夢遊病の女
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第二幕その七
第二幕その七
「やはりこの目で」
「わかりました。では今夜」
見ようと話した。しかしであった。
ここで村人達がまた騒ぐのであった。
「お、おいあれ」
「ああ、間違いない」
「そうよね」
その声は慌てたものであった。その声で騒ぐのである。
「アミーナじゃないか」
「間違いないわ」
「本当だったなんて」
「本当!?」
エルヴィーノはその言葉に反応しすぐに皆が見る方に顔をやった。すると。
そこにアミーナがいた。虚ろな顔で歩いている。そのまま水車の上の橋を歩いている。
その細い橋を見て皆は。言うのだった。
「お、おいこのままじゃ」
「寝ているのなら本当に」
「まずいわよ」
橋の下の水車の動きは速い。若しその中に落ちればどうなるかは言うまでもなかった。
「本当に夢遊病だったけれど」
「あのまま若し落ちたら」
「大変なことになるわよ」
「い、いけない!」
最初に動こうとしたのはエルヴィーノだった。
「早く助けないと」
「待つんだ」
しかし伯爵はその彼を呼び止めたのだった。
「それは」
「ですがそれは」
「いや、安心していい」
伯爵は落ち着いた声で彼に告げる。
「むしろ今は慌てないことが大事なんだ」
「慌てないことですか」
「そうだ」
まさにそうだというのだ。
「今はだ。下手に声をかけて起きて驚きでもしたら」
「下にですか」
「そう、落ちてしまう」
彼が危惧しているのはこのことであった。
「だからだ。いいね」
「そうですか。それでは」
「皆さんもです」
伯爵は他の者に対しても告げた。
「宜しいですね」
「は、はい」
「わかりました」
「けれど」
しかし、なのであった。
「あのままでは本当に」
「ふらふらしているし」
「落ちそうですけれど」
「大丈夫です」
しかしそれでも伯爵は一同に言う。
「こうして見守ることがです」
「今は大事なのですか」
「それこそが」
「そうです」
まさにそうだというのである。
「そうさせてもらいます」
「ここは」
「ああ」
そのアミーナがここで声をあげた。
「若し私が」
「私が?」
「あの人に会うことが出来れば」
「あの人が」
「君のことだ」
伯爵はここでエルヴィーノに告げた。
「間違いなく」
「僕のことを本当に」
「聞きましたね」
テレサも彼に言ってきた。
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