三つのオレンジの恋
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第一幕その三
第一幕その三
「面白いかもな」
「では開きますか、祭を」
「やってみる価値はある」
王は言った。
「それで王子が気を取り直すのならな」
「わかりました。では」
「レアンドル」
王はここでもう一人を呼んだ。すぐに黒い服を着た暗い顔の男が出て来た。暗いのは表情だけでなくその目の色も顔の色もであった。
「王よ、御呼びでしょうか」
「そなたに命じることがある」
己の前に来て一礼した彼に対して告げた。
「よいか」
「何なりと」
まずはこう返したレアンドルだった。
「祭の準備をするのだ」
「祭をですか」
「パンタローネとトゥルファルディーノを助けてな」
「そうだ」
再び彼に対して告げた。
「王子の心を取り戻す為にな」
「王子のですか」
それを聞くと何故かその顔をさらに暗くさせた彼であった。
「御心を」
「そうだ。できるか」
「わかりました」
そのこの上なく暗い顔での言葉だった。
「それでは」
「頼んだぞ。これで心が取り戻せればだ」
王の言葉は実に切実なものだった。
「王子だけではない。この国も救われるのだ」
「はあ」
今一つ以上に浮かない顔のレアンドルだった。だが何はともあれ彼等は王子の為に祭を開くことにしたのであった。その俯いたままの王子に対して。
「しかしじゃ」
「どうしたというの?」
その時地下では黒い足まで完全に隠れた黒い服の魔法使いと魔女がそれぞれ向かい合って座っていた。地下は黒い土の世界でありキャンドルで照らされている。彼等はその中で黒いテーブルを挟んで座りそのうえでカードをしていた。
「ファタ=モルガーナ。御前も強情だな」
「それは私の台詞よ、チェリー」
金色の髪と目の整った顔の魔法使いに対してこれまた整った顔の銀色の髪と目の美女が返していた。
男は若々しく涼しげな顔をしている。しかし何処か騒がしい目の光を放ってもいる。
女は鼻が高く小さな口をしており知的な美貌を持っている。しかし彼女もまたその表情に何処か騒がしいものをたたえていた。
その彼等が今それぞれカードを持ってそのうえで言い合っているのであった。
彼等の周りでは小鬼達が飛び跳ねて踊っている。それが実に騒々しい。
「悲しいのがいい」
「楽しいのがいい」
「いやいや、詩が一番だ」
「馬鹿話を言い合おう」
こんなことを言い合いながら騒いでいるのだった。そしてチェリーはその中でクラブのキングを持ちながらファタ=モルガーナに対して話す。一方ファタ=モルガーナはその手にスペードのクイーンを持っている。それぞれ別のカードを手にしているのだった。
「こうして何時までも勝負を諦めないんだからな」
「あんたもね。よく飽きないわね」
「今度は負けんぞ」
強い声でファタ=モルガーナに告げた。
「何があってもな」
「私もよ。あんただけには負けないわ」
「全く」
「強情なんだから」
こんな話をしながら延々とカード遊びを続ける。二人は今は動く気配はなく小鬼達にも全く目を向けることはなかった。ただカードだけをしていた。
そして王宮の大広間では。今は王も王子もいない。そのかわりにレアンドルが金髪を長く伸ばしており目つきの悪い高慢そうでかつ如何にも意地の悪そうな赤いドレスの女と共にいた。そしてそのうえで彼女の前で小さくなってその話を聞いているのであった。
「情けないことね」
「すいません」
「このままではラチが明かないわ」
女は右手に持っている黒い羽根の扇を振りながら述べた。
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