夢遊病の女
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第二幕その六
第二幕その六
「今夜だよ。いいね」
「それは」
「アミーナを信じて」
ここでテレサも村人達に言ってきた。
「どうかここは」
「そうだな。伯爵様が嘘を仰るとは思えない」
「全くだ」
それについては彼等も感じ取っていることだった。
「それではここはやはり」
「今夜だな」
「そうだな」
「そうだ」
ここで伯爵はまた言った。
「一つ思い出したことがありました」
「思い出したこと?」
「それは一体」
「これですが」
言いながら昨日拾ったハンカチを取り出して一同に見せるのであった。
「このハンカチは」
「あっ、それは」
リーザはそのハンカチを見て思わず声をあげた。
「まさか」
「貴女のものですね」
伯爵もここでリーザに対して問うた。
「そうですね」
「はい、そうです」
彼女自身そのことを頷いて認めた。
「それは」
ここでリーザの顔が曇っていった。次第に、ではあるが。
「ということは」
「リーザさん、貴女も見ましたね」
「では昨日のあれは」
「そうです、あれこそがです」
こう彼女に話した。
「あれこそが夢遊病だったのです」
「私はてっきりあれは」
「それで黙っていたのですが」
「宿屋をしていると多くの秘密を見てきます」
こんな風にも言う彼女だった。
「それをおおっぴらに言っていては宿屋なぞできませんし」
「しかし真実も言いませんでしたね」
「まさかと思いました」
それでだというのだった。
「それに私は」
「貴女は?」
「いえ」
エルヴィーノの方をちらりと見ただけで言葉を止めたのであった。
「何でもありません」
「それでも認めて下さいますね」
「はい、そのハンカチは私のものです」
まずはそのことを認めるリーザだった。
「それに私は確かに昨夜アミーナを見ました」
「はい、その場所は」
「伯爵様が泊まっておられたあの場所に」
「となるとだ」
「つまりは」
ここで一同あらためて述べるのであった。
「伯爵様が正しい」
「その仰ることは」
「そうだよな」
「そう、私は最初から嘘をついてはいませんでした」
それをまた言う伯爵だった。
「リーザさんが御覧になられたそのままです」
「成程な」
「これでわかったわね」
「そうだな」
村人達はこれで納得した。しかしであった。
エルヴィーノはまだ。浮かない顔をしていた。そうしてそのうえで言うのであった。
「しかしだ」
「しかし?」
「エルヴィーノ、まだ言うのかい?」
「僕はこの目で見ていないんだ」
彼はそれを言うのだった。
「彼女が本当に夢遊病なのかどうか」
「やはりその目で見ないと信じられないのだね」
「そうです」
伯爵にも少し申し訳なさそうにはあるが述べた。
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