東方守勢録
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第二話
出発当日
「準備はいいかしら?」
あたりはすっかり暗くなり、誰もが寝静まる時間になったころ、再思の道にある革命軍の基地に向かうため、選抜された13人は中庭に集まっていた。
「ああ」
「じゃあ行く前に組み分けをしておくわね」
「組み分けですか?」
「ええ。霧の湖に行ったとき、俊司君がやったみたいにね」
紫はそう言って一枚の紙を俊司達に見せた。
「潜入班と……囮班?」
「そうよ。今回は潜入してから攻めるんじゃなくて、囮が戦ってる間に内部を攻撃するわ」
「なるほど……」
「囮班は吸血鬼さんとメイドさん、天狗二人と月兎さんに不老不死さん。あと霊夢と幽々子の8人ね」
「で、潜入は俺と紫、妖夢に悠斗さんと雛さんの5人か」
「そういうこと。何か異論はあるかしら?」
紫は俊司達に問いかけたが、誰も反論することはなかった。
「じゃあこれでいきましょう」
「囮班はなにもためらわずに攻撃していいのね?」
「ええ。存分に暴れてちょうだい」
「ふふっ……存分にねぇ」
レミリアはそう呟いて不適な笑みを浮かべた。
「じゃあ行きましょうか」
「おう」
「気をつけて行ってらっしゃい」
「はい師匠」
永琳達に見送られながら、俊司達はスキマの中に入って行くのであった。
同時刻 再思の道 革命軍地上本拠地
「そろそろ……来るか」
「おそらくですが……時期を考えると今頃かと」
部屋の中では二人の男がしゃべっていた。
「勝つ見込みは?」
「低いと思いますね……なにせ、前回の件で負傷者がかなり出ていましたし、精神的に疲れたものも多くいましたから……」
「そうか……」
男は困った顔をしていた。現状を考えるとなんとも言えないことに、頭を悩まされていた。
そんな彼を見てもう一人の男は軽く溜息をつくと、真顔のまましゃべり始めた。
「……総司令官は、天界の本拠地に向かってください」
「……なぜだ?」
「ここは破棄してもかまわないと思います。地霊殿と天界……この二つでも、十分に侵攻は可能だと思います」
「なら、ここには誰が残る?」
「……私が残ります」
男は静かにそう言った。
「彼は必ず来ます。なら……私がきちんとけりをつけますよ」
「いいんだな? 命の保障はないぞ?」
「かまいません」
男の目は覚悟に満ちていた。それに押されてか、もう一人の男も彼の提案を却下しようとはしなかった。
「わかった。ここの権限はすべてお前にまかせる」
「ありがとうございます」
「頼むぞ」
「はい」
男はそのまま敬礼すると、その場を後にした。
「さて……決着をつけようか……里中俊司」
数分後 革命軍地上本拠地周辺
「タイミングはどうするんだ?」
「戦闘が始まってから少したってからね」
「こっちはいつ始めてもいいの?」
「かまわないわ」
俊司達は本拠地から少し離れた場所で最終確認を行っていた。
「じゃあ、囮班は正面から突撃して頂戴。こっちはしばらくここで待機で」
「了解」
「じゃあ行ってくるわね~」
8人は言われたとおり、本拠地のゲートに向けて行動を始めた。
革命軍本拠地 正面ゲート
捕虜の脱出があって以来、夜間の見張りは強化されつつあった。より厳重になったことと、兵士の疲労を考えてローテーションの間隔を調整していた。また、女性兵士も警備を行うようになっていた。
正面のゲートでは二人待機していた。そこから外周を等間隔で兵士が見張りをしている。付近には警報ブザーのスイッチが完備されていた。
「……」
「おい、交代だ」
見張りをしていた兵士達に、別の二人の兵士が声をかけた。兵士は現状を軽く報告するとその場を跡にしようとする。
(4人ですか……)
付近の木の陰から、一人の天狗娘が見ているにもかかわらず……
「夜分遅くに失礼しま~っす」
「!?」
交代しようとしていた兵士達の前に、軽く笑みを浮かべた少女が現れた。
「そんなに硬くならないでくださいよ! 今回は取材させていただきたくってここに参りましたので」
「ぐっ……敵襲だ!」
兵士は少女の話を聞かずにブザーのスイッチを入れた。耳が痛くなりそうなほど大きい音が、付近に流れ始める。
少女はそれを聞いて若干溜息をついていた。
「はあ……まったく、人の話を聞かないんですから」
「とぼけるな!」
頭を抱える少女に、4人の兵士は淡々と銃口を向けた。
「おお、怖い怖い」
「何が目的だ!」
「だから取材に赴いたまでと」
「本当のことを言え! さもないと撃つ!」
「……」
撃つと言われた瞬間、少女は思いっきり兵士達を睨みつけた。兵士たちは一瞬身震いをしていたが、それに臆することなく再び照準を合わせた。
「そんな武器とあなた達の技量で……幻想郷最速である私を撃ち落とせると?」
「ぐっ……」
「始める前からそんな覚悟は無意味ですね」
少女は軽く溜息をつくと、再び兵士を睨みつけた。
「わかりました。では、取材させていただくとしましょうか」
「何を言って……」
「では! 幻想郷の伝統ブン屋……射名丸文の速さについてこれますか!!」
そういった瞬間、少女の姿は見えなくなった。
数分後
「総員配置につけ! ゲートを開けろ!」
警報によって集まった兵士は次々と配置についていく。それと同時に、重たい扉が音をたてながら開き始めていた。
「警戒を怠るな! 何があるかわから……!?」
警戒していた兵士達にの目に飛び込んできたのは、倒れた4人の兵士とその近くに立つ一人の少女だった。
「遅かったですね~次の取材対象がいなくて困ってたんですよ」
「そっ……総員一斉掃射!!」
少女の話を聞かずに、兵士達は攻撃を始める。だが、少女はそれを避けようとはしなかった。
「これは……避けなくてもいいですね」
「何言ってんのよ文!」
そうつぶやいた少女の前に別の少女が飛び込んできた。
「避けないと殺されるでしょ!」
そういいながら目の前に二枚の札を配置する。同時に半透明の壁が目の前に現れた。
「壁? いや……結界か!!」
一人の兵士がそう叫んだ瞬間、弾丸は結界にぶつかり始めた。
「いや~霊夢さんが来てくれたんですから、避けなくてもいいでしょうに」
「はあ……何言ってんのよ」
霊夢は少しあきれているようだった。
そうこうしていると、急に革命軍の攻撃が弱くなってきた。大半の兵士がリロードを始めたのだろう。
その状況を見て、少し後方にいた吸血鬼の少女が不適な笑みを浮かべた。
「リロードを終えたら再度掃射を……!! 総員退避!!」
「えっ……うわあああ!?」
轟音とともに、一本の槍のようなものが兵士達に突っ込んできた。
「この攻撃は……」
「くっくっくっ……無様だねぇ」
吸血鬼の少女は、逃げ腰状態の兵士達を見てそう呟いた。
「ただの外来人のくせに……私に歯向かおうなんて……なんて馬鹿なのかしら」
「ぐっ……まだくるのか!」
士気が低下し始めていた兵士達の前に、次々と少女達が現れる。
長い夜の戦いが、ゆっくと始まろうとしていた。
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