| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐ 

作者:やつき
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一章 『学園』 ‐欠片‐
  第24話 『乙女の悩み』

――人生において、悩むというのは重要なことである。 悲しいこと、苦しいこと 悩みがどんなことであれ、悩み思考するというのは人を成長させる。

――ここにまた、とある人間関係を悩む少女が居た そして、その悩みを打ち明ける。

『彼女もまた、悩み、苦悩して、そして決断して強くなるのだから』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

梓姫と凰さんが転校してきて数日。やっと周囲は落ち着きを見せてきた。
とりあえず梓姫は転校時にやらかした事については、ちゃんとクラス全員の前で『正確には、アリアとは昔なじみであの時はオレも久しぶりに会ったせいで自分を見失っていた』と釈明した。

彼女の釈明で、ちゃんと理解は示してもらえたそうだが、どうやら楯無から聞いた話だと俗に言う薄い本が製作されているとかなんとか。
本当に恐ろしい、なんというか戦場より恐怖を覚えるとか末恐ろしいわIS学園。

ふと思えば、学園で生活を始めてから結構長い期間がもう経過したなあと思う。
最近オルコットさんの機体の関係のことで主任には直接会ったが、レオンさんやエディさんとは殆ど定期的な連絡や電話でしか会話していない。

そう考えれば、懐かししさと寂しさを覚えてしまう。元気にしているのだろうか、エディさんは真面目な人だからあの変態達相手に過労で倒れないかとても心配だ。
本当にその点だけは心配なのだ。俺もアリアも最も危惧している事態だ。うん、あの人倒れたら多分フランス政府も企業も確実に歯止めが利かなくなって大変なことになる。

フランスや企業といえば、未だにフランスに居るシャルロットだが、どうやらIS学園に来る目処が立ったらしい。

先日、部屋で同室のアリアと共にビデオ通話で定期的な連絡を入れたが、その時に対応したのが運よくエディさんだった。

なんというか、その時対応したエディさんは完全に疲れている顔をしていた。恐らく、軍の仕事が原因ではないだろう。確実にあの『へんたいたち』だろうと俺たちは確信した。

話を戻そう、その時にエディさんから話を聞いたのだが、どうやらシャルロットの専用機が完成したらしい。
現在は最終調整と、会社用のテストデータに……開発部の人達が『試験的な武装』を搭載していると言っていた。

ラファール・リヴァイヴの後継機開発、という事でシャルロットの専用機の拡張領域はかなり広いらしく、そこに搭載するという話があったのだが、そこまでいいいんだ。

ここでまた嫌な予感。念のためにエディさんには確認したが試験兵器を開発しているのは『ネクスト・インダストリー社』だ。

……ああ、嫌な予感しかしない。というよりここ最近は変態達に悩まされることがとても多い気がする。
オルコットさんのアブソリュート・ブルーの時もあの人達は自重しなかったのだ、と言うことはシャルロットの専用機も自重していない。

専用機の件もそうだが、シャルロット本人についてもちょっと問題があるかもしれないとエディさんから報告を受けた。
最初は彼女に何かあったのか、怪我でもしたのかと思ったのだが、どうやらそうではく『毒された』件についてらしい。

つまりは、こういうことだ。


『シャルロット、いい加減少し落ち着いて家に戻りなさい……ほら、休むことも必要だろう?』
『あれ? お父さん確か過労で倒れたんじゃ?――ダメじゃないか!倒れた人が出てきちゃあ!ちゃんと寝てなきゃあああ!!――あ、開発部の方お仕事中ごめんさない、お父さんが療養中に抜け出してきたみたいで、僕の実家に送還してくれませんか?』
『シャルロットお嬢様のご意思のままに――ほら、社長行きますよ、社長はまだ療養中なんですから無理はよくありません    それにシャルロットお嬢様の邪魔になります』
『あれ?今お前達凄く失礼なこと言わなかったかね? ちょっと、スタンガンは不味い、しかもそれは主任が作った――ぐふっ』
『ふふ、おやすみお父さん 大丈夫だよ? 僕、頑張るからね?』


こんな会話があったとかなかったとか。
最近デュノアさんが連絡しても出ないと思ったら、体調崩して療養していたのか。
無理はよくない、ゆっくり休んで欲しい。
そうやって、俺とアリアはできれば見たくない現実から目を逸らした。

つまりエディさんから言われたのは、『もしIS学園に転入したらできるだけ毒気を抜いてやって欲しい』ということらしい。
ごめんさないエディさん、努力はしますが多分無理ですよそれ。一度毒されたら最後、完治しない病ですからあれは。

シャルロットの転入時期だが、大体クラス対抗戦終了後くらいらしい。
本人はとても楽しみにしているらしく、最近はほぼ企業の住居スペースに篭りっきりらしい。
無論、ちゃんと親御さんには定期的に連絡してるらしいが――お袋さんだけにらしいけど。
デュノアさんについては聞くと嫌な予感がしたので聞かなかった。

まあとにかく、色々あるがちゃんとシャルロットがIS学園に来れることが決まって俺もアリアも嬉しい限りだ。勿論、本心から。

そうして現在、午前の授業を乗り切り昼休みとなり、俺とアリア、それからいつものメンバーに梓姫を加えて、食堂へとやってきていた。

「一夏、いつぞやの昼食奢り分、今消化して貰おうか」
「げぇっ……悠、覚えてたのかよ」
「当たり前だ、まさか俺が忘れるとでも思ったか? 甘いぞ一夏、糖分過多と称される例のコーヒーに砂糖を大量に入れたものより遥かに甘いわッ!」
「くっ……いいだろう、約束は約束だ、望みを言え」
「特上洋食ランチ大盛りに追加で増し増し、と後更に追加でコーヒー」
「こ、こいつよりにもよって学園の学食メニューの中で5本の指に入るくらいの奴を……! し、しかも大盛りの増し増しだとッ!?」
「男に二言は無いよなぁ一夏君?」
「わかった、分かったよ! くそう……この外道、鬼畜、鬼、女たらし」
「最後に何つった? おい一夏、お前ちょっと表出ろ、修正してやる」

そんなやり取りを後ろで見ながら苦笑いしている篠ノ之さんにオルコットさん、そしてアリアと梓姫。
今思えばメンバーかなり増えたよなあと思う。最初は俺とアリアだけだったのに。
きっと今後更に増えるんじゃないか、そんな事を考える。シャルロットも来るし増えるんだろうなあ。

ちなみにアリアはオルコットさんの隣や膝の上がお気に入りらしく、昼食を食べたりするときは大抵オルコットさんの隣か膝の上に座っている。
オルコットさん曰くアリア自身、あまり背は高くないので膝の上に置いてもちょうどいいくらいにフィットするらしい。

後、癒し効果だとかなんとか。うちの女子勢は昼食時などは大抵アリアの食事風景を見ながらニコニコしている。
そういえば、梓姫も『ああ、オレもわからんでもないなぁ』と言っていた。

ぐぬぬ、といいつつもちゃんと食券買ってくれて俺に手渡してくる一夏。
ほう、ちゃんと逃げずにやってくれたか。今度俺もジュースを奢ってやろう。
そんな事を考えながら今日も平和ですと心の中で言おうとしたら

「待っていたわよ一夏ッ!」

食券を買ってさて並ぼうか、そう思って皆でカウンターにお盆を持って並ぼうとしていたらそこに現れた一人の影があった。
食券を出すカウンターの通り道な丁度現れたのは、2組の転校生『凰 鈴音』さんその人だった。
しかし凰さん、ラーメン載ったお盆持ちながらドヤ顔するのはいいんですが、そこ邪魔です。ほら、アリア達だけじゃなくて後ろのほうの生徒達も睨んでるし。
ちょっと非常識じゃないかなあ、と俺は思う。

「のびるぞ」
「よお、鈴。カッコつけるのはいいがそこ邪魔だぜ? オレ達食券出せないしさ、ちょっと周りのこと考えような?」
「余計なお世話よ一夏ッ! う……梓姫。 わ、わかってるわよ。あんた達が来るのを待ってたんだから そ、そうよ……どうして早来ないのよ!」

一夏にのびるぞ、と言われた後に少しキツめの言葉を梓姫より受けてたじろぐ凰さん。
いや、梓姫の言ってることはごもっともというか正論だし、後ろの生徒達にも迷惑だったからその発言はいいんだが、ちょい梓姫、お前ドス利かせすぎ。

ただですら見た目と雰囲気が織斑先生に似てるせいもあってか、ちょっと怒気を込めて話したりすると結構ビクッとなる生徒も多いらしい。
梓姫自身も友人としての付き合いを始めてわかったが、アリア以上に几帳面で厳しい。それこそ、礼儀が無い、俗に言うノーマナーを見るとキレるくらいには。

別に梓姫は凰さんが嫌いという事ではないのだと思う。ただ、今凰さんがやったノーマナーが嫌いなだけで。

ちなみにだが、梓姫と凰さんは寮の部屋が同室である。
いや、俺も梓姫の口からそれを聞いたときには驚いたし、アリアだって驚いていた。

なんでも、前あった俺とアリア、そして一夏の部屋割りの一件が原因で編成した部屋割りを迂闊には変えれない事態となっており、急遽同時期に入学となった梓姫と同室になった。
といっても、元々個室だった梓姫にルームメイトの話を織斑先生が話したら、それを快く承諾して、今の状態らしいが。

そんな理由と事情もあってか、ルームメイトの梓姫は凰さんのことをよく知っているし、会話もよくすめ仲らしい。
単純に梓姫が厳しくて、そうやって厳しさを見せると凰さんが逆らえないだけなのだ。本当にこれがあの変態だったのかと思うと、ついつい疑ってしまう。

「ほら、梓姫……鈴も悪気が無かったと思うしさ、怒る気持ちは分かるがそれくらいにしてやってくれないか?」
「はぁ……いいぜ、鈴 一夏もこう言ってるしオレはもう何も言わないよ」

そう梓姫は言うと、丁度彼女が注文した和風定食をお盆に載せて『あそこの席だよな? 先に行ってる』と言うとあいているテーブル席へと向かっていった。

「凰さん、梓姫の奴のこと、あんまり悪く思わないでくれな?」
「悠? わかってるわよ、こないだ同室だって告げられる前にあった時にも悪い奴じゃないってわかってたし、同室になってからもあたしの事思って色々してくれて、怒ってくれてるのはよくわかってるから。 大丈夫よ」

梓姫の発言について俺も何か言おうとしたが、そんな事はどうやら不要だったらしい。
凰さん自身も、ちゃんとアイツがどう考えてるかっていうのは理解を示していた。それに、彼女の顔にマイナスの表情ではなくはどことなく楽しそうな、プラスの表情があった。

ちなみにだが、こないだの梓姫の一件の後に食堂へと向かいその時に俺達と梓姫は凰さんにも自己紹介しているめので、面識もあるし呼び方も名前になっている。
また、凰さんについても同様だ。俺たちの事や篠ノ之さんや一夏達のことも、本人の了承の上で名前で呼んでいる。

ひとまず俺達は各々が自分の注文した昼食を受け取ると、梓姫が確保してくれていた大き目のテーブル席へと移動して、昼食を食べ始めた。
そしてそんな中、最初に口を開いたのは一夏だった。

「そういえば鈴、こないだは梓姫の自己紹介や話やらで話聞けなかったけど、本当に久しぶりだな 丁度一年振りか――元気にしてたのか?」
「勿論、元気にしてたわよ。一夏こそ、昔から変わらず元気そうよね、息災そうで何より」
「あっはは、おう、俺も元気だぞ?」

そんな2人の会話を聞きながら俺達は順調に昼飯を食べていた。
他人の金で食う一番高いランチは格別である。しかもコーヒー付き。
一夏君、本当にありがとう。今日も俺は頑張れそうだ。

おっと、どうやらここで一夏と凰さんの会話に篠ノ之さんが参加、何やら色々ヒートアップし始めている。
だが俺達は動かない、のんびり昼飯を食うことにしよう。
アリアはオルコットさんの膝の上でパンをもぐもぐ食べてるし、オルコットさんも昼食は軽めのサンドイッチとかそんな感じのなので、そんなアリアをニコニコしながら見ている。

うーん、なんというか……姉妹?に見えなくもない。髪の色同じだし。目の色とかは違うけど。
もう大分成慣れたがやはりかなりの破壊力だ。布仏さん、君がここに居なくてよかった。何度もいうがあそこに君が加われば確実に世界と織斑先生が動く。いろんな意味で。

さて、どうやら向こうの3人は長くなりそうだし、恐らく飯食い終わるなあ――そういえば。
そうだ、梓姫に聞いておくことがあったんだ。

「なぁ、梓姫」
「ん……? どうした悠、オレがどうかしたのか?」
「いや、ちょい聞きたいことがあるんだけどさ」
「聞きたい事? なんだよ、オレで答えられることならスリーサイズと女の敵になりかねない質問以外なら答えてやるぞ」
「流石にそんなセクハラまがいな事はしないし訊かないし興味もない」
「何ッ……興味がないのか!? つ、つまりお前は異性に興味がないというのか!?」

何を言いやがりますかコイツは。
俺はため息をついて頭を抱える。
そして残り少なくなっていた昼飯を食べてしまうと、再び言葉を紡いだ。

「……いや、そんなことないけどさ。 話戻していいか?」
「――流石にオレが悪かった。 それで? 何だよ」

というか梓姫さん、貴女イケメンってだけじゃなくてそこに綺麗かつスタイルがいいというもう完全に同性に対して止めを刺すくらいの容姿してるんだぞ。
これでしおらしかったらなあ、と考えるが無駄なんだろう。
というかコイツのしおらしい姿って何だよ、逆に怖いわ。

「今本人は向こうでちょこんとオルコットさんの膝の上に座って昼飯食ってるけどさ、アリアから話聞いたけど――お前、専用機持ち?」
「あー……そうか、こないだ屋上で返答してなかったのかその件については。そうだぜ、確かにオレは専用機持ちだよ 一応、日本のある企業の所属になってる」
「ある企業? どこだよそれは」
「……訊いて後悔しないか?」
「しないから」
「本当だな?」
「本当にしねえよ」

すると梓姫はただ一言『わかった、覚悟はあるんだな……』と言うと自分の残り少なかった和風定食を食べ終えるて、お茶を飲む。

「――『倉橋重工』」
「……すまん、よく聞こえなかった」
「だから言ったろ……悠、お前ただですら心労多いからオレは気を使ってやったのに――『倉橋重工』だよ」
「マジかよ……その、訊いた俺が悪かった。後気ぃ使ってくれてサンキュ」

俺は、梓姫にその質問をしたことを後悔した。
むしろ、知らないほうが幸せだったのではないかと思う。

倉橋重工、名前から分かると思うが日本に存在しているとある企業だ。
が、その名前は色んな意味で有名である。
そう、フランスの『ネクスト・インダストリー社』に引けを取らないほどの知名度と実力、つまりは。
日本のまごうことなき変態企業、それが倉橋重工である。

俺も倉橋重工については知っている。雑誌でもよく出てくるし掲載される企業だからだ。
社長は倉橋勲、妻と一人の娘が居る。そして社長自身がよく雑誌のインタビューで言っている言葉は『一撃必殺 大火力』。

主に重工業用の業務用機械や工具、ロボットにIS関係用品を取り扱っている企業だが、本当にうちの企業に比べても遜色ないほど変態が多い。

特に、競技用ISの兵装として製作されている装備についてはえげつないの一言だ。まさに『凄く、一撃必殺です』というフレーバーテキストに相応しい大火力なのだから。

ちなみに、ISの有名な雑誌『インフィニット・ストライプス』に企業としてもよく掲載されるが、社長の娘さん、『倉橋玲奈』という彼女もよく雑誌のモデルやインタビューに出ている。
俺は今までフランスに居たので日本での知名度はよく知らないが、フランスの友人アレックスに訊く限りは企業としても、そして社長の娘さんの人気も高いらしい。

……まさか、その娘さんまでも学園に来るとかそんな事ないよな。
そうだ、俺の考えすぎだ。もしそうだとしたら これ以上の混沌が学園を襲うことになる だろう。

「梓姫、ちょっと嫌な予感がしたんだが……訊いてもいいか?」
「何だよ」
「俺の考えすぎ?だったらそれでいいんだ。 倉橋重工については俺も雑誌とかで知ってるからいいんだけどさ――確かあそこの社長さんには一人娘がいたよな? 名前は確か――」
「『倉橋玲奈』。オレは玲奈って呼び捨てにしてるけど、何だ? アイツがどうかしたのか?」
「学園に来ることは無いよな? 絶対無いよな?」
「あー……落ち着いて訊けよ? いいか、何があっても取り乱すなよ? 玲奈だけど、恐らく学園に転入してくる可能性はある。というか高い。 アイツが将来ISの技術者志望で学園に来る事を希望しているからな――それから 倉橋っていう家も、玲奈も裏の事情は知ってる。そこんとのこ理由も大きい、かな」

最後だけ小さな声で、俺にだけ聞こえるように言う。そして俺は、頭を抱えてため息をつくしかなかった。
という事はだ、可能性の話として今後近いうちにシャルロットとその倉橋玲奈という人物が学園に来る可能性が高いのか。また面倒な事にならなきゃいいがなぁ……

梓姫の所属企業なのはいい、まだいいんだ。 
だけど倉橋重工の娘だぞ、あの『日本の変態達(もものふたち)』のトップ娘だぞ? 嫌な予感しかしないというかむしろ予感じゃなくて確信じゃないのかこれ。

仮に本当に来たとしよう、シャルロットについては恐らくうちの『へんたいたち』の陰謀が働いて同じクラスだろう。だが、もし倉橋玲奈も来るのであれば1組だけは勘弁してくれ。
凰さんには悪いが、できれば2組かほかで。そもそも、これ以上1組の人口が増えると不味い。色んな意味で不味い。

「……事情はよーくわかった」
「あー、悠――仮の話、来たとして、少なくとも玲奈は常識人つうか、オレから見てもいいとこのお嬢様って感じしかないから、変態とかそんな属性多分ないから、安心しろ」
「それを訊いて、少しだけ楽になったわ」

そんな話を暫く梓姫として、また悩みの種が増えるのかなあとか思いながら、ふと一夏と凰さんの会話に意識を向ける。

「そういえば一夏 アンタ、クラス代表なんだって? 何かトラブルとかあったって訊いたけど大丈夫なの?」
「ああ、まあ――色々あったけど大丈夫だぞ、鈴。 それで、まあ成り行きと言うかなんというか、俺がクラス代表だけど……どうかしたのか?」
「ふーん……あのさぁ、ISの操縦、見てあげてもいいけど?」
「む……なんか癪に触る言い方だな、上から目線と言うかなんというかさ――それに、もう優秀なコーチは沢山居るし、鈴は自分のこと優先してくれって。ほら、代表候補生ってセシリアから訊いたけど色々大変なんだろ?」
「うっ……まあ、確かに大変だけど――優秀なコーチが居るって……?」
「ああ、全距離と知識は悠に、近接戦闘技術はローレンスさんに、剣道の腕と言うかその点は箒、遠距離戦闘についてはセシリアに見てもらってるしさ。毎日放課後にスパルタされてるから、俺としてもありがたいんだ」
「だ、だけど――そ、そうよ……一夏の事は幼馴染のあたしがよくわかってるんだから、あたしが教えたほうが――」
「……それ言っちまうと、箒も幼馴染だぞ。鈴、今日のお前少しおかしいぞ? どうかしたのか?」
「そ、それは――」

あー、一夏……お前はそういえば鈍感で、そして唐変木だったなあ。
凰さんの一夏に対する好意というか、それに近い感情みたいなものは初対面からなんとなく感じていた。

だからきっと、久しぶりに再開した一夏に対して何かしらのアピールはするだろうと思っていたが、それがこうも簡単に一夏によって無駄になるとは無残すぎる。
ここは助け舟を――

「一夏、少し待って欲しい」
「箒?」

おや、今まで黙って一夏と凰さんの様子を見ていた篠ノ之さんが動いたらしい。
なら、俺は動かなくてもいいかな。篠ノ之さんなら、きっといい方向に事を進めてくれるだろう。

「そうやって人の善意を無碍にするとは、男としてどうかと私は思うぞ? 鈴だってお前のことを思って言ってくれているんだ、それをまるで『間に合ってます』というように返すのは失礼と言うものだろう?」
「えっと、箒? あたしは気にしてない――」
「一夏だけではない、鈴もだ」
「あ、あたしも?」
「ああ、そうだ。確かに、一夏のためを思って、一夏を強くする為にその提案をしてくれたのは一夏の特訓を見ている私としても嬉しい。だが――忘れてはいないか?鈴、お前は2組なんだ」
「それがどうしたって――あ……そうか」
「気がついたか? 『一夏はクラス代表で、鈴もクラス代表』なのだ。つまりは、少なくともそれが終わるまでは敵同士――いや、言い方が悪いな。ライバル同士と言ってもいい。そんな相手に、自分の特訓を見せて手の内を晒すだろうか? 私なら、晒さない」
「い、言われてみればそうよね……」
「ああ、一夏もそう考えていたのではないか? だが、どう返答していいかわからなかった。だからあのような最低とも言っていい返し方をしたのだろう? だから鈴、すまないが――その提案は対抗戦が終わるまで保留にして貰えないだろうか? 私としても強くなった一夏をいきなり晒すのはあまり気分がいいものではない。だから、すまないが――」
「……箒のと言う通りね。いいわ、じゃああたしは対抗戦で一夏がどれだけ強くなったのか、楽しみにしておいてあげる。絶対に勝ち上がってきなさいよ? 一夏」

なんというか、篠ノ之さんは元々芯が強くて意思があると思っていたけど、本当に入学当初とは比べ物にならないくらい変わったよなあと思う。
最初は不器用で、自分の思っていることも上手く言えなくて、確か前に一度竹刀で一夏に襲い掛かろうとしたのだが、そんな事はもう二度と無かった。
何を彼女をあそこまで変えたのかは知らないし、もしかしたら一夏の強さやあいつの持つ人を惹きつける強さによって変わったのかもしれない、そう思った。

「……そうだな、悪い鈴。俺がどうかしてたよ。だからさ、箒の言うように対抗戦が終わったらさ、俺の特訓お前も見てくれないか? だけど、対抗戦は俺も勝つつもりで行くからな」
「いい度胸じゃない、一夏――じゃあ対抗戦までは敵同士、ううん、ライバル同士って事ね。 楽しみにしてるからね?」

篠ノ之さんのお陰で綺麗にまとまったなあ。
そう思いながら、いつのまにか昼食を食べ終えたオルコットさんとアリア、そして梓姫と共に『うんうん』と頷いた。
だけど、ここで一夏の馬鹿が爆弾投下してくれる訳で。

「そういえば、親父さんは元気にしてるか? あの人、昔から元気だったからさ――心配ないと思うけど、どうしてるんだ?」

一夏のその言葉により、今まで笑顔だった凰さんの顔が曇る。
その表情には、なんというか――辛さと痛みと悲しみが感じられた。
一夏はもしかしなくても一番踏んではいけない地雷を踏んだんじゃないかと思う。

「――なんだ」
「ん? 何だって?」

「行方不明、なんだ……お父さんは」

その言葉で一気に沈黙する俺達。そして一夏は『やってしまった』という顔をする。
そして、一夏は困惑しながらも言葉を続けた。

「行方不明って、どういう――」
「……ごめん、事情は今度話すから。 ほ、ほらもうお昼終わるわよ!? あたしもいい加減行かないとダメだし、皆も行かないとちふゆさ――織斑先生に怒られちゃうよ! それじゃあ、またね!」

それだけ言うと、凰さんはそのまま逃げるようにお盆を持って食器を返却し、そして最後にこちらに向けて無理に作った笑顔を向けて食堂を後にした。
後に残ったのは沈黙と、なんともいえない空気だけで――ひとまず、俺達も織斑先生の怒りだけは買いたくなかったので急いで授業へと向かった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


時間は流れて夜、今日の昼は凰さんの事で少しあったが、その事を再度気にする余裕も無く夜になってしまった。

現在俺とアリアは同室なので、お互い夕食やシャワーを済ませた後は、織斑先生の『地獄の課題』に取り組んだり、後は自分の機体のメンテナンス、必要なら本国や企業への連絡を行っていた。
後、最近の俺のマイブームは『鈍器になる本』を読むことだ。

学園に来る際にアレックスに勧められて読んで以来、完全にハマってしまった。
だが、人気の作品なのか学園の近くの書店を探しても中々見つからず、少し残念に思っていたのだが、そこに救世主が現れた。

『あれ、私全巻持ってるよって言わなかったっけ。向こうからそのシリーズだけなら持ってきてるから、ユウがよければ読む?』

と、アリアからそんな提案が。
有難いと思った、何故ならばアレックスに手渡されたのは何故か最終巻で、面白くはあったが内容がちんぷんかんぷんだったからだ。
勿体無い、こんなに面白いんだから最初から読みたいと思っていた矢先にアリアの提案があり、助かった。

とにかくあの作者は、書き方が上手い、そして人を引き込むような書き方を知っている。
あの厚さから確かに読む人は選ぶだろうが、俺としては好きな作品だ。新作も何気にチェックしている。

特に今日はやる事も無かったので、アリアから本を借りて読んでいるのだがずっとアリアがニコニコしながら機嫌がよさそうにこちらを見ている。
なんで機嫌がいいんだろうか。いい事でもあったんだろうか。

そんな事を考えつつ、本を読み進めていると――コンコンッ、とドアがノックされた。

「あれ? 誰だろ」
「織斑先生か? もしかしたら一夏とかかもしれないし――ああ、俺が出るよ」
「ん、お願い」

読みかけの本にブックカバーについているしおりを挟むと、まだ読みたいという名残惜しさを残しつつ俺は本をテーブルの上に置いて立ち上がり、来客者の対応に向かった。

「はいはい、どちらさん?」
「ああ、オレだよオレ」
「新手のオレオレ詐欺か? そんな手には引っかからんぞ――と、冗談はさておき。 梓姫? どうしたんだ、こんな時間に?」

来客者は梓姫だった。扉を開けるとそこに居たのは普段の彼女とは違い、後ろで1つにしている豊かな黒髪を解いており、服装も私服と言うか、恐らく寝巻きだとは思うが浴衣っぽいものを着用していた。

服装が服装で、改めて見ると彼女が女の子だって事がよくわかる。なんというか、普段のボーイッシュな感じが結構抜けて、かなり女の子らしいというか、どこかの有名なお屋敷のお嬢様みたいな。
いや、確か楯無から聞く限りなら彼女も相当なお嬢様なんだろうけど。

「ん、そうだな――夜這いって言ったらどうする?」
「お前、冗談でも言っていい事と悪いことがある。お前も女の子だろうが、少しはそういう発言は考えろ――後、後ろにアリア居るんだぞ」
「はは、オレからのちょっとした冗談だよ――アリア、頼むから待機状態の機体に触れるのはやめてくれないか、いや、流石に度が過ぎたから、謝るから」
「……シキ、ユウに変な事したら殺すって言ったよね」
「いや、本当に悪かったって――ちょっとさ、2人に話というか、協力と言うか……とりあえずアリアもこっちきてくれるか」

殺意全開のアリアだったが、どうやら梓姫としては本題は真面目な話らしく、それを確認するとため息をついて座っていたベッドから立ち上がるとこちらに歩いてくる。
そして、こちらに来たアリアは完全にジト目だった。アリア曰く昔よりはマシになったそうだが、これより酷かったってよっぽどだったのかと思う。

「とりあえず本題、鈴の事なんだがな――ちょい、不味いことになってるつうか、オレじゃどうしようもないっていうかさ……」
「何だ? 凰さんがどうかしたのか?」
「単刀直入に言う、一夏がやらかした」

「はぁ?」
「え?」

俺とアリアは、そんな気の抜けた返事しか返すことができなかった。
ひとまず、一度梓姫を部屋に入れると事情を聞くことにした。
そして経緯としては

『部屋で凰さんと話をしていたら、突如として凰さんが顔を真っ赤にして「思い出した!」 と叫んで梓姫に対して「一夏の部屋に言ってくる」とだけ言って部屋を後にする』
『流石に梓姫も慌てて、とりあえず凰さんの後を追う、それで一夏と篠ノ之さんの部屋に一緒に行って凰さんが話すのを見ていたらどうやら一夏と何かの約束をしていたらしいということ』
『で、その約束が「大きくなったら、毎日酢豚を食べてもらう」という約束だったらしい。その事について顔を真っ赤にして凰さんが話すと篠ノ之さんも動揺する』
『だが一夏が返答として返したのは「毎日酢豚を奢ってくれるという約束」という認識だったこと。それを聞いた瞬間凰さんが怒って一夏を平手で殴ると、そのまま泣いて部屋を出てしまったということ』
『そして現在、なんとか梓姫が泣いていた凰さんを見つけ出してなだめながら部屋に連れ戻ったと言う事』

状況としてはこんな感じらしい。
で、それを聞いて俺とアリアは「はぁ……」とため息をつくと同時に怒りしか沸いてこなかった。

つまりだ、確かに言い方が悪かったかもしれないし単純な口約束だ、口約束と言われてしまえば確かにそこまでである。
だが、凰さんが言ったのは、ええと日本で言う――『毎日自分の作る味噌汁を飲んで欲しい』、だったか。それに等しい言葉なのだ。
要するに、プロポーズだ。求婚だ。愛の告白であり、自分の好意を相手に伝えるための言葉だ。

鈍感で馬鹿で唐変木の一夏だ。それが気がつけるとは思えないし、聞く限り結構前の話らしい。
だからこそ、一概に一夏が悪いとは言えない、だけど――

「あの馬鹿一夏ァ……!」
「最ッ低……ッ! 女の敵だね、やっぱり粛清するべきかな? ユウ」

そうだ、口約束だし一夏に伝わっていなかった可能性もあるのだ。だからその点では一夏のせいとは言えない。
だけど、一夏は俺としても許せん事をやったのだ、それは凰さんを泣かせた、『女の子を泣かせた』という事だ。理不尽かもしれない、一夏にも言い分はあるだろう。だがしかし、泣かせたのだ、傷つけたのだ。理由としてはそれだけで十分であった。

それがプラスの意味でならいいのだろうが、一夏の発言したそれは、負の意味での、つまりは悲しみの涙を、傷つけられた時に発生する涙を引き起こした。
俺とアリアが許せないのはそれだ。

「後……この部屋は盗聴とか大丈夫だよな?」
「ああ、一応警戒はしてあるが――何だよ」
「昼の事、覚えてるか? ほら、鈴の親父さんが行方不明になってるって話」
「ああ、覚えてるけど……」
「あの場だから言えなかったけどさ……鈴の親父さん、もしかしたらというか、下手したらなんだけどさ……中国で起きた変な事件に巻き込まれてる可能性があるんだ」

何だ、それは。
梓姫は複雑な表情をすると、その件について話し始めた。

「鈴には悪いと思ったが、調べさせてもらった。そしたら、確かに鈴の両親は中華料理店を経営していた。だけどそれは表向きだったんだよ。鈴の親父さんとおふくろさん、オレが調べた限りじゃ――研究者だったんだよ、ISのな」
「なッ――」
「そして、だ。鈴の親父さんとおふくろさんは離婚をしている。親権はおふくろさん持ちで、鈴はそっちに引き取られた。それで――離婚して暫くして、鈴の親父さんは消息を絶っている」
「それは、どういう……」
「それはオレもわからない。だけど……1つだけハッキリしてるのは、その鈴の親父さんが行方不明になったことが『一切報道されなかった』事なんだよ」

大体の予想はついた、だが――梓姫の言う事はかなり残酷だ。
そして、この話は凰さんには知られちゃいけない、もしそんな事をしたら……彼女は、壊れてしまうかもしれないから。

「確かに、たかが一人の人間だ、だけど繰り返すが鈴の両親は娘には黙っていたかもしれないが『研究者』だったんだ、そして研究者が行方不明になった――小さいなりでも、報道くらいはされると思わないか? それがなかった。何でだろうな?」
「……『亡国機業』」
「ビンゴ、可能性としては高いな」

そう、つまりは――鈴の親父さんが行方不明になった経緯は、俺の相棒を当初凍結する予定だった担当者、引き渡す予定だった人物『ハリソン・ラーロング』という人物の消え方に酷似しているのだ。
何かしら知っちゃいけない事を知ったから消されたか――それとも単純に自分で行方をくらましたか、何にせよ『いい事情ではない』というのは確かだ。

それがどちらにせよ、この件については凰さんには知られてはいけない。彼女は、自分でその真実を欲してはいないだろうし、そもそも知らないのだ。
もし、もしも――彼女が自分の意思で知りたいと望むなら、俺は教えてもいいと思ったが、今の彼女にこれを伝えてはいけない。先程も思考したが、そんなことをすれば彼女は壊れてしまう。

「とりあえずは、理解した――その件については俺も本国と企業に伝えてみる。 それで、今凰さんは?」
「……部屋で泣いてるよ。というか、こっちが本題かな――オレじゃどうしようもなくてさ、ほら、アリアは知ってるかもしれないがオレ、人の相談とか乗るの下手糞でさ……ちょい、協力してくれないか」
「りょーかい……アリア、はどうする?」
「私も行くよ。流石に――同じ女の子としても今の凰さんはほっとけない」

ひとまずは、難しい事は置いておいて、凰さんの悩みを解決することから始めようか。
そう俺は、内心で考えながら一夏に対してどうしてくれようかと考えた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


さて、現状について整理しよう。
ひとまず梓姫の話を聞いて俺とアリアは梓姫と凰さんの部屋へと到着。
そして、部屋の中に居たのは、ベッドの上で枕を抱えながら泣いている凰さんだった。

凰さんは俺とアリアが来た事に驚いて、急いで自分の目をこすると無理に笑って見せてくれたが、なんというか見ていて辛かった。

だから、俺とアリアでよければ話を聞く と提案したら、目を見開いた後に再び泣いてしまった。
先程一夏に対して女の子を泣かせた、という理由で憤ってしまったが自分も今泣かせているということに変わりはない以上、なんというか複雑な気持ちではあった。

部屋の中にある椅子に座ると、ベッドの座る凰さんは相談や愚痴くらいなら聞いてやる、と言った俺達に対して何があったか全て話してくれた。
その上で俺が思ったのは、やはり一夏は一発殴るべきだという事だった。

「……うん、リンは悪くないよ――悪いのは全部織斑君、女の子との約束を忘れるだけじゃなくて意味を取り違えるだけでも最低、それとリンを泣かせた事がもっとも最低」
「まぁ、な――男の俺としてもちょっと思うところがあるのは事実だからなあ。この落とし前、どうしてくれようか」
「アリア、悠――うん、ありがとう。 なんていうかね、話し聞いてもらってこうやって相談に乗ってもらって、結構楽になった。 梓姫もありがとう、2人を連れてきてくれて」
「気にすんな、オレは大事なルームメイトで友人が泣いてるのをほっとけなかっただけだからさ」

当然だが、梓姫と話をしたあの話は伏せた。絶対に知られちゃいけないから。
さて、真面目に一夏にはどう落とし前をつけさせようか。放課後の特訓で一度全力でボコるのは確定として……前にアリアが言っていたが俺とアリア、オルコットさんでひたすら追い回してやろうか。
そうだな、それがいい。一夏のためにもなるし一度奴とはお話をする必要がありそうだし。

「リンは――その言葉を、織斑君への好意として、自分の気持ちとして伝えたんだよね?」
「なっななな、何を言ってるのよアリアっ! あ、あたしはその――」
「隠さなくていいよ、だって――もしそうなら、それはとても勇気のあることだと思うから。そうやって自分の心の奥底の気持ちを相手に伝えるって言うのは、とても難しいから。少なくとも、私にはできないよ」
「アリア、えっと……」
「ふふっ……リンは、織斑君が好き?」
「――うん、あたしは一夏が好き えっと、ここだけの話にしてね?勿論梓姫と悠も」

俺と梓姫は『わかった』と返答すると、凰さんは言葉を続けた。

「あたしね、昔いじめられてたんだ、それで――そんなあたしを助けてくれたのが一夏だった。一人だったあたしに、いじめられていたあたしに手を差し伸べてくれたのが一夏だった。一夏と出会って長い時間一緒に居ることで、一夏のことが――好きになっていた。中学2年の時にね、中国に帰ることになって、一夏と一緒に過ごした証が欲しかった、一夏を諦めることなんてあたしにはできなかった。だから――あたしなりの方法で気持ちを伝えた、だけど……結局はダメだった、気づいて貰えなかった。ダメだよね、あたし」
「そんなことない」

そう言うと、立ち上がって凰さんをぎゅっと抱きしめるアリア。
そして、そんな状態でアリアは凰さんに対して言葉を続けた。

「ア、アリア?」
「ダメじゃないよ、リンは――自分の気持ちに素直になって、それで行動できたんだから、『何もしない』というより遥かに凄いと思う。そうやって自分の意思を貫いて、恋愛っていうもので一歩踏み出したリンはダメなんかじゃない。確かに、リンの言うように織斑君には伝わらなくて、傷ついたかもしれない。だけど……結果はどうあれ、その過程と勇気は、私は凄いと思う。 だからね、リン――私から提案」
「……何?アリア」
「織斑君を見返そう。それがきっと自分の中での自己満足でも構わないから、一回織斑君に分からせてあげよう? 織斑君がリンの好意に気がつけなかったことを、後悔させてあげよう? 『貴方に対して好意を差し出した女の子は、こんなに強くて、そしてちゃんと貴女のことを見てるんだ』って」
「アリア……うぁ……あたし、あたしは――」
「いいよ、泣いても。泣くことも必要だし、そうやって自分に無理させないっていうのは、凄く大切だと思うから――だから、今は、ね?」

アリアには、なんというか――母性的な力があると思う。
人を認めてあげれて、その上でちゃんと見てあげられる。
シャルロットにも似たようなものはあったと思うが、アリアのそれはより母性的と言うものに近いと思う。
先程、彼女は恋愛と言った。だったら――

俺が、アリアに対して抱いている感情は何だ? アリアの事を家族として見ているのか? それとも仲間か?  もしくは、そのどちらでもないのか?

俺は、そんな――自分自身がわからなかった。


そして、暫くアリアに抱きしめられながら凰さんは泣いていた。ひとしきり泣いた後に、凰さんはどこかスッキリしたような顔で俺達に言った。

「……ありがとう、3人とも。あたし、決めた――対抗戦で一夏を倒す。そして、もし勝ったらわからせてやるんだ、『一夏を好きになった女の子は、ここいにる』って」
「うん、その意気だよ。ひとまず――ユウ」
「ああ、そうだな」

俺とアリアは、恐らく同じ事を思っているだろう、だからこそ俺は言った。

「とりあえず明日、一夏ボコる 慈悲は無い、全力で」
「明日、放課後織斑君を粛清だね?」

実に清々しく、そして笑顔で俺とアリアはそんな物騒なことを言った。
いや、流石に一度やらないと収まりがつかないと思ったから。
そんな俺達を見て、梓姫と凰さんはただただ、苦笑していた。


そうして、凰さんの一件があった翌日。
学内に大きく張り出されている張り紙があった。
その内容は『クラス対抗戦日程表』。

そこに書かれていたのは――

「なんというか、なぁ……」
「意図的じゃなくて運命的?な物を感じるよね、ユウ」

そこに書かれていたのは、第一回戦 織斑 一夏対凰 鈴音 という文字だった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―― 一人の少年に対して恋をした少女は、今の現実を見て何を思うのか。 そして、それを理解したうえで、どう行動するのか。

――クラス対抗戦、彼女にとって1つの決意でもあり、ケジメでもある戦いが、今始まろうとしていた。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧