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八条学園怪異譚

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第三十一話 マウンドのピッチャーその六

 日下部がいた、彼は二人が来たのを見てこう声をかけてきた。
「今日はここに来たのか」
「はい、このグラウンドのベンチも泉かも知れないって聞きまして」
「それでなんです」
 こう話すのだった。
「来たんですけれど」
「ここにも」
「そうか、それがいいが」
「あの、神社の巫女さん来てません?」
「学園の中の神社の」
「お嬢か」
 知っているという返答だった、日下部もまた。
「お嬢ならそこにいるぞ」
「うわ、今日も飲んでますね」
「早速出来上がってますね」
 見れば茉莉也は三塁側ベンチにいた、そこに座って妖怪達と一緒に酒盛りをしている。
 見ればのっぺらぼうやキジムナー、河童に垢舐めとあらかた揃っている。その彼等と共に楽しく飲んでいるのだ。
 茉莉也は飲みながらこんなことを言っていた。
「野球の場でお酒を飲むのもいいものよね」
「うん、野球観戦を楽しみながらね」
「楽しいよね」
 一つ目小僧とのっぺらぼうが応える。
「こうしてベンチで飲むのもね」
「またいいものだね」
「そうそう、あぶさんみたいでね」
 神聖なベンチなぞというつもりはなかった、それは何故かというと。
「神聖なお酒飲んで楽しむ」
「お酒でマウンドも清めたし」
「心置きなく飲めるよね」
「そう、じゃあ今日もね」
「明るく楽しく」
「お酒飲もうね」
 こんな話をしながら早速どんちゃん騒ぎだった、見れば聖花の店で買ったあの菓子パン達を肴にして日本酒を飲んでいる。
 二人はその茉莉也を見て日下部に言った。
「最初にお会いした時もああでした」
「無茶苦茶飲んでました」
「うわばみさんが止める位に」
「もう鯨みたいに」
「お嬢の前世は鯨だったのかも知れない」
 日下部も真面目な顔で言う。
「冗談抜きにな」
「鯨飲ですか?」
「そうだ、まさにその勢いで飲んでいるからだ」
 それ故にとだ、聖花に返す。
「うわばみさんも心配している」
「あの大酒飲みのうわばみさんでもですね」
「そうされる位に」
「困ったことだ、悪い娘ではないのだが」
 だがそれでもだというのだ。
「困った部分も多い」
「はい、基本は悪い人じゃないですね」
「そのことは確かですね」
「だが今は酒を飲んでいるからな。話を進めるとしよう」
「泉は一塁側ですよね」 
 愛実が日下部に問う。
「確か」
「そうだ、ホームのチームの場所だ」
 一塁側はホーム、そして三塁側がビジターだ。野球の場所はそうなっている。
「そこが候補地だ」
「で、そこに入ればですか」
「若しかしたら」
「あくまで若しかしたらだがな」
 日下部は話を限定した。
「行ってみるか」
「はい、じゃあ今から」
「行かせてもらいますね」
「そうするといい。ベンチはグラウンドと奥の境目だ」
「泉はその境目ですね」
「いつもそうなっていますね」
「そうだ、泉は扉だからな」
 この場合はそうなることだった、何しろ妖怪や幽霊達がこの学園に出入りする場所が泉だからである。 
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