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東方守勢録

作者:ユーミー
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最終部
  第一話

早苗が守矢神社に帰ってから数十日がたった。

その間、俊司たちは侵攻することなく永遠亭にとどまっていた。鈴仙が能力の使いすぎと連戦で疲労困憊になったこともあり、休息の時間も含めて侵攻はやめておこうという話になった。

革命軍の攻撃も考えていたため警戒も怠ってはいなかったが、俊司たちの脱出で深手を負ったのか、彼らも侵攻してくることもなかった。


「せやっ!!」

「うおっと」


この日、俊司と妖夢はいつもどおり竹林の中で特訓をしていた。あと、特訓の成果を見てみたいと、紫と幽々子も二人の様子を見に来ていた。


「なるほどね~、確かに俊司君の動きも良くなってるわね~」

「ここまでやって共に4勝4敗ね……しかし、俊司君の成長速度も化け物レベルね」

「そうね~。妖夢相手にあの短いナイフで戦ってるんだもの」


二人はのんきに会話をしていたが、目の前ではそれに釣り合わないくらいの激戦が行われていた。


「よっと!」

「くっ……まだまだ!」


俊司は妖夢の一振りを間一髪の状態でかわしながらナイフを突きつける。妖夢もナイフの軌道を読みながら淡々とかわしていった。

先に5勝したほうが勝ちというルールで行っていたが、ここ最近は五分五分の対決になることが多かった。だが、それでも妖夢がかろうじて勝利を収めていた。彼女にとっては特訓以前に、剣士としてのプライドもあったのだろう。

だが、今回はいつもと少し違っていた。


(俊司さんの動き……いつもと少し違う。油断したら……私が負けちゃうかも……)

「もしかしてっ……いつもと違うとか……思ってない!?」

「えっ!?」

「こっちはこっちで……対策してんだっ!」

「しまっ……きゃっ!」


妖夢の一撃を何とかよけた俊司は、スキだらけになった彼女の足をけりですくった。バランスを崩した妖夢は、尻餅をつくようにして倒れこむ。

そのまま、俊司は妖夢の首もとにナイフを突きつけた。


「……」

「あらあら」

「これで俺の5勝目」


そう言って俊司はナイフを鞘に戻した。


「あはは……負けちゃいましたね」

「今回は運がよかっただけかもな。ほら」


俊司は軽く笑いながら妖夢に手を差し伸べる。妖夢は少し顔を赤くしていたが、素直に手をとって起き上がった。


「強くなったわね俊司君」

「いいや、まだまだだよ」

「そうかしら?数十日前は妖夢にぼろ負けしてたのに、いまでは対等に戦える。それでも十分じゃないかしら?」

「まだ上は目指せると思う。そう思わないと、上達なんてしないしね」

「ふふっ、俊司君らしいのね~」


と、一同はたわいない会話をしていた。











その日の午後、俊司は紫に呼ばれてある一室を訪れていた。中にはすでに紫と霊夢、あとレミリアと悠斗が座っていた。


「さて、全員そろったわね?」

「ああ。で? 話ってのは?」

「……そろそろ行動を起そうかと思ってね」

「!」


その一言で、場の雰囲気は緊張感に包まれた。


「なるほど、ところでどこを攻めるんだ?」

「俊司君が捕らえられていた場所……そこなら場所もわかるし、内部も軽くわかるでしょう?」

「そうだな……まあ、全部じゃないけどな」

「時間帯は夜。吸血鬼さんを呼んだのはそのためよ」

「ふふっ……なるほどね」


レミリアはそれを聞いて不適な笑みを浮かべていた。


「いつやるんだ?」

「明後日よ。それで、連れて行く人を決めようと思ってね」

「ここの5人は確定ってことか?」

「ええ。悠斗君には悪いけど、今回はついてきてもらうわね?」

「わかりました。捕虜解放の手助けですか?」

「まあ、そういったところね。あと、妖夢も来るといってたから6人は確定ね。それ以外の人と人数を決めようかと思って」

「そうか……わかった」


こうして、俊司たちは日が暮れるまでの間、話し合いを続けるのであった。













翌日 出発前日


話し合いの結果、メンバーは前回決定していた6人と、鈴仙・妹紅・咲夜・幽々子・文・椛の6人を加えた12人で行くという結論に至った。その後、悠斗が戦場に行くということもあってか、雛もついていくと言い始め、結果的に13人になった。

出発は明後日となっていたため、この日は準備と休息の時間となっていた。俊司も特訓は中止して、思い思いの時間を過ごしていた。

昼ごろになると、にとりが急に俊司を中庭に呼び出していた。


「話って?」

「頼まれていたものが出来あがったからね。そいつを渡しておこうと思ってさ」


そう言って、にとりは2丁のハンドガンを渡した。

俊司が脱出した日の翌日、にとりに改造を頼んでいたのだ。スペルカードのことをきちんと伝え、耐久力に問題があることを伝えていた。その時に、由莉香が持っていたハンドガンも改造してほしいと頼んでいた。

時間がかかるとは言っていたのだが、タイミングよく出発の前日に仕上がったようだった。


「こっちが壊れていた方で、こっちがあの女の子が持っていた方。スペルカードに合わせて耐久力も上げたから、それ相応じゃ壊れないとは思うけど……」

「十分だよ。ありがとう」


俊司は軽く笑みを返しながら銃を受け取った。


「無理はしないでね。あと、少し感覚が違うと思うから気をつけて」

「わかった」

「あと……がんばってね」

「おう」


心配そうにするにとりに笑みを返すと、俊司はその場をあとにした。








数分後


「妖夢、ちょっといいか?」

「はい?」


俊司は妖夢のもとを訪れていた。


「さて……ついに明日だな」

「そうですね……」

「それで、言っておきたいことがあってさ」

「?」


俊司はそう言うと、急に表情を暗くして話し始めた。


「たぶん……復讐の相手がそこにいると思う」

「……」

「戦闘は避けれないと思うんだ……だから……」

「まさか、万が一なにかあったらとか言わないですよね?」


妖夢は心配そうにそう言っていた。

妖夢が言いたいことは分かっていた。だが、それでも確実に生き残れる保証はない。だから、俊司は妖夢に伝えておくことがあったのだ。そのために今日はここに来ていた。


「……まあ、そうなんだけどな」

「……そうですか」


雰囲気が一気に暗くなる。だが、ここで引き下がるわけにもいかない。俊司は勇気を振り絞って話を進めた。


「……今知るのと、後で知るのとどっちがいい?」

「えっ?」


いきなりの質問に、妖夢は訳が分からずぽかんとしていた。


「答えて」

「でっ……でも」

「いいから」

「あ……えっと……」


訳も分からず考えさせられる妖夢。思考が定まらないまま、ふと思い浮かんだことを口にしていた。


「あまり……聞いてしまってはいけない気がするので……後でお願いします」

「えっ……後……か……」


妖夢の答えを聞いた少年は、なぜか気を落としていた。


「えっ、何か間違っていましたか!?」

「いいや、間違ってないよ」


俊司はそう言っていたが、明らかに苦笑いをしていた。


「じゃあ、ちょっと不謹慎な話をするけど……もし俺が死んだら、俺の部屋にある鞄の中から手紙を取って見てほしいんだ」

「手紙ですか?」

「ああ。生きてたら……俺の口からちゃんと話すよ」

「……わかりました」


妖夢は不思議そうにしながらも、そう答えた。


「あと……質問いいか?」

「質問ですか?」


キョトンとする妖夢をしり目に、俊司は顔を赤く染めながら口を開いた。














「……妖夢さぁ……俺のこと好きか?」










「なっ!?」


いきなりの質問に妖夢は一気に顔を赤く染めた。俊司もすごくはずかしそうな顔をしながらこっちを見ている。妖夢は思考が一気に吹き飛んでいく感じがした。


「えっ!? いやっ……ええ!?」

「あはは……大丈夫?」

「大丈夫じゃないですよ!? いきなり何言ってるんですか!?」


妖夢はおもいっきり動揺していた。幽々子にばれていたこともあってか、俊司自身にばれてしまっていたのかと思っていたのだ。

心臓の鼓動がどんどん大きくなっていく。恥ずかしさのせいで、ほとんど動けなくなっていた。


「……あ……う……」

「……答えてくれるか?」

「……」


どうするべきか分からなくなっていた。

今答えなくても、今の反応を見ればなんとなく見当がつくだろう。だが、もし今答えてしまってはこの関係が崩れてしまうのかと思うと、何もできなくなっていた。


「……今ですか?」

「ああ」


目の前の少年はまっすぐ妖夢を見ていた。その視線に恥ずかしくなる妖夢だったが、その中から微かに勇気の感情が伝わってきていた。

それが後押しになってか、それに答えたいという自分も生まれてきていた。


「……わかりました、きちんとお答えします」

「……うん」


妖夢はあせり始める自分を抑えながら、きちんと言葉にしていた。












「私は……俊司さんのことが……すき……です」









「……そっか」

「それだけですか!?」


俊司の反応に、妖夢は思わず声をあげていた。


「あははっ……なんか、なんて言っていいかわからなくってさ」

「ううっ……」

「ごっ……ごめん」


恥ずかしさのせいか、何もしゃべれなくなった二人。変な空気が二人を包みこんでいた。


「俊司さんは……どうなんですか?」

「俺?」

「はい」


妖夢は、若干睨むような感じで俊司を見ていた。俊司はそっぽを向いたまま、なぜか申し訳なさそうにしていた。


「今は言わない」


俊司は少し笑いながらそう言った。


「えっ!?」

「だって、後がいいって言ったじゃん」

「そっそんな! そんなの卑怯ですよ!!」

「あはは……まあ、そう言うことで」


俊司はそう言いながら立ち上がる。そのまま呆気にとられたままの妖夢に別れを告げ、自分の部屋へと帰って行った。


「……どういうことですか……俊司さん……卑怯すぎますよ……」


妖夢は半分涙目になっていた。











少し離れた廊下の一角にて


「……最低だ……俺」


俊司はうずくまってそう呟いた。 
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