三つのオレンジの恋
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第一幕その四
第一幕その四
「鬱にさせるだけではね」
「ではクラリーチェ様」
レアンドルはその言葉を聞いて彼女の名を呼んだ。二人しかいない王宮は静まり返っている。玉座と王子の座の向こうには果てしない闇が広がっている。
「それでは一体何を」
「色々あるわ」
ここでクラリーチェは酷薄な笑みを浮かべたのであった。
「色々とね」
「色々ですか」
「思いつかないの?例えば」
その酷薄な笑みと共にさらに話す。
「阿片や」
「阿片・・・・・・」
「それか銃弾か」
物騒なものを次々に出すのだった。
「それで王子を完全に呆けさせてしまうか亡き者になするかよ」
「あの、幾ら何でもそれは」
レアンドルはクラリーチェのとんでもない言葉を受けてその表情を曇らせた。暗い顔ではなく曇らせた顔でそのうえで言うのだった。
「酷過ぎるのでは」
「酷い?何処がかしら」
彼にそう言われても平然としているクラリーチェだった。
「呆けさせても始末してもどうということはないじゃない」
「今のままで充分ではないでしょうか」
レアンドルの顔は困惑しきったものであった。
「流石に。御心が戻っていないのですから」
「戻ったらそれで何もかもが終わりなのよ」
しかしクラリーチェはまだ言うのだった。
「そう、何もかもね」
「しかし祭を開いてもです」
レアンドルがここで出した名前は。
「ファタ=モルガーナの魔法で王子は何があっても」
「念には念を入れるべきよ」
クラリーチェの言葉は変わらない。
「だからよ。ここは」
「王子をですか」
「私がこの国の主になったなら」
今度はこうしたことを言うのだった。
「レアンドル」
「はい」
「貴方はこの国の王よ」
「私がですか」
「私は今一人よ」
独身ということである。見ればそれなりにい歳であるがそれでもだ。
「そして貴方も」
「はい、妻に先立たれてもう随分経ちます」
こう述べるレアンドルだった。
「それはそうですが」
「ならお互い都合がいいわ。私が女王で」
「私が王」
「王になりたいわね」
あらためて彼に問うた。
「それで」
「ええ、まあ」
少し力なく答えるレアンドルだった。
「それはその通りですが」
「なら決まりよ。わかったわね」
「わかりました」
「とりあえず殺しはしなくても」
それは一先置くというのである。
「祭が開かれても」
「王子を笑わせない」
「そうよ。そしてその為には」
クラリーチェの言葉は続く。それと共に彼女の頭の中はかなり激しく仕事を続けていた。
「あの女にここに来てもらうわ」
「ファタ=モルガーナをですか」
「そうよ。あの女が来れば」
また言うクラリーチェだった。
「もうその魔法で何もできなくなるわ」
「確かに。あの女の魔法では」
「そうよ。私達には地下の世界の魔法使いがいるのよ」
このことにかなり強い後ろ楯を感じているクラリーチェであった。
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