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おいでませ魍魎盒飯店

作者:卯堂 成隆
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Episode 3 デリバリー始めました
  テンチャークエスト

 その頃、テンチャーを求めて旅立ったポメは、森の中を全力疾走していた。

「こんなの無理だニャアァァァァァァァァァッ!!」
「ホフホフホフ ホフホフホフ」
 すさまじい勢いで森を駆けてゆくポメ。
 その後ろを、体長6mを超える巨大な生き物が、気の抜けそうな声を上げつつ追いかけてくる。

 お気づきの方もいるだろうが、この巨大な生き物こそが森の王こと"テンチャー"。
 その外見は、地球に存在していた生き物に例えるならばティラノサウルスに非常に良く似ていた。

 ……とはいえ、その性質は外見に似合わず、普段は魔界に生える杉の木のみを食べて生活しているおとなしい性格の動物である。
 だが、いったん外敵を見つけるや否や瞬時に粘着質なハンターに大変身。
 優れた嗅覚を生かしてどこまでも追いかけてくる森の厄介者なのである。

「ウニャっ!」
 不意にポメの体が大きく横に跳ね、そのあとを成人男性の腕よりも太いピンク色の丸太のような何かがすさまじい速さで通り過ぎる。
 その正体は、"舌"。
 テンチャーの舌は、ちょうど象の鼻と同じように高い枝を食べるために進化した第三の腕であり、同時に外敵を倒すための武器でもあった。
 その威力たるや……

「洒落にならんニャ!」
 横目でチラリと見ると、テンチャーの舌が打ち下ろされた辺りには、砕けたばかりの岩いくつも転がっていた。
 一撃でも喰らった即死だろう。

「くっ、煙幕ニャ! 威力が高くともあたらなければ無意味!!」
 ボメの意志に従い、空中にがいくつもの小さな爆発が起きる。
 続いて、灰色の壁のように濃密な煙が周囲に放出されるが……その濃密な殺気はあいかわらずポメにしっかりと向けられていた。
 次の瞬間、ブォンと重い風切音を立てて何かが飛んでくる。

「やっぱ、テリアのようにはいかんニャ」
 正確に狙いを定めて飛んできた舌の鞭をかわしながら、ポメは忌々しげに舌打ちをした。
 ポメの放つ煙玉では、視覚は妨害できても匂いまでは妨害できない。
 特にテンチャーは視覚よりも嗅覚に優れた生き物であるため、煙幕の影響などほとんど無きに等しいのだ。

 ――こうなったら、得意の爆破の理力で!
「いかんいかんニャ。 ひき肉なんぞ持っていったらキシリアに御仕置きくらうニャ。 次は森髭を生で食わされかねないニャ」
 森髭……ことネギの類に含まれる硫化アリルは血液を分解する作用が強く、犬や猫にとっては猛毒である。
 いくらケットシーが普通の犬猫より硫化アリルへの耐性が高いとはいえ、そんな事をすれば寝込む程度ではすまない。
 だが、キシリアならやるだろう。
 キシリアがその手の事に容赦のない性格であることを、ポメはその身をもって理解していた。
 葱と蟹という猫科にとっては鬼門でしかない食材のスープを、そのおいしそうな香りにつられうっかり口にしてしまい、トイレの便座を御共にして地獄の一丁目から三丁目を旅した出来事は記憶に新しい。
 まぁ、その前に毒である蟹を知らずにたらふく食べていたので、結果は変わっていなかったかもしれないが。

 ただ、毒だとわかっていてもついつい手を出してしまうほど美味なキシリアの料理は、至上の快楽であるのと同時に悪魔のような罠である。
 まぁ、一応は死なない程度に手加減はされているのだが、……そんな恐ろしい魔具を笑顔で作り上げるキシリアのことを、ケットシーたちは裏でこっそり"魔女(ハグ)"と呼んでいた。

 ――そういえば、このおっかない鳥にも何か毒となるような食べ物があるのだろうか?
 そんな益体もない事を考えながら、ポメは考え事をするためにちょうどいい場所探して視線をめぐらす。

 あ、あれがいいニャ!
 視界の隅にちょうど20メートル近い巨木を見つけたポメは、その近くの木の幹を蹴って三角飛びの要領でさらに大きな木の上に飛び上がった。
 さらに蛇が這い上がるがごときスピードで天辺近くに這い上がると、枝の一つにチョコンと腰をかける。
 
「さてと、作戦タイムだニャ」
 さすがに木を登ることは出来ないのか、テンチャーはポメのいる枝を見上げ、グルグルと喉を鳴らして威嚇をはじめた。
 だが、伸ばされた舌も、さすがにここまでは届かない。
 しかし、おそらく長く時間は取れないだろう。
 ヤツの目は、諦めた者の目ではなく、何か別の手段を講じている時の目だ。
 いずれ何か別の手を使ってくることはわかりきったことだった。
 だが、その前に――

「さぁ、全てをさらけ出すといいニャ」
 そう告げると、ポメは自らの目に理力を集中させ、眼下をうろつくテンチャーを"視る"。
 使うのは、暗殺者系の理力の一つ『隙窺(すきうかが)(まなこ)』。
 相手の体の構造を読み取り、急所を感じ取る能力である。

「ふぅん……とりあえず体の前面にある急所はほとんど手の届かない場所にあるニャ。 とりあえず一番の弱点は、目か。 なんと厄介ニャ……って」
 ズズン!
 分析を終えたポメの体が、突然激しい音と共に大きく揺さぶられる。

「あー こりゃまいったニャ」
 下を見れば、テンチャーがその巨体と怪力を活かしてポメの登っている樹木に体当たりをしているところだった。
 一度の体当たりで倒れないと見るや、テンチャーは一度後ろに下がって助走をつけると。さらにもう一度体当たり。
 ポメの鋭敏な耳に、メリメリと樹木が悲鳴を上げる音が聞こえた。
 ――何という馬鹿力!
 おそらく、もってあと数回。
 樹木の倒壊に巻き込まれれば、大小の枝に動きを阻まれて、受身をとることもできずに大地に叩きつけられる可能性が高い。
 そうなれば、すぐには動くことも出来ずにやつの一撃を受けることになるだろう。

 ならば、相手の隙をついて自分から降りるのが最上の策だ。
 さっさと別の場所に逃げなければ。

 心の中で呟くと、ポメは手近にあった小さな枝を一本だけへし折った。
 そして、その枝の先を手早くナイフで斜めにカットすると、フォモールと呼ばれる魔族たちの力を源とする神聖魔術を口にする。
「……この鏃は、"王の目"に刺さる!」
 その言葉と共に、ポメの手から鋭い木の枝が放たれた。
 相手の称号を触媒に使った"必中の魔術"である。 宣言と共に放たれた矢は決して狙いを違えない。
 ただしこの魔術、同じような名前や称号を持つ相手が傍にいると、一番手近な相手にあたってしまういう欠点がある。
 例を挙げるなら、三人の"鈴木さん"がいたとしたら、一番近くにいる"鈴木さん"が自動的に攻撃対象として選ばれてしまうのだ。
 そんなクセの強い術であるためなかなかに扱いが難しく、習得するものも少ない珍しい術である。
 だが、ここには"森の王"であるテンチャー以外に対象となる存在は無い。
 ポメの一撃は、正確にテンチャーの右目を抉った。

「ほふっ!?」
 まず大概の生き物は、目に向かって攻撃を向けられると怯んでしまう。
 それはテンチャーも例外ではなかった。

「ほふぅぅぅぅぅっ!!」
 森の大気をつんざくような悲鳴が地面を震わす。
 避けることも逃げることも出来ない攻撃に、かろうじて反射的に目を閉じたものの、薄い目蓋では理力を帯びた投げ矢を防ぐにはあまりにも無力であった。
 眼球に突き刺さるほどの威力こそ無かったが、目への一撃は精神的にも物理的にも小さくはない。

「今だにゃ!」
 相手がひるんだことを見計らうと、悲痛な叫び声を尻目に、ボメはスルスルと大樹の枝から地上に降りて、背を向けてすたこらと逃げ出した。

 ……だが。

 ――ネチャ
 踏み出した足に、なにかタールでも踏みつけたような感触が伝わる。
「にゃ?」
 ふと気がつけば、足になにかベトベトした油のようなものがこびり付いている。
 しかもその一部は大きな石塊となっており、まるで大量の樹脂をひっかぶったような感触である。
 さらによく見れば、そのこびり付いた樹脂は徐々にその質量と容積を増大させているようだ。
 いや、これは普通の樹液ではない。

 ま、まさかコレは……琥珀!?
 琥珀とは、その内に生き物を孕んだ状態で産出することのある奇妙な宝物である。
 その正体は、長い年月の果てに化石化した杉や松の樹液。
 そして森の王と恐れられるテンチャーの主食は、魔界産の糸杉(シダー)
 それは棺を作るための樹木であり、聖なる死の霊木。

 ポメの脳裏に、"琥珀の棺"という単語がよぎる。
 同時に、後ろから大きな生き物が体を起こす音がした。

 そしてポメは恐る恐る背後を振り返り、自らの考えが真実に触れていたことを知る。

「こ、こんなの聞いてないニャー!」
 ポメを睨めつける視線は悪意ある緑の輝き。
 それは、明らかに邪眼系の理力を使用している証。

 虚空から現れ、ポメの体に次々と蒸着されてゆく琥珀が、接着剤のように彼の足を地面へと縫いとめる。
「や、やばいニャー!!」
 どんなにがんばっても、人間の10歳程度の体格と腕力でしかないケットシーの力では琥珀を砕くことも引きちぎることも出来ない。

 後にボメは、このテンチャーという生き物の祖先が、森に適応したバジリスクの末裔ですることを知る。
 そう、この魔物の持つ真の恐ろしさは、その理力――視線に触れた相手を琥珀の中に封じ込める能力であることを、彼はこの時点でまだ知らなかった。

「うにゃあぁぁぁぁぁ!!」
 絶望の声が響く中、テンチャーの丸太のような舌が、大地へと振り下ろされる。
 絶叫、地響き、周囲に撒き散らされる琥珀の破片。
 濛々と舞い上がる土埃の中を、ただ静寂だけが支配した。
 外敵の消失を確認するため、テンチャーが無言で爆心地に鼻先を近づける……
 だが、
「ほふぅぅぅっ!?」
 その瞬間、どこからか飛んできた鋭い木の枝が、テンチャーの左の目にも突きたてられた。

「ほふっ、ほふっ!!」
 両目の視力を奪われ、再び地面をのた打ち回るテンチャー。
 その背後の木の陰から、人間の子供ぐらいの影がそろりと顔をのぞかせる。
 
「あぶなかったニャー」
 木陰から現れたのは、たった今粉々に砕かれたはずのポメだった。

 ――怪盗系の理力の一つ"空蝉の術"。
 周囲にある自分と同体積の物質を、身代わりとして瞬時に自分と入れ替えるという荒業である。
 一見して便利なように見える技だが、周囲の時空を歪めてしまうという特質のために頻発するとどんどん周囲の空間がゆがみ始め、さらに制御を誤ると暴走して術者を存在ごとロストさせるという危険な秘術でもある。
 当然ながら多用は厳禁。
 間違えれば、髪の毛一本残らない。

「ほふぅぅぅっ」
 苛ただしげな声を上げながら、両目を潰されたテンチャーが再びゆっくりと体を起こす。
 その魔眼の力こそ失われたが、その全身からは未だ闘志がみなぎっていた。

「ほふっ!!」
 相変わらず気の抜けた声を上げ、その優れた嗅覚を頼りにポメに襲い掛かろうとする。
 だが……

「嗅覚が厄介ならば、風下に逃げればいい話だニャ」
 すでに敵の能力を見切っていたポメは、すでに自らの匂いが相手に届かぬ場所へと避難していた。

「ほふっほふっ」
 だが、テンチャーはそれでも諦めず、地面に残る僅かな匂いを頼りにポメの追跡を開始する。
 なんとも呆れた執念深さだ。

 ――いい加減諦めればいいのに、しつこいニャ!
 そのスピードを緩めながらも、再び始まる鬼ごっこ。
 逃げようと思えば逃げられないわけではない。
 だがこの粘着質な生き物は、たとえポメが森を離れて街に帰ろうとも、きっとどこまでもポメの匂いを追い続けるだろう。
 途中で大きな川でもあればよいのだろうが、ポメの記憶する限りでは小さな小川がいくつかあるぐらいだ。
 まぁ、いざとなれば街に逃げ込めばいいし、そうなれば街の衛視がこの化け物を片付けてくれるだろうが、その後で誰がこの化け物を街に招いたのかという詮索が始まる。
 それだけは避けたかった。
 別に街の衛視は怖くないのだが、その結果としてやってくるキシリアの御仕置きがなによりも恐ろしい。

「そろそろ決着をつけるかニャ」
 いずれにせよ、ポメはこの化け物を倒し、キシリアの元に肉を届けなければならないのだ。
 逃げることは意味がない。
 決意を新たにすると、ポメはわざと匂いを残しながら森の外れ、小高い丘陵へと足を向けた。

 そして彼――ケットシーの族以外においてもそれなりに名の知れた武等派妖精であるポメが決戦の地に選んだのは、森の中の大地の切れ目、見晴らしの良い崖の上だった。
 背水の陣ならぬ背崖の陣。
 逃げ場のないこの場所に一人佇み、彼は自らの敵を待つ。

 待つこと10分ほどだろうか、薄暗い森の奥から、緑の燐光を纏った魔眼が鬼火のように揺らめきながら近づいてくる。
 ――すでに視力も回復したか。
 かの輝きは、ポメの与えたダメージが全て回復していることを示している。
 やつの魔眼は確かに厄介だが、幸いなことに即効性ではない。
 ならば、やつの魔眼にとらわれる前に、全ての決着をつける!

「ほふぅぅぅぅぅぅ……」
 地獄の亡者のように陰々と尾を引く声を上げながら現れた巨体は、崖を背にしたポメの姿を認め、微かに嗤った。

「よぉ、遅かったニャ、化け物。 早く遊ぼうぜ」
 唇の端だけでにやりとポメが笑うと、テンチャーは聞くだけで頭がおかしくなりそうなテンションで奇声を上げ、地が砕けんばかりに激しい足音を立てて走り出した。

 ドクドクと波打つ視界の揺れは、自分の高鳴る鼓動のせいか、それともやつの脚が大地を蹴る振動か。
 血は沸騰せんばかりに熱く泡立ち、頭の中は痺れて感覚がなくなりそうなほどに凍り付いていた。
 心を満たすのは、紛れもない"歓喜"。

 あぁ――懐かしい鉄火場の匂いだ。
 なんと心地よい。
 この世の何よりも墓場に近い空気、安寧の幸せを忘れた修羅の吐息。
 迫り来る死神の手をとり、相手の手を握らせるための狂気の宴。
 なぜこんな馬鹿げた衝動が、どうにも自分を奮い立たせて、歓喜へといざなうのか?

 判らない。
 だが、理由なんてどうでもいい。
 さぁ、踊ろう。
 楽しいダンスの時間だ。

「しゃあぁぁぁぁぁっ!」
 テンチャーの口から伸びた舌の鞭をギリギリのところで掻い潜り、ポメは猫の敏捷さでさらに一歩踏み込む。
 そしてその身を投げ出すように前に転がり、敵の巨大な脚の間を潜り抜けた。
 さらに斜めに転がって続く巨大な尻尾を回避すると、地面に手をついてボソリと呟く。

「エスコートはここまでだ……あばよ、化け物。 血なまぐさい大地の乙女と踊るがいいニャ」
 次の瞬間、崖の上にまるでラインでも引いたかのごとく一直線にいくつもの爆発が起きる。
 そしてその破滅の祝砲は、大地の一部を容赦なく削り取った。

 そう――テンチャーのいる部分だけを。

「ほふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
 まるで氷河の果てで巨大な氷解が海に崩れ落ちるが如く、長い悲鳴を轟かせながら、飛べない巨鳥は地の底へと墜ちていった。
 


「あー 死んでる死んでる。 ふー やれやれだニャ」
 ポメが崖の下へとたどり着くと、そこには首の角度が明らかにおかしな方向に向いたテンチャーが転がっていた。
 近寄って突いてみてもピクリとも動かない。
 その魔眼からは光が失われ、口からは大量の血を吐き出していた。
 これで死んでいないとしたら、それは屍帰人(ゾンビ)人狼(ウェアウルフ)の類だろう。

「さぁて、コイツを家にもって帰ればミッションコンプリートだニャ。 あーめんどかった」
 猫科独特の狭い肩をすくめ、持ち運びをどうしようか悩む前に獲物の上に腰掛けて一息つくポメ。
 なんとも気だるげで傲慢な振る舞いだが、そんな仕草がこの上もなく似合う。
 ケットシーとは、そんな生き物だった。

「……でも、ちょっと楽しかったニャ」
 息絶えたテンチャーの顔にドッカリと後ろ足をのせると、ニヤリと嗤って独り言のように呟いく。

 だが、彼はまだ気づかない。
 その後ろに、新たなる影が緑の魔眼を光らせて様子を伺っていたことを。

「んー いっそ、テリアのヤツに理力使わせて全部一気に転移させるかニャ。 俺様だけこんな怖い思いをして負担を強いられるのは不公平ニャ」
 眉間に軽く皺を寄せながら、通信用の魔道具を指でいじる。

 そう、彼は知らなかった。
 その頃、末っ子であるテリアがキシリアの狂的調理の実験に付き合わされて、身の細るような思いをしていたことを。
 そして……逃げ惑っている間に、いつのまにか別のテンチャーの縄張りに入り込んでいたことを。

 ポメの背後で、ザワリと風が動いた。

「何ニャ……!?」
 振り向き、そして強張るポメの顔。
 崖の下に響き渡る、気の抜けたような雄たけび。

 ――彼の冒険はまだ終わらない。


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(・x・)ノ[コラム:バジリスクの進化]
 今回の話で「トカゲや蛇であるバジリスクから進化した生き物がなぜ鳥なのだろう?」そう思った方がいらっしゃるかもしれない。
 だが、毒蛇の王と知られるバジリスクについての記述を調べると、なぜかこの魔物は"鳥へと進化"という奇妙な経路をたどっていることがわかるだろう。

 現代の生物学においても、鳥は獣脚類という体構造を持つ肉食恐竜、コエルロサウルス類から進化したという説が有力だ。
 そして蛇……おそらくその正体はコブラであったはずのバジリスクもまた、恐竜から鳥へと続く進化の過程をなぞるかのようにその姿を変えていったのである。
 しかも、雄鶏との合いの子という形でだ。

 なぜ鶏と合体したかという理由には諸説あり、一つには……ヨーロッパの人々がバジリスクの元になった毒蛇が身近にはいなかった為、馴染み深い鶏の姿に置き換えたという説。
 もう一つは、蛇を食べるマングースをエジプトの人が「イクネウモーン」(’Ιχνε?μων, 「後を追うもの」)と呼んでいたが、これがラテン語「Calcatrix」に翻訳され、古フランス語「Cocatris」を経て「コカトリス」になったという説。
 なぜ鶏の姿になったかといえば、名前の中に「雄鶏(cock)」という表記が含まれているからなのだとか。
 ちなみに後者はWiki先生からの抜粋だが、Google先生のラテン語翻訳で「Calcatrixってなーに?」と聞くと「知らんわボケ」と返ってくるので、案外当てにならないかもしれない。

 まぁ、余談はさておき、とにかくバジリスクは鶏モドキへと進化した。
 そう理解願いたい。
 そもそもバジリスクには、実は「雄鶏に弱い」というあまり知られていない弱点がある。
 ファンタジー的に考えると、この弱点を克服するためか、はたまたただの突然変異なのか、後に弱点である雄鶏との最初の複合体として誕生したのが【バジリコック】。

 これは蛇に脚と翼が生えた生き物で、探してもあまり詳しい文献はないので、詳しい解説は割愛させていただく。
 さらその最終形態として誕生したのが、【コカトリス】。
 これは雄鶏が卵を産んで、それをヒキガエルが暖めて孵化させて誕生するという生き物なのだが、普通の鶏に擬態して、鶏小屋から家の住人の生気を啜るという吸血鬼のような生き物である。

 本人が鶏なので雄鶏に弱いという設定はなくなったのだが、今度は「生まれたばかりの姿を人に見られると死ぬ」という設定と小物臭がついてしまったため、これを進化と呼んでいいのかは判断に悩むところだ。
 ちなみににこの作品に出てくるオリジナルの魔物【テンチャー】は、この【バジリコック】の段階で森に適応した固体の末裔である。

 杉を食べる生き物だからって、スギ花粉対策で飲んでいた甜茶から名前をとったなんて安直なネーミングは……ははは、そんなはずないだろ?
 きっと、気のせいだよ! 
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