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夢遊病の女

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第二幕その八


第二幕その八

「娘は貴方のことをです」
「僕のことを」
「想ってるのです」
 このことを確かに告げるのだった。
「あの通りです」
「そうだな、間違いない」
 ここでようやく彼もそのことを完全に認めた。
「これでわかりました」
「はい、それなら」
 テレサも満足するのだった。
「どうかあの娘を」
「わかりました」
「空しい望み。私はエルヴィーノと共に教会で」
「僕と共に」
「そうして清らかなまま祝福を」
「彼女は潔白だった」
 エルヴィーノは呟いた。
「そうだった、間違いない」
「神よ」
 アミーナは歩きながら話していく。
「私の涙を御覧にならないで下さい。私はずっとあの人を見て生きていますので」
「そこまで想っているんだな」
「本物だ」
「間違いない」
 そのことを誰もが確信した。
「アミーナは心からエルヴィーノを愛している」
「永遠の貞節も誓っている」
「その通りだ」
「あの人の指輪」
 アミーナの虚ろな悲しい言葉が続く。
「それでも私は信じるわ。そうよね」
 胸に花があった。あのエーデルワイスだ。エルヴィーノから貰ったその花を手に取ってそのうえでさらに言葉を続けていくのであった。
「この花をくれたのだし」
「僕の花だ」
 エルヴィーノはそれを見てまた言った。
「間違いない、あのエーデルワイスは」
「この花があるから。私はきっと」
「そうだったんだ。アミーナはエーデルワイスだったんだ」
「どういう意味だい?」
 伯爵は今度はそれを彼に問うた。
「それは」
「清らかなのです」
 まさにそれだというのである。
「彼女は」
「それはよくわかったね」
「はい」
 伯爵の言葉にまた頷く。
「これでよく」
「それならいい」
「僕はもう疑いません」
 これからもというのだった。
「何があろうとも」
「そう、そうするべきだ」
「彼女を信じます」
 それを今確かに誓った。
「何があろうとも」
「そうするべきだ」
 伯爵もそうであれというのだった。
「君は。何があっても」
「アミーナを信じます」
 彼も遂に言った。
「もう何があっても」
「それでいい。それではだ」
「はい」
「指輪をはめなさい」
 伯爵がここで彼に告げる言葉はこれだった。
「いいね」
「わかりました。それじゃあ」
 こうして彼はその指輪を再び指にすることになった。だがそれを入れようとする彼に対して伯爵はまた告げたのであった。
「いや、ここでは駄目だ」
「駄目なのですか?」
「そうだ。彼女はもうすぐ橋を渡る」
 見ればその通りだった。今にも渡ろうとしている。
 それを彼に見せてから。話すのだった。
「渡ってからそのうえで起こそう」
「そしてそれから」
「指輪をはめるんだ」
 あらためてそうしろというのである。
 
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