| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条学園怪異譚

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三十一話 マウンドのピッチャーその四

「日本酒はするめとかですよ」
「お刺身とか天麩羅とか」
「辛い系でいかせてもらいたいんで」
「というか菓子パンはないですよ」
「パンだとワインですよ」
「まあね、ワインとパンも悪くないけれどね」
 茉莉也の方もこの組み合わせは否定しない、だが二人にまだこう言うのだった。
「日本酒が一番好きなのよ、私的には」
「どうしてそんなに日本酒にこだわるんですか?」
「味が好きなのよ。飲みやすくてね」
「先輩的にはですか」
「何でも合うから」
 これも茉莉也の好みである。酒は好みの問題であり何が一番合うかはその人によってそれぞれなのだ。それで言うのだ。
「だからなのよ」
「けれどよね」
「そうよね」
 聖花も愛実も今度は胸焼けしそうな顔でお互いに話した。
「その組み合わせはね」
「有り得ないわよね」
「世の中有り得ないことやものが幾らでもあるのよ」
「そうですか?」
「そんなものですか?」
「世の中は複雑怪奇よ」
 まともな言葉だった、二人は茉莉也の口からこんな言葉が出るとは思っていなかったのでまた驚くことになった。
「というか妖怪さん達だってそうでしょ」
「科学ではないって言われてますね」
「実際に」
「そうよ、そういうことよ」 
 茉莉也は愛実を右手の人差し指で指差して言った。
「妖怪さんも幽霊さんもそうでしょ」
「はい、科学では否定されていてもいます」
「ちゃんと」
「そうよ、有り得ないってのはその時の常識でしかないのよ」
「その時の、ですか」
「それだけなんですか」
「そうよ、だから日本酒で菓子パンを楽しむのよ」 
 強引にこの話に戻した、茉莉也らしいと言うべきか。
「そういうことなのよ」
「味覚もそうなるんですか」
「有り得なくても」
「味覚は個々よ」
 一人一人違うというのだ。
「私柿でビールとかもあるから」
「柿、ですか」
「あの果物の」
 二人はこの組み合わせにもうわ、という顔を見せた。
「あの、ビールとそれは」
「想像つかないんですが」
「まあ私的には美味しいから」
 あくまで茉莉也基準だった、そうした話をしてだった。
 茉莉也はその菓子パン達を買った、そのうえで悠然と帰ろうとする。
 しかし店の自動ドアが開き外に出る瞬間でだった、急に。
 目だけで右を見た、そして鋭い顔になって言った。
「いるわね」
「いる?」
「あの、まだ何かしでかされるんですか?」
「仕事よ」
 こう言ってだった、即座に。
 その黒い派手な服の右肩を己の左手で掴んだ、そして瞬時にだった。
 服をマントを放り投げる様に脱ぎ捨てるとそこからあの白い着物と紅の袴の巫女の服が出た、しかも手にはお祓いの棒がある。
 瞬時にその姿になりこう言ったのだ。
「何かが出たわ」
「あの、今一瞬で着替えられましたけれど」
「それどういうからくりなんですか?」
「コツよ、コツ」
 後ろから突っ込みを入れる二人に背中越しに答える。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧