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三つのオレンジの恋

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第一幕その二


第一幕その二

 その中もまた見事なものだった。巨大な暖炉に堆く積まれ飾られた黄金の装飾とクロテンの毛皮、それとウォッカに脂の匂いが満ちている。
 音楽も聴こえる。賑やかでかつ派手な音楽だ。大広間もまた同じであり煉瓦の上に紅の絨毯が敷かれている。その中で王は玉座から隣にいる王子を見ていた。
 王は濃い黒い髭を生やしクロテンの毛皮のマントに分厚い服を幾重にも着ている。王冠は黄金で出来ておりそこにサファイアやルビーが飾られている。その隣に座す王子も見事な分厚い服を着ている。
 その顔立ちは柔和で白い。目は青く神は黄金である。小柄で細い面持ちである。その王子を見ながら浮かない顔をしている王だった。
「駄目か」
「はい、どうやら」
「駄目なようです」
 そこに頭の禿げた赤い髭と鼻の男と緑と赤の服を着た道化師が出て来て答える。道化師は白く化粧をして笑顔になっているが実際の表情は浮かないものだった。
「王子様はやはり」
「何とも」
「困ったことだ」
 王は詩人達の歌を聴きながら浮かない顔をしていた。
「我が御霊は神の御前にあり」
「今永遠の喜びを確かめる」
「この歌も素晴らしいものだが」 
 王は詩人達の歌を聴きながら述べた。
「しかしそれにも」
「はい、全くです」
「私が何もしてもです」
 今度は道化師が言ってきた。
「何もできません。それに」
「それに。どうしたのだトゥルファルディーノ」
 禿げた男がその道化師の名を呼んで問うた。
「何かあるのか」
「はい、パンタローネ様」
 道化師もまた彼の名を呼んでそのうえで応えた。
「私の弟子達が何をしてもです」
「ほら王子様」
「如何でしょうか」
 実際に今度はピエロ達が王子の前でおどけた踊りを見せる。呆けた男達もそれと共にあれやこれやと笑ったり騒いだりしているがだった。
「駄目です、この通り」
「そうか。それではだ」
 パンタローネは困り果てた顔をしながらもここで自分の手を叩いた。すると今度は喜劇役者と悲劇役者達が出て来た。そのうえで彼等は混ざって芝居をはじめた。
「ああ、私は歌に生き愛に生き」
「すぐにドゥルカマーラのところに行かないと」
 芝居をする。しかし王子は俯いたままであった。
「駄目か、やはり」
「困ったことだ。このままではだ」 
 王は王子を見続けながら再び言った。
「王子はわしの跡を継げぬ」
「ええ、これでは」
「流石に。何も喋られず動かれないのでは」
 パンタローネも道化師もその言葉に頷いた。
「どうしようもありません」
「それでは」
「王位はあれに譲るしかない」
 王の顔は急激に曇ってきた。そしてその顔で言うのだった。
「クラリーチェにな」
「クラリーチェ様ですか」
「あの方に」
「嫌な話じゃ」
 王はその顔で再び言った。
「全く以ってな」
「はい、クラリーチェ様は何かと評判の宜しくない方ですし」
「こう言っては何ですが」
 パンタローネも道化師もよく見れば困惑しきった顔になっていた。そうしてその顔で話すのだった。
「意地がお悪いですし」
「それに野心も強い方ですので」
「おまけに浪費家で浮気者だ」
 王も彼女のことはよく知っているのだった。
「あの者を王にすれば大変なことになる」
「私もそう思います」
「ですから」
「どうすればよいかのう」
 王は悩み苦しむ顔で呟いた。
「ここは」
「そうですな。ここは」
 王に応えてパンタローネが言うのだった。
「祭を開きましょう」
「祭をか」
「そうです。如何でしょうか」
 再び王に対して言うのだった。
「それでは」
「祭りか」
 祭と聞いて少し考える顔になる王だった。そうしてそのうえで話すのであった。
 
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