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IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐ 

作者:やつき
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第一章 『学園』 ‐欠片‐
  第23話 『「俺」と「オレ」』

――変な奴と俺は出会った 女の子なのに自分のことを『オレ』と言うやつ。 何度聞いても男口調の女の子に。

――そう、アイツは変なやつだ。 人の気持ちに敏感で、勘が鋭くて、俺と同じで人を弄るのが好きで、口は悪いくせに他人の為に動く。 そして『自己犠牲』が大好きな、本当に変なやつだ。

『そんな奴だからこそ、俺は信じたのかもしれない』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

転校生の木篠、そいつのいきなりの衝撃発言というか、その行動に俺は唖然としていた。
いきなり核爆弾級の何かを教室に投下したソイツに対して俺はただただ、背中に隠れるアリアを見ながら呆然とするしかなかった。
いや、本当どういうことだこれ。というかアリアさん、ガチ泣きしながら背中に隠れないで下さい。

状況を整理しよう。そして落ち着こう。まずは状況と情報の整理だ。
まず奴について、漆黒の長髪を後ろでまとめている、男口調、ボーイッシュ、イケメン、だがスタイルはよく綺麗の部類、黒尽くめ、だが女だ。
『だが女だ』物凄く大事なことなので2回思考した。
……そして、奴は先程なんと言っただろうか?

『オレは、そこに居る『アリア・ローレンス』に心奪われた存在だッ! 会いたかった……会いたかったぞ、アリア!!』

まぁそりゃ、あんな事言われたら逃げたくなるだろうなぁ……
そんな事を俺考えるが、当の核爆弾級の発言を投下しやがった木篠はビシッと右手人差し指で俺とアリアを指差していた。
そして指差しながら決めポーズをしている木篠は、とても嬉しそうにニヤリと笑いこちらを見ていた。

ひとまず、この状況を何とかしよう。
背中にしがみ付きながら完全にガチ泣きしているアリアもなんとかしてやりたいし、というより何度も言うが当たってる。

そのうち理性飛ぶぞ俺。意図的なのか無意識なのかははっきりしないが、こんな状況で気恥ずかしさを覚える。いけないな、心身滅却だ。
我が心 明鏡止水 されどこの想いは烈火の如く。身体はHOTに心はCOOLにだ。

……そういえば、先程の木篠の発言だが、少し気になったことがあった。

『オレは、そこに居る『アリア・ローレンス』に心奪われた存在だッ!』

ここ。この発言から思ったんだが、もしかしてコイツはアリアの何かしらの知り合いか?
だが知り合いにしては、アリアがこれだけ怯えきっているというか涙目になっていねのもおかしい。
……まぁ、普段シャキッとしてる癖にこういうの見ると新鮮で可愛いんだけどさ。

色々考えた結果、あの発言から察するにアリアの何かしらの知り合い……なのだろう。本人がどう思っているかは知らないが。

よし、状況整理完了。だが俺の立場は絶望的、こちら悠、一夏に篠ノ之さんにオルコットさん、救助を請う。

だが現実とはやはり非情である。一夏や篠ノ之さんに助けを求めて視線を送ったらあからさまに視線を逸らされた。

オルッコトさんだけは少し迷っているような感じはあったが、苦笑いしているだけだった。
アリアがガチ泣きしてるし、多分それで何かしようとしてくれたんだろうなあ。

他の2人と違ってそんな素振りを見てくれただけでも俺は嬉しい。ありがとう、オルコットさん。気持ちだけでも俺は嬉しいです。
ひとまず、救助は期待できないので行動を起こすことにしよう。

「あー……木篠?でいいんだっけか。 色々言いたいことはあるんだが……アリアと知り合い?」
「ん? ああ――そうだな、知り合いといえば知り合いだ。 なんならアリアにでも聞いてみたらどうだ?」

そう言われて俺は未だにガッシリと背中にしがみ付きながら隠れているアリアを見る。
まだ涙目だし、知り合いって言うけど本当に知り合いなのか、アリアのこれを見たら疑わしくなってきたぞ。

「アリア、ああ言ってるけど?」
「知らない あんな人知らない――私の知り合いにあんな重度のストーカーで変態は居ないよ!」
「おいおい、酷いなあ――あの時はあんなにオレとお互いを確かめ合ったじゃないか」

は?何を言ってるんだコイツは。お互いを確かめ合った?それはつまり――そういう事なのだろうか?
落ち着こう。そうだ落ち着こう俺、冷静になれ。つまり――アリアと木篠はそういう関係なのか?
ふむ、これは大変だ。急いでフランスと企業に連絡しないとな。

「誤解を招く言い方しないでッ! ユ、ユウ?違うんだよ? あの人が勝手に……」
「アリア……疲れてるんだよお前は。一度学園に休学申請してフランスに帰ろう?――そしてエディさん入れて家族会議な」
「だからッ!違うの、違うんだって! もぉやだよぉ……えぐっ、ひぐっ……」

とうとうアリアが完全に泣き出してしまった。おいちよっと待て、これじゃまるで俺が泣かせたみたいだろ!?
そし俺に集まるクラス全員と先生の視線、いや、俺じゃ無いぞ? 俺はアリア泣かしてないからな!?

「月代」
「織斑先生、先に釈明しますがアリアを泣かせたのは俺じゃありません」
「知っている。1つ聞くが……お前、木篠とは知り合いか?」
「違います――まあ、話くらいなら聞いてましたけど会うのは今日が初めて、初対面です」

そうか、と先生は一言言うと、ため息をついて言葉を続けた
織斑先生……心労、お察しします。

「木篠……とりあえず、何か言いたいことはあるか? 転校初日にいきなりこれだけの事をやらかして、そしてローレンスを泣かせたんだ――無論、覚悟はあるんだろうな?」

その言葉と共に最終兵器という名の出席簿を構える織斑先生、既に通過儀礼になってるけど……あれ、死ぬほど痛いぞ。
それを見て危機を感じたのか、木篠は苦笑いしながら後ずさると……いきなり先程とは変わって、真面目な男口調になった。

「あはは、少し冗談の度が過ぎました、申し訳ありません織斑先生。ですが、彼女とオレが知り合いというのは事実です  ほら、アリアも悪かった、オレも反省してるからさ」
「こっちに来るな、寄るな、近づくな、さっさと帰れこの変態ッ! 」
「相変わらずオレに対しては酷いなあ、まあそこもいいんだけどさ」

これだけアリアが嫌がるって言うのも相当だと思う。
しかし、木篠は一体過去でアリアに対して何をやらかしたんだろうか?
聞いてみる必要があるんだろうなあ、うん。

「アリア、とりあえず落ち着けって、奴もやりすぎたって謝ってるんだしさ」
「ユウは何も分かってないッ!アイツが、シキがどれだけ変態で悪質で陰湿なのかを!」

あれ……今アリア、『シキ』って呼ばなかったか?という事は本当に知り合いか。
それも名前で呼ぶくらいの親しさの。
後アリア、今お前確実に地雷踏んだ。いつものお前ならこんなミスしないんだろうがなあ。

その言葉を聞いてこちらに笑顔を向ける木篠。うわ、俺から見てもイケメンだやっぱり。それに女の子らしさがある笑い方だし、中性的な奴の破壊力って凄いよなあ。

「今、オレのことやっと前みたいに名前で呼んでくれたな?」
「う……し、知らない!」
「相変わらず面白い奴だなあアリアは」
「……織斑先生、ISの使用許可を。今すぐ忌まわしき記憶と共に彼女を始末させて下さい、切実にお願いします」
「おお、怖い怖い」

なんというか、完全に涙目でキレてるアリア。できれば肩に添えてる手に力を入れるのをやめてほしい、結構痛い。
そして、さり気なく首のチョーカーに手を触れるのをやめなさいアリア、本当にやる気かよ。

はぁ……本当に、世話が焼ける――ま、約束したしな。助けてやるってさ。
そう思うと、俺は背中にしがみ付いているアリアの頭をポンッと撫でてやる。

「ユ、ユウ!?」
「いい加減落ち着け、アリア――さっき言ったろ?『その時はちゃんと助けてやるさ』ってな。 とりあえず木篠、アリアも大分困ってるみたいだしこれ以上弄るのはやめてやってくれないか? 一応、俺の大事な『家族』なんでな」
「あ、あぅ……」

そう言うと、完全に俯いてしまい、先程とは違う様子のおかしさを見せるアリア。
やはり体調も悪いんじゃないか? ふむ、騒動が沈静化したらやはり保健室に連れて行くかと俺は思う。

「へぇ……なるほど――そうかそうか、お前がアリアの…… いや、こりゃあ失敬。わかった、さっきも言ったけどオレも度が過ぎたよ。済まなかった それで、そこのアリアの家族の人? 名前聞かせてもらっても良いか?」
「俺か?――蘭西国企業連所属、月代悠だ。月代でも悠でも好きなように呼べ」
「ふむ、そうかお前が2人目の――じゃあ悠と呼ばせてもらうよ、オレの事も梓姫でいい さっきはいきなり失礼したけど、改めて。これからよろしく頼む――織斑先生、久しぶりに知人と再開したもので度が過ぎてしまいました。申し訳ありません」

そう木篠が言うと、お約束と言うか俺と木篠のやり取りを見て騒ぎ始める女子一同。もう慣れた、変な発言が飛んでくるのももう慣れた。慣れないとここでは生き残れない。
そして織斑先生が本日何度目になるのか、疲れたようなため息を吐くとこちらを見ながら言った

「……まぁいいだろう。ひとまずお前の席は――そこだ。 さて、それでは朝のSHRを終了して授業へと入る。 色々頭は痛いが切り替えるように……」

そう先生が言うと、今日もまたIS学園での一日が始まった。
ただ、いつもと違うところを挙げるとしたら『新しい仲間』が今一人増えて、そして恐らくまたもう一人増えるということ。
このときの俺はそれをまだ知らなくて、そしてアイツの事も『アリアが嫌がるぐらい変な奴』という認識くらいしか持ってなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

時間は経過して、お昼休み。なんだかんだで朝から色々あったが俺は元気です。
ひとまず、現在まではそんな余裕殆ど無く、アイツ……木篠についてアリアから聞くことはできなかったが、いい加減ちゃんと聞いてみようかなあと思った。
一夏達に『すぐ行くから、先に食堂行っててくれ』と言うと、事情を察してくれたのか3人はふたつ返事で『わかった』と返答して先に食堂へと向かっていた。

さて、朝は朝で大変だったし、授業の合間の休み時間はもう恒例だが女子達が木篠のほうへと流れていたので話をする余裕もなかった。
だから俺はアリアから直接話を聞いてみようかなあと俺は思った。

俺は朝から俯きっぱなしのアリアを連れて、人があまり居ない屋上へとやってきていた。
アリアだが、朝からずっと俯いていて、顔もどこと無く赤いがどうかしたのだろうか。
やはり本当に体調が悪いのだろうか。
ならば、保健室へ行くようにちゃんと言うべきなのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えると、俺は周囲に人が居ないのを確認して口を開いた。

「それで……アリア、あの転校生――梓姫とは知り合いなのか?」
「う……し、知らない あんな人知らないよ、ユウ」
「嘘が下手だなお前は――アリアさ、焦ったりしてる時に自分の髪を右
手で弄ってるの気がついてるのか?」
「な、なんでそれ知ってるの!? というより、よく見てるねユウ……」
「なんだかんだ、付き合い長いからな それで? 俺にも言えない事か? まぁ……無理強いはしないさ。単純にちょっと心配になっただけだから、お節介だったら悪い」
「……ううん、ありがとう。心配してくれたんだよね? あんまり思い出したくなかったし、それに人が多いところで話したくなかったから」

その時のアリアは、どこか辛そうで、顔は笑っているのに無理してるみたいで。
もしかしして俺は、自分のお節介で彼女に嫌な思いをさせているんじゃないだろうか?
だしたら……最低だ。やはりすぐに俺が謝って――
そんな事を考えていたが、先に彼女が意を決して話し始めた。

「……ユウ、私と出会った頃の私、覚えている?」
「ああ、覚えてる――忘れるわけも無い、だってあれが無かったら俺は今こうしてここに居る訳もないし、いろんな人に出会うことも無かった」
「あの時の私、ううん――昔の私、変だったよね? 死に急いで、生きる為とはいえ沢山殺して。そして、そんな殺し合いの中じゃないと自分を表現できなかった」
「アリア、その……」
「ユウ、何も言わないで――彼女……シキとはね、そんな私だった時に出会ったんだ。 そして当時『私も彼女も、殺し合いでしか自分を表現できなかった』」

その言葉を聞いて、俺はただ黙るしかなかった。
だってあの時のアリアは、出会った時のアリアは――本当に悲しい目をしていて、それなのにそんな自分に気がついてなくて。

嘘ついて、傷つけて、偽って。ただ死に場所を求めるだけの『マシーン』だったから。
俺はそんな、『映し鏡』だった彼女を、IFの自分だったかもしれない彼女を放っておけなかった。無視できなかった。
そして、心から助けたいと思った。だからあの時あんな事があって、それから色々あって今の関係がある。

アリア自身も変わって、そして昔のことを思い出すのはあまりしたくないらしい。
『今思えば、私馬鹿だったよね』そう、前にも呟いていたのを覚えている。
だから俺は、自分の発言で彼女にそれを思い出させるのは少し嫌でもあった。

「……アリア、悪い」
「ん……? なんでユウが謝るの? もし私の事気を使ってくれてるなら大丈夫だよ、それにね、今の状況からして彼女との事はちゃんと話さないとって思ってたから」
「分かった。だけどもし、辛くなったら話をやめてくれ――そんな、無理させてまで話は聞きたくない」

アリアは『ありがと、気を使ってくれて』と一言言って笑うと、アリア自身も周りに人が居ないことを、自分達やこの話の関係者以外が居ないことを確認すると言葉を紡いだ。

「私とシキの関係は……『お互いに殺し合い』をした関係。今だから言うね? 昔ある依頼があってね、匿名でのある人物の暗殺――だけどね、それは罠だった」
「罠?」
「うん、暗殺対象が居ると指定されていた場所に行くとね、そこには『一人だけ少女』が居た。そして、その子がその時の私の暗殺対象、だけどね……その少女、気がついてると思うけどシキにも事情があった」
「……」
「本当は、本人の口から直接聞くべきなんだろうけど――ユウから転校生の話を聞いた段階で少しだけだけど嫌な予感はしてた。ここは日本だし、『シキが対暗部の人間だって私は知っていた』、だから……更識先輩の話と、織斑君の護衛の話を聞いてもしかしてとは思ってた。ユウは転校生が『対暗部の人間』とも言ってたから尚更にね。まあ、私自身杞憂だ、考え過ぎだって思ってたんだ。 話を戻すね? 簡単に言えば 私はシキを殺せと命じられて、そしてシキは対暗部として私を殺せと命じられていた。 だから、その通りに私達は殺し合いをした――だけど、そんな展開自体が罠で、本当は『私とシキを殺す』のが本当の狙いだったらしい」
「……それは」
「うん、完全にハメられたよ――だけど、私もシキも一流の自覚はあった。だからね……あの時、私達を殺そうとした奴らを皆殺しにして、そしてその場に居た、それまでわからなかった私への依頼主とシキに罠を仕組んだ張本人を殺した。『本来、殺し合いをする関係』それが私とシキの関係だよ」
「そうか――何も言わないよ、アリアにはアリアの事情があったんだ。だから同情も慰めもしない、だけど―― 一言だけ『それは昔のアリアだろ?』」
「うん、そうだよ。昔の私、ユウと出会う前の私だよ、だから、今の私はもう大丈夫」

大丈夫、そう言った彼女は笑いながら、そしてそれは迷いの無い意思が篭った笑顔だった。
きっと今の彼女は俺も昔とは違うから、当たり前みたいに、ごく普通の女の子みたいに笑って、怒って、だけど強い意志と信念を持って俺とは違う道を歩んでいる、そう思っているから。

だがしかし、アリアと梓姫の過去と関係は理解できたが、どうしてアリアはあそこまで梓姫を忌み嫌うんだ? 殺し合いをした関係、にしては少しなんというか……別のものを感じる気がする。

「アリア、事情は理解した――だけど、梓姫をあそこまで過剰に嫌う理由は何だ? その……涙目にまでなって嫌がってるアリアなんてはじめて見たからさ」
「あー……ゴメンね、ユウ。恥ずかしい所見せちゃったと思う。本当あの時取り乱してて……私がシキを嫌ってるというか、避けてる理由は1つだけだよ」

何かとてつもなく嫌なことを思い出しているのか、ちょっとプルプル震えているアリア、よっぽどなのかと思う。

やはり、もしそれほどの事情なら休学届けを出してフランスに帰ったほうが良いだろうか。一度企業とエディさんに相談すべきだ。
するとアリアはその言葉をはっきりと、迷い無く、それが真実であると信じているように俺に対して言った。

「それはね、シキが 確実に、誰よりも、他の『へんたい達』よりも重症で手遅れで、昔私に対して重度のセクハラまがいとストーカー行為を繰り返してきたからだよ」
「……は?」

「ひとまず、昔罠にはめられて殺し合いをして途中から共闘したまではよかった。だけど、全員殺し終えた後、いきなり彼女が『ようやく出会えた……お前こそ、オレを楽しませてくれる奴、 好意を抱くぞ、そうだ。理解したよ――興味以上の対象だということさ、アリア!』とか言い出してね、いきなり自分の獲物を抜いたかと思ったら私に攻撃してきた。それで流石の私もちょっと気持ち悪かったから逃げたんだけど、その後何回か依頼の帰りや途中で彼女がよく現れたんだ。どう見ても私をストーカーしているとしか考えられないくらいに。そして一度いい加減にしてって言ったんだけど、聞く耳持たずで『オレは純粋にお前との戦いを望む!アリア・ローレンスとの戦いを!そうだ……この気持ちこそ、オレの本当の気持ち、今までオレになかった気持ち――まさしく愛だッ!』って言ってきてね、一回だけISで戦ってなんとか退けてからは姿を見なくなって、もう来ないだろうと思ってたんだけど……まさか正式な対暗部として織斑君の護衛の仕事についてるとは思わなかった。はぁ……もう疲れるよ」

「確かにそりゃあ避けたくもなるな……重度の変態だ、間違いない。ん…? ちょっと待てアリア、事情と避けてる理由は大体わかった。だけど――ISで戦った? ということは、梓姫は専用機を保有しているのか?」
「保有してると思う。私と戦ってた時はまだプロトタイプの試作機だとか言ってたけど、会話の内容から考えれば専用機持ちだと思う。それに、彼女は対暗部の人間で、その――ユウも調べれば分かると思うけど、結構名前が通ってるんだ。だからISを持っていても不思議ではない」
「確かにな……まぁ――それは本人に聞けば良いよな いい加減出て来いよ、梓姫。アリアは誤魔化せても、俺は誤魔化せないぞ? お前――俺たちが来る前からずっと屋上に居たろ。そして今の話も聞いてたな?」
「え?」

俺がそう言うと、物陰から見覚えのあるというより、今朝見た奴が右手にパンの袋を持って現れる。
やっぱりなぁ……なんというか、直感と言うか違和感と言うか――そんなものを感じたから、もしかしたらとは思ってたんだ。
そして梓姫はこちらに歩いてくると残念そうな仕草をして見せる。

「なんだ、気がついていたのか悠」
「……まあ直感みたいなもんだけどな。 それで? 今の話は全て真実か? だとしたらちょっと度が過ぎてるぞお前」
「ま、大体オレがやった事はその通りかな――そう、『前のオレ』まではアリアとの殺し合いを所望していた。だけど、今はそんな気持ちはないさ むしろ、今のオレの興味の対象は悠、お前と言ってもいい」
「はぁ……? 俺だと?」
「……シキ、もしユウに何かしたり私の時みたいに変態的な行動を取ったら――貴女を殺す、それだけは絶対に許さない」

アリア、ちょっと落ち着こう。過去の件で色々思うことはあるんだろうけど、少しは落ち着いて欲しい。
冗談抜き手今のアリアならISを起動させて梓姫に襲い掛かりかねない、そう俺は思った。

「おお、怖い怖い。アリアのそういう所は何度でも言うがオレは嫌いじゃないぜ? 安心しろって、少なくとも昔みたいな事はしないさ――オレはな、まあ自分自身が色々あって変わったというのもあるが……アリア、お前の話とユウの話を聞いて、興味を持ったんだよ」
「俺とアリアの話?」

「ふふっ、あんまりオレをナメてくれるなよ? これでも一応そこそこ名前は通ってる自身はある。蘭西国企業連の結成に、2人目の男性操縦者。そして蘭西国企業連所属になっていたアリア、最初オレが興味を持ち始めたキッカケはこれさ。『どうしてあのアリアが企業に所属しているのか』、そして『隣に居るあの男は誰なのか』ってな。最初はそんな些細な興味で、だけどずっと気になっていた。そして今日確信したよ、昔のアリアなら今朝教室に入ったときに見たあんな表情はしない。なら、アリアを変えたのは何だ? そう、お前だよ――悠 つまり、オレはお前と言う存在と今のアリアを知りたいと思った、見てみたいと思った。 今朝の発言については流石にオレも興奮のあまりかなりぶっちゃけた本音が出てしまったけどな。本当はあの場で悠にも心奪われたと言いたかったんだが」

「おい、マジでやめろ。というかやめて正解だわ。あの場でそんな事を言えば確実に学園で暴動というか、とてつもなく恐ろしい何かが起きる」
「だろうな、オレも自己紹介した段階でそんな予感はしたから自重したさ。まあ今朝のは、再開したアリアへの挨拶代わりとでも思ってくれればいい」

プチン、と何かが切れた音が聞こえた気がした。
大体予測はできたけど、俺は恐る恐るアリアを見た。

つまりは、そう梓姫が言うと、とうとうニコニコしながらゆらりと動いて梓姫に近づこうとするアリア。
おいおいまさか、予想はしてたけど完全にキレてんじゃないだろうな!?
そして、不味いと思った俺はアリアを後ろから羽交い絞めにして押さえ込む

「離してッ! 離して悠ッ! 私はシキを一発殴る、ううんミンチにしなきゃ気がすまないのッ!」
「落ち着けアリア! 気持ちは分からんでもないがそんな事をすれば織斑先生に粛清されるぞ!?」
「覚悟の上! シキに私は汚されたの! あの発言のせいで絶対誤解してる人も居ると思うから、ここでその原因を絶つ! むしろただの世界の歪みっていうか汚点だから粛清してやるー!!」

というか、後半辺りから完全に半泣きだった。
そんなにあの一件がショックだったのか。まあ……朝はガチ泣きしてたしなあ。

「いいから、落ち着けアリア! ほら梓姫お前謝れ! じゃないと俺もアリアに加勢する事になる!」
「流石にオレも2対1は無理だな。 まあ確かに、今朝はオレもどうかしてたよ。悪かったアリア、釈明が必要ならちゃんとするさ それより、さっきから羽交い絞めにしてるけど……悠、お前何気にアリアの胸触ってないか?」

アリアを抑えるのに精一杯でそんなこと気にもしていなかったが ああ、なんか柔らかいなあとか思ってたらそういう事――
……ちょっと待て! いや、俺は決してそんなつもりじゃ!

梓姫がニヤニヤしながらそう言うと、俺は急いで彼女を離す。
そして羽交い絞めから開放されてこちらを向きながら胸のあたりを押さえてこちらを見ているアリアの顔は真っ赤だった。
不覚にも、その表情を見てドキッとしてしまうが――俺は自分を押さえ込む。
そうだよ、彼女は友人だ。異性だとしても友人なんだ。 そう、自分に言い聞かせて。

「あぅ……ユウ」
「わ、悪いアリア――流石に今のは俺が悪い、すまなかった」
「う、ううん? 私も自分見失ってたし……いいよ、気にしないで?」
「ラッキースケベだなあ悠。いや、オレも女だからアリアの気持ちは分かるよ? 事故とはいえ見ず知らずの男じゃなくて、自分の信頼できる奴なだけマシだろアリア さ、じゃあオレも顔見知りだよな? じゃあオレにも胸を――いってぇ!?」
「いい加減にしろ梓姫」
「いい加減にしてシキ」

梓姫のそのラクハラ発言は最後まで続かなかった。
俺とアリアの怒りの鉄拳が同時に奴の頭、豊かな黒髪の真上から炸裂したからだ。
かなりいい音がしたと思う。というより今朝の仕打ちに今のおちょくりにセクハラ、まだ殴り足りない気がしてきた。

「ったたた……今のは中々いいパンチだったぜ。まあ、ちょっと話を戻すか。つまりだ、俺とアリアは昔の知り合いで、そうだな――言っていたように殺し合いをする関係だった。今は敵対してるわけでもないしそういじゃないし、オレとしてもできれば2人の味方で居たいと思ってるんだからな? 悠、お前――楯無から聞いたが、護衛の話断ったんだってな?」

「ああ、断ったさ――俺は、いや……俺達は一方的に誰かの力を借りて、それを利用するのだけは嫌だ。それに、そんなのただの『拘束』だ。そんなものを望んではいない、自分達の求めるものは、他人の力じゃなくて自分で手に入れる。何か間違ってるか?」

「ははっ――いや、オレもそれでいいと思うぜ? なーるほど……楯無が言っていたのはそういうことか。余計に興味を持ったよ、悠。 確かに、見方を変えればオレ達対暗部がやってることは『拘束』だ。勝手に一方的に同意もなしに何なりするといって、そして監視して、護衛する。そんなもの、ただの拘束でしかない。お前の言う通りだよ悠。少なくとも、オレは織斑一夏については仕事だから護衛する。だけど、お前達とは協力関係であり、そして普通の関係を持ちたいと思ってるんだがどうだろうか?」

「……俺としてはそれは構わない。というより、協力してくれるというのも嬉しいし、普通の関係というのも俺としては構わないとは思ってる――アリアは?」
「シキ、約束して――私にもうこれ以上変なことしない事。それから、ユウに私の時みたいに絶対変な事したり手を出さないこと、シキなら手を出しそうで怖いから」
「それは勿論だよアリア、何だ? アリアはオレが悠と特別な関係になるとか思ってるのか?」
「――やっぱり殺す」
「冗談だ冗談、いい友人関係や交友関係を持てれば良いとは今は思ってるさ、流石に昔みたいな奇行はしないよ。 それじゃあ改めてになるが、悠、アリアも――木篠梓姫だ、よろしく頼む」
「おう、よろしく頼む、梓姫」
「……よろしく。 シキ、まともになってると信じてるからね?」

そう言うと、俺達は握手をする。今後ともいい関係を築きたいとは思う。
少なくとも、変態的な行動は身内に沢山居るのでお腹一杯だが、聞く限り真面目にやる時はかなり真面目にやる奴みたいだし、多分比較的マシの部類なんだと思う。

それに……楯無の言っていた事と、俺達が追っていることの1つ、『亡国機業』についても気になる事はあるし、何よりも――

あの時の襲撃者の正体と、そして奴が言っていた、俺が聞き逃したあの言葉。俺が撃墜された後一体何が起こったのか。
とにかく謎は多かったし、それを知りたいとも思った。
そしてその先に、何かがあるんじゃないかとも俺自身思っていたから。

そんな難しい事を抜きにしても、俺は――梓姫とはいい関係になれると、そんな気というか、確信があった。

「所で、悠にアリアも、お前ら昼飯は食ったのか?」

その言葉で俺とアリアはすっかり忘れていたが、思い出すことになる。
一夏達に食堂に先に行ってくれと言ったままで何の連絡もしていなかったのだ。

「まぁ、オレも釈明あるし、改めて自己紹介もちゃんとしたいし? とりあえず一緒について行ってもいいか?」

そんな話が梓姫からあり、3人で食堂へと急行することになる。
到着して、一夏達、と一緒に居た凰さんは俺とアリアが梓姫と一緒に居るのを見て何やら驚いていたようだが、ちゃんと梓姫が釈明した後に真面目に自己紹介をしていた。

一夏達も凰さんもそれでちゃんと理解を示してくれたようだ、というか篠ノ之さんは同じ剣道をやっているという事で梓姫とは話が弾んでいた。

こうしてまた、俺達の中に新しい仲間と言うか、友人が一人加わった。後に、俺にとってはかけがえのない存在となる梓姫という『少女』が。

最近色々あったが、久しぶりのこんな日常も、馬鹿やって笑えたり、騒いだりする日常も、俺は幸せで楽しいと、その日常こそがかけがえのないものだと、そう思った。

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