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久遠の神話

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第四十二話 表と裏その十二

「人は誰かに。例え相談にならなくても」
「誰かに話せば」
「はい、それで心がかなり救われます」
 そうなるというのだ。
「そういうものなのです」
「そしてその中で」
「人の様々な顔を見てしまうのです」
「神父さんも辛いんですね」
「人は清らかなものを見たいものです」
 これが自然だった。人間として。
「しかしそれでもです」
「醜いものがあるんですね」
「そしてそれを見て」
 そうしてだった。
「人間というものを知るのです」
「清らかなものもあれば醜いものもある」
「表と裏も」
「あるので」
「加藤さんもまた、ですか」
「彼は表でも戦い」
 それに加えてだった。彼の場合は。
「裏でもです」
「戦ってるんですね」
「おそらくは生粋の戦闘狂です」
 それが加藤だというのだ。
「間違いなく」
「では」
「一度彼に会ってみますか」
「そうしますか」
「何か色々とあるんですね」
「そうですね。剣士というものは」
 その剣士としての言葉だ。
「多くの方が様々なことを隠していますね」
「表と裏を」
「そうです。隠してそのうえで戦っています」
 それが剣士だというのだ。そして。
「人間なのですね」
「表と裏のある」
「どちらが悪いということはないです」
 それはないというのだ。
「決して。善悪ではなく」
「善悪じゃないんですか」
「本質です。人の」
 それだというのだ。
「それこそがです」
「人の本質ですか」
「そうです。中田さんもおそらく」
 話が中田に関するものになった。
「裏のその事情により」
「誰にも言えない事情で」
「戦っておられます」 
 こう上城に話すのだった。
「それがあの方なのでしょう」
「悪い人だけが裏があるんじゃないんですね」
「善人もまた然りです」
「裏の。隠している事情があって」
「戦っておられるのでしょう。例え戦いを好まれなくとも」
「ですか」
「ではです」
 ここまで話してそうしてだった。大石はあらためて上城に告げた。その告げる顔は穏やかでかつ優しさのあるものだった。
「帰りますか」
「そうですね。それじゃあ」
 上城も大石のその言葉に頷いた。そのうえで。
 彼等は今は戦いから離れた。剣士として生きているが今は戦いから離れたのである。


第四十二話   完


                    2012・8・7 
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