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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―ジェネックスを超え―

 足取りが重く、今はもはやただの惰性で歩いていると言っても差し支えなく、言うなればゾンビのようであった。
それでも俺はラー・イエローの寮に帰らなければならず、それだけのために移動しているようなものだった。

 そしてラー・イエロー寮の入り口には、予想通りの――会いたくなかった――人物が二人立っていた。
俺と同じように、今では珍しくなった蒼い制服を身にまとった友人たち。

 三沢大地に天上院吹雪……俺が今謝らなければいけない人物のうち、明日香を除けば一番優先度が高い人たちだった。

「どうしたんだい遊矢くん、明日香が帰ってきているかと思えば寝たきりだし、君は部屋にいないし……」

 急いで駆け寄ってきて、妹と自分のことを心配してくれる吹雪さんには悪いが……俺は吹雪さんの頼みを果たせなかった。

「……俺は、明日香を助けられなかった……!」

 言わなくてはいけない心情を吐露すると、流石に吹雪さんも驚いてこちらを見据えてきた。

「明日香は斎王の罠で目覚めないようになっていて……斎王に会う権利を賭けてエドとデュエルして……負けて、俺は明日香を救う方法とメダルと鍵を失った……」

 矢継ぎ早に俺の行動を報告していくと、今まで何も言わなかった三沢が俺に向かって言い放った。

「なら、どうする?」

 視線を逸らさずにしてくれている三沢に、あの親友はその言葉に反して、自分が何がしたいのか解ってくれているのだと解る。

「……それでも俺は諦められない。明日香を助けるために、二人の力を貸してほしい」

 そのセリフを聞いた二人も協力を要請されるのを待っていたようで、吹雪さんなどは露骨に「待ってました」とばかりに口笛を鳴らしてきた。

 明日香を助けるまで、今はまだ諦める状況じゃない……そう俺は心を決めると、全身に力を入れ直した。
先程までは、どうしてもネガティブになってしまっていたが、この二人の協力を得られるならば心強い。

「だが、斎王に近づくのは難しいのはどうする?」

 自力で斎王の下に行くことが可能であれば、わざわざあのメールに従わずとも良かったのだが、斎王はホワイト寮からとんと出てこない。
強行突破などしようものならば、光の結社全員を相手どることとなってしまうだろう。

 いくら明日香を助けると息巻いていても、相手の組織力という力の前には、三人程度ではどうしようもない。

「そのことなら、僕に名案がある。二人は先に、ホワイト寮へと行ってくれないか。……ああ、もちろん見つからないようにね」

 そう発言したのは吹雪さんであり、そう手には何故かPDAが握られていた。

 ……何やら騒ぎを起こすのは吹雪さんの得意分野だが、何をするつもりだろうか。

「何をするつもりとかは……」

「もちろん企業秘密さ。ま、大船に乗ったつもりでいたまえ義弟よ!」

 吹雪さんは相変わらず……いや、久々に俺を義弟と呼ぶと、肩を叩いてどこかへ移動していった。

 吹雪さんが何をやるかは非常に気になったものの、言われた通りにホワイト寮の前まで行くと……とにかく人が多かった。
白い制服を着た光の結社と思わしき人物以外にも、かなりの人物がここへ集結していた。

「……もうジェネックスも終盤だが、どうしてこんな人がいるんだ?」

「吹雪さんの作戦、と見るべきだろう」

 確かに三沢の言う通り人間が多すぎて、見張りであるだろう光の結社の構成員たちも、俺たちにはまるで気がつかなかった。
蒼い制服は目立つかとも思ったが、オベリスク・ブルーの女子が多いおかげで、さほど服の色も目立ちはしない。

「……遊矢、こっちだ!」

 この環境の中ではあまりにも小さな声になんとか反応すると、ホワイト寮の窓から見知った人物が俺に声をかけていた。

「神楽坂……!? どうしてここに?」

「俺だけじゃない、ラー・イエローのみんながホワイト寮にいる。……聞いてくれ、あのキング吹雪からの作戦の言伝だ」

 神楽坂を始めとするラー・イエロー寮のみんなも、吹雪さんの作戦に参加しているというのか……吹雪さんは顔が広いとは思っていたが、俺の予想を遥かに越えているらしい。

「今からキング吹雪とカイザーがこれからデュエルをする。それと同時に、俺たちラー・イエローが中にいる連中を引き寄せるから、遊矢と三沢は斎王のところに行ってくれ!」

 ……なるほど、これが吹雪さんの言う名案か。

 亮と吹雪さんのデュエルという噂を広めて人を集めて外の見張りを実質無効化し、内部はラー・イエローの友人たちが囮になってくれる。

「流石は年長さんだな」

「いい加減、その呼び方はなんなんだ三沢……それと、ありがとう、神楽坂」

 神楽坂は「気にするな」という感じでホワイト寮の中へと入っていく……彼も、自分の持ち場のようなものがあるのだろう。

 しばらく待つこと数分、元デュエル・アカデミアの二強と呼ばれた二人が、ホワイト寮の前に集まった。

「……いきなりどうしたんだ、吹雪。こんなところに呼びだして」

「なに、君がプロでどれだけ強くなったのかと思ってね。……それと、義弟に世話を焼くためかな」

 デュエルディスクを構える吹雪さんの視線が、ホワイト寮の窓際にいる俺と三沢へと向けられる……「行け」ということだろう。

「ありがとう、吹雪さん……!」

 デュエル・アカデミアのカイザーとキングのデュエルのかけ声と共に、俺と三沢はホワイト寮へと突入した。


 ホワイト寮には光の結社構成員の姿はとんと見ず、神楽坂たちラー・イエローの友人たちは上手くやってくれているのだろう。
問題は斎王がどこにいるかは解らないということだったが、俺は自然と慣れ親しんだ元・オベリスク・ブルーの廊下を走っていた。

 いつぞや光の結社に洗脳されたからか……何故か、俺は斎王がいる部屋への道筋を無意識に覚えていた。
……人生、何が得になるかは解らないものだ。

 辿り着いた斎王の部屋の扉を蹴り破って中に押し入ると、リビングの壁に人一人が通れる入口が出来ているのが見て取れた。
中を覗き込めば、そこには電灯によって照られた下へと延々に続く階段がある。

「いつの間にこんなものを……」

 隣にいる三沢がふと呟いたのが聞こえたが、そこまでは俺も……いや、確かオージーンとかいう人物に作らせていた記憶がぼんやりとあった。

「そんなことは良いだろ、行くぞ」

「……焦るなよ、遊矢」

 親友のアドバイスをありがたく受け取って、少し入り口の前で落ち着いた後、長く続く階段それをひたすら下って行った。
そして俺たちは、やがて終着と思われる通路に出ると……平坦な地面に降り立ち、前を見る。

 そこには巨大な女神像と斎王の姿……そして。

「エドっ!?」

 ……倒れているプロデュエリスト、エド・フェニックスの姿だった。
反射的に俺はエドに駆け寄ると、気を失いかけてはいたものの、なんとかエドは無事のようだ。

「黒崎遊矢か……もう貴様なんぞに用はない! どうしてここにいるのだ!?」

 紳士のような冷静さを持っていた姿はどこへやら、斎王は狂ったように笑い声を上げ、いかにも狂人のような姿を呈していた。

「遊矢、か……すまないな、僕が勝っておいて……」

 エドがポツリポツリと言葉を紡ぎだすが、その声は弱々しく、エドが闇のデュエルで敗北したことを告げていた。

「斎王を助けてくれ……と言いたいが、その前にやることがある……!」

 エドは倒れている状態からなんとか座り込むと、俺の腕に自らの旧型デュエルディスクを装着した。

「……エド?」

「……黙って聞いていろ。斎王が僕たち二人に託した2つの鍵、あれは世界を滅ぼすとも言われている衛星兵器『ソーラ』の発射用の鍵だった。だが……」

 俺は敗北してエドに奪われてしまい、エドは斎王に敗北したということは……その鍵は、今や2つとも斎王の手の中にある。

「起動すれば世界は終わる……ならば、起動する前に破壊するしかない。お前の機械戦士の、精霊の力で……!」

「なっ……!?」

 驚愕の連続で、もはや出すセリフもまるで無い。
三幻魔の事件の際に、影丸理事長に示唆された俺の精霊たち……俺が精霊の声しか聞こえないのが悪いのか、機械戦士たちが精霊として弱いからなのかは知らないが、まだ十代とハネクリボーのように会話も出来ない存在だ。

「何を話しているんだ、このザコどもがっ!」

 しかしエドの説明が終わる前に、狂った斎王が俺たちの元へと歩いてくる。
……そうだ、精霊でその衛星兵器を破壊するにしても、こいつを何とかしなければ明日香は救えない……!

 俺がデュエルしようにも、カードの精霊を出すためにはデュエルディスクを使用するほかないため、デュエルをしている余裕はない。
ただでさえ未知数のカードの精霊の力を頼るのだから、俺は今、何があるか解らない闇のデュエルをするわけにはいかない。

 しかし、明日香を助ける為にはその衛星兵器も破壊するとともに斎王を倒さねば……と板挟みになっている時、俺とエドの背後から斎王へと歩み寄った人物がいた。

 ここにいるのは斎王を除けば三人しかおらず、そして俺たちの背後にいたのは……三沢大地ただ一人。

「斎王。今度は俺とデュエルしてもらおう」

「三沢!?」

 割って入った三沢が言い放ったセリフは、斎王へのデュエルの誘い。
……エドの傷だらけの身体を見る限り、十中八九闇のデュエルだ。

「ほう? ……ソーラ起動までの暇つぶし程度にはなるか。良いだろう!」

 野球で言うところのバッターとピッチャーの間の空間のように、デュエルをするための空間を空けるために斎王が俺たちから遠ざかっていく。
その間に三沢は、俺たちの方へと振り向いた。

「カードの精霊のことなら俺は門外漢だ……悪いが、衛星兵器の方は任せたぞ。遊矢の精霊が返ってくるまで、なんとか俺が斎王を足止めする」

 そう言い残すと、三沢も斎王とデュエルをするべく、デュエルディスクを展開した。
エドは動けず三沢は精霊を持っていない……ならば、この布陣が確かに一番理にかなっているだろう。

 エドのデュエルディスクも併せて両手にデュエルディスクをつけると、デッキから九体のモンスターを選んでデュエルディスクに置いていく。
一体はエドのBlloDがすでに置かれており、このダークヒーローが戦陣を切るそうだ。


「……遊矢。機械戦士を僕の父さんが作ったというのは……知っているか」

「ああ。知ってるが……?」

 十代とタッグデュエルをすることになったあの日に、エドに聞こうと思っていたエドと機械戦士の関係性だったが、すっかり聞くのを忘れてしまっていたことだった。

「世間ではそう言われているが……あれは嘘だ」

 何故このタイミングでエドがその話をしだしたかは解らないが、気になることではあったので、そのまま黙って聞くことにした。

「僕の父がD-HEROをデザインしていた時……訪ねてきた、青いライダースーツのような姿の男性が……機械戦士たちを父さんの元へ持ってきたものだった」

「……機械戦士は、エドの父さんじゃなく、その青い男の作品ってことか?」

 俺のその疑問に対し、エドは何故か少し首を振って否定の意を示した。

「いいや。その男が言うには……『このカードたちは、未来を救う可能性を秘めたカードたち』……だそうだ」

 未来を救う可能性を秘めたカード……
エドの言葉を心の中で復誦すると、なんだか少し、不安な心が取り払われた気がした。

 世界を救う可能性があるのならば、衛星兵器ぐらいを壊して明日香を助けることぐらい……やってのけてくれるだろう。

「……来い、機械戦士たち!」

「カモン、BlloD!」

 俺たちの叫びに呼応してモンスターが現れ、エドのBlloDを先頭に俺のモンスターたちも天へと登っていく。

「ふん、ネオスペーシアンではないザコ精霊ごときでは、ソーラを破壊することなど出来はしない!」

 機械戦士の精霊たちの強さなど解らない俺には、その斎王の言葉を判断する術はなく、機械戦士たちを信じるほかすることはなかった。

 そしてその斎王も……デッキの精霊たちがいなくなった今、親友を、三沢大地を信じるほかない。

 俺は自らの非力さを噛みしめると、三沢と斎王のデュエルを見逃さすまいとすると。

 俺たちの目の前では、遂に三沢と斎王のデュエルが始まろうとしていた。

『デュエル!』

三沢LP4000
斎王LP4000

「俺が先攻をもらう。ドロー!」

 どうやらデュエルディスクは三沢を先攻に選んだらしく、三沢が勢い良くカードをドローする。

「遊矢。三沢大地は……大丈夫なんだろうな」

 思い返してみればエドは三沢のデュエルを見る機会がなく、自分を倒した斎王の実力は解っている筈なので、三沢に対して不安な気持ちがあるのも仕方がないだろう。

「大丈夫さ。なんたってあいつは、俺の親友だからな」

 答えはセブンスターズのタニヤの際に同じく、親友を信じるということ。
オベリスク・ブルーの現主席は、俺なんかよりもよっぽど強いのだから。

 俺の機械戦士が衛星兵器を破壊するまでの足止めどころか、先に斎王を倒してしまっても不思議ではない。

「俺は《ライトロード・パラディン ジェイン》を召喚!」

ライトロード・パラディン ジェイン
ATK1800
DEF1200

 三沢の新たなカテゴリ《ライトロード》の、攻守のバランスに優れた主力たる聖騎士が召喚される。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン! ドロー!」

 冷静にいつも通りのプレイングをする三沢に対し、やはり斎王は以前とは似ても似つかぬ狂った叫び声を上げる。
あれがエドの言う、優しい斎王に取り憑いた『何か』の意志なのだろう。

「私はフィールド魔法《光の結界》を発動!」

 斎王がフィールド魔法を発動すると共に、巨大な女神像から現れた光より、斎王と三沢をリングのように光り輝く輪が包み込んだ。

「《光の結界》……聞いたことの無いカードだな……」

「直ぐに解ることになるだろう! そして、《アルカナフォースI-THE MAGICIAN》召喚ッ!」

アルカナフォースI-THE MAGICIAN
ATK1100
DEF1100

 斎王のデッキは変わらず【アルカナフォース】であるようで、その特徴である効果と運命を決定するカードの回転が……ない?

「光の結界の効果! アルカナフォースの正位置と逆位置を決定することが出来る! マジシャンを正位置に!」

 これで万に一つも、アルカナフォースのデメリット効果が発動しなくなった、ということだろう。
アルカナフォースはデメリット効果になる可能性がある代わりに、強大なメリット効果があるカテゴリなのだが……これではただの強力なモンスター群だ。

「そして通常魔法《天使の施し》を発動することにより、マジシャンの効果を発動! このターンのエンドフェイズまで攻撃力が倍になる!」

 《天使の施し》による手札交換と共に、その交換で手軽に攻撃力を倍にしてマジシャンが戦闘態勢に入る。

「バトル! マジシャンでジェインに攻撃! アルカナ・マジック!」

「この程度のダメージは必要経費だ……」

三沢LP4000→3600

 攻撃力が倍になるとは言っても、元々の攻撃力が1100程度なので、アタッカーたるジェインを壁にすれば大したダメージにはなりはしない。

「《光の結界》第二の効果! アルカナフォースが相手モンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターの攻撃力分ライフが回復する! ターンエンドだ!」

斎王LP4000→5800

 ……どうやらアタッカークラスのステータスが仇になったらしく、斎王のライフが大幅に回復する。
そして、《アルカナフォース》が戦闘破壊した時、という発動条件が嫌らしいところだ。

「俺のターン、ドロー!」

 三ターン目からライフに大きく差が開いてしまったが、三沢は気にせずリバースカードを発動した。

「伏せてあった《もののけの巣くう祠》を発動! 俺のフィールドにモンスターがいない時、墓地から妖怪を特殊召喚出来る! 蘇れ、《陰魔羅鬼》!」

陰魔羅鬼
ATK1200
DEF1000

 ライトロード・パラディン ジェインの効果で墓地に落ちていたのだろう、ステータスは頼りないものの、三沢の主力妖怪の一種が特殊召喚される。

「陰魔羅鬼が墓地からの特殊召喚に成功した時、一枚ドロー! そして、陰魔羅鬼をリリースして《龍骨鬼》をアドバンス召喚!」

龍骨鬼
ATK2400
DEF1000

 陰魔羅鬼が炎に包まれて骨のみになると、その骨が巨大化した後に龍の形を形成していき、《龍骨鬼》という一つのモンスターとなる。

「バトル! 龍骨鬼でマジシャンに攻撃!」

 マジシャンの攻撃力はエンドフェイズ時には戻っているため、もはや龍骨鬼の敵ではなく、呆気なく押しつぶされた。

斎王LP5800→4500

 それでも斎王のライフは初期ライフにすら届かず、斎王は未だに余裕の笑みを見せつけている。

「……ターンを終了する!」

「私のターン! ドロー!」

 さて、斎王はどう龍骨鬼を攻略するかと思ったが……その前に、斎王の背後の女神像にある光の中から一枚のカードが浮かび上がってきた。
緑色の装飾がかかった魔法カードであり、名前は……今この空間を支配しているフィールド魔法《光の結界》。

「スタンバイフェイズ時、《光の結界》は正位置を出さねばその効力を失う……だが! 運命は私に従うのだ!」

 そのセリフは怪しいが脚色なく本当のことで、回り始めた《光の結界》はその通り正位置へと止まった。

「そして通常魔法《運命の選択》を発動!」

 確かあのカードは十代が多用する罠カード、《ヒーロー見参!》の魔法カード版だった筈……効果がどれも強大な上級アルカナフォースを、ノーコストで特殊召喚出来る可能性を秘めている。

「……一番右のカードだ」

「貴様が選んだカードは『悪魔』の暗示! 《現れろ、アルカナフォースXV-THE DEVIL》ッ!」

アルカナフォースXV-THE DEVIL
ATK2500
DEF2500

 不吉なる死を意味する悪魔の暗示、その名に恥じぬ天使とは思えない形相のモンスターに、光が集まっていく。

「デビルの正位置の効果は、バトルする際に相手モンスターを破壊して500ポイントのダメージを与える――当然! 正位置ィ!」

 フィールド魔法《光の結界》の効果により正位置が選ばれ、同等の大きさをした龍骨鬼とデビルが睨み合った。

「バトル! デビルで龍骨鬼に攻撃! 効果により龍骨鬼を破壊し、500ポイントのダメージを与える!」

 エドが使用したディバインガイと似たような発動タイミングの効果により、戦闘にすらならずに龍骨鬼は破壊され、無防備になった三沢へと悪魔が迫っていった。

「リバースカード《和睦の使者》を発動! 戦闘ダメージを0にする」

三沢LP3600→3100

 ダイレクトアタック自体は《和睦の使者》の効果もあり、すんでのところで事なきを得るが、デビルの効果によるバーンダメージはそういう訳にはいかない。
龍骨鬼は効果破壊されたので、《光の結界》のライフゲイン効果が無いのは不幸中の幸いか。

「チッ、耐えきったか……カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー! 魔法カード《ソーラー・エクスチェンジ》を発動し、《ライトロード》を一枚捨てて二枚ドロー! そしてデッキからカードを三枚墓地に送る!」

 三沢も負けじと攻勢の準備を整えるべく、手札交換と墓地肥やしを同時にやってのける。
今までの三沢の【妖怪】デッキは、低速ビートダウンにならざるを得なかったものの、ライトロードにより高速の墓地肥やしを獲得した。

「そして《聖者の書-禁断の呪術-》を発動! 墓地から《カラス天狗》を蘇生し、お前の墓地の《アルカナフォースXII_THE HANGED MAN》を除外し蘇れ、《カラス天狗》!」

カラス天狗
ATK1400
DEF1200

 《陰魔羅鬼》と並ぶ墓地蘇生の妖怪の登場に、少なからず俺はやれると思った。
その効果の汎用性と恐ろしさは、三沢よりもやられ続けてきた俺の方が、むしろ解っているに違いない。

「カラス天狗が墓地から特殊召喚された時、相手モンスターを一体破壊する! 悪霊退治!」

 今回の敵は悪魔なのだから野暮な突っ込みは無しにして、カラス天狗が扇の一振りでデビルを破壊した。

「まだ俺は通常召喚を行っていない! 《牛頭鬼》を召喚!」

牛頭鬼
ATK1700
DEF800

 相方の《馬頭鬼》と並ぶ鎚を持った鬼の登場により、斎王にモンスターはおらず三沢のフィールドには二体のモンスターが並ぶ状況となる。

「《牛頭鬼》の効果により、デッキからアンデットを一体墓地に送る。そしてバトル! カラス天狗で斎王に……」

「甘い! リバースカードは《リビングデッドの呼び声》! 墓地から《アルカナフォースXV-THE DEVIL》を特殊召喚する!」

 二体の下級妖怪の前に、突如として現れたアルカナフォースXV-THE DEVILを破壊することは出来ず、三沢の攻撃は完全にストップしてしまう。
フィールド魔法《光の結界》により、悪魔は当然、正位置となって蘇生を果たしたのだ。

「……カード一枚伏せ、ターンを終了する」

「私のターン! ドロー!」

 斎王がドローした後のスタンバイフェイズ時、フィールド魔法《光の結界》のルーレットが開始されるが、俺の思いは空しく正位置に止まる。

「私は《運命の宝札》を発動! ダイスを一回振り出た目の数だけドローし、同じ枚数分カードを墓地に送る!」

 斎王が発動した魔法カードは、あの宝札シリーズの中でもデッキ圧縮率ならばトップを誇る可能性がある《運命の宝札》。
ダイスなので、使用者が不運なことを祈るしか無いが、使用者はあの斎王だ……祈りが届くことは望み薄だろう。

「出た目は『4』! よって四枚ドローし、四枚墓地に送る! そして、《アルカナフォースVII-THE CHARIOT》を召喚ッ!」

アルカナフォースVII-THE CHARIOT
ATK1700
DEF1700

 斎王がその豊富な手札から出したモンスターは、三沢の牛頭鬼と同じ攻撃力を誇るアルカナフォースの戦車。
もはやルーレットを行う必要もなく、《光の結界》により正位置に固定された。

「バトル! アルカナフォースVII-THE CHARIOTでカラス天狗を攻撃! フィーラー・キャノン!」

 チャリオッツから出現した触手からビームが放たれると、カラス天狗を狙って一直線へと飛んで行き、その胴体を蹴散らした。

「《光の結界》第二の効果により回復しッ! 更にチャリオッツの効果発動! 戦闘破壊した相手モンスターを、こちらのフィールドに特殊召喚する!」

「それはさせん! チェーンしてリバースカード《妖魔の援軍》を発動! 1000ポイントのライフを払って《陰魔羅鬼》と《カラス天狗》を墓地から守備表示で特殊召喚する!」

三沢LP3100→2100

斎王LP4500→5900

 1000ポイントを支払うことで、墓地のレベル4アンデット族モンスターを特殊召喚する罠カード《妖魔の援軍》により、カラス天狗がチャリオッツによって特殊召喚されずに済む。
チャリオッツの触手に捕まるより早く、カラス天狗は三沢のフィールドに特殊召喚され、またもその扇を振り上げた。

「カラス天狗の効果発動! 墓地から特殊召喚された時、相手モンスターを破壊する! デビルを破壊せよ、悪霊退治!」

「させんわぁ! リバースカード《法皇の錫杖》! 相手に一枚ドローさせる代わりにこのターン、私のフィールドのカードは効果破壊はされない!」

 カラス天狗が放った扇による一撃はしかし、悪魔を守る法皇の錫杖によって防がれてしまった。

「……陰魔羅鬼の効果、法皇の錫杖の効果の合計で二枚ドローさせてもらう」

「それがどうした! デビルで牛頭鬼を攻撃! 攻撃宣言時陰魔羅鬼を破壊し、500ポイントのダメージを与える!」

三沢LP2100→1600

斎王LP5900→7600

 次々に広がっていくライフポイント差に見ていられなくなり、天井を仰ぎ見るが機械戦士たちが返ってくるようには見受けられない。

「やはり口先だけの雑魚だったようだなぁ! カードを二枚伏せてターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 三沢のフィールドはバニラ同然のカラス天狗のみ、対する斎王はデビルにチャリオッツ、更には二枚のリバースカードが控えている。
そして《光の結界》によって、両者のライフは倍以上離れている……

「俺は速攻魔法《サイクロン》を発動し、《光の結界》を破壊する!」

「なに!? ……ええい、良くも我が結界を……!」

 先程の二枚ドローで手札に来ていたのか、大規模な竜巻が三沢と斎王の周りの光の輪を消し飛ばした。
《光の結界》のせいで、今までは見えなかったが……三沢の身体も、もうボロボロだった。

「代われ三沢! 俺の精霊たちも戻ってきた!」

 嘘を吐いた。
俺のデッキにはまだ精霊たちは戻ってきてはいないが、そんなことはデュエルには全く関係ない。

「……嘘が下手だな、遊矢。墓地の《スリーピー・ビューティー》の効果発動! このモンスターが墓地にある時、手札のアンデット族モンスターのレベルを一下げる! よって、《砂塵の悪霊》を通常召喚する!」

砂塵の悪霊
ATK2200
DEF1800

 それでも親友はデュエルを続行し、この状況を一変させることが出来るモンスターを召喚した。
砂塵の悪霊の効果ならば、斎王のデビルとチャリオッツを破壊出来る……!

「砂塵の悪霊は召喚に成功した時……」

「甘いと言っているだろうが! チェーンして速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動! 攻撃力を400ポイントアップさせ、効果を無効にする!」

 しかし、これも防がれてしまう……未来と運命を読むという斎王には、ただのデュエルで勝つ手段は無いというのか……!

「ならば、戦闘破壊だけはさせてもらう! 砂塵の悪霊でデビルに攻撃!」

 《禁じられた聖杯》の効果によって攻撃力が上がったことが功を労し、三沢を苦しめていたデビルを破壊したが……斎王の表情は余裕から崩れやしなかった。

斎王LP7600→7500

「これでターンを終了する」

 砂塵の悪霊は《スピリット》なのでエンドフェイズ時に手札に戻るはずだが、《禁じられた聖杯》の影響でその効果も無効になっているので、そのままフィールドに居残り続けた。

「私のターン! ドロー!」

 ドローしたカードを見るや否や、斎王は迷わず即座に手札のカードをデュエルディスクに置いた。
……本当に、このデュエルの未来でも見えているのだろうか。

「チャリオッツをリリースし、《アルカナフォースXII_THE HANGED MAN》をアドバンス召喚ッ!」

アルカナフォースXII_THE HANGED MAN
ATK2200
DEF2200

 『吊された男』――その名の通り木に吊された男が描かれたモンスターが、三沢の前で回転を始めた。
もう《光の結界》はないため、アルカナフォースの運命のルーレットが回転する。

「……ストップだ」

「逆位置だ! ハングドマンの逆位置の効果を発動! 相手モンスターを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える! 当然、狙いは砂塵の悪霊!」

 逆位置だと思って一時安心したものの、ハングドマンは正位置がデメリット効果という珍しいアルカナフォースだということを思い出したが、それに何の意味はなくハングドマンの効果が三沢を襲った。

「墓地の《ダメージ・ダイエット》を除外し、効果ダメージを半分にする!」

三沢LP1600→500

 墓地から発動された半透明のバリアが三沢を包み込み、なんとか敗北を免れることに成功した。
それでも斎王のライフポイント7500とは、まさに雲泥の差であるぐらい、ギリギリの数値しか残りはしなかったが……

「往生際が悪い奴だ……! ハングドマンど陰魔羅鬼に攻撃!」

 三沢のフィールドの最後のモンスター、陰魔羅鬼も破壊されてしまったが、幸いにも守備表示だったのでダメージは無い。

「私はターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

  しかしこの絶望的な状況の中でも、親友こと三沢大地は諦めていなかった。

 精霊たちが戻ってきてから俺に引き継ぐために……そして、あわよくばそれより早く自らが斎王を下すために。

「俺は永続魔法《星邪の神喰》を発動し、墓地の《馬頭鬼》の効果を発動! 馬頭鬼を除外することで、墓地のアンデット族モンスターを特殊召喚する! 招来せよ、《赤鬼》!」

赤鬼
ATK2700
DEF2400

 墓地のモンスターを手軽に蘇生するモンスター、《馬頭鬼》によって蘇生される三沢のエースモンスター、閻魔の使者《赤鬼》。
墓地から蘇生されたため、その効果を発動することは出来ないが、その攻撃力はハングドマンを遥かに超えている。

「永続魔法《星邪の神喰》の効果発動! 墓地のモンスターが一体除外された時、そのモンスターと属性が違うモンスターを墓地へと送ることが出来る。そして、赤鬼でハングドマンに攻撃! 鬼火!」

「ふん、この程度……」

 赤鬼の火炎放射にハングドマンは破壊され、もちろん攻撃表示の為に斎王へとダメージは通るが、7000オーバーのライフを誇る斎王にとって、微々たるダメージでしかない。

斎王LP7500→7000

「《ピラミッド・タートル》を守備表示にし、ターンエンドだ!」

ピラミッド・タートル
ATK1100
DEF1200

「私のターン! ドロー!」

 赤鬼の活躍によりハングドマンは破壊されたが、それでも未だに三沢は劣勢だと言わざるを得ない。
斎王はまだ、アルカナフォースの切り札を出してもいないのだから。

「私は永続魔法《神の居城-ヴァルハラ》を発動! 私のフィールドにモンスターがいない時、天使族モンスターを特殊召喚出来る! 現れろ、《アルカナフォースXXI-THE WORLD》!」

アルカナフォースXXI-THE WORLD
ATK3100
DEF3100

 降臨するアルカナフォースのラストナンバー……最強を誇る斎王の切り札、ザ・ワールド。
ターンをスキップするという前代未聞の効果を持ち、そのステータスは切り札に相応しい。

 最後の悪あがきとして、逆位置になることを望んだが……そんなことはなく、運命のルーレットは依然として斎王の味方だった。

「私は墓地の二体いる《レベル・スティーラー》の効果を発動! ザ・ワールドのレベルを二つ下げ、墓地から《レベル・スティーラー》を二体特殊召喚する!」

レベル・スティーラー
ATK600
DEF0

 ザ・ワールドの効果のコストにするための、機械の昆虫がザ・ワールドの身体を突き破りながら現れ、斎王の切り札は完璧にその効果を使用する準備を完了する。

「更に《アルカナフォースIV-THE EMPEROR》を召喚する!」

アルカナフォースIV-THE EMPEROR
ATK1400
DEF1400

 駄目押しにか召喚された新たなアルカナフォースは、皇帝を暗示したカードであるエンペラー……正位置だったため、斎王のフィールドのアルカナフォースは攻撃力が500ポイントアップする。

「バトル! 手始めにエンペラーでピラミッド・タートルを攻撃!」

 守備表示で出していたリクルーターが破壊されたが、守備表示であるため三沢にはダメージはなく、ただ後続のピラミッド・タートルをデッキからリクルートするのみで終わった。

「そしてザ・ワールドで赤鬼を攻撃! オーバー・カタストロフッ!」

「墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動! このカードを除外し、ザ・ワールドの攻撃を無効にする!」

 三沢の前に現れた半透明のネクロ・ガードナーが、間一髪三沢を守り抜き、そのまま除外されていく。

「永続魔法《星邪の神喰》の効果を発動! デッキから《ネクロ・ガードナー》と違う属性のモンスターを墓地に送る!」

「チッ……エンドフェイズ、《レベル・スティーラー》をを二体リリースし、時よ止まれッ! ザ・ワールド!」

 二体のモンスターをリリースして捧げることで、相手のターンを飛ばすという有り得ない効果の発動に、三沢は成す術もない。

「私のターン、ドロー! このままバトルだ! エンペラーでピラミッド・タートルに攻撃!」

 再び斎王にターンが回るや否やすぐさまバトルフェイズに入り、エンペラーがピラミッド・タートルを破壊する。
だが、先のターンと結果は変わらず、守備表示のピラミッド・タートルが残るだけという結果となる。

「続いてザ・ワールドで赤鬼に攻撃! オーバー・カタストロフッ!」

 しかしこちらは、《ピラミッド・タートル》のように同じ結果となる訳はなく、恐らくは《ネクロ・ガードナー》はもう三沢の墓地にはない。
デッキから墓地に直接モンスターを墓地に送れる《星邪の神喰》も、違う属性でなくてはならないという制約を受けているので、先程送ったカードも《ネクロ・ガードナー》ではない。

「《ネクロ・ガードナー》は使い終わった! これでトドメだ!」

 ……だが、《ネクロ・ガードナー》とは違う属性で類似効果を持つカードならば、話は別だが。

「俺は墓地の《タスケルトン》を除外し、ザ・ワールドの攻撃を無効にする!」

「何ィ!?」

 《ネクロ・ガードナー》の時と同じく、半透明の《タスケルトン》がザ・ワールドの赤鬼への攻撃を止めることに成功する。

「そして《星邪の神喰》の効果により、デッキから墓地へと違う属性のモンスターを送る!」

 《馬頭鬼》の除外からここまでの発展が三沢の狙いであり、これならばザ・ワールドの攻撃を防ぎきるのも夢ではなかった。

「調子に乗るなァ! 私も墓地から二体の《レベル・スティーラー》を特殊召喚……何故一体しか特殊召喚されない!?」

 ザ・ワールドの現在のレベルは6なので、斎王がしようとした通り、レベル・スティーラーが二体特殊召喚出来る筈だが……ザ・ワールドの身体から出て来たレベル・スティーラーは一体のみだった。

「答えはこれだ! 墓地から《妖怪のいたずら》を発動していた!」

 《スキル・サクセサー》と同じ墓地から発動出来る罠カードであり、対象のレベルを下げることが出来る罠《妖怪のいたずら》。
墓地から発動した場合のレベル下限は1と少ないが、斎王の目論見を崩すことには成功する。

「墓地の活用には、少なからず自信があってね」

「だが時はまだ止められる! エンペラーとレベル・スティーラーをリリースし、時を止めろッ! ザ・ワールド!」

 再び三沢のターンを飛ばして斎王のターンとなったが、攻撃力を高めていたエンペラーをリリースし、ザ・ワールドももうレベル・スティーラーを召喚出来ない。

「私のターン! ドロー! ザ・ワールドで赤鬼を攻撃! オーバー・カタストロフッ!」

「墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外し、攻撃を無効にさせてもらおう」

 やはり、永続魔法《星邪の神喰》の効果で墓地に送っていたらしく、ザ・ワールドの三度目の攻撃も通じることはなかった。
だが、《タスケルトン》の効果はデュエル中に一度しか使えないため、もう攻撃を防ぐことは出来ないだろうが。

「《星邪の神喰》の効果により、属性が違うモンスターを墓地に送る」

「くっ……! 《アルカナフォースVI-THE LOVERS》を召喚し、当然正位置ッ! ターンエンドだ!」

 《妖怪のいたずら》による妨害を受けたせいで、ザ・ワールドの効果に必要なコストを調達することは出来ず、三沢はなんとザ・ワールドの攻撃を耐えきった。

「俺のターン、ドロー!」

 三沢のフィールドは《赤鬼》と守備表示の《ピラミッド・タートル》に、永続魔法《星邪の神喰》。
対する斎王は自慢の切り札《アルカナフォースXXI-THE WORLD》と《アルカナフォースVI-THE LOVERS》、リバースカードが一枚。

 ザ・ワールドによる攻撃は凌ぎきれたものの、フィールドは未だに斎王の有利だった。

「俺は《酒呑童子》を召喚する!」

酒呑童子
ATK1500
DEF800

 三沢の妖怪のドローソース、酒呑童子が姿を現した。
墓地のアンデット族モンスター二体を除外することで一枚ドローすることが出来、先のターンに何度も破壊された《ピラミッド・タートル》の存在もあり、コストには困らないだろう。

「酒呑童子の効果を発動し、墓地のアンデット族モンスター二体を除外し一枚ドロー! ……そして、俺のフィールドに妖怪たちが二体以上いるため、《火車》を特殊召喚出来る! 招来せよ地獄へ導く炎の妖怪、《火車》!」

火車
ATK?
DEF1000

 赤鬼が三沢のエースモンスターならば、火車は三沢のデッキの切り札。
いくら劣勢であろうとも、火車一枚でその逆境をはねのける効果を持った妖怪。

「火車の効果発動! フィールドにいるモンスターを全てデッキに戻す! 冥界入口!」

 死者を地獄へ導く火車の身体の中は冥界入口と言って相応しく、フィールドにいたモンスターは例外なく火車に吸い込まれ、デッキという名の冥界へと送られる。

「我が……ザ・ワールドがッ!?」

「火車の攻撃力はデッキに戻したアンデット族モンスター×1000ポイント、よって火車の攻撃力は3000!」

 火車がフィールドに特殊召喚されたが最後、どんなモンスターの防備も冥界へと送られ、フィールドに残るは攻撃力3000を誇る三沢の切り札のみ。

「バトル! 火車でダイレクトアタック! 火炎車!」

「ぐああああっ!」

斎王LP7000→4000

 火車の攻撃……いや三沢の攻撃がようやく斎王にクリーンヒットし、《光の結界》で回復された分ライフを大幅に削る。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する!」

「私のターン! ドロー! ……ククククッ。通常魔法《ネクロ・サクリファイス》を発動! 貴様のフィールドに我が墓地のモンスター、《アルカナフォースVI-THE LOVERS》と《アルカナフォースVII-THE CHARIOT》を特殊召喚する!」

 斎王が奇妙な笑みを見せながら発動したのは、自分の墓地のモンスターを二体相手フィールドに特殊召喚する《ネクロ・サクリファイス》。
相手が蘇生したモンスターの表示形式を選べて完全蘇生を果たす代わりに、自分がこのターンアドバンス召喚する際、リリースを必要としなくなる、という魔法カードだ。

 三沢はラバーズとチャリオッツのどちらも守備表示にし、なんとか正位置を引き当てた。
こんな《クロス・ソウル》の相互互換のカードを出してきたのだ、何かしない訳がない。

「私は《アルカナフォース0-THE FOOL》を召喚する!」

アルカナフォース0-THE FOOL
ATK0
DEF0

 その予想に反して召喚されたのは、戦闘破壊されない壁モンスターの《アルカナフォース0-THE FOOL》であり、上級モンスターでは決してない。
俺たちの疑惑の視線を受けながら回るザ・フールは、そのまま逆位置へと止まった。

「そしてリバースカード《洗脳解除》! ラバーズとチャリオッツを返してもらうぞ!」

 《ネクロ・サクリファイス》によって三沢のフィールドに完全蘇生されたとはいえ、アルカナフォースは斎王のカード。
《洗脳解除》によって斎王のフィールドに戻り、通常召喚されたザ・フールと併せて三体のモンスターが並ぶ。

 通常召喚は使用しているものの、俺はついさっきのエドとのデュエルで、『三体のモンスターをリリースしての特殊召喚』を何度となく体感した。

 ――何かが来る!

「気をつけろ三沢!」

「もう遅いッ! 三体のアルカナフォースをリリースすることで、世界を破滅に導く光! 《アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER》を特殊召喚するッ!」

アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER
ATK4000
DEF4000

 アルカナフォースの三本の柱をリリースして降臨した、EXという枠組みを外れた規格外のアルカナフォース。
そのステータス、プレッシャー、どれをとってもザ・ワールドを超えた……切り札だった。

「馬鹿な……アルカナフォースはザ・ワールドが切り札ではなかったのか……?」

「切り札だったさ! 今まではな! まずは貴様には、ライトルーラーの運命を止めてもらおう!」

 いくら規格外のモンスターだろうとアルカナフォースはアルカナフォースであるらしく、今までと同じくカードが空中で回りだした。

「……ストップだ!」

「運命は正位置を指した! バトルだ! ライトルーラーで火車を攻撃! ジ・エンド・オブ・レイ!」

 ライトルーラーのボディの部分からドラゴンの首が姿を見せると、そのドラゴンが口から光線を放って火車を吹き飛ばした。

「《ガード・ブロック》を発動し、戦闘ダメージを0にする!」

「ほう……上手く防いだようだなぁ。だが、ライトルーラーの正位置の効果を発動! 相手モンスターを戦闘破壊した時、墓地から好きなカードを手札に加えることが出来る! 私は《運命の宝札》を手札に加え、そのまま発動!」

 三沢への戦闘ダメージはなんとか《ガード・ブロック》で防いだが、ライトルーラーの効果で手札に加えた《運命の宝札》が発動され、斎王が出したダイスの目はまたもや『4』。
よって四枚のカードがドローされ、四枚のカードがデッキから墓地に送られる。

「カードを二枚伏せ、ターンエンドッ!」

「くっ……俺のターン、ドロー! 《貪欲な壷》を発動し、二枚ドロー!」

 切り札である火車も破壊されてしまい、もう後がない三沢にもたらされたのは幸運にも《貪欲な壷》。
万能ドローソースにて二枚ドローした後に、三沢はライトルーラーを破壊すべく動き出した。

「通常魔法《聖者の書-禁断の呪術-》を発動! 墓地から《カラス天狗》を守備表示で蘇生し、お前の墓地の《アルカナフォースXV-THE DEVIL》を除外する!」

 起死回生のタイミングで特殊召喚されるカラス天狗が、自身の効果を使わんとその扇を振り上げる。
だが斎王はそれを見ても……狂ったように笑ったままだった。

「リバースカード《逆転する運命》を発動! ライトルーラーを逆位置に変更する!」

 伏せてあった《逆転する運命》は、確かアルカナフォースが狙い通りの位置でなかった時に反転するカードだった筈だ。
このタイミングで発動して逆位置に発動するとは、嫌な予感しかしなかった。

「墓地から蘇生した《カラス天狗》の効果を発動! ライトルーラーを破壊せよ、悪霊退治!」

「ライトルーラーの逆位置の効果! 攻撃力を1000ポイント下げることで、このカードを対象に取るカードの効果を無効にして破壊する! クリエイティブ・ディストラクト!」

 規格外のアルカナフォース――その名に相応しく、通常のアルカナフォースと違い、ライトルーラーは正位置でも逆位置でもメリット効果がある。
つまり、《逆転する運命》のようなカードがあれば、二つの効果を切り替えることが可能なモンスターというわけだ。

「……《酒呑童子》を守備表示で召喚! 効果を発動して一枚ドロー!」

 効果で攻撃力が1000ポイント下がったとはいえ、それでもその攻撃力は3000。
《カラス天狗》の効果が避けられてしまった三沢には、守備を固めるしか出来ることはなかった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「私のターン! ドロー! そのままバトルだ、ライトルーラーで酒呑童子を攻撃! ジ・エンド・オブ・レイ!」

 斎王がドローして即座に出された攻撃宣言に反応し、ライトルーラーの本体から出たドラゴンが光を放って酒呑童子を消し飛ばした。
酒呑童子は抵抗出来ずにそのまま破壊され……ライトルーラーの光は、そのまま三沢をも飲み込んでいった。

「三沢っ!」

 我慢出来ずに三沢の元へと駆け出したが、ライトルーラーが放った光に視界を奪われ、三沢の状況がどうなっているのか解らなくなってしまう。

「お前は……」

 視界が晴れた時に見たものは、ライトルーラーの攻撃から三沢を守り通してくれた……カードの精霊たちの姿。

「機械戦士のみんなに……ネオス」

 衛星兵器『ソーラ』の破壊に行った機械戦士たちと、十代の新エースモンスターである《E・HERO ネオス》が、ライトルーラーの光から三沢を守っていたのだった。

「これが……カードの精霊たちか……」

 どんな作用が働いているかは知らないが、ネオスや機械戦士たちの姿は三沢にも見えるらしく、初めて見たカードの精霊に戸惑っていた。

 そして、カードの精霊たちがここにいるということは……

「……『ソーラ』は破壊出来た、ということだな……」

 傍らにBlloDが控えたエドが立ち上がってきて、俺の左腕につけていた、エドのデュエルディスクを取り外した。

「後は……助けるだけだ」

 豹変した斎王を、眠ったままの明日香を。
そしてその役目は、三沢とエドには悪いが俺にやらせてもらいたい……いや、やるしかない。

「おのれおのれ、ネオスペーシアンとザコどもが! この私の邪魔を――」

「三沢、交代だ。このデュエル……俺が引き継ぐ」

 三沢と手を叩きあっている場所をチェンジすると、斎王とライトルーラーに正面から向き合った。

「後は任せたぞ、遊矢」

「ここまでお膳立てされてるんだ、負けるなよ」

 エドと三沢の激励を受けて、ここまで俺を持って来てくれた……亮・吹雪さん・神楽坂にラー・イエローの友人たち、三沢にエド、そして明日香に心の中で感謝しておく。

「チィィ……相手が誰であろうと同じことだ! カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

 斎王のターンエンド宣言と共に、中空に浮かんでいた精霊たちがデッキへと戻っていく……一緒に戦ってくれるのだろう。

「楽しんで勝たせてもらうぜ……斎王!」
 
 

 
後書き
気がつけば、学校のテストも第二期もラストに近づいて参りました。

そして何故か三沢vs斎王。
某スペースティラノよろしく、スペース三沢というのも案にありましたが、即座に没にしました。

理由はお察しください。

感想・アドバイス待ってます。 
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