ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第7話 SAO 正式チュートリアル
皆は、鐘の音がなる方向、はじまりの街の方を見ていた。だが、リュウキは1人だけ違う。
「…………」
リュウキは自分の足元を見ていたのだ。何か、違和感を感じたからだ。それは、彼がこの世界で出来る事であり、システム的なモノではない。この世界で感じることが出来る一種の予知ともいえる彼の感覚。
何か、波の様なモノが押し寄せてくる様な感覚が足元から現れたのだ。そして、それは近づいている。
「……くるッ!」
リュウキがそう言ったその時だった。
「へ? 何が……?」
「ッ!!」
“キィィィィィン………”と言う甲高い音と共に、光が3人をつつみこんだそれは、辺り一面が光りに包まれて、包まれたと同時に、闇の中に突き落とされる様な感覚だった。
闇の中に呑まれてから数秒後、闇から次に見た景色は、はじまりの街中央部だった。この場所は、ログインした時に見た光景であり、他の大勢のプレイヤー達もいた。この広場を埋め尽くす程の数のプレイヤー。恐らくはアインクラッドでプレイしているメンバー全員がいるんだろう。10,000ものプレイヤーが強制転移でここに移動させられていると言う事だ。
「………」
「これは強制テレポート?」
キリトも勿論皆が驚いていた。その場が混乱の渦につつまれるが、常に冷静にものを見ていたのはリュウキだった。
「……これは始まりに過ぎないだろうな」
感じた事をそのままに、リュウキはそう呟いていた。それは暗闇に突き落とされた時にもずっと考えていた事だ。
「なんだ? 何が起きるっていうんだ?」
キリトは、比較的リュウキの傍にいたから、リュウキの言葉が聞こえた。……いつもなら、何気ない言葉かもしれない。気にならない。なのに、今は強く訊きたいと思ったのだ。
「……上だ。キリト、上を見てみろ」
リュウキは答えず指し示したのははじまりの街の空。キリトはリュウキの言葉通り、赤く染まっているその空を見た。
そして、空を見上げた数秒後。
≪System Announcement WARNING≫
この文字が広がり空一面に広がった。エリア別に空一面区切られている。そしてその境界線から血の様な赤い液体が滴り落ちた。それは意思を持っているかのように一箇所へと集まって行き。最後にはフードで顔が見えない巨大な人間の姿へと変貌した。
「なんだ……ありゃ……?」
「…………。アレが、さしずめGMと言ったところか。随分と悪趣味なデザインだ」
リュウキは見上げながらそう呟く。その場の人間全員がこの光景に驚いていた。驚くもの……怖がるもの……楽観視するものと、様々な反応だ。だが、姿は不吉を孕んでいると直感出来ると言うものだ。その巨大な魔法使いのような姿の人間は両手を広げた。
『プレイヤーの諸君……私の世界へそうこそ……』
突如、街中に響き渡るような声量で話し出した。キリトはその魔法使いが言っている意味が分らなかった。
「私の世界……?」
その言葉の意味が判らないようだ。だが、リュウキは理解した。この世界を≪私の世界≫と形容する者は、そう言える者は1人しか知らない。
「……茅場、晶彦」
「えっ?」
リュウキの方を反射的に見るキリトだったが、そのキリトの疑問は、リュウキに聞く前に直ぐに答えてくれた。その魔法使いに似た容姿の者がだ。
『私の名前は茅場晶彦……いまやこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
「!!」
キリトは自分が買っているナーヴギアについての本、そして、ゲーム界の新星と謳われている人物だとすぐに理解した。場の人間の殆ども知っている存在だ。そして……、ここからの言葉、それが重要だった。
『プレイヤー諸君は……既にメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気づいていると思う……。しかし、これはゲームの不具合では無い……。繰り返す、不具合ではなく≪SAO≫本来の仕様である……』
淡々と進めていく茅場晶彦。……事務的な話し方だ。そこには一切の感情さえ篭っていない。
「…………何を考えている?お前は」
この時リュウキは、茅場であろう人物の真意が分らなかった。確かに、あの時、今思えば最後のメッセージのやり取りだ。……あの時、文面上だが 何処か、違和感を覚えた。だが、こんな大それたことをするなど……その理由も皆目見当が付かないからだ。
そして、次の言葉は、場を更に混乱させることになる。
『諸君は自発的にログアウトする事は出来ない……。また、外部の人間の手によるナーヴギアの停止……あるいは、解除もありえない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号阻止が発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる』
その言葉の内容は要約すれば、『ログアウトしようものなら……現実世界ででもログアウトする』と言う事だ。……現実でのログアウト、即ち《死》と言う事だ。
だが、当然いきなりそんな事を言われても皆はやはり信じられない。
場を盛り上げる演出だろうと結論付けて、何名かは動き出した。だが、混乱するがゆえに……この場を立ち去りたいとも思うのだろう。恐らくはそちらの思いの方が強い。そのメンバー達につられるように他の何名かも立ち去ろうとしたが、広場から出る事は叶わなかった。
この空間から出られない、目に見えない壁の様なモノが行く手を遮っている。
「………ブロックしているな。この場の……半径約100m円状に所か」
行動規制措置。これは、本来なら行けない場所だったり、ゲームフラグが立っていない。或いはシステム的にそこを通るとゲーム不備が発生する地点に置かれているものだ。
「何言ってんだ? あのGM……頭おかしいんじゃねえか? なぁ? 2人とも」
クラインもあの言葉は信じていないようだった。
「確かに、普通はそうだ。……だが、GMが言った事、出来るか出来ないか? と聞かれれば、出来ない事は無い」
リュウキはクラインにそう答えた。
「え?」
「ナーヴギアの信号阻止のマイクロウェーブ。それは、いわば電子レンジと同じだ。リミッターを外せば脳を焼く事も……」
リュウキの言葉を繋ぐようにキリトが答えた。
「そうだ、……可能だ。間違いなくな。……脳の水分を高速振動させ、脳は摩擦で一瞬で焼ききれる。現実でのログアウト。即ち死だ」
そう付け加えた。
「じゃ……じゃあよ? 電源を切れば良いんじゃ……」
クラインがそう聞く。電子レンジではないが、ナーヴギアにしろ何にしろ、電気で動くものだ。だから、元を断てば大丈夫だろうと考えた様だ。
確かに、それは間違いではない。だが……。
「内蔵してるだろう?ナーヴギアの重さの三割はバッテリーセルだ。人間の脳を焼くくらい訳はない」
そう、電源を切っても無駄なのだ。当初は恐らく不意のアクシデントでログアウトしない様に……、と言った措置だったのだろう。クラインもリュウキのその言葉に何も言い返せなかった。
「でもよぉ! 無茶苦茶だろうが! 一体なんなんだよぉ!」
クラインは怒りそう訴える。でも、まだ信じられない。その時だ、再び説明が返ってきた。
『……より具体的には、10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み――以上の3点だ。これら、いずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。……ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制解除を試みた例が少なからずあり、その結果』
茅場であろう魔法使いは一呼吸置いた。そんな事を宣言する時も、淡々としている。
『――残念ながら、すでに213名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
人の死の宣告。……この言葉に場は一気に冷え、そして静まり返った。
「213人も……?」
「信じねえ……オレは絶対に信じねえぞ!」
キリトは呆然として、そしてクラインは頑なに認める事を拒んだ。
「………あの男は」
リュウキは、あの男との仕事の事を思い出していた。これまでの仕事の日々を、どういう人間なのかを。
――間違いない。
1つの結論に達した。
「こんな冗談は、決して言わないし、やらない。……アイツは本気だ」
キリトはリュウキのその言葉に驚きを隠せなかった。混乱しているというのに、リュウキの声ははっきりと聞こえたのだ。
「リュウキ……お前、茅場にあったことが……?」
キリトはそうリュウキに聞くが、リュウキから返事よりも、あの男からの言葉の続きが来た。
『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない』
そう言うと、ホロウ・ウインドウを呼び出し、各メディア、そしてWEBページを空に映し出した。
『ご覧の通り……現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に解除される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま2時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護施設のもとに置かれるはずだ。この世界を作った上で、いきなり全プレイヤーがログアウトするような理不尽はしない。……諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』
その言葉を訊いて、流石に黙って聞いていたキリトも周り同様叫んだ。
「ふざけるな! そんな状態でゲームをしろだと!? これはもうゲームじゃないだろう!」
「そ……そーだ! ふざけんのもいい加減にしろ! さっさと終われよ! どうせイベントなんかなんだろ! いい加減長すぎんだよ!!」
クラインもキリトに続いた。
「…………」
リュウキは。……恐らく、唯一この空間で言葉を発せず状況を観察していた。
――……あの男は一体何の為に。
リュウキが思うのはそこだった。他人の事が判る訳ではないが、茅場晶彦こんな殺人願望があったとは思いにくい。
そして、1つのことを思い出した。リュウキが彼を形容した言葉≪燃え尽き症候群≫。それはリュウキが茅場に言った言葉だ。この世界を、SAOの世界を作った。そして、幼少からの夢だとも聞いた。何に変えてでも実現してみせるとも、言っていた。その姿勢には……執念にも感じたものが見えた。メッセージのやり取り、画面越しであるのにも関わらず。そして、茅場の声は再び響わたる。 まるで、その場の怒声を、逆なでするように冷やかで。……いや、穏やかで冷血な……性質の悪い悪魔の様なものだった。
『ここからも十分重要である為聞いてもらいたい。充分に留意してもらいたい点だ。諸君にとって、(ソードアート・オンライン)は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に』
続けて言おうとしているが、ここから先の言葉は茅場が言わなくても判った。
「……現実でも死ぬ、か?」
リュウキは聞く前にそう続けたのだ。
「「!!」」
キリトとクラインも。 リュウキの言葉を信じていないわけじゃないが、どこかで、それを意識していたんだろう。そんな表情を2人はしていた。
それに答えるように茅場は続けた。
『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される……』
想像通りの答えが返ってきた。
「…………。」
視線の上に存在する緑色のゲージ。
HP:403/403.
これが文字通り命の数字となる様だ。現実でこんなデジタルに命の数字が表せれる訳はない。……だが、ここは現実じゃないんだ。
「そんなの……信じられるか。馬鹿馬鹿しい……」
キリトは拳を握り締めていた。
キリトの感情は最もだ。そもそもオンラインでのゲームで死なない事の難しさは皆が知っていることだ。簡単に攻略できるものなら、直ぐに全てを攻略されていき 人々、ユーザー達は、ゲームから離れて他のゲームへと抜けていくだろう。そういったことにならないように、運営はゲームバランスを考え、大型アップデートの繰り返し。そして難易度の高め等の措置をとる。長きに渡ってゲームをプレイしてもらう為。悪く言えば、ユーザー達を取り込み、利益にする為に。それがオンラインゲームと言うものだ。
そしてその後も続いた。
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べたとおり、アインクラッド最上部、第100層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。以前のテスターとは違い……誰か1人でも、倒すことが出来ればその瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』
し……ん、と約1万人のプレイヤーが沈黙した。一瞬だが……場が本当に静まり返ったのだ。この城の頂までたどり着く、という言葉の真意を……皆が理解したのだろう。
この巨大な浮遊城。
自分達を最下層に飲み込み、さらに頭上に99もの層を重ね空に浮かび続ける巨大な浮遊城、《アインクラッド》を指していたのだ。
「クリア……第100層だとぉ!?」
クラインが叫び声を上げた。
「で、できるわきゃねぇだろうが!! βテストん時じゃ、ろくに上がれなかったんだろうが!!」
キリトも唖然としていた。自分が知っているだけで、最大まで攻略できたと聞いているのが、リュウキの16層。自分が聞いてたのでは、2〜4層だった。そして、自身の6層がリュウキに続く記録だ。 βテスターの際の仕様、そのフロアのBOSSを倒せば、上に誰もが上がれるのだが……、誰もが挑戦したいと言う思いもあるだろうとのことで、倒したBOSSにも再戦できると言う仕様だった。仮に凄腕プレイヤー達がいて、彼らがあっという間にBOSSを倒して自分は何も出来なかった。気が付いたら攻略されていてた。テスターとして選ばれたのに味気ない。と言うトラブルを回避する為のものだった。 全員が戦ってみて、そのデータを取るのにも効果的だとも判断していた。そして、その代わり、初回のBOSS戦でLAした者には相応のアイテムが送られる。それは再戦では発生しない仕組みになっているのだ。だが、その仕様のせいだからだ。プレイヤーの大部分が高いエリアには降り立つ事が出来ないのだ。
リュウキが相当な腕前だったとしても、ソロでは限界がある。それはキリトの言葉だが、誰しもが知っている。こんな異常空間で一致団結して、大パーティで攻略なんて出来る筈も無い。勿論クラインもそう思っているのだろう。
『それでは、最後に諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』
それを聞くと、自然の動作で、ほとんどのプレイヤーが右手の指二本揃えて真下に向けて振った。当然だ。皆が茅場の説明に頭がいっぱいだった。そして、誰かが開けば次に自分もと混乱してはいても、連鎖的に続いていった。それにより、広場いっぱいに電子的な鈴の音のサウンドエフェクトが鳴り響いた。そして出現したメインメニューから、アイテム欄のタブを叩くと、表示された所持品リストに1つだけアイテムがあった。
そのアイテムの名前は≪手鏡≫
皆が、オブジェクト化し、手に取ったが。
「これは………。」
次の瞬間、この世界でリュウキにとっては思いがけない事が起こる事になる。嘗て、自分自身が危惧していた事態だ。いや、実際には起こってほしくなかった、が本音だろう。それはこんな異常状態となったとしても、同じだ。
手鏡を見た全員。即ちこのエリアにいるプレイヤーの全員が突然、白い光に包み込まれた。
それは時間にして数秒だったが……混乱させるには十分すぎる時間だった。そして、光が止むと。
「お前……誰だ?」
「いや、おめーこそ?」
光りが消えた後の事だ、クラインとキリトがそう言い合っていた。
「? お前も誰だ?」
傍から聞けば滑稽な光景だ……。ついさっきまで、会話を交わし、そして 短い時間だったとは言え、パーティを組んだ間柄だと言うのに、そんな会話は無いだろう。
……だが、当然その理由はある。
自身のアバター姿形が先ほどと変わっているのだ。そう、これは本来の姿、現実世界での自分の姿に強制的に変えられていたのだ。持ってる手鏡を見て唖然とする。
「ッ!!」
周りには性別を偽ったり、若く見せたりしているものもいる。更に場が混乱したが、リュウキは場を見る事も、さっきまでの冷静さも保てない。……それどころでは無いのだ。
「ッッ!!」
間違いなく、リュウキは今日一番、動揺した。動揺を隠す事が出来なかった。いや、これ程のは一生の内でも数度、片手で数える程しかないだろう。自身の一生、14年間の記憶の中で。
キリトとクラインは互いに状況を理解したようだ。
「お前が「キリトか!?」「クラインか!?」」
結論が言った様で、そう互いに指を差し合っていたのだ。
「……………」
リュウキはすぐに、表情を元に戻した。自身の顔面を押さえていた手をゆっくりと離した。もう、観念した様だ。……アバターを強制的に戻されたのだから、この場所でまたアバターを精製する様な事は出来ないのだから。
「って、お前が……リュウキか?」
「へ? いやいや、変わりすぎだろ? さっきまでオレ年上だって思ってたぜ?」
リュウキと思われる男。 顔はまだ、あどけなさが残る少年だ。目の前のキリトもそうだったが、リュウキはそれ以上の変貌だった。鮮やかな銀髪が場の風に揺られ、靡く。それに、顔立ちも整っている。美少年と言っても差し支えないだろう。
その容姿なら男にも女にも言い寄られそうだとも同時に思えた。
「………よかった」
その良かった、と言う意味は『自身のことを明らかにしなくて』と言う事である。 SAOを購入時から、様々な所を経由し、誰が購入したか判らなくして本当に良かったと今日ほど思ったことはない。実を言うと、彼はそこまでしていた。それほど、メディアに姿を晒したくない。
だから心から安堵していた。
「ん? 何がだ?」
クラインがリュウキにそう聞くが。
「別に、なんでもない…… それよりも気になる事があるだろ」
リュウキはそう返した。確かに姿については驚く事だったが、今はそれよりも、そんな事よりも気になる事があるだろう。
「そうだ! それより何でこうなったんだ!? 勝手に!?」
クラインは混乱をしつつ、そう言っていた。
「スキャンだな。ナーヴギアは、高密度の信号素子で頭から顔全体をすっぽり覆っている。つまり、脳だけじゃなくて、顔の表面の形も精細に把握できる……。考えてはいたことだが、まさか本当になるなんて……」
リュウキがそう説明した。考えられる事、だったが、βテスト時代にはこんな事は起こらなかったから、油断をしていたのだ。
「で、でもよ。身長とか……体格はどうなんだよ?」
クラインは続いてそう聞いた。
「それなら、ナーヴギアの本体を買って装着した時にキャリブレーションで体を触っただろう?あれは装着者の体表感覚を再現するためのものだから、自分のリアルな体格をナーヴギア内にデータ化することができる筈だ」
今度は、キリトが変わりにクラインに答えた。
「……説明の手間が省けるな。キリトがいると」
リュウキは、本当にそう思っていた。と言うか、クラインが知らなさ過ぎるのも原因の一つだろう。
「これくらい……知ってたさ。何でもない」
「オレは知らねえって! 確かにそんなことしてたなーくらいでよ!」
どうやらクラインは、ゲームやる時は説明書読まないタイプらしい。
「つまりはこう言う事、だろう。現実。あいつはさっきそう言った。これは現実だと。このポリゴンのアバターと数値化されたHPは、両方本物の体であり、命なんだ、とな。……それを強制的に認識させるために、茅場は俺たちの現実そのままの顔と体を再現したんだ……。自身の姿で攻撃を受ければ、自分が傷ついている。……そう強く錯覚するだろう。そして、自分の身体が砕けでもすれば? ……刷り込みを行うのにもってこいと言うわけだ。」
リュウキは想像上ではあるが……恐らく間違いないとそう言う。
誰しも自分の姿で切り付けられたりしたら……? HPゲージが消えたら? これによって安易な行動は控えるようになるだろう。
「なんでだ!? そもそも、なんでこんなことを………!?」
「オレの回答が正しいとは限らないし、……アイツに聞くべきことだな。」
リュウキはクラインの言葉にそう返した。まだ、巨大な茅場は健在なのだ。その言葉に反応したのか、或いはただのプログラム通りなのか、話を続けていた。
『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ、ソードアート・オンラインおよびナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?……私の目的はすでに達せられている。この世界を創り出し、鑑賞するために私はソードアート・オンラインを作った』
それは、あの男が言っていたものと同じで、何に変えてでも作りたかったもの。それを実現させ……そして その世界に自分自身のリアルを築きたかった。
「そう言うところ……か」
リュウキはそう解釈する。
茅場は作るのだけじゃ飽き足らず……その場所に本物の人間を連れてくることで更なるリアル感を求めた。より自分の理想世界に近づける為に。
『……以上で≪ソードアート・オンライン≫正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』
最後の一言で、残響を引き消えた。その巨大なローブ姿が音もなく上昇、フードの先端から空を埋めるシステムメッセージに溶け込むように同化していくように消えてゆく。肩・胸、そして両手と足が血の色をした天の水面に沈み、最後にひとつだけ波紋が広がった。その波紋が消えると殆ど同時に……空一面に並ぶメッセージも現れた時と同じ様に唐突に消滅した。
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