三つのオレンジの恋
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第一幕その六
第一幕その六
「蛇だ蛇だ!」
「逃げろ!」
こうした話をして逃げ惑ってみせる。わざと慌てて。
そこに悲劇役者達が出て来て。わざと嘆いてみせる。
「雪に蛇が出て来るとは」
「これ以上の嘆きがあろうか」
「ああ、神よ」
そのままの彼等の普段の演技だが実に場違いなものであった。
「これではどうしたものか」
「最早何もないではないか」
この場違いさも笑いの元だった。最後には喜劇役者達が登場して面白おかしく芝居を見せる。誰もが一連の見世物に大笑いだった。しかし王子だけは。
「駄目か」
「はい」
「お祭でも」
パンタローネと道化師も俯いたままの王子を見ながら王に答える。
「どうしても」
「駄目なようです」
「困ったのう」
王はいよいよ手がなくなったと思いだしていた。
「このままでは本当に」
「クラリーチェ様がこの国の王になります」
「そうです。あの方が」
道化師も困り果てた顔になっていた。そうして無意識のうちにそのクラリーチェのいる方に顔をやる。そしてそこで彼女を見つけたのであった。
「むっ!?」
「どうしたのだ?」
「いえ、あの女ですが」
パンタローネの言葉に応えてそこにいるファタ=モルガーナを指差したのであった。
「あの銀色の髪と目の女は」
「むっ!?まさか」
「ええ、そのまさかですよ」
ここでまたパンタローネの言葉に応えるのだった。
「ファタ=モルガーナです」
「あの女が何故ここに!?」
「クラリーチェ様のお側にいますが」
「では悪巧みをしているのか」
「その可能性は高いかと」
ファタ=モルガーナの名前はこの国にも届いている。非常に底意地の悪い魔女としてだ。
「ですから」
「追い払うに限るな」
「また何をしてくるかわかりません」
不吉なものを感じながら述べる道化師だった。
「ですから」
「追い払おう」
「はい」
こうして道化師はファタ=モルガーナのの方にそっと近付いた。そうして化粧の下に剣呑な表情を隠してそのうえで彼女に告げるのだった。
「おい」
「何よ」
「何よではないっ」
怒った声でファタ=モルガーナに告げる。
「ファタ=モルガーナだな」
「人違いよ」
「ではその髪は何だ?」
まずは髪の毛を指摘するのだった。その銀色の髪の毛を。
「それに目の色も」
「髪や目がどうしたっていうのよ」
「どちらも銀色ではないか」
道化師はそのまま指摘してみせた。
「それこそが何よりの証拠だ」
「私がそのファタ=モルガーナだっていう?」
「その通りだ。何をしに来た」
今にも彼女に殴りかからんばかりの剣幕になっていた。
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