八条学園怪異譚
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第三十一話 マウンドのピッチャーその五
「ちょっとしたね」
「ちょっとした、ですか」
「コツなんですか」
「そうよ、私着替えるのは得意なのよ」
これまでとはうって変わって真面目な声だった。
「制服から体育の半ズボンに着替えるのも水着から下着を着けて制服を着るのもね」
「どっちも得意なんですか」
「そう、ただし彼氏の前だとゆっくりいきたいわね」
その場合はというのだ。
「その時はね」
「彼氏の方の前だとですか」
「そうなるんですか」
「彼氏、旦那様の前では自分からゆっくりと脱ぐか」
若しくはと、さらに言う。
「脱がしてもらうのよ」
「あの、それって凄くいやらしいんですけれど」
「ムードっていうのですか?」
「交際ってのはムードなの、だからその時はね」
彼氏と共にいる時はというのだ。若しくは伴侶と。
「私だってゆっくりと脱ぐから」
「ううん、私はそういうのまだわからないですから」
「私もです」
「そのうち理解すればいいわ。とにかく今からお仕事に行って来るから」
「そのお仕事って何ですか?」
「巫女さんのお仕事っていいますと」
二人はこのことについて問うた。
「やっぱりお祓いですか?」
「それか悪霊退治か」
「怨霊退散よ」
御札も出して言う。
「それよ」
「怨霊ですか?」
「近所にいたんですか」
「ええ、今来たわ」
茉莉也は普段とは全く違う厳しい声だった。
「ちょっと行って来るわ」
「怨霊とか相手にして大丈夫ですか?」
「失敗したらその時は」
「いや、大丈夫だ」
「我等もいる」
ここで茉莉也の周りに烏天狗達も出て来た。七人いる。
「お嬢と共に怨霊と戦う」
「怨霊を退治してやろう」
「ああ、天狗さん達がいるならね」
「もう大丈夫ね」
二人も天狗達を見てそれで安心した。
「じゃあ先輩宜しくね」
「しっかり怨霊を退治してね」
「うむ、では少し行って来る」
「今からな」
「じゃあ行くわよ」
茉莉也も天狗達に声をかけてそのうえで出撃した、何はともあれ茉莉也は慌ただしく店を後にしたのだった。
その後ろ姿を見送ってからだった、愛実は聖花に言った。
「お酒飲んでなくても騒がしいっていうのは本当だったね」
「ええ、しかもお酒のおつまみのこともね」
「あれじゃあケーキとビールなんてのもありそうね」
「普通にね」
「今日はグラウンドに行くけれど」
泉の話もする。
「先輩も一緒かしら」
「呼ばなくても来てくれると思うわ」
聖花は精一杯好意的に解釈してこう言った。
「有り難いかどうかは別にして」
「そうね、せめてお酒飲まないで来て欲しいわね」
「そう思うわ、心から」
二人は今晩のことにも不安を感じていた、だがこの日の予定は変えなかった。
夜に野球部のグラウンドに行く、するとそのマウンドのところに。
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