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IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐ 

作者:やつき
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第一章 『学園』 ‐欠片‐
  第22話 『2人の転校生』


――IS学園 そんな異邦の地の学園に現れる 一人の少女とそしてもう一人、信念を貫く少女が居た。

――少年達は二人と出会う 2人と出会い、絆が生まれる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

俺が楯無との話を終えた翌日の放課後、IS学園の食堂ではいつもより多くの人だかりができていた。

その理由は、『一夏のクラス代表就任パーティー』だった。
事の発端は、布仏 本音さん。一夏が代表に決まり『おりむ~が折角代表になったんだし何かやろ~』と提案したのが始まりだった。
その提案に対して1組の女子の大半が賛同し、じゃあ代表就任祝いをやろう という話になって今に至る。

「というわけでっ、織斑君! 色々あったけどクラス代表おめでとうっ!」
「これから頑張ってね!おめでとー!」

次々におめでとう、おめでとうという言葉が一夏に降りかかる。その姿を見て俺は一瞬、フランスに居た頃に『アレックス』に見せられた終わり方が結構衝撃的なロボットアニメを思い出す。
確かアレックス曰く、あのアニメは社会現象にもなったとかならなかったとか、まあ当時の俺はそれを見ながら苦笑するしかなかった訳だけど。

そして、そんなおめでというという言葉を掛けられる一夏に対して俺も声を掛ける。

「おめでとうっ……おめでとうっ……一夏、本当におめでとうっ……!」
「その言い方をやめろ悠ッ! どう見てもそれ最近流行ってる賭博漫画のあれじゃないか! 逆にそれ聞くと不安になるわ!」
「やっだなぁ一夏君、俺は心から祝福してるんだよ?――お前が面倒な事全部持っていってくれたことを」
「あ、テメエ今本音を出しやがったな……なあ、今の最後の言葉本音だよな!?」
「記憶にございません」
「ぐっ、ぐぬぬ……政治家が都合の悪い時に逃げる手口なんて使いやがって……!」

そんなもはや恒例となった俺と一夏の漫才とも呼べるやり取りを見て笑い出す1組女子一同、アリアに至ってはまた爆笑している。
うむ、ウケがいいようで何よりだ。IS学園には学園祭もあるらしいし、何なら一夏と組んで漫才でもやってみるか? 等と考える。

ちなみに、俺の相棒もアリアのブラッディアも完全修復が完了した。よって、もう問題なく全力で動かせるようにはなっている。
まあ一夏も色んなこと経験したほうがいいとは思うし、そう考えれば今回のクラス代表というのはかなりいい機会でもある。うむ、よかったじゃないか一夏

よく見ればというか、まあ場所が食堂だし仕方ないのかもしれないが1組だけではなく2組の子や他学年の子も今この場に居る。
なんだかんだで皆お祭りが好きなんだなあと心の中で思うと同時に、プレッシャーを与えられている一夏に合掌。

さて、ふと視線をそらせば篠ノ之さんとアリアにオルコットさんといえば同じテーブルでパーティー用に用意されたオードブルやサンドイッチを頬張っている。
アリアはオルコットさんより少し背が低いため、ちょこんとオルコットさんの膝の上に座りながら『もっきゅもっきゅ』とサンドイッチを食べる姿はなんというか、完全に凶器だ。主に対精神攻撃用の。

唯一の救いは、今布仏 本音さんは一夏のところで会話をしているということだ。もしあそこに布仏 本音さんも居て2人で『もっきゅもっきゅ』等されたらきっとここに居る全員は壊滅確定だろう。間違いなくここが血の海になる。

既に今のアリアのあれだけでクラスの女子が

『お、お姉さまぁぁあああ!! ハァハァ……』
『オルコットさんが羨ましすぎる――ゆずってくれ たのむ! ころしてでも うばいとる』
『写真班、何やってんの!シャッターの弾幕薄いよ!』

等と騒いでいる。もう完全にアリアは慣れたのか、それを放置しながらオルコットさんの膝の上に座りながらサンドイッチを頬張り、時折篠ノ之さんとオルコットさんと会話をしていた。
いやあ本当アリアも耐性ついたなあ。元々あの『へんたいたち』も居たからある程度の耐性はあったんだろうけど、学園に来て更に耐久値が上がっている気がする。

そんな囃し立てられる一夏と、女子3人組を見ながら俺は『自分にとばっちりがこなくて本当よかった』と思うが、実はこの後全力で後悔することになる。
暫くそんな就任祝いを楽しんでいると、生徒達の人だかりを?き分けて一人の人物がこちらにやってきた。

「はいはーい、新聞部でーす。 話題の期待の新人、織斑一夏君にインタビューしに来ましたよー」

すると一気に盛り上がる周囲の女子一同。確かにこれは盛り上がってきた、俺としても面白い展開だ―― 一夏を弄れるからな。

そうして、名刺らしくものを押し付けられてひたすら多くの質問をされる一夏。
いやあ見ていて面白い、そんな事を思いながらニヤニヤしていると、俺は背後から声を掛けられた。

「楽しそうね、月代先輩?」
「なんだ、『楯無』か 君も一夏の歓迎会の見学か?」
「ええ、そんなところかしら――おねーさんとしては、別の理由もあるんだけど」
「ん? 別の理由……? 何かあったのか?」
「何でも無いわよ、ふふっ」

ニコニコしながらそう言う楯無に対して俺は頭の上に疑問詞を浮かべるしかなかった。
やけに機嫌もよさそうだし、どうかしたのだろうか? ああ、彼女もこの企画を楽しんでいるのか、納得。

そんな会話を俺は楯無としていたのだが……気がつけば、全員、無論一夏やオルコットさん、篠ノ之さんの目も俺のほうを見ていた。
新聞部の確か、黛さんだったか、彼女も唖然としてこちを見ているし、何だ、一体どうしたんだ皆そんなに静まり返って。

そして助けを求めるようにアリアを見るが――俺はそれを後悔した。
アリアは先程と変わらずオルコットさんの膝の上に座っていた、座っているのだが――サンドイッチを食べる手を止めて、俺に対して、まるであの時みたいな目を向けていた。
完全に目のハイライトが消えていて、だけどニコニコとしている姿は恐怖以外の何者でもない、あれはアリアが機嫌が悪かったり怒ったりしている時の目だ。何だ、どうしてアイツはそうなってるんだ!?

すると、アリアはオルコットさんの膝の上から降りるとゆっくり1歩ずつ、俺のところに歩いてきて、その笑顔で俺に対して言葉を放った

「ユウ」
「お、おう?」
「その人と随分親しそうだよね――『名前』で呼び合ってるなんて、そんなに仲のいい関係? 私、そんなのユウから聞いたことないなあ」
「あー……えっと、コイツは『更識 楯無』。昨日知り合ったんだけどさ、ええとその―― 『対暗部』関係の奴だよ、昨日夜に話したろ? 一夏を護衛するためにどうのっていう話」

最後のほうだけ、アリアに聞こえるように話すとアリアは納得の言ったように『ああ、なるほど』と言うと

「そっか、ユウの言ってたのって……貴女だったんだ」
「ふふ、おねーさんとは初めましてよね? 『アリア・ローレンス』さん?」
「ええ、そうですね――更識先輩?」

俺にはまったくわからんが、その場でニコニコとお互い自己紹介をして笑いあってるアリアと楯無だったけど、なんというか俺はそれがどこか恐ろしく見えてしまい、嫌な予感がしたのでその場を逃げようとした。

だがしかし、それは許されなかった。ガシッ と2人に制服の首根っこを掴まれたのだ そのまま ギギギ という音でも立てるかのように背後を振り向くとそこには――修羅が居た。

「どこ行くの? ユウ」
「そうよ、月代先輩――私達とお話でもしないかしら?」
「……いや、それはいいんだがちょっと睨むのやめてくれないか? 俺、何かしたか?」

すると、アリアと楯無はその場で顔を見合わせてそのまま二人揃ってため息を吐いた後にジト目でこちらを見ながら

「ねぇアリアちゃん? 月代先輩は昔からこんな感じなのかしら?」
「……す、少なくとも私が知ってる限りは」
「お互い――苦労しそうねぇ」

「楯無もアリアもそんなため息ついてどうしたんだ? 悩み事か? 俺でよければ相談にでも乗るぞ?」

「ユウのせいだよっ!」
「月代先輩のせいよっ!」

「おおう!?」

……なんでさ。 俺はそう思うことしかできなかった。いや、本当に俺が何をしたんだと。
最近アリアを怒らせるようなこと――あ、そういえば前に約束した何か奢るって話まだちゃんと消化してなかったな。 まさかそれでだろうか? アリアは結構楽しみにしていたみたいだし、なら俺が悪いのかなあ。
楯無についてはまったわからん。というより昨日知り合ったばかりの奴だしなあ、むぅ……何だ?俺は一体何をした?

そんな『本当は意味の無い思考』を続けている俺に対して、一夏も篠ノ之さんもオルコットさんも、そしてその場の全員もただただ俺をジト目で見ていた。

その後、一夏の歓迎会が終わった後に部屋に戻ると、1時間ほど篠ノ之さんに説教をされた。まぁ……『そう振舞っている』俺が悪いんだろうし、俺にも自覚はあったからそう言われても仕方は無いかないう気持ちはあった。

少なくとも、俺はアリアに対しても恐らく楯無に対しても――異性に対するソレは持っていない。 ちゃんとした気持ちも覚悟も無いのに、傷つけたり心の奥に入り込んだり、そんな事はしちゃいけないと、思ったから。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その翌日の放課後、いつも通り一夏の特訓をしようかと思い、机を立ちアイツに声を掛けようとした。だだかしかし、それは叶わなかった。

「月代、ローレンス、オルコット」
「はい?」
「何でしょうか、織斑先生」

先生に呼び止められて、俺たち3人は先生のところに行くとどこか先生は疲れた顔をして、用件を話し始めた。
そしてその用件はとうとう俺とアリアが恐れていたというか、できれば避けたかった事だった。

「まず、月代とローレンスだ。 今朝方にも話したと思うが学園の寮部屋の修正が終わった、よって部屋割りを変更したので余裕のある時でいい、移動するように――月代はローレンスと同じ1026号室だ、そしてこれが部屋の鍵だ、無くすなよ?」
「ありがとうございます、織斑先生―― 一応篠ノ之さんには話だけはしてあるので、一夏の特訓が終わった後にでも移動します」
「あー……それなんだがな、お前達のやっている織斑の特訓は恐らく今日は無しだ」

「は?」
「え?」
「どうしてですの?織斑先生」

「ああ、単刀直入に言えば……ほら、あれだ――近日中に来ると話していたアラン・グランヴァル主任が来ていてな、今第三アリーナに居る」

俺とアリア、そしてオルコットさんはその言葉を聞いてため息をつくと同時に『とうとうきてしまった(のですね)……』と呟いてしまった。
なんというか、主任が 近いうちに来るよー とは言っていたので覚悟はしていたんだがまさかこんなに早いとは思わなかった。

「ええと、織斑先生……オルコットさんの専用機、『ブルー・ティアーズ』の件でですよね? 主任が来ているのは」
「ああ、その通りだ。 完成した現物も持ってきて、今アリーナで最終調整をている、なので今日はアリーナは放課後使えないし一般生徒も立ち入り禁止だ。 とりあえず行って来い ああ、後――何があっても精神的なストレスで体調など崩すなよ?」
「善処します……」

先生の会話を終えると、先生自身もどこか疲れたようにこちらを見ながら『ちゃんと戻って来いよ、決して毒されるなよ』とだけ言うとため息をつきながら教室を出て行った。
織斑先生……気を使って頂けるのはありがたいんですが、多分もう手遅れです。 俺は心の中でそう思うと、 はぁ… と再びため息をついた。
ひとまずは久しぶりに主任に会いに行こうか、そう思うと一夏と篠ノ之さんに事情を説明して第三アリーナへと向かった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

一夏と篠ノ之さんの事情を説明すると、なんというか凄く同情されているような視線とともに

『悠、ローレンスさん、セシリアも……生きて戻って来いよ?』
『武運を……無事を祈っているからな』

と、かなり真剣な目で言われた。もう完全に死地に送り出す兵士みたいな扱いで。
後、一夏はオルコットさんのことを『セシリア』と呼んでいる。まあそれには色々理由があって、俺も呼び捨てで構わないと言われたんだが、その時に
『自分の名前は同姓ならともかく、異性は特別な人じゃない限り呼ばせちゃいけません』
と言うと、俺はオルコットさんに今までどおりオルコットさんと呼ばせて欲しいと言った。 
彼女自身、一夏に対してはまだ恋慕の念ではないだろうけどやはり思うところがあるんじゃないかなあと思う。

さて、期待と不安と極限の絶望と覚悟を持って第三アリーナにやって来た。そしてアリーナの中へと入ると、そこには懐かしくも見覚えのある姿があった。
あの白衣にオールバックにしている黒髪、無精髭にどこか威厳を漂わせるような目つき、間違いなく主任だろう。

「お久しぶりです、主任」
「主任、お久しぶり――<スカイ・アクセラレータ>、報告でも話したと思うけどかなり調子いいよ?」
「おお、久しぶりだなあユウ坊にアリア嬢、電話や報告では何度か話していたがこうして会うのはIS学園に入学する前以来か――いやはや、2人ともちよっと見ないうちにいい顔するようになったな それで、そちらのお嬢さんが?」

こちらに振り向いて笑いながらそう言った後にオルコットさんを見ながらそう言う主任。そういえば、オルコットさんも主任も会ったことは無かったんだっけか。

俺とアリアが紹介しようとするが、オルコットさんがそれを制止して一歩前に出るとはたから見ても完璧といってもいい仕草で謝辞を述べながら一礼した

「初めまして、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットと申します 今回は私の『ブルー・ティアーズ』を改修して頂いたということで……心よりお礼申し上げますわ、ありがとうございます」
「おう、これはご丁寧に――ネクスト・インダストリー社研究開発部主任、アラン・グランヴァルだ。うちのユウ坊とアリア嬢が世話になってるな、オルコット嬢」
「いえ、お世話になっているのはこちらのほうですわ、いつもいつも、特にアリアさんには頼りっぱなしで」
「わっはっは! 謙遜する事はない、そして私は礼儀正しい子は嫌いじゃないよ?――さて本題だ、恐らく2人も気になってるんじゃないかな? 焦らしても面白くないしきっとユウ坊に全力でスルーされるだろうからな さあ、これが――」

こで言葉を切ると、主任はニヤリと不敵に笑いながら右腕の指をパチンと鳴らした――すると、主任の横に現れたのは、銀色で、ダイヤの形状をした物体だった。恐らく、あの中に入っているのだろう。


「これが、君の新しい『力』であり、生まれ変わった君の分身――  『アブソリュート・ブルー』"完全なる蒼" だよ」


俺達は、主任が指を鳴らすと同時に現れたそれに目を奪われた。
そこに在ったのは――『蒼』 純粋に蒼一色の、外観の変化した『ブルー・ティアーズ』だった。

だが、既にその『蒼』はブルー・ティアーズではなかった、外観が大きく変化してるためだ。
パッと見で分かる、元々ブルー・ティアーズの非固定浮遊部位として背面にあったものを従来より大型化した8基のBT兵器、改修前よりは確かに一回りほど大きくなっているがスマートなデザインを失わない外観。
ただ美しい、見ただけでそう思えるような『蒼』がそこに存在した。

しかし、外観はBT兵器が増えていて一回り大きくなってるくらいで、つまり『外観』だけが変わっているように思えるんだが。他には何もないようだが……まさか、それだけなのだろうか?ということは主任は『真面目に自重』したのだろうか?

オルコットさんは、その『蒼』を、己の分身を見て言葉を失っていた。そんな彼女を見た主任は嬉しいそうに うんうん と頷くと説明を開始した。

「さてそれじゃあ、オルコット嬢。早速だけど機体を使ってみてくれる?」
「は、はいっ――」

緊張しているのか、オルコットさんはゆっくりとその『蒼』に一歩ずつ近づくと、機体に触れて、一言だけ言葉を放った

「また、私と――私と飛んでくださいますか?ブルー・ティアーズ――いいえ……『アブソリュート・ブルー』」

すると、その言葉に反応したみたいに、まるでその『蒼』が彼女こそが自身の真の主だとでもいうように―― 一瞬光ったと思うと、そこには『蒼』を纏ったオルコットさんが居た。

「すごい……まったく違和感がありませんわ、まるで、まるで――ブルー・ティアーズの時と同じ、いえ……それ以上に馴染んで、本当に『私自身』のようですわ」
「いやあ、頑張った甲斐があるってもんだ。 イギリスと学園から最新のオルコット嬢のデータを集めてきて、そしてアリア嬢の時もそうだったが私達で考えれる限りの、君に最もあっていると思われるものを作りたかったんでな。 どうだい?違和感とかあるかい?」
「全くありません――これが、私の『分身』……」
「嬉しいねえ、ISを本当の意味で自分のことように大事にしてくれる奴なんて、そんなに多くないからね。こっちとしては満足してもらえてるならもう満足だ。 さて……機体の説明に入ろうか」

本当に嬉しそうに笑いながら、主任は俺達にも見えるように大型のウインドウを展開すると、説明を始めた。

「まず、オルコット嬢。君はデータを見る限り 完全な遠距離タイプ だろう。だから私達がコンセプトにしたのは『ロングレンジにおける高機動射撃機体』、そして『後方からの味方への援護とサポート』だ、そしてその上で製作したのがこれだ」

そう主任は言うと、大型のスクリーンウインドウに『アブソリュート・ブルー』の兵装一覧を表示した。

「最初に見た段階で分かったとは思うが、搭載されているBT兵器――名前は元々の名前から取って『ティアーズ』という名前にしたのだが、ただのBT兵器ではない」
「ただのBT兵器ではない……と申されますと?」
「従来のBT兵器より結構大きくなってるでしょ? BT兵器に元々あった機体の推進力をサポートする能力を強化する為に小型スラスターを一回り大きくして、そして重量の規定を超えないラインでBT8基全てに搭載している。だから機動力、加速力、そして安定力は従来より遥かに跳ね上がっている。まあアリア嬢やユウ坊、後見せてもらったが『織斑一夏』の白式の最大加速には及ばないが、それでも3世代の中では間違いなく最高クラスの機動力が実現できる。そして今の理由と大型化にあたり射撃の威力を上げたから、BT兵器自体の1基1基の射撃威力もかなり向上している。多分最初は慣れるまで時間がかかるかもしれないけど、まあ使いやすくはなってると思うよ?」

オルコットさんは主任の話を真剣に聞いていたが、俺は思った。主任が自重したと信じた俺が本当に馬鹿だったと。

いや、機体の強化は分かる、改修も分かる、そしてそれがオルコットさんのためということも重々承知している。だけどやっぱり『主任は一切手加減してない』のだった。
やはりゲテモノというかかなり凄いものができちゃったんじゃないかなあ……

「完全に特化という事にする為に従来2機あったミサイル搭載型のBT兵器は撤廃させて貰った。そして『インターセプター』も排除した。だけど安心して欲しい――今のBT兵器もそうだが私の自信作はもうひとつあるんだ、次はこれだね」

そう主任は言うとパチンとまた指を鳴らすとスクリーンウインドウに別の画面が表示される。

「こっちがメインと言っても過言じゃないかもしれないね。事情を知ってるから言うけど、ブルー・ティアーズの主力兵装として搭載されていたスターライトmkIII、見せて貰ったけど破壊されたんだよね?」
「ええ……あの時は無我夢中でかなり無理な使い方をしていまいましたから……」
「大破してたねえ。というか、修復自体不可能のレベルだったからね――だから、元々の設計データを基に新しい主力兵器を製作したんだ。いつも君がスターライトmkIIIを展開してるのと同じ感覚でいいから展開してみてくれ、名は――  『ブリューナク』"撃ち貫く者" という」

そう言われて、オルコットさんは一瞬集中したかと思うとその右手にはたスターライトmkIIIに追加兵装をつけて、大型化したような大型レーザーライフルが握られていた。

「これが――『ブリューナク』」
「うん、そうだよ。それを開発するにあたってまた参考にしたのはユウ坊のIS、"Tempest_Dragoon"に搭載されてるライフル<インフェルノ>。といってもコンセプト崩しちゃうから一部だけ参考なんだけどね、まずその武装だけど、前のスターライトmkIIIと比べて、威力・弾速・扱いやすさ、まあ簡単に言えば全体的に使いやすくなって強化されている。エネルギー使用量が多いのはまあ仕方ないんだけど、その武装にはきっとオルコット嬢が望んでいたものと、そして私達からの贈り物が搭載されている」
「私が望んでいたもの、ですか? ――まさか」
「君はずっと『実弾装備』が欲しかったんじゃないかな? だから、その『ブリューナク』は通常時のレーザーライフルとしての射撃と、拡張領域に入っている専用の実弾を装填することで『実弾での狙撃』も可能にしている。この理由としては、エネルギー節約って意味合いが大きいかな、ただですらレーザーイフルとBT兵器で私達が頑張ってもあんまり燃費よくならないんだから、その問題を緩和する為に搭載したのが『実弾での狙撃を可能にした』ってこと」
「私としてもそれは望んでいましたから……本当にありがとうございます?」

「何を勘違いしてるんだい?」

俺とアリアはもう逃げ出したかった。
完全に嫌な予感がした。先程主任は 『私達からの贈り物』 と言ったのだ、その時点でもう逃げたい。

頼むからもう帰らせてください。帰って大人しく食堂でアイスでも食べながら雑談させてください。 無理ですよねぇ……
そんな俺とアリアの心情など気にすることなく、今までで一番楽しそうな笑顔を浮かべると主任は言葉を続けた。

「最後に、私達からの贈り物だ――喜んでくれると嬉しい。 その『ブリューナク』は、平常時のライフルモードに加えてもうひとつモードを持っている。それが…… 『ブラスターモード』だ」
「ええと、一体それは……?」
「良くぞ聞いてくれたねッ! 平常時は遠距離からの『狙撃』を基本としているが、ブラスターモードは遠距離からの『収束砲撃』での砲撃を可能にしているんだ。その威力はお墨付きだよ? さっきユウ坊の機体を参考にしたっていうのは『収束砲撃』っていう点。一応ライフルモード同様でカートリッジ式にはしてあるけど、ブラスターモードはエネルギー消費が尋常じゃないから、扱いと使うタイミングだけは注意が必要かな」

今度こそオルコットさんが頭を抱え始めた。いや本当、主任自重してくださいよ……この調子だとシャルロットの機体もゲテモノなのは確定なんだろうなあと思いつつも俺は内心でため息を吐いた。

「まあ、結論から言えば慣れは必要だと思うけどそこは頑張って欲しい。 マルチタスクやらBT偏光制御射撃(フレキシブル) をすぐにやれるとは思ってないよ。そこはまあ、今後のオルコット嬢とその機体に掛かってるとは思う どうかな、気に入ってもらえたかな?」
「色々思うことはありますが――ですが、気に入るというよりは愛着……そうですわね、愛着が更に強くなりました。 ありがとうございます」
「それは何より、それじゃあその機体とも仲良くしてやってくれな。 ユウ坊、アリア嬢、ひとまず私はこれで本社に戻るけど、シャルロット嬢に伝言とかある?」
「あー……じゃあ俺からは 『あんまり毒されないように お兄さんは心配です』と」
「ん……じゃあ私からは――『私達は元気だから、あんまり暴れないように』って」

「ん? なんだかよく分からん伝言だが――まあわかった、伝えておくよ それじゃ、また会おう3人とも!」

そう言うと主任は実に満足そうに帰っていった。そしてそれを確認すると、アリアが口を開いた

「セシリア」
「何ですすの?アリアさん」
「……これから大変だろうけど、頑張って?」
「え?」

その意味をオルコットさんは近いうちに身をもって味わうことになるんだろうなあ、ああ……とうとう俺達と織斑先生の苦悩の理解者が増えるのか……俺は、そんな事を考えてしまった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

そして数日が経過した。この数日間であったのは、少し色々あったせいで遅れていたが、俺が篠ノ之さんとの同室じゃなくなって、当初の予定のアリアとの同室になったことくらい。 
俺と入れ替わりで篠ノ之さんと同室になった一夏は何やら昨日騒がしかったが、何かあったんだろうか。

主任がフランスに戻ってからは本当に平和になったと思う。ただ、やっと自分の愛機が戻ってきたということで一夏との特訓で『アブソリュート』を使用してアイツと模擬戦をしたときはもう酷いの一言だった。

流石にまだ機体の制御に慣れていないのか、不安定さはあったが遠距離からの一方的な砲撃、オルコットさんはマルチタスクがまだできないらしく動きが止まってしまうが、8基のBT兵器を問題なく操作して一夏への集中砲火。

で、一夏がやっと近づけたと思ったらブラスターモードでの収束砲撃、オルコットさん本人も色々反省していたらしいが一夏はかなりトラウマになってしまったらしい。 まあ、それでもちゃんと毎日特訓には一番乗りで来てるんだけど、アイツ。

そして現在、朝のSHR前、俺達は時間もあるということでいつものメンバーにクラスメイトと雑談をしていた。

「そういえばつっきー聞いた~? 2組に転校生が来たらしいよ~」
「ああ、噂されてた転校生?とうとう来たのか」

ちなみに、布仏さんは俺のことを『つっきー』と呼ぶ。
最初は呼び捨てでもなんでもいいと言ったのだが、『語呂が悪いんだよ~』と返された。そして考えたのが『つっきー』らしい。
俺としては別にどう呼んでもらっても構わなかったので了承したのだが、今思えばどこかこそばゆい感じはする。

「うん、こないだ2組の友達から聞いたんだ~」
「へぇ……一体どんな奴なんだろうな?」
「でもおりむ~にはフリーパスの為に頑張ってもらわないとね~?」

布仏さんがそう言うと、周りのクラスメイト達も『そうだよ、頑張ってね織斑君!』とか色々言ってる。
凄い不純な理由なんだけどわからなくもない。一夏、すげえプレッシャーなんだろうなあ と思う。

「いーちかくんっ」
「な、なんだよ悠気持ち悪い」
「いやぁ、私もフリーパス欲しいなぁー なんて」
「とりあえずお前その女声やめろ! マジで背筋がゾッとするわ!」
「いや、冗談なんだけどな? まあ切実にフリーパスは取って欲しいんだわ 個人的にも食費浮く所あるし―― 後、アリアがすげえ殺意の波動全開にしてるし」

そう、アリアはオルコットさんの事に試合の件、襲撃者の件と色々あったせいで失念していたが 『半年フリーパス』の件を思い出した瞬間、それはもうこの世の終わりか という程に絶望していた。

あまりにも落ち込んでいたので自販機で飲み物でも買ってきて話を聞いてやると、どうやらアリアも女の子なのかフリーパスは結構ガチで欲しかったらしい。
一夏を鍛える、という理由に変わりは無いがそれを思い出した瞬間アリアの目的に追加されたのは『フリーパスを織斑君に取らせる』と言うことだった。だから俺以上にスパルタしていたのかとふと思う。

「織斑君……」
「は、はいっ」
「フリーパス……信じてるからね? もし取れなかったら――放課後の特訓でブラッディアの最大加速で時間いっぱい織斑君を追い回す。そしてそこにユウとセシリアも混ぜて集中砲火の刑にする。慈悲は無い」
「俺もかよ……」
「ア、アリアさん? 落ち着いてください」
「セシリア、女の子にはね――譲れない戦いがあるの」

そうかなり真面目に言われて、俺もオルコットさんもただ『はい、わかりました』と言うしかなかった。一夏、本当に南無だ。

「全力でやらせて頂きますッ!」
「よろしい」

そしてビシッと姿勢を正してアリアに敬礼する一夏。というか敬礼と姿勢自体がすげえ完璧なんだけど、アイツどこで覚えたんだ?軍属じゃないよなアイツ

「まぁ……真面目な話するとさ、どうなるかはわかんないけど――全力でやってくる、そして優勝狙ってくるよ、俺。 実は俺もフリーパスで食費浮くの有難くてさ」
「確認できてる限りだと専用機持ちは1年だと1組と4組だけらしいから、いけるって」

そうクラスメイトの子が発言した時に思い出す。4組って確か――楯無の妹さんのクラスだっけか。
ちなみにアイツが生徒会長だって本人から知らされたのはつい最近。
ちょっと前に生徒会室に呼び出され、さんざん俺をおちょくろうとしたがスルーして用件を聞くと『手伝って欲しい』という事だったので、書類などを手伝いながら楯無の愚痴を聞いたが、まあ色々大変らしい。

妹さんと仲が険悪で色々悩んでいるとか、そんな話の相談に乗っていたので俺はよく覚えていた。 楯無の妹さんねえ、会ったこと無いな そう思っていると

「その情報――古いよ」

ふと、教室の入り口から声が聞こえた。
なんだろうかと思い俺は思考を中断するとそこには一人の見覚えの無い少女が腕を組みながら立っていた。
誰だあのカッコつけてる奴 とか思っている一夏が行動を起こしていた。

「二組も専用機持ちがクラス第費用になったの。そう簡単には優勝させてあげないから」
「鈴……? お前、鈴か!?」

何だ?一夏の知り合いだろうか?
暫く何やら会話をしている2人を見ていたが、意を決して俺は一夏に近づいた

「なあ一夏よ」
「ん?何だよ悠」
「二組の転校生さん、えーと……凰鈴音さんだっけ?」
「そ、そうだけど――アンタは?」
「俺?ああこれは失礼した――『2人目の男性IS操縦者』、蘭西国企業連所属の月代悠だ。以後よろしく頼む――そんで一夏、知り合い?」
「ああ、鈴は俺の幼馴染で―― 鈴、後ろ……」

忘れがちだが今は『朝のSHR』前だ。そして当然だがSHRまでの時間はそこまで長くなかった――つまりだ。そう、黒い悪魔だ。

「は?何が――」
「おい」
「何よ、今いいところ――いったぁ!」

ドゴンッ! という音ともともに彼女の頭に炸裂する『最終兵器』という名の出席簿。きっとその瞬間、彼女は今まで生きてきた自分の走馬灯が見えただろう。 死んでないけど。

「もうSHRの時間だというのに――随分といいご身分だなぁ、凰?」
「が、学園の黒い悪魔――いたぁっ!」
「その名で私を呼ぶな、その名は『ブリュンヒルデ』と同じくらいに嫌っている名なのでな――さあさっさと自分のクラスに戻れ」

再び『最終兵器』の一撃を頭に受けて、そのまま渋々教室から去っていく凰さん。なんというか、もう通過儀礼だよなあ、あの『出席簿アタック』は。
俺も最初だけは避けたけど、それ以降は何回も直撃貰ってるし、あの痛さはよく分かる……

さて、そんなある意味どうでもいい事を考えていると、織斑先生が教壇に立って朝のSHRを始めた。

「えー、今日はお前達に連絡がある――既に噂になっていたが、うちのクラスにも転校生が一人来る事になった」

その言葉で一気にざわめきだす教室。まあ俺も楯無から聞いてたけど、まだどんな奴かは知らない。どんな奴なんだろうな――楯無は変わった奴と言っていたけど。
ん……なんかアリアの様子がおかしいぞ。どうかしたんだろうか。

「アリア? どうかしたのか?」
「あ……ううん、なんでもないよユウ、ただね――何かとてつもなく嫌な予感というか、今すぐ帰ったほうがいいんじやないかとかか思うくらい嫌な予感がしただけ きっと私の杞憂だよ」
「大丈夫か? なんなら今から織斑先生に頼んで保健室行くか?」
「あはは、大丈夫大丈夫―― でもねユウ」
「どうした」

その時のアリアの目は、今までにないくらいに真剣で――まるで戦場に送り出す恋人や家族に対して『必ず帰ってきて』とでも言うかのような目だった。

「もし、もしもだよ? 私の嫌な予感が当たったら……助けてくれる?」
「大げさな。 まあ、その時はちゃんと助けてやるさ」

何のことだろうか、そもそもアリアの言う何なのかわからない嫌な予感とはなんだろうか。 普段のアリアは絶対今みたいな事は言わないんだがなぁ……
ひとまず俺はそう返すとね再び織斑先生の話に意識を傾けた。

「あー、静まれお前らー粛清されたいかー? それでは入ってきてもらう――『木篠』、入って来い」

先生の声で呼ばれて入ってきたのは、IS学園の制服を纏った一人の人物。
少し高めの身長。背中まである漆黒の髪を後ろで1つに束ねている。
中性的な顔立ちに、織斑先生のそれにも似た黒い瞳に鋭い目つき。
それはクールというより、冷静さが際立つような、美貌だった。
有体に言えばイケメンとなるのだろうが、イケメンとは言えないだろう。
何故ならば、顔から下は男性的なものではなく柔らかなラインで、スタイルもかなりいい。
つまりは少女だったのだから。
繰り返すが、少女だ。決して男ではない。

「では木篠、自己紹介をしろ」
「はい、先生」

あれ?
先生に呼ばれた転校生の木篠って奴が織斑先生への返答に、俺はちょっとした違和感を感じていた。
本当にただの、それこそ偶然のようなものかもしれないが、それはどう聞いても、男口調に特有のイントネーションを含んでいたのだ。

きっと俺の聞き間違いかなあ と俺はそう思う。
見た目もボーイッシュな感じではあったが、喋り方も男勝りなのかもしれない――そんな事を考えていると、木篠と呼ばれた少女は自己紹介を始めた。 

「オレは『木篠 梓姫』(きしの しき)。諸々の事情で入学式より遅れたが、今日からIS学園に通うことになった。 趣味はそうだな……ああ、剣道とか弓道をやっている。学園に来てまだ不慣れなので色々世話になるかもしれないが、これからよろしく頼む」

うん、やはり俺の聞き間違いではなかった。 つまり、見事なオレっ娘だったのだ。
というか、非の打ち所のない完璧な男口調だった。何度でも言うが、転校生は少年ではない。少女である。

この学園と企業であまりにも毒されてしまった為か、耐性から差し引いても驚愕までは至らない俺もどうかとは思うが、いやはや珍しい……のだろうか?
まあ、世も末なんだろうなあ。きっと俺も手遅れだ。

……はて、先程からアリアが微動だにしていないのが気になる。
どうかしたのだろうか。
やっぱり体調でも悪いのだろうか。
無理は良くないと思う。

アリアの不調に心配している俺を余所に、クラスの女子達はといえば、やはりと言うか、お約束のアレな発作である。
つまりは発狂していた。

「キャアアアアア!! イケメン! だけど女の子ッ!」
「女の子なのにイケメンで一人称が オレ! 頼りたくなるお兄さんと見せかけてお姉さまッ!」
「私のハートも弓矢で射抜いてくださいッ! というかもう射抜かれてますッ!」
「同じ女なのに私惚れちゃいそう!千冬様と同じオーラが出てて私好み! 女の子だろうと私は一向に構わないッ!梓姫お兄様と呼ばせてくださいッ!」
「お兄様と言えば月代君もよね!? これはまさか男×男 と見せかけて 月代君×木篠 さんというカップリング!? いいわね――アリだわッ!」

おい待て、今凄い発言も飛び出していたのだが。
相変わらず、うちのクラスは元気というか、手遅れだなあと思う。

そんな、俺の鉄壁耳栓をも貫通した嬌声だったのだが――アリアは微動だにしない。

おいおい、本当に大丈夫かよ。
話題の渦中となった本人も全くのすまし顔で、耳栓もせずに平然としている。

……まあ、女子達の言う事も、わからなくもないんだよなあ。
いや、決してカップリングだとかの話ではなくて。
顔の方だけ見ていればイケメンだし、かといって身体との違和感があるかと言えば、そうでもない。

個人的な意見を言えば、イケメンにも見えるし素直に彼女は綺麗なのだ。お世辞でもなんでもなく、本当にただ美を追求したみたいに、ただ綺麗な奴だと思った。

確かに、楯無の言う通り、変わり者なのかもしれないが――そんな事を考えていると、先程まで完全に沈黙して微動だにしなかったアリアが、不意に再起動した。
そして、俺の右腕を必死の形相で掴んでくる。
なんだ、この状況。そして何があったアリア。

「……アリア?」
「ユウ、お願いがある」
「どうしたよ、そんなに真面目な顔して」
「怒られるの覚悟で……今すぐ私と一緒に教室から逃げよう? うん、私体調悪いんだ――だから保健室連れてって?」
「い、いきなりどうしたんだよアリア、いつものお前らしくないぞ!?」
「私はいつも通りだからッ! だから黙って私を連れて逃げてッ!」

訳が分からん、というより何で今にも泣きそうな顔して必死に俺の右腕掴んで来るんだよ、というかあたる、当たってるからそれ!
むしろ、アリアがどうこう言う前に俺がヤバイ、主に理性的な意味で。 
何を考えてるんだ俺は。心身滅却。冷静になれ、クールになれよ俺。
とりあえず落ち着こう……ひとまずアリアがこう言っているし、こんな状況だけど織斑先生に言って――

「それと、もうひとつ」

と、そこで転校生の『木篠』が笑顔で言葉を放った。何だ、何だろうか?そう思っていたが隣のアリアの様子が完全におかしい、今までに無いくらい取り乱してる。
そして、とうとうアリアは俺の右腕を掴みながら震えていて、心の底から助けを請うような目で泣きそうになりながら俺を見て言った。

「お願いだよぉ……ユウ――今すぐ私と逃げて、本当にお願いだから……」
「お、おい泣くなって! 分かった、分かったから――あー織斑先生、ちょっといい――」


「オレは、そこに居る『アリア・ローレンス』に心奪われた存在だッ! 会いたかった……会いたかったぞ、アリア!!」


そう木篠が言い放つと同時に、クラス全員と織斑先生の視線が俺とアリアに向けられる。
そして ガタッと席を立って俺の後ろに隠れるアリア。後ろに立って背後から両肩を掴み身体を密着させている。完全に俺を盾にして隠れるみたいに。

そんな状況だからわかるが、彼女は震えているし、そして密着している身体から鼓動を感じられて、それは穏やかなものではなかった。
完全に涙目だし、本当どうしたんだ……

それが、俺と木篠の最初の出会い。最初は変な奴だと思ったが、後々に俺にとっても、俺達にとっても必要不可欠で。 そしてかけがえのない存在になる奴に今日と言う日に俺は始めて出会った。

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