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ブリティッシュ=バンド

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第二章

「髪の毛一本程もな」
「本当にないんだな」
「俺はアイリッシュだよ」
 紛れもなくだというのだ。
「ブリティッシュじゃねえよ」
「じゃあ北アイルランドはアイルランド共和国と統一すべきだというんだな」
「IRAには反対だがそう考えてるぜ」
 テロには反対だがその考えには賛成だというのだ。
「実際にな」
「そうか」
「俺もだよ」
 ここでスコティッシュのブライアンも言って来た。
「俺はスコットランドがこの国から独立することに賛成だぜ」
「御前もか」
 社長はブライアンの言葉を聞いて彼にも顔を向けた。
「独立派か」
「昔は別の国だっただろ、あのアンとかいう女王さんまではな」
「じゃあそれ以前に戻るべきだっていうんだな」
「ネス湖もスコットランドのものだからな」 
 ネッシーがいるというその湖もだというのだ。
「スコットランドはスコティッシュのものなんだよ」
「その点だけは二人に同意するぜ」
 今度はローズが言う、実に不機嫌そうな顔で。
「ウェールズも独立だ、プリンス=オブ=ウェールズじゃなくてキング=オブ=ウェールズが欲しいと思ってるさ」
「独立したいならそればいいさ」
 イングリッシュのクラークも三人を睨みながら言う。
「イングランドも他の連中と付き合いたくないさ」
「気が合うな、おい」
 マックローンはクラークのその言葉にシニカルな笑みで返した。
「俺もそう思ってるよ」
「勝手にすればいいだろ、そもそも何で統一なんかしたんだよ」
 クラークは手振りも入れて忌々しげに語る。
「イングランドだけで充分だろ、旗もな」
「おっさん、こういうことだ」
 マックローンは三人の話を聞いてから社長に再び顔を向けて言う。
「このグループは本日を以て解散だよ」
「まだ結成もしていないんだがね」
「けれど今日解散だ、やることは何もないぜ」
「馬鹿を言ってもらっては困る、御前達の部屋はもう用意して音楽会社とも契約をしているんだぞ」
「おい、手配がいいな」
「こうした手配のよさが俺の長所だからな」
 社長だけが屈託なく笑って言う。
「イギリス人らしくな」
「イギリス人より日本人の方が手配いいだろ」
「あの国と比べてもらっては困るな。日本人は手配の天才だろうに」
「みたいだな、それでも部屋とかCDの話もかよ」
「もうデビュー曲の話も済んでいる」
「早いねえ、結成前に解散するのにな」
「そっちの方が早いだろ、とにかくだ」
 社長は軽いジョーク混じりの言葉の中に真剣なものも入れてマックローンに対して言った。
「四人で頼むな。ヴォーカルはな」
「何だ?フランスからエスカルゴ野郎でも入れるのかよ」
「いや、御前にやってもらう」
 マックローンのシニカルなジョークに彼自身を指し示して返す。
「ギターの御前にな」
「まあ俺はギターだけじゃなく歌も天才だがな」
「だからだ、頼んだぞ」
「嫌だって言っておくぜ、事前にな」
「嫌でも金はやる、それでどうだ」
「やれやれだな、これからはそれでパンを食ってけってか」
「ジャガイモでもいいぜ」
 アイルランドではジャガイモがよく食べられているから言ったジョークだ、だがマックローンは社長のこのジョークを受けてイングリッシュのクラークを憎しみを込めた目で睨んだ。
 そしてだ、こうクラークに言ったのである。 
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