IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐
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第一章 『学園』 ‐欠片‐
第21話 『嵐の後の静けさ』
――未来を求める、そんな少年に魅せられた存在が この地、IS学園にも居た。
――魅せられて、知りたいと望む。 己の立場や存在を自覚しながらも、『彼女』は知りたいと望む。
『そんな彼女との出会いに、『可能性の申し子』は何を感じるのか』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
IS学園後校舎より少し離れた森の中、既に多くの人間は寝静まっているであろう時間、月夜に照らされる暗闇の中に一人の存在があった。
黒のスーツ、女性にしては長身の身長、長い黒髪に鋭い眼光、『ブリュンヒルデ』”世界最強”の称号を持つ彼女、織斑千冬は険しい顔をしながら携帯電話を片手に暗闇の中に存在した。
「まったく、手間をかけさせてくれる」
私は今、かなり疲れていた。今日だけであまりにも多くの事がありすぎたからだ。正直に言えば、あの一件の後にどれだけ胃薬と栄養ドリンクを飲んだ事か。
謎の襲撃者に、突如としてアリーナと学園に対するハッキング、そして奴と瓜二つに姿をしていた月代のIS、だが――それだけではなかった。
進展があったのだ、まず……月代のあのIS"Tempest_Dragoon"、そして損傷が酷かった『ブルー・ティアーズ』に『ブラッディア』を私が直接回収したのには理由がある。
第一に、月代のあのISについて下手に調べられないようにするためだ。可能性の話ではあるしそんな事はないとは思うが、もしあの襲撃者を私たち以外で見た存在が居るとしたら、そしてそれが外部へと漏れたとしたら、間違いなくあの襲撃者と同じ姿をしていた月代は、周囲全てからの集中砲火を受ける事になる。
だからこそ、そんな危険性を考えて調べられないように、また他の2機同様極秘に私と山田先生の手で修復を行うために回収した。
だが、奴のIS……"Tempest_Dragoon"を修理することはできなかった、いや『させてくれなかった』のだ。
月代を保健室へと搬送、オルコットとローレンスは比較的に怪我が浅かったという事もあって寮部屋に戻った後私はその3機について山田先生と共にIS学園の地下施設、一般生徒や普通の人間では絶対入れない区画で修理を行おうとした。
しかし、他の2機については修理や情報開示をさせる事はできたが、奴のISだけは決して命令を聞かなかった。『管理者の許可が必要です、第三者のアクセス及び干渉は認められません』そんな警告ウインドウが出るだけで、一切のアクセスを受け付けなかった。
それどころか、奴のISは自動修復機能で勝手に自己修復を開始していたのだ。
今回の一件は、多くの事が徹底的に機密扱いとされている。
殆どは当事者である私も知っているが、得られない情報も――確かにあった。
そこで私は、月代が所属している『仏蘭西国企業連』に直接連絡して、ローレンスと月代の所属企業代表者である、『レオン・ハルベルト』へとコンタクトを試みた。
私の直感が告げている、知ってはいけない情報も、そこにはあるのだろうと思う。
だが、今すぐ知らなければならない事もある。
今は知ってはならない物が、空から堕ちるような代物ならば。
知らなければならない物は、一歩前へと進む行為なのだろう。
……問題は、『レオン・ハルベルト』という人物が信用出来るのかだが、正直に言って、私は世間からの評価や噂程度しか知らない。
私の恩師でもある『ルヴェル・エディ』とは深い関わりがあるようだから、信はおけるとは思うのだが、やはり推測でしかない以上、直接会ってみない事には始まらないだろう。
そして、恐らく一教師である私がそんな『あの馬鹿』に告ぐ天才、化け物と称される彼に連絡したとしても恐らく受付で門前払いされるのがオチだろうとも思っていたが……なんと、アッサリと電話でのアポをとる事ができた。
そんな彼との直接的な会話の中で言い渡されたのは結論としては
『詳細は一切開示できない、だが当事者であり『世界最強』の貴女に警告する――これ以上、彼と彼の機体には無断で踏み込むな 踏み込めば、私達はそれなりの報復行動をとる事になる』という返答だった。
一方的にそれだけ言われ、すぐに別の案件についての話をされて電話を切られると、私はすぐさま恩師である大佐……エディ大佐に連絡をした。
そして事情を説明して、『月代 悠』が撃墜されて負傷もしたという事を告げた。
だがしかし、月代とローレンスの保護者でもある大佐から辛そうに返事として返されたのは『……何も答えられない』という返事だけだった。それ以上私は追及しようとも思ったが、大佐の声の感じからかなり思いつめているという事は理解できた。だから、それ以上言及はできなかった。
全ての結論から言えば、わからないことだらけ、だった。そしてそれでも私は――真実を知りたいと望んだ。だからこそ今こうして人目を逃れて『あの馬鹿』に対して電話を掛けた。もしかしたら、アイツなら何か知っているのではないか、そんな期待を抱いて。
己のプライベートアドレスからあの馬鹿の番号を見つけ出してコール、するとプルルル、という発信音がしばらく続いて――
「はろはろ~!ちーちゃんから掛けてくるなんて珍しいじゃないかっ、まさからぶりぃな束さんに愛の告白かな~? しょーがないなっ、束さんいいつでも大歓迎だよ?さあさあ、今すぐ愛を確かめ――」
「おふざけはよせ、束――かなり大事な話だ」
そう多少のドスを利かせて束に言うと、束は電話の先でいつものふざけたようなしゃべり方をやめると、いつものふざけた中に真面目さを含ませた――そんな声へと変わる。
「……大体の予想はついてるけど、何かな?ちーちゃん」
「今日あったIS学園での襲撃事件の一件、お前は――それを知っているな?」
「さあね?何のことかなあ、束さんはIS学園が『IS』に襲われたなんて知らないなぁ?」
「白々しいぞ、束――こっちは真面目に言ってるんだ」
「束さんも真面目なんだけどなぁ、まあ本当のことを言えばね?知ってるよ」
やはりか、そう思うと同時にいくつもの疑念が浮かんでくるが、ひとまず重要なことから順を追ってこの馬鹿に聞いていこうと思った
「では単刀直入に聞くぞ――今回の一件、仕向けたのはお前か?束」
「それはNoだねちーちゃん 束さんがあんな事して何かメリットがあると思う? しかも今天才科学者の束さんは各国だけじゃなくて色んな奴らから追われてるんだよ? そんなみすみす『はい束さんがやりましたー』なんて事する訳ないじゃないか」
「……では次の質問だ。 お前、今回の一件について何か知っているのか?」
私がそう言うと、少しの間束は沈黙する――私は確信した、やはりこの馬鹿は何かを知っていると。
「沈黙は肯定と受け取るぞ、束――やはり何か知ってるんだな?」
「ちーちゃんだから答えてあげるね? ――その質問はYesだけど、Noでもあるかな」
「何だと……!?」
「束さんが教えてあげられるのはそれだけ、残念だったねちーちゃん」
私は携帯電話を持っていない手に力を入れ、握り拳を作ると声を荒げた
「ふざけるな束ッ! あれは――私が見たあれはいくらなんでも異常だ! そして、私の大切な生徒が一人下手をすれば死んだんだ! ならば、教師として――そして生徒を守る大人として、あれが何なのか知る必要があるんだ! もし、もしも今度奴が来て生徒を狙うなら――私が出て、戦えるように!」
「『それだけは許されない』よね、ちーちゃん? ちーちゃんが言ってる生徒って、ゆーくんの事かな?」
「な……束、お前――月代のことを知っているのか!?」
「ふふ、知ってるよ? またまたちーちゃんだから教えてあげる。 束さんはね、ちーちゃんといっくん、箒ちゃんとくーちゃん以外にね、もう一人だけ興味があって『大切な』存在が居るんだ――それが、『月代 悠』、ゆーくん」
「束、お前は一体……」
「束さんからも結論だけ言うね? 『何も答えてあげられない だけど、気が向いたら少しくらい教えてあげてもいい』 それじゃちーちゃん、そろそろくーちゃんが帰ってくるから――またね」
「ま、待て束!話はまだ――」
私の言葉を最後まで聞くことなく、束は電話を一方的に切った。
だがしかし、今の会話で幾つかわかった事はあった。あの襲撃者に束は直接的な関係はないが、何かを知っているという事。そして……恐らく全ての鍵を握るのは、やはり月代と奴の機体だと言う事だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あまりにも多くの事がありすぎたあの日から一夜明けて、ぶっちゃけてしまうとあの一件の翌日。朝のSHRの時間に俺は己の席に座りながらニヤニヤと、自身の友人である『織斑一夏』を見ていた。
ちなみに、俺もアリアも元気だ。アリア自身の怪我は本人に確認したが本当にたいしたことなくて、どうやらISが守ってくれた、と本人は言っていた。オルコットさんとも話をしたが、怪我はまったく問題なく、むしろ問題なのは『大破』したブルー・ティアーズらしい。
俺の『相棒』とアリアの『ブラッディア』は朝出る時に織斑先生に呼ばれて待機状態のそれを返された。そして、織斑先生は『何もしていないから安心しろ』と言っていた。 恐らくだけど本当だろう。とりあえず安心した。
オルコットさんだけど、俺達がいつもどおり朝教室に入ってくるといきなり俺と一夏に対して謝罪してきた。『あなた方二人について何も知らないのに、見下して侮辱して本当に申し訳ありませんでした』と。
まあ驚いた、ただ俺自身もそこまで気にしてはいなかったし、むしろ気にしていたのは彼女のISを持つ覚悟だったんだが――今の彼女を見る限り、どうやらそれなりの覚悟や意思があるんじゃないのかな と思った。
一夏もあの時はキレたが、そこまで気にしていないということで、『こっちもキレてしまってすまなかった』ということでちゃんと和解した。
そういえば、彼女がいつも身に着けている待機状態の蒼いイヤーカフスが見当たらないが、まだ修理中なのだろうか?
和解した後会話をしてわかったが、アリアとオルコットさんはかなり仲良くなっていた。篠ノ之さんの時もそうだったけど、お互いを名前で呼び合うくらいの仲くらいにはなっている。
篠ノ之さんも最初はなにやら考えるものがあったようだけど、オルコットさんから『貴女を篠ノ之束の妹というだけであんな事を言い、失礼な行動をしてしまい申し訳ありませんでした』と謝罪されると、篠ノ之さんもその謝罪を受け入れてちゃんと和解していた。
女三人寄れば姦しいと言う。あ、無論悪い意味ではない。 まあ朝っぱらから篠ノ之さん、アリア、オルコットさんは女子力全開の会話を繰り広げており、いつのまにか3人だった所には人だかりができていた。
よきかなよきかな、賑やかな事はとてもいいことだ。 だがなんだろうかこの疎外感、俺と一夏は完全に放置されていた。
そうして暫く、SHRの時間となり現在。織斑先生があの最終兵器『出席簿』を片手に「席につけー、早くしないと粛清だぞー」と言うと、それまでひとつの塊のようだった女子たちは己の席へと即座に戻って行った。
織斑先生と山田先生が教壇に立つと、一夏に対して死刑宣告とも言えるかもしれないその言葉を放った。
「さて、朝のSHRの時間だが……昨日行われたクラス代表決定戦、既に学内に対して告知もあったと思うが色々とトラブルが発生した中終了と言う形になった。さて、肝心のクラス代表だが……『織斑』、お前に決定した」
「は……?ど、どういう事だよ千冬姉!」
そう一夏が言った瞬間既にお約束となっている『おりむらせんせい』の粛清(出席簿アタック)が炸裂する。他人事だからそう思えるが、今日もいい音してると思う。
「織斑先生だ。いい加減覚えろ馬鹿者が」
「は、はひ……だけどどうして俺が代表に――」
「ああ、それには理由がある。まず、先日の『実験中のISが暴走して学園を襲撃した』一件でオルコット、月代、ローレンスのISは非常に深刻なダメージを受けた。勝率と結果だけで言えば、お前に対して勝利しているオルコットが代表になるのだが、オルコットの専用機はあの一件で大破しており、現在修復中だ。また、オルコット、ローレンス、そして月代はその一件で怪我もしている。怪我の度合いはそこまで酷くはないが怪我は怪我だ。そして月代とローレンスのISはダメージレベルがB、オルコットについてはCと非常に深刻だった。直ったとして、そんな状態まで陥った機体をすぐさま酷使する訳にはいかんのでな。よって、残ったお前が代表だ、織斑」
「まぁ……確かにそうなるのか」
「嫌か?まあ事態が事態だから嫌なら特別に辞退してもいい、だが――その場合クラス全員の期待を踏みにじるということだけは覚えておけ」
「汚ねぇ……ああ、もう――やるよ、やってやるよ!それにそういう経験も必要だと思うしさ、俺がクラス代表になりますよ織斑先生!」
「決まりだな、よし――では代表は織斑とする。 異論のある奴は居るか?居るならば名乗り出ろ」
織斑先生のその言葉に、クラス全員満場一致で大きな拍手喝采を一夏に向けた。というより、あの状況で名乗り出るのは空気が読めないって事だろうし、それに織斑先生に立ち向かうつわものが居るとは思えない。どっちにしろ、一夏に逃げ道などないのだ。
ひとまず代表は一夏に決定、まあ本人の言うようにいい経験にはなると思う。 だが、後々に俺がクラス代表になっておけばあんな面倒くさいことにはならなかったのだろうなあと俺は思うことになる。
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一夏の代表決定から数日が経過した。最初は一夏も俺に対して愚痴を零しており、俺もそれを聞きながら一夏をなだめるというのが続いていたが、数日してからは一夏はそれをしなくなった。
どうしたんだ? と聞くと、「いい加減愚痴ばっかりいってても何の意味もないからさ」と返された。
うん、凄いいい意味で切り替え早いというか、大人の対応というか。俺は一夏に感心した。
そして宣言していたとおり、あの一件があった翌日からは一夏の特訓という事で放課後はひたすらアリーナで特訓していた。ただ、当初の俺たち3人ではなく『4人』になったが。
事の発端はアリアだった。一夏に代表が決まったあの日、オルコットさんに対してアリアが一夏の特訓のことを話したらしい、すると
『そういうことでしたら、私も協力させて頂けませんか? 少なくとも、私は遠距離戦闘のエキスパートですわ、その点についてなら色々とお教えできますし』
という提案があった。無論、こちらとしては有難い。俺はどちらかというとオールラウンダーの器用貧乏だし、アリアは完全に近接特化、そして訓練機を使うにしても篠ノ之さんだって近接型だ。
だから純粋な遠距離戦闘のエキスパートであるオルコットさんが来てくれるのはありがたかった。
それに、篠ノ之さんもアリアもオルコットさんとは仲良くなっているので、二人の個人的な意見としてもオルコットさんには来て欲しかったらしい。
関係ないが、最近女子力全開の会話をしょっちゅうされて、流石に俺も一夏も主に精神的な意味でかなり辛い。IS学園に入学してしてしばらく、ようやくここで学園の真の恐怖(女性の楽園)というものがわかってきた。確かにこれはナメていたら死ぬ。
恐らく俺は3年後生きては帰れないかもしれない、そう思うとフランスの友人のアレックスに『きっとあの鈍器という本は返せないかもしれないな』と心の中で思う。
そして、とある事を通達されて俺とアリアは冗談抜きで、文字通り頭を抱えることになる。その原因は――今日から数日前、とある連絡が原因だった。
宣言通り放課後一夏の特訓のためにアリーナへ行こうとしたら織斑先生に呼び止められる。なんだろうかと思い話を聞くと、『オルコットも残れ』との言葉。最初は先日の一件の話かと思った。
それならどれだけよかった事か、織斑先生が持ってきた話は――『ブルー・ティアーズ』の回収の話と、『仏蘭西国企業連』についての話だった。その時点で俺とアリアは完全に嫌な予感がした。
騒動の翌日に既に『仏蘭西国企業連』とエディさんへの連絡は済ませてある。
あの襲撃者は何者なのかと聞いても「わからない」と返答されるだけだったが、向こうで色々調べるという話をしていた。そういえば……あの時のエディさんの声はどこか疲れきっていたような気がする。
俺達はその自分達の保護者兼責任者が疲れている理由をその話で知ることになったのだ。
そう、織斑先生が持ってきた話を要約すれば
『大破したブルー・ティアーズ、正直修理するより改修したほうが早いし、『彼女』のデータ見たけどかなり改善の余地がある、勿体無い、だから『ネクスト・インダストリー社』で改修するのでよろしく』
という話だった。
織斑先生もエディさんの知り合いとだけあってか、なんともいえない顔をしていた。そして俺とアリアも頭を抱えた。『ああ、またあの へんたいたちか』と。
状況を理解できないオルコットさんだけが頭の上に疑問詞を浮かべていたが、恐らくそのうち知ることになるだろう――あの『へんたいたち』の恐ろしさが。
というより、『ブルー・ティアーズ』はイギリスが保有する第3世代ISだった筈だ、つまり『改修』をフランスの企業がやるという事は当然だがイギリス本国の許可が要る。そんな疑問を持ったが、もう現実逃避したくなるような理由で更に俺とアリアはあきれる事になる。
俺は織斑先生にブルー・ティアーズを改修するなら当然イギリス本国の許可が要りますよね と質問し、オルコットさんもそれが気になっていたらしく本国からは何の連絡も受けていないと言った。 すると織斑先生は『頼む、できれば思い出したくないんだ……』と疲れきった表情で言うと渋々その訳を話した。
『つまりだ……その、レオン・ハルベルト氏がイギリスの――英国女王と知り合いで、IS学園での一件についての事情を機密扱いで話して大破した『ブルー・ティアーズ』の改修を提案したらふたつ返事で許可が下りた らしい……』
前にも同じ事を思った気がするが、何度だってそう思う。 どうしてうちの身内はこんなにも化け物揃いで変態と変人揃いなんだと。アリアから聞けば、シャルロットもあの『へんたいたち』に毒されてきているという話じゃないか……。
そんな話を聞いて、『へんたいたち』にまだ耐性がないオルコットさんは唖然。そりゃまあ、自分の国のかなり偉い人がふたつ返事で改修してもいいという返事をしたのだ。驚くのも無理はない。
そしてオルコットさんの様子を見て織斑先生が『オルコット、あの企業に関わったんだ……慣れないと、精神的に死ぬぞ』と一言言うと、俺に『一度本社に連絡しろと伝言があった』と伝えると頭を抱えながら去っていった。
その日の一夏の特訓が終わり、もう暫くだけ同室扱いの篠ノ之さんに一言断りを入れてプライベートの電話で主任に電話……ひとまずどういう事か話を聞いたのだが、主任の後ろから聞き覚えのある声が聞こえており、物凄く暴れていたように思えた。
『離してッ!離してぇぇぇえええ!! 僕は今すぐにユウ兄とアリア姉さんの所に行くんだ!二人が怪我したって聞いて黙っていられるわけがないッ!』
『お、落ち着きなさいシャルロット!――お前たち、なんとしても娘を抑えろ!』
『しゃ、社長!お嬢様がISを展開して暴れようとしています! 無理です、抑えられません!』
『くっ……本社のパイロットと『仏蘭西国企業連』の関係部隊で動ける者全員に通達して援護を要請しろ!なんとしても娘を、シャルロットを抑えるんだ!』
『りょ、りょうか――ぐはっ』
『社員A!しっかりしろぉぉおお!!』
『そうだよ、機体はほぼ完成してるんだから――ふふ……許さない、許さないんだから 水素爆弾がいいかな?アトミックランチャーもいいね、それともこないだ主任が作った最新兵装がいいかな?――2人を傷つけるなんて絶対に許さない、僕が捕まえてそして、ふふふ……』
『あー、シャルロット嬢、ちょっと電話してるから静かにしてくれるー?』
『あ、ごめんさない主任』
そんなやり取りが電話の向こうで聞こえた。うん、だけど俺は聞かなかったことにした。知ってはいけない気がしたから。そうだ、俺は何も知らない、何も聞いてない。
そう現実逃避して、その会話が聞こえていたのか篠ノ之さんも引きつった笑顔でこちらを見ていたかと思うとあからさまに視線を逸らされた。 うん、普通そうだと思う……
そんな事があったのが、数日前。とりあえず色々言いたい事や現実逃避したいことはあるが、オルコットさんに機体改修について説明して、なんとか納得してもらったがどことなく不安そうだった。アリアが全力でなだめていたけど、きっと無理だろうなあ。
恐らくオルコットさんはこの先胃薬と栄養ドリンクを常備することになるだろう、主に精神的な意味で。
そして今日、今はISの実技授業を行っていた。ただ、オルコットさんは機体改修中でほぼ見学扱いになっていたが。
「……まロい」
「はぁ……?いきなりどうしたんだよ悠」
「いや、突如としてどこかから電波を受信したというか、鈍器の魔力に魅せられたと言うか」
「訳がわからん……それより、ぼーっとしてるとちふ――織斑先生に粛清されるぞ?」
「おおう、そうだな、それだけは嫌だな」
我に返る。危ない危ない、一体俺はなんでぼーっとしていたんだ。
俺たちの組全員が整列している前に織斑先生が歩いてくると、言葉を放った。
「ではこれより、ISの基本的な飛行技術の実践をしてもらう――そうだな、オルコットは今改修中だったか……月代、織斑、試しに飛んでみせろ」
「はいッ!」
俺は返事をすると、先日返還された『相棒』に一言心の中で『行くぞ』と言うと、次の瞬間には俺自身の『相棒』を纏っていた。
クラスの女子達が何か言っているが気にしない、そしてアリアさん、なんでこっちをジト目で見てるんですかね……そう思いながら一夏を見ると、未だにISを展開していなかった
「どうした織斑、前は展開できただろう?熟練したIS操縦者は展開まで1秒とかからないぞ? 月代を見習え、いいか?集中だ――そうすれば展開できる」
「は、はいっ!」
そうして次の瞬間、一夏もISを展開する。それを確認すると、織斑先生は次の指示を出す
「よし、2人とも展開したな――飛べ」
その支持が下された瞬間、俺はエネルギーウイング<ハイペリオン>を広げ、同時にメインスラスターの推進力を一気に稼動させると即座に飛び上がる。数秒もすると、先程まで立っていたグラウンドが小さく見える。
一定の高度で停滞すると、俺は『相棒』に対してまだちゃんと言ってなかった言葉を心の中で言った
『『相棒』、ありがとうな――あの時お前が俺を庇ってくれなかったら俺はどうなっていたかわからない。 ちゃんと礼いってなかったからさ……ありがとう』
そう心の中で言うと、どことなく嬉しそうに機体の鼓動が激しくなる、それを聞いて俺は苦笑すると『次は負けないからさ』と思う。
そして暫く空中で待っていると、下のほうでフラフラとしていた一夏がなんとかこちらまで上ってきた。
「重役出勤お疲れ様です一夏君、いやはやここで既に3分くらい待機してたんだけどこの時間どうしてくれる?これは謝罪と賠償を要求しなければならないね? 主にお前の昼飯で」
「そんな事言われてもなあ、俺お前らの特訓受けてるけどまだ上手くIS扱えなくてさ――というよりまた昼飯か!?お前昼飯好きだな!?」
どんな状況においてもちゃんとツッコミだけは返す一夏――流石、俺の見込んだ男だけある。 そんなどうでもいいことを考えていると、織斑先生から通信が入る。
「よし、それでは月代、織斑、急降下と完全停止をやってみせろ、どちらからでも構わん」
「それじゃ、俺から行きますかね お先に、一夏」
「お、おう」
俺は背中の<ハイペリオン>を展開するとそのまま最大速度でグラウンドへと急降下、そのまま織斑先生が指示した10センチのところで<ハイペリオン>のエネルギーウイングを展開解除するとその場で停止した。
「ふむ、流石は元フランス空軍兵というだけあって空と飛行についてはエキスパートか――指示した10センチジャストといのも素晴らしいが、動きに特に無駄がないのも評価できる。 だが、多少まだ動きに違和感があるな、精進しろ」
「はいッ!ありがとうございます!」
織斑先生は うむ と一言言うと、グラウンド上空に居る一夏に対して檄を飛ばした
「織斑!今度はお前の番だ、指示されたようにやってみろ!」
「は、はい!」
そう一夏が言うと、先程俺がやったように恐らくだけど最大速度で降下して来る。おお、一夏の奴まさかあの速度で完全停止するのか? そう思っていたが一夏は一向に速度を落とす気配がない、あれ……まさか
非常に嫌な予感がする、できれば当たって欲しくないというか、下手したら俺にまでとばっちりがくる可能性があるからできれば外れて欲しい予感が。
「先生」
「……言うな、恐らくお前と同じ事を――」
先生の言葉は最後まで続かなくて、その言葉はグラウンドの地面に衝突して大きなクレーターを作った一夏によって遮られた。それを見て先生は「何をしている……」と呆れながら言う。
一夏は上空から急降下、そのまま『一切速度を落とさず』に急降下したことによりグラウンドに頭から直撃、つまり人間ミサイルだ。人間ミサイルとなった一夏がグラウンドに墜落して、そこに大きなクレーターができた。
そしてそこからなんとか立ち上がると一夏の白式が強制解除、俺と先生は顔を見合わせると はぁ… とため息を吐いた。
「一夏……時々俺、お前のこと凄いと思うわ、いろんな意味で」
「この馬鹿者が……誰がグラウンドにクレーターを作れと指示した……授業が終わったら埋めておけ それと、次は武装の展開と収納の実践だ、もう一度ISを展開しろ、いいな」
「すみませんでした……」
先生に謝ると再度白式を展開する一夏、しかしまあ……あの穴埋めるとなったら結構大変だぞ。仕方ない――友人のよしみで終わったら手伝ってやるか…… そう俺は思うと、再び授業に意識を傾けた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一夏の墜落事故、と言うとまるで一夏が死んでしまったみたいなので一夏の墜落騒動から何日か経過した。そして現在は一夏の訓練が終わった後、俺は寮に戻るために道を歩いていた。
今日まで欠かさず、一夏は放課後俺達の特訓を受けているがやはり一夏は飲み込みがかなり早い。その日教えたことを翌日にはほとんどできるようになっているくらいには飲み込みが早い。
といっても、近接技術じゃアリアには勝てないし俺との模擬戦もそもそも俺が一夏の得意な戦闘方法をさせてないから勝ってはいるが、特訓を始めた頃と比べたら今の一夏は既に月と鼈、違うな、なんというかとにかく差がある。
本当にどこまでも強くなる可能性を秘めている、と俺は再認識。きっと近い未来で俺も圧倒されるんだろうなあ
そういえば、昨日休み時間に布仏 本音さんから聞いた話だがどうやら2組とうちの組に転校生が来るとかいう話があるらしい。
この時期に転校生ねえ、何かあるんじゃないかと考えてしまう俺が居る。 先日の襲撃事件、謎の襲撃者、そんな事があって自身の警戒心が強まっているというのもあるんだろうが、それを抜いてもなんというかちょっと怪しい。
考えてもみよう、1年の……いや俺は18だけど。1年のこんな時期にいきなり転校生が来るだろうか?それも2人、それも2人だ。 大事なことなので2回俺は思った。
なんというか作為的と言うかなんというか、そんなものを感じられずには居られなかった。
後、転校生のこともそうだが近いうちに主任がこっちに来るらしい。こないだオルコットさんに主任から連絡があったので立ち会ったが、どうやら『改修』していた『ブルー・ティアーズ』が『完成』したらしい。
相性や動きについては元々のオルコットさんのデータがあったらしいので、後は本人への受け渡しだけだそうだが、代表候補生でしかも学園に通っているオルコットさんをフランスまで呼び出すわけには行かず主任自ら完成した新たな『ブルー・ティアーズ』を持って学園に来るという話だ。
主任が来るということは、というよりあの人が動けるようになったということは、恐らく……この前の電話でも少し聞こえたがシャルロットの機体もほぼ完成したのだろう。恐らく、後はテストと会社用のデータを取るだけなんだと思う。
ということは近いうちにシャルロットがこっちに来るのか、そう思うと久しぶりに妹のような存在のシャルロットに会いたくなってしまう。アリアも『シャルロット成分不足症』とか言ってこないだぐってりしながら布仏 本音さんをもふもふしてたし。なんだよあれ、クラス全員所か織斑先生までニヤけていたのを覚えている。というか俺もあれを見てかなりヤバかった、理性保つので精一杯だった。恐るべしIS学園。
オルコットさんと篠ノ之さんに至っては手をなんというか、こう、自身の前に手を突き出して指を変な動きをさせて、そのままアリアと布仏 本音さんにニヤニヤしながら少しずつ迫っていた。
例えるなら、小動物を狙う肉食獣的な。無論、間一髪織斑先生に粛清されたがが先生も『気持ちはわからんでもないが落ち着け馬鹿者』と言っていた。
あの『せかいさいきょう』”ぶりゅんひるで”でもあり、学園の黒い悪魔とも謳われる織斑先生すら落としかけるとは本当に末恐ろしい。後決して織斑先生は黒いアイツではない、決してない。そんな事言ってしまえば俺が真の意味で粛清される。
そして何度でも言おう、IS学園恐るべし。
そんな先日あった悪夢とも呼べる出来事を思い出すと、あまり関係ないなと思うとすぐに頭の中から振り払う。そして次に考えたのは、主任の事だった。
「主任の事だから……きっとオルコットさんの機体、ゲテモノにされてるんじゃないかなあ」
俺の一番の心配はこれだ。アリアの追加兵装の時もそうだったが、とにかく主任を始めとした『ネクスト・インダストリー社』技術部の連中は、まごうことなき『変態』が多い。
例えば、俺とアリアがまだ向こうにいた時の話だが、研究開発室の前を通りかかった時に聞こえたのは
『いいやッ!ドリルだねっ! ドリルこそ絶対今後のISに必要だと私は思うねッ! ドリルがあれば工事に作業になんでもアリだろう!?』
『はは、馬鹿か貴様。 重火器に圧倒的な火力、そして一撃必殺こそロマン、そうだ――ISに足りないのは浪漫だッ! そして、浪漫溢れる兵装や道具は宇宙での活動、隕石の破壊や採掘にも使用できるッ!』
『それさ、ドリルも同じじゃない? 地球上での活動を考えるなら、災害現場の救助とか考えて機動力を上げるべきだと俺は思うけどなあ だからISの機動力をよりいいものにするために操縦者の意思疎通をダイレクトに伝えるフレームとかどうよ、ほら今連載してるロボット漫画に出てるみたいな奴』
『宇宙海賊になるのが私の夢なんです……だからあらゆる衝撃や攻撃にある程度耐えれるマントなんてどうですか』
『宇宙や地球上での活動を考えるなら、例えばIS専用の移動要塞とか……あ、勿論モデルは海賊船で』
『君たちは――実に馬鹿だなぁ』
『しゅ、主任!?』
『馬鹿だな君たちは、簡単なことじゃないか――全部製作段階まで持っていけばいい、違うかね? そう、我々は技術者だ……私たちの仕事はよりよい物を、人のためになるものを作り出して世の中に送り出すことだ、さあ君たち――今言ったことが本気なら今すぐ企画書とプレゼン用意してきたまえ!』
そんな会話が聞こえた。末恐ろしい。なんだあの変態達は。俺は直々に言ってやりたい 『そんなものを作って喜ぶか……変態共め!』と。きっと全力で喜びそうだが。
デュノア社も比較的まともな人多かったのに、あの『へんたいたち』と組むと技術力が跳ね上がると同時に『良心を持った変態』が増えた気がする。
そして恐らくシャルロットはその被害者だ。俺が知っているシャルロットはあんなに黒くありません。決して、決して信じない。
話を戻そう、恐らくと言うか間違いなくオルコットさんの機体はゲテモノになっている。
主任とお話(尋問)して教え貰ったが、元々のブルー・ティアーズのコンセプトを完全に残しつつも、最新のオルコットさんのデータから将来的に使いこなせるであろう、将来的に可能であろうという事をちゃんと考慮して機体を改修したらしい。ただ主任は『アリア嬢の時に続いて再び私の自信作だ』と嬉しそうに言っていたが。
主任としてはかなり真面目に作ったものらしいので心配ないとは思うが、はやりなんというか嫌な予感しかしなかった。
会ったことはないけど『篠ノ之束』博士が仮に主任と出会ったらどうなるのか、考えただけでもゾッとする。
「主任が近日中に来るって話に、そして2人の転校生、ね――本当IS学園にいると話題に困らないというかなんというか それで、いつまで付いて来るの? 一夏達と別れてからずっとついてきてるみたいだけど――用件があるなら聞くぞ?『いつぞやのお嬢さん?』」
「あら残念、気がついてたんですか――私としては完璧だと思ったんですが それと、覚えていて頂いて光栄です」
俺が振り向いて、既に夜道といってもいい自身が歩いてきた道に対してそう言うと――木陰から一人の女子生徒が手に扇子を持ちながら出てきた。そして開かれた扇子には『残念無念』と書かれていた。
その少女はIS学園の制服に、2年生の黄色のリボン、女の子にしては少し短めの水色の髪をしていた。
「そのわざとらしい敬語をやめろ、どうせ俺が年上だからとかそんな理由で気ぃ使ってんだろ?――そんなもんいらねえよ、どうせそこまで年齢違わないんだしな」
「ふふ、ではお言葉に甘えて――そんなに警戒されるとお姉さん傷ついちゃうわ、『月代先輩』?」
「……もういい、それで――いつぞやのお嬢さんが俺に何の用だ? 下らない理由ならまたアリアと篠ノ之さん呼ぶぞ、あの時の二の舞になりたいのか?」
「あー……できればそれは簡便して貰いたいわね、あれは結構おねーさん、響いたから……」
まあ、あれだけ不機嫌全開でアリアに当たられて篠ノ之さんにもきっつい事言われたらなあ。
「で、用件は?」
「あん、せっかちさん――『襲撃者』と同じ姿をした月代先輩に少しお話があって来ただけよ、私は」
「……お前、何でそれを――」
その言葉を聞いて俺は身構える。何故ならば『襲撃者の情報は俺達と先生2人しか知らない』筈なのだ。なのに己の正面で不敵に笑う少女は、『それを知っている』のだ。
「『お前』って名前じゃ私はないわよ?私の名前は――『更識 楯無』、親愛を込めて『楯無』と呼び捨てにしてくれていいわよ?」
「それで、その更識さんが俺に対して何の用だ?」
「い、今のスルーされて少しおねーさん傷ついたわ……」
ガクッと項垂れると再び扇子を出して広げる、そこには今度は『乙女心』と書かれていた。何が言いたいんだ……それと、なんでそんな器用なことができるんだ。
そのまま放置していると再び立ち上がり咳払いをすると、彼女は言葉を続けた。
「とりあえず、警戒を解いてくれないかしら?月代先輩。 少なくとも私は貴方の敵ではないわ」
「そう言われて、信じるとでも?」
「困ったわねぇ……なら、私が月代先輩のISと先日の襲撃者の姿が同一だと知っているのは、『織斑先生』から機密扱いで報告を受けてある依頼をされたから。こう言えば信じてもらえるかしら? 何なら、今この場で織斑先生を呼んで確認してもらってもいい」
そう言い切った彼女を睨み付けながらも、俺は彼女の目を見る――その目は、自信と意思に満ち溢れており、少なくとも……俺に対して嘘をついているようには思えなかった。
だとすれば、織斑先生が彼女に対して何かしらの依頼をしたというのは本当か?明日確認する必要があるが……ともかく彼女の話を聞いてみようと、俺はそう思った。
「ひとまず、君を信じよう――それで更識さん、俺に話というのは?」
「……うーん、そうねぇ――えいっ」
こちらに対して歩み寄ると、いきなり俺の右腕を自身の体に手繰り寄せてその身体を密着させてくる彼女。そんな事をされれば当然、当たるものは当たるわけで……
「……色仕掛けか? だとしたら無意味だぞ」
「違うわよ、まあ多少なりとも個人的な意味は含まれてるけれど」
「は?」
「……何でもないわ。あまり人に聞かれたくない話だから、できれば小声で話したい――ダメかしら?」
「はぁ……それで、話は」
「ゆっくり歩きながら、話をしましょうか」
それに対して俺は「わかった」と一言言うと、歩きながら彼女の話を聞き始めた
「まず、私が先日の襲撃者と月代先輩のISが酷似しているということを知っているのはさっき言ったとおりの理由。それから……今日の私の話は、あることを伝えるためよ」
「あること?」
「『亡国機業』について」
「ッ!?」
「ちょ、ちょっといきなり立ち止まらないで!?びっくりするじゃない……」
「わ、悪い――それで?」
「単刀直入に言うわ、私達の目的は『織斑一夏』とその関係者を亡国機業の手から守ること――そして、亡国機業は恐らくIS学園という1つの『世界』に居たとしても彼を狙うわ。転校生の話、は聞いてるわよね?」
「噂程度なら、な――2人転校生が来るって話は噂で聞いたな」
「そのうちの一人は、うちの――正確に言えば私達側の人間の一人で、対暗部の人間。そしてその目的と理由は」
「一夏を守るため、か?」
「ええ、その通り。 そして私は織斑先生から先日の騒動の話を聞いて、恐らく『貴方も狙われてもおかしくはない』と判断したわ――そして私達の護衛対象は織斑一夏だけではなく、『月代 悠』、貴方も加わった」
「なるほど……大体読めた。それでその転校生と更識さん達、つまりは対暗部の人間がこれから俺を守りますよ ってそう言いに来たのか?」
「簡単に言えばそうね、だから――」
「だったら、んなもんいらねえよ」
「……え?」
「いらないと言ったんだ。一夏だけ守ってろ、俺のお守りは必要ない――君は俺達の事を色々知ってるようだから言うが、俺達も亡国機業については追っている。こっちにも事情があるのと、多くの真実を見つけるためにな。それに俺は『お前は狙われているから守ってやる』と言われて『はいそうですか守ってください』とは言いたくない。強がりかもしれないな? だけど、そうやって一方的に誰かの力を借りることだけはしたくねぇんだ――だからもし守るとか言うんならそれ撤回して『力を貸す』って事にしてくれ」
俺がそう言って今度はゆっくり足を止めて右手に抱きついている彼女を見ると、彼女はどこか驚いたような、そんな表情をしながら俺を見ていた。
「……どうかしたのか?」
「――おねーさん、惚れちゃいそう」
「……は?」
「ふふっ……なーんでもないわよ、そうね――だったら『貴方に協力させて』くれないかしら? お互い、殆どの目的は一緒なんでしょうし、悪い提案ではないと思うのだけど?」
「『協力』っていう関係なら……俺としては構わない 色々やることはあると思うけどな」
「じゃあ、私達と『仏蘭西国企業連』――いいえ、『月代 悠』という人物との関係は協力関係、そういうことで構わないかしら?」
「少なくとも俺個人としては、それで構わない」
「じやあ、これからよろしくお願いするわね?月代先輩 後――」
すると、彼女は密着させていた己の身体を更に密着させてきて、俺が彼女を見ると――視界いっぱいに彼女の表情が確認できて、あと少しで彼女に触れられる、という位置に彼女の顔があった。
そして、彼女、更識さんはそのままクスリと笑うとそのまま目を閉じてそのまま俺に――
「痛い痛い、月代先輩、痛いのでやめてくれないかしら!?」
「年頃の女の子がよくも知らない男にそんな破廉恥な事しちゃいけません」
俺は、彼女が目を瞑り俺に対して――俗に言うキスをしようとしてきたのをあいていた左手で彼女に対して全力のアイアンクローをかますと、それを阻止した。
そして彼女との距離を再び離すと、彼女、更識さんはジト目でこちらを見ながら言葉を紡いだ
「……おねーさんとしては、別に構わないのに」
「あのな?そういう問題じゃなくて君が『自身の道徳的』にそんな破廉恥な事はしてもいいと思っていても、『一般的な道徳的』にはそんなことしちゃいけない、分かった?」
「――だから、そういうことじゃなくて……はぁ――鈍感、唐変木、女たらし」
「おいおい待てよ、酷い言われようだな!?大体女たらしって何だ女たらしって。 俺はただ道徳的に更識さんがやろうとした事はだな――」
「……もういい、鈍感」
そうため息をついて彼女は言うと、それまで抱きついていた右腕から己の身体を離すと、俺の正面に立って俺自身を見た。
というより本当に酷い言われようだな、まるで俺が一夏と同類みたいじゃないか、全く。少なくとも俺は一夏のように鈍感でもなんでもない。
「さて、私はこれで失礼しようかしら――最後に2つだけ」
「1つじゃなくて2つなのか――それで、何だ?」
「まず1つ目、できれば私のことは更識じゃなくて最初も言ったように『楯無』と呼び捨てにしてくれないかしら?そのほうが、私としてもやりやすいと思うのよね」
「あのね、よくも知らない男に自分の名前を呼び捨てには――」
「私が構わないと言ってるの。 だから、ね?」
「……分かったよ。『楯無』」
すると彼女は俺の前で満足げに、嬉しそうに笑うとまた扇子を取り出して広げる、そこには『大満足』と書かれていた。本当にどうなってるんだろうなあ、あの扇子。
「それと、もうひとつだけ」
「何だ?」
「転校生の話はしたわよね?――その私達側の転校生の子、確かに腕は一流だし信頼できるけど結構変わった子なのよね。だから……大変だろうけど頑張ってね?」
「どういう意味だ、それ――」
「そのうち分かるわよ、それじゃ――おやすみなさい、月代先輩」
「……ああ、楯無」
最後にもう一度彼女の名前を呼ぶと、楯無は満足そうな笑顔をこちらに向けて手を振りながら歩いて去っていった。何故名前を呼ばれたくらいであんなに嬉しそうにするのだろうか? むぅ……乙女心とはよくわからんなあ。
そういえば、明日は一夏の代表就任祝いだっただろうか、そんな事を俺は思い出しながら寮へと戻っていった。
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――『彼』は己に協力を申し出てきた『彼女』に対して何を思ったのか。
――そして、IS学園に現れる『2人』の転校生 彼女達と出会う日は、既に目の前だった。
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