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ブリティッシュ=バンド

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第三章

「飢饉の時は助けてもらったなあ、餓えてる時に小麦を容赦なく取り立ててくれたな」
「おい、何時の時の話だよ」
「十九世の話だよ、覚えてるよな」
「そんな昔のことなんて知るよ、俺の何代前の話だ」
「その頃俺のご先祖様は餓えて死んだ人もいるらしいだよ」
「それは貴族に言えよ、俺は労働者階級出身だよ」
 イギリスでは今も階級が残っている、クラークは労働者階級だというのだ。
「俺達は搾取されてる方だったんだよ」
「それでもイングリッシュだろうが」
「イングリッシュでもコックニー喋る奴に言うな」
「へっ、まだコックニーなんて使ってるのかよ」
「ああ、いい言葉だろ」
「何処のろくでなしの言葉だよ」
 二人共今にも掴みかからんばかりだ、だが。
 社長はその二人をよそにこう言うのだった。
「とにかくだ、四人のデビューは決まってるし部屋には四人一緒に住んでもらう」
「おっさん、今の俺達見て言うのかよ」
 ローズは今度は社長を睨んで言い返した。
「今でこんな有様だぜ、一緒に住める筈ないだろ」
「ははは、才能を見てだよ」
「才能だけでどうにもならないだろ」
「相性も見たさ」
「相性は今はっきりしてるだろ」
 ローズはローズでブライアンと睨み合っている、彼等は彼等で何か衝突しているらしい。
「最悪なんてものじゃないぜ」
「今はな」
「今はかよ」
「まあいけるさ、このバンドはな」
「じゃあこのままデビューさせるんだな、俺達を」
「一緒の部屋に住んでもらってな、じゃあいいな」
「部屋まで用意してくれたのは嬉しいがね」
「そういうことでな」
「すぐに大喧嘩だな、これは」
 ローズもこれ以上はないまでに不機嫌な顔で言う、だがそれでもだった。
 四人のデビューと共同生活がはじまった、だが四人共だった。
 お互いに口を聞くことはない、料理は全く別のものを食べ寝るところも違う。
 観る番組も当面の生活費を得る為のバイト先もだ、とにかく何もかもが違っていた。
 レコーディング中もそれは同じだ、とかく仲が悪かった。
 それは収録現場に同席した音楽会社の社員も見た、それで社長にこっそりと言ったのだった。
「あの四人駄目ですよ」
「喧嘩ばかりしてるんだな」
「喧嘩どころか」
 それで済めばいいという程だった。
「無言ですよ、お互いに」
「喧嘩にもなっていないか」
「無言でお互いに睨み合ってますよ」
「というと冷戦か」
「四国での」
「そうか、じゃあいいな」
「いいってあんな仲の悪い結成したてのバンドなんてないですよ」
 社員はたまりかねた口調で社長に話す、昼食の目玉焼きとベーコンを焼いたものにサラダを無造作に食べながら言う。
「解散寸前みたいじゃないですか」
「つまり最悪の状態か」
「ええ、文字通り」
 こう社長に言う、自分のものと同じメニューを食べている彼に。
「そうなっています」
「そうか」
「はい、あれでこれからやっていけるんですか」
「最悪から下はないだろう」
 社長は笑ってジャガイモを茹でたものを口の中に入れつつ言う。
「それ以下は」
「今が底だっていうんですね」
「後は上がるだけだろう、違うか?」
「底は抜けるものですよ」
 社員はにこりともせず社長に返した。
「そういうケースもありますよ」
「ははは、そうか?」
「というか本当にどうしようもないですよ」
 社員は笑う社長に真顔で言う。 
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