とある星の力を使いし者
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第67話
大覇星祭。
九月一九日から二五日の七日間にわたって学園都市で催される行事で、簡単に言えば大規模な運動会だ。
その内容は、街に存在する全ての学校が合同で体育祭を行う、というものなのだが、何しろここは東京西部を占める超能力開発機関で、総人口二三〇万人弱、その内の八割が学生だというのだから、行事のスケールは半端ではない。
今日は開催日の一九日。
平日の早朝であるにも拘わらず、すでに街の中は大覇星祭参加者の父兄達で溢れ返っている。
学園都市の統括理事長が外部見学者対策の一環として一般車の乗り入れを禁止していなければ、街中で無意味な渋滞が何十キロと伸びていた事だろう。
こういう時は歩いた方が早いし、対応策として、学園都市では列車や地下鉄などの臨時便を増やすと共に、無人で走る自律バスなども用意している。
あまりの過密ダイヤに運転手の数が足りないというのだから驚きだ。
どこもかしこもラッシュアワーの駅のホームのような有様だが、それほど大覇星祭という一大イベントの人気は高い。
年に数回だけ学園都市が一般公開される特別な日であり、しかも内容といえば映画に出てくるような超能力を扱う者同士がしのぎを削り合うというもの。
競技種目がごく普通の体育祭とはいえ、「テレビなんかじゃ有名だけど、実際に見た事ない」という身近な不思議「超能力」に触れられるというものは、学園都市の外の人間からすれば相当な刺激と魅力を誇るようだ。
そんな近未来な街を、二人組の男女が歩いていた。
「おおっ、母さん母さん。
やはり何度来ても圧倒されるなぁ、学園都市っていうのは。
子供の頃にクレヨンで描いた世界がそのまま広がっているような気がするよ。」
そう言ったのは上条刀夜。
とある少年の父親である。
地味なスラックスに、袖を肩まで捲り上げたワイシャツ。
贈り物らしき実用性に欠けるセンスのネクタイを緩めてあり、履き潰した革靴の底がペタンペタンと情けない音を立てている。
その刀夜に対して。
「あらあら、私の思い描く近未来にまだ届いていない気がするのだけど。
だって巨大宇宙戦艦や人型兵器が連合とか帝国とかに分かれて戦ったり、赤や青のカラフルなビームが飛んだり宇宙空間なのにピキュンピキュン音が鳴ったりしないでしょう?
あと、蛍光灯みたいなサーベルも見たいのに。」
答えたのは、上条詩菜。
とある少年の母親である。
刀夜に比べて二回りぐらい若く見え、服装も並んで歩くには違和感を覚えさせる。
絹か何か、薄く滑らかな生地で繊細に作られた、足首まである長いワンピース。
その上からゆるりと羽織ったカーディガン。
弁当でも入っているのか、腕には籐ののバスケットの取っ手を通してある。
頭に載った鍔広の帽子もあいまって、やたら上流階級な匂いを漂わせている。
彼らは現在、自分達の息子も参加する開会式の会場へと、のんびり足を運んでいる。
「母さん、それが「近」未来と呼ばれるのはまだまだずっと先の時代だろう。
高熱源ブレードぐらいならこの街にはありそうだが・・・まぁ、物騒な話はやめにしよう。
こういう雰囲気は良いものだ。
壊すのは無粋というものだろう。」
空を見上げれば、ポンポンと白い煙だけの花火が上がっている。
所々に飛んでいるヘリコプターはマスコミのものか。
大覇星祭は一般にも開放され、テレビ局の中継も許可されている。
競技場には解説席が設けられ、街のあちこちには野外スタジオが臨時で建てられている。
その視聴率はワールドカップに匹敵するほどなのだから、彼らも必死なのだろう。
そんな夫婦の前を、何者かが横切った。
ドラム缶のような自立警備ロボットの上に、メイド服を着た少女がちょこんと座っている。
彼女は野球場の売り子のように、お腹の所で支えたトレイを、首の後ろに回した紐に固定しながら言う。
「あー、あー、メイド弁当、学園都市名物メイド弁当はいらんかねー。
繚乱家政所女学校のメイド弁当、より正確にはメイド見習い弁当はいらんかねー。」
あまりの売り文句に唖然としている二人の前で、メイドを乗せた自立警備ロボットはスーッと音もなく右から左へ走り去っていく。
詩菜は、あらあら、とほっぺたに片手を当てて言った。
「学園都市って色々な学校があるのねぇ。」
「まぁ世界中のあらゆる教育機関を凝縮さえたような場所だからね。
世界各国の家政学区の技術知識だってあるんだろうさ。
しかしメイドが街を歩いていても違和感のない風景ってのも恐ろしいものだな・・・っと。うわっ!?」
集中を欠けていた刀夜は、うっかり誰かと激突した。
「きゃっ!って、すみませんぶつかっちゃって。」
告げたのは、見た目大学生ぐらいの女性だった。
淡い灰色のワイシャツに、薄い生地でできた漆黒の細長いパンツ。
デザインはシンプルだが、一目で高級ブランドの匂いを感じさせる一品で、この格好なら社長室の椅子に座ってもおかしくない印象すらある。
だが、衣装に反して中身に堅い雰囲気はなく、むしろ不良少女が無理矢理着ているような印象があった。
いつもだらけたスーツのまま社運をかけた取り引きに向かう刀夜とは対照的な女性だった。
「いや、これだけ広いと迷ってしまいしますよね。
失礼ですけど、常盤台中学ってどの辺にあるかご存知ですか?」
「はぁ。
ちょっと待ってください。」
刀夜はゴソゴソとパンフレットを取り出す。
学園都市は広大で参加する学生の数も半端ではないため、ちょっとした海外旅行用のガイドブックのような厚みがある。
「とき、とき・・・ないなぁ。
常盤台中学というのは、名前がリストに載っていませんね。
正式なパンフレットに紹介分が全くないという事は、もしかして一般公開されていないのでは?」
「うわっ!ホントですか。
じゃあ美琴のヤツはどこにいるのよーっ!
せっかく大学に休学届け出してここまで来たっていうのに!」
みこと、というのは妹の名前だろうか?と刀夜はガイドブックを読みながら適当に考えていたが、不意に女性がズズイと接近してくると、刀夜に肩をぶつけるように、彼の広げているページに覗き込む。
「と、と、と、とき、とき・・・うわっ!ホントにないよギャーどうしよう!!」
特に待ち合わせ場所を決めていなかったのか女性は切羽詰まった叫びを上げる。
無防備な彼女のほっぺが、刀夜の無精ヒゲの生えた頬とぶつかりそうになった。
女性の柔らかい髪の毛がわずかに刀夜の耳をくすぐる。
その柔らかい髪から、ほのかに甘い匂いがした。
刀夜が慌てて顔を逸らすと、詩菜がものすごい良い笑顔をしていた。
「あらあら、刀夜さん。
またですか?」
「か、母さん?ま、またとは何かな?」
「もう、刀夜さんったら。
道端で女性とぶつかってお知り合いになり、その後の無自覚な言動で良い雰囲気になるだなんて。
これで何度目かしら。
数える方が馬鹿らしいのかしら。
あらあら、あらいやだ。
そんなに私を怒らせて、刀夜さんったらマゾなのかしら。」
そんな詩菜の表情を見て顔を引きつる刀夜。
対する女性は詩菜の変化など気づかずに刀夜の腕をぐいぐい引っ張っている。
「ねぇ、運営委員のテントとかってどこにあるか分かります?」
「あらあらまぁまぁ。」
さらに良い笑顔になっていく。
「母さんこわーっ!
だ、だけど、だけど母さんの軽い嫉妬もちょっと可愛らしいここはどう動くべきか!?」
刀夜はどうやって現状を打破すべきか悩んでいた所だった。
トントン、と刀夜の肩を誰かが叩いた。
刀夜は後ろを振り向くと、そこに男が立っていた。
身長は刀夜と変わらないが雰囲気が全く刀夜と違った。
服装は白のワイシャツに黒いネクタイをしている。
ジーンズは茶色のパンツを履いていて、刀夜の隣にいる女性と良く似た服装だ。
髪は黒で顔もそこそこイケメンで服装と雰囲気が上手い事噛み合っている。
「常盤台は学園都市独自の技術が使われていますので、一般公開されていません。」
「やっぱりか~どうしよう・・・」
「心配しなくてもその娘さんが出る競技で待ち合わせをすれば良いのでは?」
男がそう言うと女性はなるほど、と頷いた。
「竜也さん、ここにいたんですか。
もう一人にしないでください、ただでさえ此処は広いのですから。」
男より少し後ろで黒い日傘を差しながら小走りで走ってくる。
手には詩菜と同じバスケットが持たれていた。
腰まである長い黒髪に白いシャツにピンク色のカーディガン。
足首まである長い紫色のスカートを履いた、とても清楚なイメージを持った女性だ。
この二人は夫婦だろうと刀夜は思った。
なぜならこの二人が並ぶと、とても絵になるからだ。
「ああ、すまないな、秋葉。」
「もうすぐ開会式ですから、早く恭介さんの姿を見に行きましょう。」
その女性が言った名前に刀夜と詩菜は聞き覚えがあった。
二三〇万人いるこの学園都市に同じ名前がいてもおかしくはないが刀夜は気になったので聞いてみた。
「もしかして、麻生恭介君の親御さんですか。」
「ええ、そうですが。」
「ああ、そうですか。
私は上条刀夜と言います。
夏休みにウチの息子と一緒に海水浴に行ったのですが。」
「ああ、恭介から話は聞いていました。
その時はお世話になりました。
まさかこんな所で会うとは、世間は案外狭いですね。
そうだ、自己紹介がまだでしたね。
私は麻生竜也です。」
「妻の麻生秋葉です。
その節はお世話になりました。」
「上条刀夜です。
私達も恭介君には息子の当麻がお世話になっているみたいですのでお互い様ですよ。」
「妻の上条詩菜です。」
二人の親子が挨拶し終ると、刀夜の腕を持っている女性がふと呟いた。
「あれって美琴かな?」
その言葉に四人はその女性の視線を辿ると、その先には体操服を着た学生達がいた。
その中に見知った我が子の黒いツンツン頭が見える。
その隣に白いツンツン頭の姿も見えた。
そのすぐ側にも肩まである茶色い髪の少女もいる。
女性は少女を指さして言った。
「あっ、あれがウチの美琴です。
良かった、良かった、大学が忙しくてろくに集合場所とか話し合っていなかったから。」
「どうやら私達の息子も傍にいるみたいですね。」
「そうですね。」
向こう側にいる子供達は親の姿に気づいていないようだ。
しかし、相当の大声で話し合っているのか、言葉だけ鮮明に届いてくる。
「ねえねえ、結局アンタ達って赤組と白組のどっちなの?」
「あん?赤だけど。
御坂も赤なのか?」
「そ、そうよ。」
「おおっ、そっかー赤組か。
ならお互い頑張らないとなー。」
「じゃあ、あんたもそうなの?」
「そうだな、当麻と同じクラスだから同じ色だな。」
「じゃあ、あ、赤組のメンバーで合同の競技とかあったら」
「なんつってな!実は白組でしたーっ!!」
「ッ!?」
「見ろこの純白のハチマキを!
貴様ら怨敵を一人残らず葬ってやるという覚悟の証ですよ!!」
「じ、じゃあ、あんたも?」
「同じクラスだから白だな。
ちなみに俺は騙していないからな。
当麻と同じ色としか言っていないからな。
だからバチバチと電撃を散らしているんじゃねぇ。」
「チューガクセーだろうがコーコーセーだろうが知った事か!
ボコボコに点を奪ってやるから覚悟せよ!!」
「俺はそんな面倒な事はしないけどな。」
「人を年下だと思って軽く見やがって。
白組の雑魚どもなんか軽く吹き飛ばしてやるんだから!!」
「吹っ飛びまーせーんっ!
っつか、もしお前に負ける事があったら俺らは罰ゲーム喰らっても良い!
何でも言う事聞いてやるよ!」
「おい、勝手に話をすす「言ったわね!!ようし乗った!!」・・・人の話を聞けお前ら。」
その後から泣き見るんじゃないわよ!!、とか、その台詞が出た時点で負け犬祭りが始まっていますなぁ!!、と言葉が続き、麻生はため息を吐いて表情が疲れているように見える。
上条詩菜はほっぺたに片手を当てて、あらあら、と呟き、上条刀夜はショックを受け、隣にいる女性は片手をおでこに当てていた。
そして、竜也は少し懐かしむような表情を浮かべ、秋葉はうっすらと涙を溜めていた。
それを見た竜也は秋葉の眼に溜まった涙を拭いて言った。
「秋葉、涙なんか流したら駄目だぞ。
恭介に見られたらどうする?」
「ごめんなさい。
でも、でも、あの子は前よりも元気になっている所を見たら止まらなくて。」
「ああ、この学園都市に恭介を連れてきたのは正解みたいだったな。」
上条夫妻達に見られないように、聞こえないように言う。
そんなこんなで、七日間にわたる学園都市総合体育祭「大覇星祭」が始まる。
後書き
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