「約束された勝利の剣!!!」
「我流、九星八白、八龍刃」
一気に光を纏い、輝きを増して、一気にあたりを光で埋め尽くす聖剣。神々しさを増し、より一層威力を高め放たれる一撃。
燐夜が放ったのは、自分で戦い抜くうちに考え出した攻撃。一振りで八回も切り付けられ、それが龍のように見えるためそう呼ぶことにした。
そして二つの斬撃が二人の間でぶつかり、閃光を放ちながら鬩ぎ合う。
光が八体の龍を消し去ろうと瞬く。逆に龍は光を食い破ろうと蠢く。
ほぼ、同威力。――――相殺。
だが、相殺した位置が龍雅の目の前であった。若干燐夜の攻撃の方が威力が高かったようだ。
二人の魔力はほぼ空である。龍雅はもう限界を迎えつつあるようで肩で息していた。
しかし、燐夜は違う。まだ収集した魔力があるのだ。魔力の点に関して言えば心配はない。だが、肉体的にはどうか。はっきり言ってしまう。もう無理だ。血はまだ止まることを知らず、体力もない。衰弱し始めていた。
「うぐっ……」
燐夜は瞬時に龍雅の後ろに回り込み、意識を刈り取る。そのときに体に痛みが奔った。だが、ここで倒れるわけにはいかなかった。
重い足を引きずってプレシアが居る所へとゆっくりと、一歩一歩歩き出す。
◯
「……よし、そろそろいいわね。クロノ! なのはさんとユーノ君を連れて時の庭園に突入しなさい! 目的はプレシア・テスタロッサの逮捕、駆動炉の破壊、そして三桜燐夜の確保」
「了解!」
リンディの指示に従って三人は動きだす。アルフは時の庭園の案内役をかってでた。
フェイトに一言残すもプレシアから真実を伝えられて放心状態にあるフェイトには届かない。
そんなフェイトをリンディは見ていられなかった。
「艦長! 時の庭園はじきに崩れます!」
「分かったわ、私が抑えに行きます。……フェイトさん」
リンディが言葉をかけるもフェイトは何の反応も見せない。
それでもリンディは語り続ける。
「お母さんのことばかりに盲信するのもいいけど、周りのことも考えてあげなさい」
そう言ってリンディは管制室から転移していった。
フェイトは心の闇に囚われている。
絶対的信頼を置いていた母親から裏切られて心の奥底に埋まってしまっている。
そんなフェイトはただモニターを見続けた。
モニターには、自分と友達になりたいといったあの優しい少女が機械兵と戦っている。
そして、ここへ来て一番最初に仲良くなった銀髪の男の子が血だらけになってゆっくりと歩いて行っていく姿も映し出されている。
(あれは――――誰?)
(私に必死に話しかけてくれた女の子と、一緒にいて楽しかった男の子)
(女の子はただ純粋に、男の子はどこか面白おかしかったような気がする)
放心状態にあったフェイトはここでモニターに目を向けていた。
見覚えがある少年少女。
「な……の……は………」
「り……ん……や……」
フェイトはようやく我を取り戻した。
そして管制室にいる誰にも聞こえない一人のつぶやき。
ポケットからボロボロになったバルディッシュを取り出して何かを懇願する様に優しく握り、胸に当てる。
つうっと頬を伝う涙。今からでもやり直せる。今からでも間に合う。フェイトは決心する。
「行ける? バルディッシュ」
《No problem mastar》
バルディッシュの答えに安堵したフェイトは、魔力をバルディッシュに流して自己修復させる。それから、一気に気持ちを引き締める。
向かうは時の庭園で、プレシアに言いたいことがある。燐夜に会いたい。なのはに会いたい。
誰にも悟られることなくバリアジャケットを展開し終えたフェイトは、転移ゲートに乗り転移していった。
「――――あれ? フェイトちゃん?」
主任通信士であるエイミィ・エミエッタは管制室からフェイトがいなくなったことに気付いた。医務室にでも行ったのかと思ったが、そうではなかった。
モニターを見るとばっちり金髪のツインテールが映し出されているのだから。
エイミィは焦る。
「か、艦長――――」
◯
「ハアッハアッハアッ……」
視界が霞む。めまいもしてきた。体中から血が抜けているせいか体が冷たくなってきている。意識がまだ持っていることが救いなのかもしれない。けれども、その意識さえ朦朧としている。
そんな重体な体を引きずって歩くこと十数分。ようやく目的の場所についた。ようやくプレシアの居る所に。
「やっと……見つけた……」
「……! あなたは、それよりその怪我は……!」
プレシアは回復魔法を行使しようとした。だが、燐夜はそれを途中でいらないと意思表示することでやめさせた。
ここで傷を治さなければいけないというのにどういうことなのだろうかと、勿論疑問を持ったプレシアだが、回復魔法の行使は一旦やめた。
「プレシア・テスタロッサで間違いないな?」
「……ええ、そうよ。私がプレシア・テスタロッサ」
燐夜は少し喋るだけで息が苦しくなる。それを少しでも緩和させようと間を置く。
プレシアは攻撃を仕掛けてくる様子は見受けられない燐夜に対して、傷を治さなくてもいいのかということだけを思っていた。
もう先長くない自分がこんなことを思うなんて……と感傷的になる。あの少年に教えられた。神龍雅だったか。まあいい、名前なんて覚えたってしょうがない。
ようやく息が整った燐夜は、口を開く。
プレシアは燐夜の言葉を黙って聞いていたが、ある言葉を口にした瞬間、プレシアの表情が変わる。いつも通りの無表情から苦虫を噛み潰した様な顔に。
全てを燐夜は語った。
プレシアから聞くたった一つのことのために。経緯、身の上から今の自分のことについて。
最後に質問を投げつけた。
プレシアは天を仰いで、呼吸を一つするとまたいつも通りの無表情な顔に戻って言った。
「ええ、そうよ。その件は、私の人生最大の汚点。そしてその男で間違いないわ。私は反対したのよ。けれども、あの男は強行した。……これぐらいでいいかしら?」
「ああ、すまなかった。もう話すことはない。その少女とどうするかはあなたが決めることだ」
と、燐夜はプレシアの隣にあるポットに入っている少女を一瞥していった。
プレシアは頷く。
「そうね、私は死を選ぶ。アリシアと二人であの子の未来をあの世で案じているわ……」
「母さん!」
プレシアが言い終わるのを待っていたかのようにタイミングよく声を発したフェイト。
プレシアは虚無空間に飛び込もうとしていた足を止めて、フェイトに向き合った。
おそらく、いや、これが最後の対面となるだろう。
燐夜は邪魔をしないように隅に移動した。そして、この移動でもう体力が尽きたのだろう。燐夜は倒れ、意識を失った。
「あなたと話すことなんて何もないわ」
「それでもいい、私はあなたに言いたいことを言いに来たのだから」
プレシアは口を開かなかった。
ただ、フェイトを見ていた。最後に死にゆく体、心にその姿を焼き付けるために。
「あなたは私の母さんです。それは覆しようのない事実。でも、私はそれでも嬉しかった」
フェイトの瞳から頬を伝わるものが流れ出る。
それを抑えようともしないフェイトは最後に一言。
「私を生み出してくれて、ありがとう」
涙を流したまま、フェイトはプレシアと向き合った。
プレシアは泣きそうであった。けれども、泣くことを堪え、一言。
「…………何時だってそう、私は気付くのが遅すぎた」
それだけ言い、時の庭園崩壊に巻き込まれる形でアリシアと一緒に虚数空間に落ちていった。
フェイトはかがんで身を乗り出し、手を差し伸べるが届くわけもなく、すぐにやめた。
辺りを見回すと何か見慣れた人が倒れているのに気付いた。
よく目を凝らしてみると、燐夜であることに気付いた。
「燐夜ぁ!」
燐夜のもとにフェイトが駆け寄ると、血のにおいが立ち込めていた。それほどまでに出血の量が多いのだ。もう助からないかもしれない。そんな最悪の状況まで頭をよぎったが、頭を振って振り払う。
「フェイトちゃん!」
「ちょうどいいところに、こっちに来て!」
なのはが駆動炉の破壊を終えたのか、ここまで来てくれた。
そのことを嬉しく思いながら、なのはをフェイトは呼んだ。なのはは、疑うことなくフェイトのもとへ向かい、フェイトの近くに倒れている人物を見つける。
「燐夜君!?」
「ここから急いで転移しよう。私の魔力だけじゃ足りないから手伝って」
「わかったの!」
3人が時の庭園から転移し終えると、時の庭園は目に見えて崩れ始めた。駆動炉が破壊されたことによって完全に機能を停止したのだろう。
なのはとフェイトは、アースラに転移し終えるとリンディを見つけて助けを乞う。
「お願いなの! 燐夜君を助けて!」
「私からもお願いします!」
リンディは血まみれの燐夜を見るとすぐに医療室に運ぶように指示を出した。
そして、すぐに手術が開始されるらしい。
なのはとフェイトは燐夜の身を案じることしかできない。
リンディに促される形で、アースラに設けられている部屋で、今日はもう休むことに決めた。
後書き
過去最長の長さでしたが、よく書けた筈。
それでも、誤字脱字があるかもしれないので報告してくれたらうれしいです!
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