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久遠の神話

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第四十三話 病院にてその二

「他にないわよね」
「うん、それはね」
「じゃあやっぱりね」
「お見舞いから」
「そうじゃないかしら」
 樹里はこう上城に話した。
「けれど。中田さんって」
「友達とかいるって聞いたことある?」
「ないわ」
 樹里は首を右に捻って考える顔で答えた。
「あの人そういうことお話してくれないから」
「そうだよね。あまり自分のこと話さない人だよね」
「自分のことを話さない」
 上城の今の言葉から樹里は思索に入った。そして。
 あらためて上城に顔を向けてこう言ったのだった。
「つまり。秘密があるから」
「それでお話しない」
「そう考えられない?」
「何か推理めいてきたね」
「けれど推理って実際にあるから」
 推理小説の様なことも否定できないというのだ。
「だからね」
「じゃあ中田さんがここにいるのは」
「その秘密のせいかしら」
「剣士としての秘密かな」
 上城も樹里の話を聞いてこう考えだした。
「それって」
「その可能性はあるわよね」
「うん、確かに」
 上城は考える顔で樹里に答えた。
「否定できないね」
「そうよね。それじゃあ」
「ううん、けれど」
「けれどって?」
「尾行とかはしないでおこう」
 樹里がそう考えているのではと察してだ。上城は事前にこう言ったのだった。
「そうしたことはね」
「今そういうこと言おうかなって思ったけれど」
「選択の一つで?」
「そう、それでね」
 実際に言おうとしたところだったというのだ。
「そうだったけれど」
「止めておいた方がいいと思うよ」
 上城はこう忠告した。
「そうしたことはね」
「褒められたことじゃないから?」
「そう。だからね」
 これは上城の倫理観からあまり言いことではないことだったからだ。彼はここでは樹里を注意して言ったのである。
「止めておこう」
「その方がいいのね」
「うん。だから」
 それでだとだ。また言う上城だった。
「彼のところに行こう」
「そしてお見舞いしてね」
 受理はその手にあるものを見た。それはお見舞いのフルーツの盛り合わせだった。メロンに葡萄、桃に梨等がある。
 それを見てだ。こう言うのだった。
「二人で買ったこれね」
「うん、それを出そう」
「そえにしても。メロンってね」
「メロンがどうしたの?」
「お見舞いの中に絶対に入ってるわよね」
 樹里は手にしている籠の中のそのメロン、網模様の緑のそれを見ながら話した。
「葡萄も多いけれど」
「あとこれもね」
 上城はバナナも指差した。そうした話をしながら二人でその病室に向かっている。 
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