久遠の神話
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第四十三話 病院にてその一
久遠の神話
第四十三話 病院にて
急にだ。上城は樹里にこう言われた。
「えっ、秋月君が?」
「ええ、そうなの」
クラスでだ。樹里は上城の席のところまで来て曇った顔で話した。
「昨日ね。自転車に乗っている時にね」
「こけて土手のところまで落ちて」
「骨折したんだ」
「そう。左手をね」
そうなったというのだ。
「それで入院したのよ」
「ううん、可哀想だね」
上城は樹里から話を聞いてこう言った。
「痛かっただろうね」
「そうよね。左手の手首のところをね」
そこを骨折したというのだ。
「だから暫くは入院してね」
「学校にも来られないね」
「部活もね」
「うん、ギプスが取れても」
それでもだった。
「まだね」
「そうなのよね。本当にね」
樹里も心配そうな顔で上城に話す。
「当分はね」
「部活ができないね」
「それでだけれど」
「あれだよね。入院したから」
「お見舞いに行かない?」
樹里はこう上城に提案した。
「二人でね」
「そうだね。いいことだよね」
「ええ、じゃあね」
話はあっさりと決まった。こうしてだった。
上城と樹里は放課後に二人で町の病院に向かった。その病院の名前は八条病院という。八条グループが経営している病院だ。
その病院に入ってからだ。樹里が上城にこう言った。
「入院しているお部屋だけれど」
「何処かな」
「本館の七階の二号室らしいわ」
「本館だね」
「そう。この病院は建物が多いけれど」
その中の本館だというのだ。
「そこに入院してるのよ」
「じゃあ今からそこに行って」
「そう。入院すればね」
それでいいと話してそのうえだった。二人でその病室に向かおうとする。だがそこでだった。
樹里がふと気付いたのだ。目の前に。
「あれっ、あの人」
「どうしたの?」
「中田さんじゃないの?」
樹里は目の前を歩く一人の若い男を手で指し示しながら上城に話した。
「あの人って」
「うん、そうだね」
「中田さんよね」
「間違いないね」
丁度前を歩いている。歩いている方向は同じだ。
その後ろ姿も着ている服も彼のものだった。上城はその彼を確認してから樹里に言った。
「中田さんもお見舞いかな」
「何処か怪我してるとか?」
「そうれはないみたいだよ」
見れば普通に歩いていた。何の問題もない感じで。
「凄く元気みたいだから」
「そうね。元気そうね」
「じゃあどうしてかな」
中田は首を捻って述べた。
「病院にいるんだろう」
「私達と同じかしら」
「お見舞い?」
「元気で。それでも病院にいるとなると」
それで考えられることは一つだというのだ。
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