SAO-銀ノ月-
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第十六話
前書き
暁にて初投稿!
シリカと別れた俺は、アインクラッド第五十五層《グランサム》に来ていた。
木造・石造の建築が多いこのSAOにはおいては、比較的珍しい鉄で造られた建物が並ぶ層であり、金属などの流通が盛んであるためか、別名《鉄の街》と呼ばれる街だ。
現在の最前線の層であり、かなり有名な場所……別に観光の名所では無いが……があるため、人通りはそれなりに多いものの、他の木造の層に比べて鉄造り特有の寒々しさが感じられるため、俺は少し苦手な街であった。
何故、わざわざ苦手な場所に来たのかと問われれば、シリカと食事中の時に来たメール……傭兵《銀ノ月》へ宛てられた依頼が来たからだ。
転移門から地図を見ながら目的地に向かい、途中の簡素で整然とした、いかにもNPCショップという店でいつもよりちょっと(ほんのちょっとだけだが)高いポーションを買い、アイテムストレージに入れて歩きだす。
しかし、少し問題があった。
……今ので残金が……心許ない。
いや、生活に必要な資金に困っている
わけではないのだが、夢のマイホームを買うための金以外の、普段から使う金が少なくなってしまっていた。
それもそのはず。
俺が受けた二つの依頼、《ホランド》からの《タイタンズハンド》討伐任務・《シリカ》からのピナ生還依頼……二つとも、調子にのって「お金はいらない」と言ってしまったからに他ならない。
……まあ、シリカと知り合えたことでチャラにしよう。
友情はプライスレス、友情はお金で買えない価値がある……なんて素晴らしい言葉であろうか。
……だが、お金でしか買えないモノがあるのもまた事実。
俺は、ゲームの中に入ってまでつきまとう悲しい事実にため息をつき、目的地に到着した。
今回の目的地。
それは、このアインクラッドでの最強ギルド《血盟騎士団》の本部だった。
《鉄の街》の異名に恥じない、重厚だがどこか神聖さを感じられる血盟騎士団――略して《Kob》――の本部を見上げながら、今回の依頼を確認する。
今回の傭兵《銀ノ月》に来た依頼の依頼主は血盟騎士団。
そして、依頼内容は――『第五十五層のボスモンスターの共同撃破』だ。
鉄ごしらえの門を開け、Kob本部の大ホールに入る。
そこには、Kobのギルドメンバーはもちろん、最強ギルドの一角《聖竜連合》のギルドメンバー、ソロプレイヤーなど様々なプレイヤーがいる。
「ショウキ?」
見知った声に振り向くと、予想通りの人物が横に立っていた。
目立ちたくないのか、ホールの片隅で壁に寄りかかっているのは――
「よ、キリト」
俺と同じく漆黒の衣装に身を包み、(何故か胸当ては水玉模様だが)先の激戦、五十層にて手に入れた片手剣、《エリュシデータ》を持っているフレンド、キリトだった。
「まだ生きてたのかよ?」
「お前こそ、中層で人助けしてなくて良いのか?」
お互いに憎まれ口を叩きつつ、俺もキリトと同じくホールの片隅に行き、アイテムストレージから
自家製のお茶を取り出し、ぐびりと一口飲んだ。
うん、美味い。自分が作った……正確にはシステムスキルが、だが……お茶の味に満足していると。
「……ん?」
この大ホールを包む違和感が俺を襲った。
ボスモンスターの攻略をするとしたら、今のこの状態は明らかにおかしい。
その違和感の正体とは――
「……気づいたか、ショウキ」
「ああ。……なんでボス攻略なのに、《タンク》がいないんだ?」
このゲームには、いわゆる《職業》は無いものの、ステータス振りによってある程度の種類に別れる。
一つ目は、基本的には筋力と敏捷をバランス良く上げている《ダメージディーラー》と呼ばれる職業。
殲滅力は素晴らしいものの、基本的には軽装なので防御力は心許ない。
横にいるキリトや、……まあ、一応俺もそうだ。
二つ目は、戦闘スキルを上げていないが、代わりに生活スキル等を上げて攻略プレイヤーをサポートしてくれる《職人》
まあ、今ここにいるはずが無いこのビルドの説明は割愛させていただく。
そして最後に、ここにいなければいけないビルド――《タンク》
筋力を優先的に上げ、重厚な鎧に身を包み、ダメージディーラーとは逆に圧倒的な防御力を誇る……が、殲滅力には欠ける。
故に、ダメージディーラーとタンクは、同じパーティーにいることが望ましい……いや、ボス攻略ではいなければいけない筈だが……どういうことだ?
「おい、ショウキ。理由を話してくれるみたいだぜ」
「……そうみたいだな」
何故俺たちがそう判断したかというと、目の前にある無駄に長い螺旋階段から、二人の人物が降りてきたからだ。
――血盟騎士団のトップ2、《神聖剣》ヒースクリフ。《閃光》アスナの二人が。
二人は静かに螺旋階段を降りきると、《閃光》アスナが一歩前に出た。
ヒースクリフの方が団長ではあるが、実質的に指揮をとっているのは副団長のアスナの方だ。
「皆さん、集まっていただきありがとうございます」
アスナの凛とした声が大ホールに響き、雑談をしていたプレイヤーたちの視線は二人に集中する。
「今回の第五十五層のボスモンスターですが、血盟騎士団の隊員による偵察で、炎を吐き出す虫型のモンスターだという報告を得ています」
……炎を吐き出す、か。
それぐらいなら斬り払えるな。
「そして、そのボスモンスターが放つ炎には、ある《特殊効果》が付加されていることも」
そのアスナの言葉に、プレイヤーたちはただ押し黙った。
特に珍しくなく、とるに足らないと考えたか、厄介である事が骨身に染みて分かっているからか。
……ちなみに、俺は後者だ。
「その特殊効果は……ボスモンスターが放つ炎には、《タンク》の鎧を耐久力を無視して破壊する、という効果なようです」
アスナが一呼吸してから発した一言は、プレイヤーたちを先程とは別の意味で押し黙らせるのに充分な効果があった。
「そんなモノ、聞いたことないぞ……!」
横でキリトが苦虫を噛み潰したような顔をして呟くが、俺も同じ気分だ。
SAOでは、どんな物にも耐久力が設定されている。
武器も、鎧も、食べ物すらも。
その耐久力が限界を超えて破壊されることはあるが、無視して破壊するとは始めて聞いた。
「そこで私から提案するのは、ここ、第五十五層のボスモンスターは、《ダメージディーラー》だけで攻略する、ということです」
「な……!?」
アスナが放ったまさかの一言に、歴戦の攻略組プレイヤーと言えども絶句する。
「作戦は至って単純です。まずは初撃を防いで前方から一撃を入れてタゲをとり、側面からのダメージディーラーの《スイッチ》による連撃で超短期決戦を狙います」
正直、今までのボスモンスター攻略からしたら異常なことだが、タンクが戦闘することが出来ない今回の戦闘において、この作戦はなかなかの物だと思う。
「ボスモンスターの攻撃の防御は……」
「それは、私が担当させてもらう」
アスナの作戦説明の後を引き継ぎ、後ろのヒースクリフが前に出る。
イマイチ作戦会議には口を出さないヒースクリフだが、いざ前に出たら出たで存在感がある。
ヒースクリフは、そのまま言葉を続けた。
「しかし、偵察が不完全である以上、私一人では不安が残る」
心にもなさそうな言葉を平気で言いつつ、ヒースクリフはコツ、コツと音をたてて俺たちの方へ歩きだした。
まるで、モーゼが滝を割ったかのようにプレイヤーが進路から外れていく。
「私の他にもう一人、正面からの攻撃/防御役が必要だ」
ダメージディーラーたちの滝を割り、ヒースクリフがたどり着いた場所は――
「危険な仕事だが、頼めるかね? ショウキ君」
――俺の、正面だった。
ヒースクリフは俺の前に立ち、挑戦的な瞳で俺を見据えていた。
それに対してニヤリと笑い。
「良いだろう。ナイスな展開じゃないか……!」
後書き
さあて……2ヶ月近く放置して、まだ読んでくださる人がいるかは分かりませんが……まあ、自分のペースで更新していきます。
ではでは、感想・アドバイス待っています!
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