三つのオレンジの恋
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第一幕その七
第一幕その七
「何を企んでいる。ことと次第によってはだ」
「どうするっていうのよ」
「出て行ってもらうぞ」
一歩ずい、と前に出ての言葉だった。
「いや、本当に出て行ってもらおうか」
「いい度胸ね」
ファタ=モルガーナも負けてはいない。如何にも気の強そうな顔で彼に返してきたのだった。
「私にそんなこと言うなんて」
「出て行かないのか」
「あんたの指図は受けないわ」
彼の顔を見上げて言い返してみせた。
「あんたなんかのはね」
「言ったな。では腕づくでもだ」
「できるっていうの?」
いよいよ一触即発となってきた。どちらも全く引かない。
「言っておくけれどね、喧嘩では子供の頃から負けたことがないのよ」
「口喧嘩でか?」
「殴り合いでもよ。男にもね」
「面白い。それはわしもだ」
完全に売り言葉に買い言葉であった。
「ではだ」
「やるのね」
「こうしてやるわっ」
いきなりファタ=モルガーナの左腕を掴んだ。そうして。
「さあ出て行け」
「追い出そうっていうのね、本当に」
「悪巧みをしているに決まっているわっ」
彼は既に彼女のことをよく知っていた。地下にいてそこから悪巧みをして魔法を使う悪い魔女だと。既に有名になっているのである。
「だからだ。出て行けっ」
「はいそうですかって従う奴なんていないわよっ」
ファタ=モルガーナも負けてはいない。彼のその手を思いきり振り払って返す。
「誰があんたみたいな不細工なピエロに!」
「誰が不細工だ!」
「あんたよ!」
今度は言い争いをはじめる二人だった。
「あんた以外に誰がいるのよ!」
「わしは男前で通っている!」
道化師は意地になった声で彼女に言い返した。
「それこそ水も滴るようなな!」
「そのお化粧でわかるものですか!」
「では見てみるか!」
「ええ、見てやるわよ!」
言い争いはさらに激しいものになっていく。
「その不細工な顔をね!」
「おのれ、まだ言うか!」
「何度でも言ってやるわよ!」
ファタ=モルガーナは実際に言いながら彼に掴みかかってきた。
「この醜男!」
「この魔女が!」
そして道化師も応戦する。お互いにつねったり引っ掻いたり掴んだり引っ張ったりといったみっともない喧嘩に入ってしまっていた。
それは周りにも丸見えだった。皆そうした二人を見て祭をよそに言うのだった。
「何だ?見世物か?」
「芝居の一環か?」
こんなことを言いながら二人を見る。それは王達も同じだった。
「どうしたのじゃ、道化は」
「さて」
王の問いに首を傾げるしかないパンタローネだった。
「何でしょうか」
「見世物じゃろうか」
「そういえばあの女」
パンタローネはその目を細めさせて言った。
「ファタ=モルガーナに似ていますな」
「そういえばそうじゃな」
「よく化けております」
まさか本人だとは思いも寄らないのだった。
「髪を見事に染めて」
「目はそのままなのかのう」
「魔法で色を変えてみせているのでは?」
二人は能天気にそう考えていた。
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