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ブリティッシュ=バンド

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第四章

「あの四人は。今にも大喧嘩をして解散ですよ」
「国の垣根は高いか」
「高いですよ、それこそハンプティ=ダンプティが座っていた壁よりも」
 そこから落ちて割れた、マザーグースの歌だ。
「それでそんな」
「安心しろ、そんなものはな」
「超えられるんですか?」
「ユニオンジャックを見ろ、あの旗を」
 社長は笑ったまま彼等の国の旗を出した。
「あれをな」
「四国を合わせた旗ですね」
「そうだ、ユナイテッド=キングダムを形成する四国のな」
 まさに彼等を象徴しているというのだ。
「あの旗の様になるさ、絶対にな」
「そうは思えないですけれどね」
 社員は心の奥底からいぶかしむ声で言った。
「あの四人については」
「ヴィクトリー号に乗った気持ちでいたらいい」
「プリンス=オブ=ウェールズかレパルスじゃないですよね」
 どちらも二次大戦中に日本海軍の航空機の攻撃で撃沈されている、あのチャーチルが呆然となったまでの敗北だった。
「そっちじゃ」
「だからヴィクトリーだよ」
「だといいですけれどね」
 社員はまだ全く信じていなかった、四人は必ず解散すると思っていた、それも大喧嘩の後で。
 実際四人は一触即発の状態でレコーディングに共同生活を続けていた、ライブをしてもだった。
 お互いに何も言わない、何か些細なことで戦争になりそうな気配の中で。
 そうした緊張の中でだ、ある日のこと。
 マックローンは部屋のリビングで作曲をしていた、その手の中にはギターがある。
 ギターを奏でながら曲を考えていた、だがそこで。
 たまたま部屋に入って来たクラークがこう言った。
「何だ?その曲は」
「御前か」
 マックローンはクラークの言葉を耳にして彼に顔を向けて睨みつけた。
「何をしに来た」
「冷蔵庫の中にあるジュースを飲みに来たんだよ」
「あのまずそうなオレンジジュースか」
「ああ、それをだよ」
「勝手に飲め、ただ俺のアップルジュースには手をつけるな」
「俺はあんなの飲まないんだよ、ジュースはオレンジだろ」
 クラークもマックローンを睨み据えて言葉を返す。
「何でアップルなんだよ」
「美味いし身体にいい」
 マックローンはこう返した。
「だからだよ」
「身体によくても林檎はそのまま食うものだからな」
「パイにもしないんだな」
「するかよ、そんなの」
 クラークはアップルパイも忌々しげに切り捨てた、切り捨てたのはパイだけではない。
「林檎はそのままだろ」
「それはわかってやる」
「わかってやるかよ」
「だからとっととオレンジジュースを飲んでさっさと俺の前から消えろ」
 こう言い返すばかりだった、ここで顔を彼から逸らす。
「わかったわ」
「言われなくてもそうしてやるさ、しかしな」
「今度は何だ」
「今の曲何だ?」
 クラークはあらためてマックローンに尋ねた、尋ねながら部屋の冷蔵庫に向かう。
「何の曲だ?」
「俺が今考えている曲だ」
 それだと答える、やはり憮然とした声で。
「それだ」
「ふうん、そうか」
「いい曲だろ」
 クラークを見ないまま言う。 
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