SAO-銀ノ月-
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第十七話
先程の作戦会議では、タンクを無意味なものにするというボスモンスターのルールブレイカーっぷりもあってか、前例が無い《閃光》アスナの作戦に誰も文句がなかった為、そのまま出陣した俺たち《ダメージディーラー》は五十五層の荒野フィールドを突破し、ダンジョンを突き進んでいた。
いや、突き進むと聞くとカッコよく聞こえるが、実態はまあ……ただ歩いてるだけだったりする。
今回出番の無い《タンク》の皆様方が張り切って、ダメージディーラーの集団を、敵を倒しつつ先導しているからだ。
それ自体はありがたいことなのだが……タンクの方々は自分たちより足が遅く、また、殲滅力も低いために進行率が異様に遅い。
故に、タンクとダメージディーラーはセットでいなくてはダメなのだが……攻略組のダメージディーラーは全員こっちだ。
「こんなとこ、さっさと走り抜けちまえば良いのにな」
「……さっさと走り抜けたら、タンクの連中追い抜くだろ」
同じく横でとぼとぼ歩くキリトにツッコミを入れつつ、(自分も似たようなことを考えていたが)とぼとぼと歩き続ける。
ああ、暇だ……
いい加減あくびが出かけたその時、ダンジョンの前方から何人ものプレイヤーが歩いてきた。
全員タンクなので、おそらくはあいつ等が俺たちの前でモンスターを狩ってくれていた部隊なのだろう。
先頭には、《血盟騎士団》に並ぶトップギルド《聖竜連合》の隊長格、《シュミット》が歩き、その背後からガシャガシャ
と大量のタンクが居並ぶ。
どうやらモンスターを狩り尽くしたようで
、こちらの先頭を歩いていたアスナと二言三言会話を交わしてダンジョンを脱出していく。
……先程はああ言ったが、タンクの皆様方には感謝している。
彼らのおかげで、俺たちは何も起きずに今回のボスモンスターの攻略に臨めるのだから。
あとは俺たちが、彼らの期待に応えるだけだ。
更に数分歩いた後、大きな扉の前に着く。
大きな扉=ボスモンスターのいる部屋、というわけではないが、ここまで巨大、なおかつ他に横道が無いところを見ると……十中八九、この五十五層のボスモンスターがいる部屋だ。
流石にみんな、ボスモンスターの部屋でふざける余裕は無く、ある者は武器のチェックをし、またある者はアイテムの確認をしている。
「準備は……良いですね?」
自身も油断無く細剣、《ランベイトライト》を構えたアスナがこちらを見て確認をとり、俺たちが頷いたのと同時に扉を開けた。
扉は大きく音をたてて開き、部屋の中は壁で立てかけてある炎で照らされて明るく、また狭い部屋であったため部屋の奥まで見通すことが出来た。
だが、一際目を引く物は部屋の中心で渦巻く炎。
その中心には黒い影が見え、ここからでも存在感を感じさせる。
そして、俺たちダメージディーラーが全員部屋に入りきると共に炎の渦は爆散し、中にいる黒い影が姿を現す。
今回のボスモンスターは炎を使うと事前に聞いているし、そもそも、この部屋にいる大きい影と言うと……ボスモンスターしかいないわけだが。
かくして俺たちの前に現れたのは、昆虫のような六つの足を持ち、悪魔のような形相をした、《THE HELL BURNER》――《地獄の業火》を意味するのであろうボスモンスターがこちらを見据えた。
地獄の業火の名前の示す通り、まずは挨拶代わりと言うようにその悪魔の口から炎を吐き出した。
ボスモンスターの攻撃はだいたい軒並み攻撃力が高く、自分たちダメージディーラーが受けたら本当に死ぬこともある。
今回の業火も、その名に恥じぬ熱量が感じられる。
――だが、ルールブレイカーならばこちらにもいる。
俺たち全員を守るように、真紅の鎧が飛びだした。
「むん!」
もちろん飛びだしたのはヒースクリフであり、自身の《神聖剣》についている盾を炎に押し出し、四散させた。
《ヒースクリフの盾を貫く物無し》――アインクラッドにまことしやかに流れる噂の通り、ボスモンスターの攻撃をも防いだのだ。
「ショウキ君!」
「わかってる!」
無論、俺とて何もしないわけにはいかない。
《縮地》でヒースクリフが炎を弾いた隙に、ヘル・バーナーに接近し、そのまま――
「抜刀術《立待月》!」
――銀ノ月をヘル・バーナーの頭になぎ払う。
タイタンズハンドとの戦いの時に使った、縮地の勢いのままで放つ抜刀術《立待月》。
その威力は充分なようで、ヘル・バーナーの悶える声を聞いて、俺はバックステップで距離をとった。
「タゲはとった! 後は頼む!」
俺を狙った炎に対し、またもヒースクリフが防いだ隙にダメージディーラーたちはヘル・バーナーの両側面をとった。
背後には尾があり、横には足しか無いので攻撃しやすいからだろう。
『ラアアアアアッ!』
ダメージディーラーの誰かの叫びと共に、ヘル・バーナーの両側面から俺とヒースクリフを除く全力が叩き込まれる。
側面をむこうにも、どちらからも攻撃しているためにどうしようも無い。
ヘル・バーナーのHPゲージが徐々に減っていき、これはアスナの作戦通りにいくか……
と、
思えないのがこのソードアート・オンラインだ。
ヘル・バーナーが叫び声を上げると共に、俺の《気配探知》スキルが反応する。
殺気は――背後!
「抜刀術《十六夜》!」
気配を頼りに抜刀術《十六夜》を背後に放ち、受けとめられる感触を感じて正体を確認する。
正体は、《ヘルソルジャー》と表記された悪魔の面で、剣と盾を持った鎧武者――本来、ボスモンスターの部屋に一般モンスターは来ない。
だが、ヘル・バーナーの方の叫びに手下召還効果があれば例外だ。
全てのダメージディーラーの背後に出現したようで……今、ヘル・バーナーに攻撃しているプレイヤーはいない。
「どけぇぇッ!」
つまり、今ヘル・バーナーが横を向いて炎を向いただけでダメージディーラーは全滅する。
せめてタゲをとろうとヘルソルジャーを瞬殺しようとするが、盾に阻まれ瞬殺とはいかない。
「チッ……!」
自然、剣に焦りがのった時……俺の前のヘルソルジャーを剣が貫いた。
その剣の持ち主は――ヒースクリフ。
しかし、彼の背後にはまだヘルソルジャーがいる為、ヒースクリフと言えども手こずっているようだ。
「はッ!」
代わりにヒースクリフの背後のヘルソルジャーをたたっ斬り、これで俺たちの足止めをしていたヘルソルジャーはいない。
「急ぐぞ、ショウキ君!」
「ああッ!」
ヘル・バーナーは、側面で足止めをくっているダメージディーラーより、自分に迫る俺たちを優先したのか、炎で俺たちを襲う。
だが、ヒースクリフには通じず、また、俺も攻撃が当たるスピードでは無かった。
炎を軽くいなしたまま、真紅と銀の剣閃が悪魔の顔面を切り裂く。
苦しむ悪魔を見て、やはり頭が弱点だと当てをつける。
最初の抜刀術《立待月》の時に、大幅にダメージを受けていたのは俺の目は見逃さなかった。
「よし、もう一撃――いや、ヒースクリフ! 横だ!」
横から迫る悪魔の、かぎ爪を有した腕が目に写り、ヒースクリフは神聖剣の盾で受け止め、俺は日本刀《銀ノ月》で受け止める。
日本刀――いや、カタナはそこまで耐久性の高い武器ではないが、この自分で鍛えた愛刀である《銀ノ月》はこの程度では破壊されない。
「……返すぞ!」
返す刀で腕を切り上げ、悪魔の腕から逃れて後ろに跳んで距離をとる。
弱点である顔面を見ると、ヒースクリフが自らのソードスキルを繰りだしていた。
これ幸いと、俺は銀ノ月を鞘に収め――
――こちらを向いて炎を放とうとするヘル・バーナーと目があった。
「抜刀術《十六夜》!」
ヘル・バーナーが炎を放つのと、俺が抜刀術《十六夜》を放つのは同時だった。
このままでは、俺は丸焼けになってしまうのだろう。
だが、炎と抜刀術《十六夜》の速度は違う。
「さっさとくたばれ……この悪魔がッ!」
《銀ノ月》による銀色の剣閃は、炎という形も無い物をも斬り払い、ヘル・バーナーの弱点を深々と袈裟切りに刻み込んだ。
最期は、悪魔に相応しい醜悪な断末魔と共に――ポリゴン片となってこの世界から消滅した。
チン、と金属音をたてて日本刀《銀ノ月》を鞘にしまう。
「まあまあナイスな展開……だったじゃないか」
ふう、と息を吐いて、五十五層の攻略は完了した。
後書き
やはり戦闘シーンとは難しい……
どうも迫力に欠けてそうだ……
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