ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~
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鋼糸
空中での戦闘は、地上でのそれと異なる
特に大きな違いといえば踏み込みの有無だろうか
地上での戦闘はこの踏み込みによって力や重さを増幅する
しかし、空中ではそれはなく、翅による推進力しかない
踏み込みは斜め上へと力、翅は水平横への力。ベクトルが少し異なるだけで戦闘に大きな違いが生まれるのだ
「てやー!!」
「キリトに負けず劣らずの猪突猛進っぷりだな……」
敵が現れるやいなや左手で握り込んだコントローラを全力でそちらの方向へ突進
そして、手がブレるほどの勢いで剣を振ると一撃で敵を粉砕する
……キリトは疎か俺よりも剣速は速いんじゃないだろうか?
「ふふん。なかなかボクもやるでしょ」
「ああ、そうだな。なかなかな猪だった」
「ちょっと、リン?! その言い方は酷くない?」
ここまでの敵はルーチンが単純だからいいかもしれないが、ここからアルンへ繋がる大洞窟の内部は少々ルーチンが複雑になっている
いくら振りが速くとも軌道が読まれてしまえば意味がない
「残念ながら普通だ。さてと、ここからは徒歩になるが地上戦は大丈夫か?」
「もちろん! ボクのテクニックを見せてあげる!」
「ほう、それは楽しみだ」
さてと……落ちは見えてるし、俺も準備をしておこうかね
意気揚々と洞窟の中に入っていくユウキに続いて洞窟の中へ入りながらポーチの中の投ナイフを軽く握る
洞窟の中は外よりも薄暗く暗視がなければ戦うことすらままならないようだった
「ふふん、どう?」
しかし、ユウキはダークリザード、ハイドシャドウ、カーストロント等、闇に潜むモンスターたちの攻撃を的確に対処し、返す刃で一撃で屠っていく
俺は後ろからついていくだけ。何というか暇だ
「ああ、強い強い」
「むー……なんかバカにされてる気がする」
「気のせいだ……っと、なんか来たぞ」
俺の索敵範囲内に数体のモンスター
ユウキに警告を飛ばすと、ユウキは即座に戦闘体勢に移る
俺は相変わらず自然体だが
やがて視界に移ったモンスターはヘイトウルフ
ここを通るプレイヤーの脱落理由のナンバーワンを誇るモンスターだ
それ単体ではあまり強くないものの、周辺の同じモンスターすべてと増悪値を共有するという特徴を持っている
しかも、増悪値が一定量増えるとポップ速度が上がり、大群に囲まれることになる
洞窟のどの位置で出会うかによって攻略難易度が変わるめんどくさいモンスターなのだ
「ひっ?!」
「安心しろ。ただの狼だ」
初見だと暗闇の中に浮かぶ二つの黄色い目玉に恐慌を起こしたプレイヤーもいたらしい……というかほとんどそうだと聞いた
俺?SAOで散々幽霊を刈って、ホラー系のモンスターは慣れていたから動じなかったよ
「う、うん。てやー!!」
己を奮いたたせるように、普通よりも大きな声を出してヘイトウルフに向かって行く
それを横目で見つつ索敵を続けた俺は悪態をついた
「くそ……他のプレイヤーか……」
ポップ速度がかなり早いのだ
その理由はヘイトウルフのもう一つの特徴。それは一番近くのプレイヤーに増悪の対象を移すこと
今、別のプレイヤーが洞窟内にいるらしい
そのプレイヤーが増悪値を稼ぎ、それに巻き込まれた形となる
「ユウキ……一旦退くぞ!」
俺だけなら問題ない
だが、ユウキもいるとなれば話は別だ
ユウキの纏っている初期装備では一撃は耐えられるにしても、看過できないほどのダメージを受けるだろう
「えっと、どうして?」
「敵の数が多過ぎるんだ」
「ふーん……大丈夫だよ。ボクにかかればここら辺の敵の十や二十余裕だって!」
幸か不幸か、ユウキにとって敵は弱過ぎた
それがユウキの危機管理能力を麻痺させ、やがて慢心へと繋がる
そしてユウキの前に光る目が三対現れた
いつものようにユウキが迎撃に向かう
出会い頭に刃を一閃。抵抗すら許さず先頭の一匹を斬り捨てる
間髪容れずに二匹目が飛び掛かってくるが、ユウキは刃を盾にしてヘイトウルフを弾き返す
だが
とうとう剣の耐久値が限界を迎え、それまで屠ってきたモンスターたちと同じように無数のポリゴンとなって砕け散った
「えっ……」
驚きの声をあげて硬直するユウキ。もちろん、ヘイトウルフがこの好機を逃すわけがない
弾き返されたヘイトウルフの横を抜け、最後のヘイトウルフがユウキの喉元を目がけて歯を剥き出しにして噛み付こうとした
「やっぱりこうなったか……」
ユウキの武器が限界に達していたことを予測していた俺はポーチの中から準備をしておいた投げナイフを手首の動きだけで投擲する
ユウキの喉元を狙っていたヘイトウルフの喉に投げナイフは付き刺さり、その勢いに押されてヘイトウルフは何もない弧空を噛むことになった
「あっ……えっ……?」
「下がれ、ユウキ」
立て続けに起こる状況の変化について行けず、茫然自失となっているユウキに一応声をかけ、腰から剣を抜刀
即座に突撃系ソードスキル、レイジスパイクを選択しヘイトウルフの一匹を斬り裂いた
ユウキに弾き飛ばされていたもう一匹のヘイトウルフが体勢を立て直し、こちらに飛び掛かってくるが、ソードスキル使用中に詠唱していた魔法により発生した闇の壁に再び弾き返される
ソードスキル後の硬直が解けた俺は残りの一体の首を跳ねとばした
「さてと……」
軽く息を吐いて俺はユウキの方へ振り返る
「何か言うことは?」
「ご、ごめんなさい……」
引き際が見極められない者は雑兵にも劣る
今回のタイムリミットはユウキの持つ剣の耐久値がゼロになるまでだったのだがユウキは見極めることができなかった
「ユウキはたしかに強い。だが、学ぶことは多くある。今だって学んだことがあるだろ?」
「うん……」
「なら、それを生かせるように努力するべきだな」
闇の中に光る目がだんだんと増えていく。俺の索敵できる範囲内には敵を示す光点が二桁になっていた
「さてと……少し散らしたら走るから準備はしておいてくれ」
「リン……ボクは武器を持ってないよ?」
「大丈夫だ。ユウキは俺が守るからな」
心配そうなユウキの頭に手を置いてニ、三回撫でる
「うー……うん、わかった」
素直にユウキが頷くのを見ながらアイテムポーチから鋼糸を取り出す
まだ練習中で他人との協力中ではフレンドリーファイアが怖くて使えないのだが、一人の時かつ対雑魚多数の時には役に立つ
手首を返し、試しにそこら辺にいたヘイトウルフを粉々にしてみる
……精度がイマイチ
「それ……鋼糸?」
「そうだ。まだ練習中だがな」
二刀流を使う時の補助用に使うつもりで練習を始めたんだがな
某白い悪魔の一家が使ってるらしいし
「練習中って……」
「心配するなって。ユウキには指一本触れさせないからよ」
「……ニコポっ……」
「そう言えるうちは大丈夫だ」
アホなことを言い出したユウキに裏拳を打ち込む
……鋼糸がその動きについてきてユウキに絡まったけど気にしない
「痛い、痛い、痛い! 首に食い込んでる!」
「ペインアブソーバは正常だ。だから騒ぐな」
俺が鋼糸を振るう度にユウキが騒ぐ
多分だが、首に来る圧迫感からファントムペインでも感じているんだろうが、実害は微々たる継続ダメージだけなので放っておく
「リ、リン? ボクは一応女の子なんだよ?」
「だからどうした。俺は男女差別をする気はさらさら無いし、例え女性でもやたらとアレなやつとかいるしな」
直葉とか明日奈とか
むしろ女性の方が男性よりも強くないか?
「リンの交友関係について小一時間ほど問い詰めたいけど今はそれよりも……」
「それよりも?」
「体力がそろそろ赤くなりそうなんだけど……」
「……案外ダメージ高いんだな。さすがに高い金を払っただけはある」
ある程度ヘイトウルフを刈ったため、鋼糸をストレージにしまう
ちなみにこの鋼糸はリズベットのオーダーメイドだ
ワンオフだからかめちゃくちゃぼったくられたのはいい思い出
「さてと、さっさとアルンまで走り抜けるか……」
「できるの?」
「もちろん。……ユウキ、舌を噛むなよ?」
「え? それっ……ひゃっ?!」
ユウキが疑問の声を最後まで言い切る前に地面に座っているユウキの膝の下と頭の下に手を差し入れて持ち上げる
「ちょっ……リン?!」
「口は閉じてろよ」
ユウキをお姫様だっこして、地面を蹴り走り始める
洞窟の中をユウキと共に駆け抜けた
後書き
ユウキはこんな感じの解釈になりました
氷に本意を閉じ込めた詩乃
笑顔の裏に諦めを隠した木綿季
どこか似ているユウキにリンの保護欲が刺激されてます
リンの新技の紹介
並列魔術(パラレルマジック)
ソードスキルを使いながら魔法を唱える
分割思考ができれば誰でもできると思われる
あと、自分の動きを把握しないと舌を噛みます
頭を上下に動かさないように間接を柔らかく使いましょう
鋼糸
もはや説明不要
高町家の剣術を思い起こしてもらえれば……ちょうどあっちも二刀流なので使ってみました(笑)
次回からキャリバー編をやりつつユウキを助けるために主人公していきます
では、感想その他をよろしくお願いしますね!
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