万華鏡
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第二十八話 浴衣その十一
「肩とか当たったらことじゃけえな」
「海自の人大丈夫ですよね」
琴乃はもう一つの広名物について問うた。
「そちらは」
「ああ、海自さんは紳士じゃけえな」
宇野先輩は琴乃にも答える。
「全然大丈夫じゃけえ」
「肩とかぶつかっても」
「向こうから謝ってくれるわ」
そうだというのだ。
「デートに誘われることはあるかも知れんけえが」
「それ位ですか」
「基地見学言うと喜ぶけえ」
それをすると、というのだ。
「ええ人ばかりじゃ」
「じゃあ自衛隊は安全で」
「問題はヤクザ屋さん達だけですね」
「ヤクザ屋さんはすぐにわかるけえ」
その外見でだというのだ。
「別に気にせんでええわ」
「ですか」
「呉は私も行ったことあるけれどええで」
高見先輩も呉については太鼓判だった。
「移動もしやすいええ町やわ」
「じゃあ呉にも行って」
「広島にも」
「どっちにもフェリー出てるで」
高見先輩は五人にもこのことを話した。
「呉のはここに来る時に使ったあれな」
「あれを使ってですか」
「呉に行くんですね」
「帰る時も使うで」
その時もだというのだ。
「あれに乗って帰るんやで」
「何か風情がありますね」
「それって」
「島にいるって気がするやろ」
「はい、本当に」
「そう思います」
五人もこう先輩に答える。
「それで行くのもですか」
「あのフェリーで」
「さっきも言うたけど広島のもあるさかい」
高見先輩はこのことも話した。
「広島にも行くとええわ」
「広島には路面電車があるけえ」
宇野先輩はにこりとしてこの町のことも話す。
「本場のお好み焼きも食べんしゃい」
「お好み焼きって広島ですか?」
「広島が本場なんですか?」
「大阪のあれは大阪焼きじゃけえ」
宇野先輩はこのことははっきりと断言した。
「お好み焼きは広島じゃけえ」
「広島ですか」
「そっちなんですか」
「そうじゃけえ。違うんか?」
五人にも高見先輩にも問うことだった。
「お好み焼きは広島じゃけえ」
「ええと、それはまあ」
「何ていいますか」
神戸、大阪に近い五人は難しい顔でこう返した。
「ノーコメントでいいですか?」
「ちょっと」
「わし大阪焼きと思うけえ」
一応認めはするというのだ。
「それは」
「けれど今大阪焼きって」
「お好み焼きじゃないって」
「お好み焼きは広島けえ」
これはどうしても否定出来ないというのだ、まるでそれがこの世における絶対の摂理の一つであるかの様に言うのだ。
「大阪焼きは大阪焼きじゃけえ」
「まあそういうことは置いてや」
話が収まらないと見た高見先輩が言って来た。
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