SAO-銀ノ月-
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第十五話
前書き
にじファン最後の投稿……
シリカside
風見鶏亭に着くまで、私たちは何も喋らなかった。
本当は、もっと話したいことがあるはずなのに。
《プネウマの花》を取りに行くときみたいに、楽しくお話ししたいのに。
私は、言葉を出すことが出来なかった。
傭兵《銀ノ月》。
この前、パーティーを組んだ人から、そんな人がいるという噂は聞いたことがあった。
決して折れず、何でも斬れるカタナを持って、中層〜上層に現れる黒衣の侍。
グリーンプレイヤー達を助けながら、アインクラッドを旅しているという人物……という噂だ。
流石に、その話を聞いた時は、作り話のデマだと思った。
このSAOに、そんな人がいるはずが無い。
何故かって、『美味い話には裏がある』それが、この世界の通説なんだから。
だけど、今、私の手を握っている人は、違った。
《迷いの森》で、せっかくの善意からの発言を、私は警戒してしまった。
……今から考えると、とても申し訳ない……そしてこの人は、こう叫んだんだ。
「人が人を助けるのに、理由なんているのかよ!」
この世界に閉じ込められて、初めて聞いた言葉を叫んだこの人は……とってもカッコ良かった。
それから、ピナを助ける為に一緒にダンジョン《思い出の丘》を攻略することになった。
からかわれることもあったけど、とても楽しくて、頼りになる人だと思った。
お姫様だっことかされたりと色々あったけど、首尾良く《プネウマの花》を手に入れた私たちの前に現れた、ロザリアさん率いるオレンジギルド《タイタンズハンド》。
目的は《プネウマの花》であるらしい。
せっかく、せっかくピナを生き返らせられるのに……
この人を――ショウキさんを馬鹿にされたことも手伝って、相手の数が多くても、私は剣を抜こうとした。
それを遮って、前に出たのは、やっぱりショウキさんだ。
ショウキさんは、他の人のお願いを聞いてロザリアさんたちを捜していたらしい。
《タイタンズハンド》と戦っている時のショウキさんは……つい先程までの、楽しい人と別人のような、静かな、冷静な顔をしていた。
まるで、本当に日本刀のような。
…その顔を見て、私はこう思ったんだ。
この人のことをもっと知りたいって。
「シリカ?」
「は、はいっ!?」
ショウキさんの声が聞こえて顔を上げると、ここ数週間ほど泊まった、《風見鶏亭》の二階だった。
だが、置きっぱなしにしてあった自分の私物が無いところを見ると、ショウキさんの泊まった……ひいては、昨日の夜私が寝た……部屋のようだった。
考え事をしている間に、目の前の、困ったように髪の毛をかくショウキさんに引っ張られてきたらしい。
「えーっと……まずは、すまなかった!」
そう言うや否や、ショウキさんは突然頭を下げた。
「お前を囮みたいにさせて、怖い思いをさせてすまなかった!」
このまま行くと、土下座しそうな勢いである。
そうなる前に、私は慌てて口を開いた。
「い、いえ、もう終わったことですし……むしろ、巻き込んでしまってすいません!」
「いや、元々、最初から俺が言っておけば……」
それから数分間、両者の謝りループが続いて、終わった直後に二人して笑いあった。
「ハハハ……悪い悪い……じゃなくて、この話はこれにて終了!」
「フフ……はい!」
やっぱり、普段は楽しい人なんだな、と再確認する。
そして、ショウキさんは「よし!」と言って手をたたく。
本当に、この話は終わりだという合図だろう。
「じゃ、シリカ。アイテムストレージから《ピナの心》と《プネウマの花》出してくれ……ピナを、生き返らせよう」
ショウキさんのその言葉に、喜びと緊張がミックスした心境のまま、アイテムストレージを開いた。
青色の小さな羽根と、輝く花……《ピナの心》に、《プネウマの花》を取り出した。
「……《プネウマの花》の中の雫を、《ピナの心》にふりかければ良いみたいだ」
もう何度目になるかは分からないけれど、ショウキさんはメモ帳を読みながら説明してくれた。
……これで、これでまた、ピナに会える……!
はやる心をなんとか抑えながら、こぼさないように、慎重にふりかけた。
すると、《ピナの心》である青色の羽根が、淡い光を出して輝き始めた。
まぶしかったけれど、私はその光から目が離せなかった。
そして、一際強い光と共に――
「ピナ…?」
――ピナは生き返った。
青色の羽根があった場所に、こちらを見て謝っているかのような表情を見せる、《フェザーリドラ》……ピナが立っていた。
「ピナッ!」
ショウキさんの前であるにも関わらず、私は泣いているんだか笑っているんだか分からない様子でピナに抱きついた。
その感触を確かめて、ピナが生きていることを再確認する。
良かった……本当に、ピナだ……
ピナを腕に抱えながら、私は今回の恩人、ショウキさんの方へ振り向いた。
「本当にッ……あり……とうござい……した……!」
泣いているせいで上手く声が出せない。
だけど、感謝の気持ちだけは精一杯伝うようとした私の言葉は、ショウキさんに届いたようだった。
「別に、お礼を言われるようなことはしてないさ……約束、だからな」
照れたように、そっぽを向きながらそう言ったショウキさんが少しおかしくて、私はクスリと笑った。
「ショウキさんは、これからどうするんですか?」
私が落ち着いて(今から考えると恥ずかしい……)から、私とショウキさんは《風見鶏亭》の一階にて、食事をとっていた。
「……そうだな……そういや、ここらへんは来たことがなかったから、ここらへんをぶらぶら回ることにするよ」
「だ、だったら私、案内しますよ! ここらの中層は詳しいですから!」
あ、と思ってしまってからはもう遅い。
朗らかに笑顔を浮かべ、「お、いいのか?」という、ショウキさんに対して、「やっぱり恥ずかしいので……」、と断るのは、私には出来なかった。
良心の呵責で悩んでいるとき、突然ショウキさんがメニューを広げた。
「ちょっとメールが……ッ!?」
メールが来た、と言い切らず、ショウキさんの顔は固まった。
メールの内容が、そんなに驚く内容だったのだろうか。
私は、悪いと思いながらも、好奇心に負けて聞いてしまった。
「……どうしたんですか?」
私の問いかけに、ショウキさんはいつもの笑顔で明るく返した。
「……いや、ちょっと用事が出来ちゃってさ。悪いけど、案内はまたの機会に回してもらうよ」
用事――
ショウキさんはまた、他の人を救いに行くのだろうか?
「それじゃ、御馳走様でした」
きちんと礼を言って、ショウキさんは立ち上がった。
「あ……て、転移門まで送ります!」
昼御飯のお代を、私の分まで払おうとするショウキさんに、私はそれをさせじと追いかけた。
「へぇ……コイツ、可愛いなぁ……」
ダンジョンに潜るのは、だいたい朝と夜のため、街にあまり人影は少ない。
いるのは、一旦帰って来て昼御飯を食べにきたプレイヤーと、観光に来たプレイヤーだけだ。
そして、転移門へ歩いている途中、ショウキさんはピナと遊んでいた。
普通は、飼い主以外に懐くことは無いと言われているテイムモンスターだが、ただのデマだったのか、それとも、生き返らせた人だとピナも分かっているのか、ピナはショウキさんにとても懐いていた。
「ピナもきっと、ショウキさんに助けられたことが分かってるんですよ」
「助けたのは俺じゃねぇって。俺は手助けしただけで、こいつを助けたのはお前だよ、シリカ」
そう言いながら、ショウキさんは私の肩にピナを乗せる。
何でだか知らないけれど、ショウキさんは頑なに『助けた』ということを認めなかった。
何かこだわりでもあるのかな……
『ピィ……』
肩に乗ったピナが、私に向けて声を出す……やっぱり、ピナにはバレちゃうよね。
ショウキさんが、他の層に行くと言ってから、私は落ち込んでいた。
……いや、落ち込んでいると言って良いものか、なんだか胸がズキズキと痛む……
「そういえば、ショウキさん。どこの層に行くんですか?」
私の知っている低層であれば、案内出来るかと思った私は、早速ショウキさんに尋ねた。
「えーっと……55階層だな……どうした、いきなり」
メールを確認したのだろう、ショウキさんの言った言葉は……残酷な事実を私に突きつけた。
第55階層。
それは、現在の最前線の層なのだから。
シリカが行っても、手伝いどころか案内も出来やしない。
「い、いえ……私の知ってる層なら案内でも出来るかと思って……」
無理やりに笑顔を作って、ショウキさんに微笑みかける。
……そもそも、どうして私はショウキさんと一緒に行きたいのだろうか。
終わらない疑問のループと、チクチクと痛む胸の痛みは解決しないまま、転移門に着いた。
そして、転移門に着いた直後。
ショウキさんが何かを思い出したかのように、「あ」という声を出した。
「そういやシリカ。フレンド登録しないか? せっかく知り合ったしさ」
ショウキさんのその一言に、そういえばフレンド登録していなかったことを思い出した。
……そんなことをしてる暇がなかったわけだが……
「は、はい! 喜んで!」
「別に喜ぶ必要は無いけどな……」
呆れ顔のショウキさんと、メニューを操作してフレンド登録をする。
これで、お互いにどこにいるか分かるようになるのと、メールを送れるようになった。
……あと、生きているかどうかも……
頭の中に出てきたイメージを、即座にブンブンと頭を振って消す。
メニューの操作が終わったショウキさんは、転移門に近づき、振り向いて笑った。
「また何かあったら、遠慮なく呼んでくれ。探し物があるなら見つけ出そう。
力が必要ならすぐに駆けつけよう。
――約束は守る。
それが傭兵《銀ノ月》だ」
そう言って、転移門に「転移! グランサム!」と、おそらくは55層の街の名を告げる。
「それじゃ、またな……ナイスな展開だったぜ?」
そう言い残したショウキさんは、光と共に消えていった……
『ピィ!』
やっぱり私はしょんぼりしていたようで、肩に乗ったピナが励ましの声を上げてくれた。
「頑張れ!」と言ってくれているようなその鳴き声に、私は気を取り直した。
「よし!……ありがとう、ピナ」
ショウキさんは、「また」と言ってくれたから、きっとまた会う機会がある。
だったら、今度会うときまでに強くなろう。
レベルだけじゃなく、あの人みたいに、心も。
今度は、私がショウキさんを助ける番だ。
そして、このなんだか良く分からない変な気持ちにも、決着をつけよう。
そうと決まれば……
「行こう、ピナ!」
現在時刻は13時……急いで準備すれば、簡単な狩り場なら一人で行ける。
ダンジョンに行くための準備をするため、私は道具屋へと駆け出した。
後書き
ここから、活動報告とだいたい同じ内容です。
遅ればせながら、移転先の報告です。
なろうユーザーである、『肥前のポチ』様が独自に作ったという小説投稿サイト《暁》に投稿させてもらうことになりました。
今はまだゴタゴタしていますが、最終的な目標は小説家になろうと同じ性能だとか。
しかし、小説投稿サイト《暁》は、まだ携帯用サイトが出来ておりません。
8月1日あたりになる予定なので、それまでは投稿出来ません。
さて、わざわざ自分の駄文を読みに来てくれる人はいないでしょうから……これまで、ありがとうございました。
新天地でも頑張っていきます。
何かしら機会がありましたら会いましょう。
いつもの通り、感想・アドバイス待っております。
では、また。
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