三つのオレンジの恋
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第一幕その八
第一幕その八
「いや、それにしても本人によく似ています」
「全くじゃ」
二人は本物だとは全く気付いていない。そしてそれは道化師やクラリーチェ達以外の祭に参加し観ている者達も同じであった。
「いや、面白い見世物だ」
「今度の演目はファタ=モルガーナとの喧嘩か」
「それにしても本人にそっくりだな」
見世物だと思っているのだった。
「髪の毛や目の色も」
「顔も似ているよな」
「服までな」
何もかもがそっくりたと感心していた。勿論二人が本気で喧嘩をしているとは思いも寄らない。二人は既に髪の毛は乱れ帽子も服も破れだしている。汗だくにもなっており実に酷い様子であった。
しかしそれでも喧嘩を続けている。クラリーチェ達は何時の間にかファタ=モルガーナと離れていた。そうしてそこから喧嘩を見ながらひそひそと話すのであった。
「私達は無関係よ」
「関係ありませんか」
「そう、あの女はファタ=モルガーナではないわ」
こういうことにして厄介ごとから避けようというのがクラリーチェの魂胆であった。
「いいわね、それで」
「はあ。それでしたら」
「ここで見ていればいいから」
何時の間にか祭の端に位置していた。そこから高見の見物に興じることにしたのだった。
皆その喧嘩を見ている。そしてそれは王子も同じだった。あまりにも突拍子のない騒ぎなので無意識のうちに顔をあげていたのだ。またファタ=モルガーナが喧嘩に夢中になってしまって魔法を解いてしまっていたのだった。王子の病は治ろうとしていた。
そのファタ=モルガーナは相変わらず道化師との喧嘩を続けている。その中で一旦間合いを離して体当たりを仕掛けようとする。ところが。
「おっと」
「あっ」
その体当たりは道化師にあえなくかわされてしまった。そしてバランスを崩した彼女は滑りながら足からバランスを崩していき。そのままこけてしまった。
「いったあぁぁい・・・・・・」
背中も頭も打ってしまった。その鈍い痛みに思わず声をあげてしまった。しかもそれだけではなかった。
「ははは、何という姿だ」
まずは道化師の嘲る声を横から聞いた。
「踏み固められた雪の上は滑る。注意しておくのだったな」
「言われなくてもね」
ムキになった顔と声で上体を起こしながら言い返す。
「そんなことは」
「それにしてもだ」
道化師の嘲る声はまだ続いていた。
「早く服をなおすことだな」
「服!?」
「だから何という姿だ」
道化師はまたこう言ってきたのだった。
「自分の姿をよく見てみろ」
「姿!?・・・・・・えっ!?」
気付いてみると何と。その法衣がめくれあがってしまっていた。それで脚も下着も丸見えになってしまっている。
「おお、脚もいいな」
「全くだ」
「実に艶かしい」
これには悲劇役者であっても呆けた者であっても言葉は同じだった。黒いハイヒールにこれまた黒いストッキングに包まれた脚は確かに見事なものだった。
「それに下着も」
「色気があるな」
「美人だし余計に」
喜劇役者も詩人もそのショーツに目が釘付けになっていた。ストッキングはガーターでありショーツは黒である。肌が白いだけにその黒がかなり目立つ形になってしまっている。
「いやいや、これは面白い余興で」
「サービス満点」
ピエロ達がおどけて踊りながら囃し立てる。
「まさかこんな美女が出て来るとは」
「しかもこんなものを見せてくれるとは」
「全く全く」
貴族達も満足している。そして王子も。
「あはは、何あの女の人」
王子の席から転げるようにして笑いだしたのである。
「パンツまで見せて転んで。喧嘩だけでもおかしかったのに」
「しまった、魔法が」
ファタ=モルガーナはここで王子にかけていた鬱病の魔法が解けてしまったことを悟った。
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