八条学園怪異譚
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第三十話 神社の巫女その十
「何もしないわ」
「はい、それでお願いします」
「頼みますよ」
「飲むだけね。じゃあ明日は濁酒にしようかしら」
この酒の名前を出すのだった。
「それにね」
「あっ、濁酒ですか」
「先輩そっちも飲まれるんですね」
「そうよ、日本酒は美味しいのが好きでね」
それでだというのだ。
「濁酒も美味しいのならね」
「飲まれるんですか」
「それはまた」
二人は濁酒の話には結構乗った、それで言うことは。
「じゃあこっちも濁酒持って来ますから」
「一升ずつ」
「こっちは幾らでもあるからね」
その酔った顔で自分の前に立つ二人に告げる。
「濁酒もね」
「神社は祭事で酒も用意するからな」
天狗はこのことをいささか残念そうに述べた。
「わし等も持って来るからな」
「わしも好きだから作っているが」
うわばみに至っては自分で作っていた、尚妖怪に法律は関係ない。人間の世界にいない存在なので人間の世界である法律は関係ないのだ。
「お嬢はまた別格だ」
「飲むにも程度がある」
「とにかく明日ね、この神社でね」
茉莉也は天狗達の言葉をよそに二人に告げた。
「いいわね」
「はい、それじゃあ」
「お願いします」
こうした話もしてだった。
二人は神社を後にしようとする、だがここで。
うわばみが二人を呼び止めてきた、こう言って来たのだ。
「汝達も動いているな」
「何か長い話になってますね」
「思ったよりも」
「探しものは見つからないこともある」
うわばみは言う。
「今の様にな。しかしだ」
「諦めずにですね」
「探すことが肝心ですね」
「月並みな言葉だが諦めないことだ」
うわばみは二人に確かな声で告げる。
「それが苦しみしかないものでない限りな」
「苦しみだけならですか」
「そういうのはですか」
「苦しいだけのものなぞ続ける意味がない」
「あれっ、じゃあ苦行とかは」
「そういうのは」
「苦行も得るものがあるからするのだ」
それがわかっているからこその言葉だ。
「修行で得られるものがあるからだ」
「やるんですね」
「そういうことですか」
「そうだ、得られるものがなければだ」
そうであればというと。
「行う意味はない」
「例えば暴力教師と嫌な奴が一緒にいる部活ですね」
聖花はこの例えを出した。
「そうした部活はですね」
「そこで行われることがどれだけ素晴らしいものであってもだ」
「暴力教師とか嫌な奴がいたら」
「それだけでデメリットになる」
どんな素晴らしいことでもそれを行うのは人間だ、その人間の質が悪い場所で何をしても苦しいだけだというのだ。
「剣を持つ資格のない者に教わることは害毒でしかない」
「それ以外の何者でもですか」
「ない」
うわばみは聖花に断言する。
「断じてな」
「そういうことですか」
「そうだ、汝達の捜索は苦しいか」
「いえ、全然」
今度は愛実が答える。
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