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ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~

作者:蕾姫
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差し伸べる手

ユウキを抱っこして洞窟を抜けるとそこは草原だった
アルンの周りに広がるこの草原は一部を除いて敵エネミーが存在しない
故に俺はユウキを地面に降ろすと一息ついた

「ユウキ、大丈夫か?」

「……恥ずかしかった」

「よし、大丈夫そうだな」

顔が赤くなっている程度で、車(俺)酔いをしている様子もない
思ったよりタフだな

「むー……っとここがアルンなの?」

「アルンはこの草原をずっと行った先の山の陰にある。そこまではモンスターが出ないから気をつけるのはPKだけだな」

PKすらこんなだだっ広いところで狩りをしようとは思うまい
無警戒はさすがに問題だが、過ぎた警戒は必要ないな
……そう思っていたときもありました

「おい、装備とアイテムを置いていけ!」

覆面に黒いマントを纏って大剣を持った盗賊(笑)のコスプレをした痛い人たちが八人ほど現れた
滑稽さを通り越して呆れの領域に達していた俺は人知れずため息をついていた

「そんなの、無理に決まってるよ!」

「お嬢さんはそこの男から剥ぎ取って殺したらゆっくりと切り刻んであげるからね」

猫なで声を出しながらいやらしく笑う盗賊(?)たち
顔を嫌悪感に歪めたユウキは腰に手をやるが、もちろんそこにあった剣は消失している
その様子に盗賊(爆)たちの笑みが深くなり、嘲るような声を出した

「ククク……どうやらお嬢さんは剣士だったみたいだけど、武器を破損してしまったようだね」

「へぇ……なかなか観察力はあるんだな」

「てめぇは黙ってろ!」

俺が声をかけるとユウキを虐めるのを邪魔されたからなのか、罵声を浴びせられた

「アホか。さっきまで黙っててやったろ?黙って聞いてればユウキに対してペラペラペラペラと悪意ある言葉をぶつけやがって」

ユウキを後ろに庇いつつ頭を撫でる
するとユウキは気持ちよさそうに目を細めた
その様子を見た盗賊(妄)は先ほどまでのお茶らけた雰囲気を一掃し、殺気を纏う

「くそ……見せつけやがって……」

「もう、装備とかどうでもいいから一分一秒でも早くあの男を殺したいっ!」

もてない男の怨嗟を口々に呟きながら扇形に展開する
やっていることと言動はかなり稚拙だが、戦術や連携はなかなか悪くない

俺が挑発してもそれに乗らない程度の自制心。相手が少数であることから包囲殲滅を目指した陣形。アイコンタクトですぐに陣形を組める連携

正直めんどくさい

だから

「さっさと倒すか……」

鞘から二本の剣を抜き、腰を低く落とす
敵が慌てて準備を整えるのを見ながらユウキを後ろに下がらせる

「殺っちまぇ!」

敵のリーダーと思わしきプレイヤーが号令をかけると敵は一斉にこちらに向かって走ってきた

俺は大きく腕を広げて迎撃体勢に
速攻かつ狙う敵を考えなければユウキに魔の手が及んでしまう

俺一人に対して前方から一度に攻撃できる人数は大剣ということもあり一人だけ
予備として置いておくとしても八人は過剰だ
ならば数人以外は俺を狙うと見せかけたブラフである可能性が高い

というわけで鋼糸で牽制しつつ端から切り崩すことにする

「はっ、俺に向かってきていいのか?」

「もちろん。ユウキを狙おうなんて浅い考えは読めている」

大きく踏み込み、エネルギーを足先に蓄積。それを剣に乗せて放ち、大剣の上段からの振り下ろしを弾き返す

「なっ……に……?」

斬り上げの片手剣で斬り下ろしの大剣を弾かれるとは思っていなかった一人目の敵は驚愕に身を固め、死に体を晒すこととなった
その隙を逃すわけがなく、迎撃に使った剣とは逆の剣で敵の首を切り落とす

すぐさま反転し、返す刃で二人目を斬り捨てると鋼糸を操り、ユウキに一番接近していた四人を地面にたたき込む

ついでに戦闘開始のときから詠唱を始めていた高位の闇系拘束魔術を転ばせた四人にかけた
地面に写る四人の影からいくつもの縄が伸び、四人を拘束していく

この魔法は詠唱時間と発動したあとに対象が一定以上動くとファンブルするのがネックだが、対象が複数(一人でも失敗したらアウト)なのと成功した後の拘束時間の長さと拘束強度は折り紙付き

「くそがぁぁ!!」

「死ね!」

自由に動ける残り二人が俺を挟み込むように回り込み、大剣を振り下ろしてくる

向かって左側から剣を振り下ろしてくる敵に一歩近づくと、剣を斜に構える

敵の足を払いながら敵の大剣に俺の片手剣を沿わせ、軌道を誘導する

「ぐっ……」

「なっ……」

二人の敵はお互いに剣を刺し合うという結果になった
二人ともHPがまだ残っていたので止めをさし、ユウキの方へ向かった敵四人を葬りに行く

動かない敵のHPを削るのは赤子の手を捻るかの如く簡単だった

「ユウキ、無事か?」

「うん。かっこよかった……」

ユウキは熱に浮かされているかのような視線をこちらに向けてきた

……フラグを立てた覚えはないんだが、早めに俺には彼女がいるってことを伝えておかなければなるまい

「ユウキ?」

「えっ、あっ、うん。大丈夫! だから気にしないで」

「……ユウキ。アルンについたら少し時間をもらえないか?」

「えっと……ごめんね。何を話すのかはわからないけど、ボクと深く関わらない方がいいよ?」

「どうしてだ?」

「どうしてって……その……」

「死期が近いから……そうだよな?」

普通に接していても、恐らくユウキから話してくれる日は来ないと思う
少ししかユウキと一緒にいないものの、性格の一端くらいならわかる
だからカマをかけて一気に踏み込むことにした
強引なやり方なのは重々承知している
しかし、ユウキの様子を見るに、もうさほど時間は残されていないことが読み取れた

「……いや、いきなりなにを言ってるのかな?ボクにはよくわからないけど」

「とぼけても無駄だ。最初に聞いたVRの経験年数。あの年数に達するためにはナーヴギアが発売される前からVR関連に携わっていなければ不可能だ。そこから導き出される答えはユウキがターミナルケアの過程でメディキュボイトを使用している場合。もしくは政府や開発者側の立場にある場合のどちらかしかない」

「……そう……だよ……。ボクはメディキュボイトの被験者。現実では歩くことすらままならない病人」

そう言うユウキの顔には今まで浮かべていた元気な笑みはなく、のっぺりとした無表情になっていた
固く握りしめられた手はブルブルと小刻みに震えている

「でも……それを知ってどうするの?病院の先生たちみたいに励ましの言葉でもくれるの?」

「残念ながら、励ましの言葉をかけるだけで満足するような簡単な性格じゃないぞ、俺は」

「……無理だよ。ボクはもうすぐ死ぬ」

「簡単に死ぬなんて言うんじゃない」

「簡単になんて言ってない!」

無表情が崩れ、その奥から激情が迸る

「ボクだって……ボクだって……死ぬのは怖い。だから、どんな治療だって受けた! どんなに苦しくても、どんなに痛くても、死なないために、生きるために!」

ユウキの瞳から涙が溢れ、頬を伝って地面に落ちる
やがてユウキは動きを止めると消えていくような小さな声で呟いた

「……でも、全部無駄だった……」

「……」

「この間ね。ボクの親戚の人が会いに来たんだ。それで、ボクに遺書を書いて自分たちに財産を譲れって言われたよ」

ユウキは今まで笑顔の裏に、どれだけ深い傷を抱えてきたのだろうか?
死を身近に感じ、心無い親戚には遠回しに死ねと言われる

「ねぇ、リン。こんなボクに生きている価値ってあると思う?」

「……当たり前だろ。少なくとも俺はユウキに会えて嬉しかった」

「そっか……」

アルン周辺の草原に沈黙の帳が降りる
雰囲気は重い
俺もユウキも一言も喋らず、アルンにある世界樹をしばらく見つめていた

「……生きることへの未練なんて、もう残ってないと思ってたんだけどな……」
「ユウキ……」

「リン……ボク……まだ死にたくないよ……」

「だったら一言、言えば俺は全力を尽くす。道を作るのが俺の仕事だからな」

「……助けて。リン……ボクを助けて……」

「ああ……わかった」 
 

 
後書き
急展開すぎて作者がついていけない!←

どうも蕾姫です

リン君が助けることを決意した回です
ユウキがめちゃくちゃヒロインしてるッ!
原作だと、どちらかと言うとヒーローのほうだったのに(笑)

ちなみに蕾姫はユウキ×アスナ派です。キリト?あんなハーレム野郎なんか知らない(キリット

ただし、この世界では百合の花は咲きません。某ツインズの作者さんに頼んでください

鋼糸と平行魔法を組み合わせると洒落にならないレベルになることが判明
これでリンとまともに打ち合えるのが、鋼糸に影響されにくい重量級の方のみとなりました(笑)

感想その他意見、お待ちしていますね!

ではでは 
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